あした天気にしておくれ
『あした天気にしておくれ』岡嶋二人(講談社文庫)

競馬界を舞台にしたミステリーの最高傑作。北海道で3億2千万円のサラブレッド「セシア」が盗まれた。脅迫状が届き、「我々はセシアを誘拐した」で始まる文面は、身代金として2億円を要求してきていた。衆人環視のなかで、思いもかけぬ見事な方法で大金が奪われる。鮮やかなトリックが冴える長編会心作。(本書あらすじより)

月イチ国内ミステリ、今回から昭和本格というか、とにかく新本格以前です。新本格はもう飽きたんじゃ。○○トリックにはうんざりなんじゃ。
というわけで、岡嶋二人です。共同執筆解散後の、井上夢人名義の作品は一作読んだことがあるんですが(『風が吹いたら桶屋がもうかる』です、なんでこれ読んだんだ)、岡嶋二人自体は初めて。その処女作(発表順で言えば三作目)がこちらになります。
何というか、これが実質的な処女作とは思えない完成度の高さ。誘拐ものとしてのストーリー運びと、読者の読みに常に先行するミスディレクションの巧みさ。上手いし、何より面白いです。これが昭和50年代本格ブームってやつなんですね……やっぱり面白いわ……。

まずメインストーリーのセンスがいいんです。競争馬の誘拐、という着眼点(盗む意味がない、ということからして楽しい)がそもそも秀逸なのに、これに狂言誘拐という要素をぶち込むんですよ。身代金の受け渡しなどのアイデアも、ある意味当然予想されるべき方法なのに盲点をついています。これだけでもミステリとして十分の出来です。
これに狂言誘拐をもくろむ主人公とは別の人物による思惑が介入することで、計画が見事に崩れ、全貌が見えないままどんでん返しへとなだれ込んでいくことになります。これも予測されるべき真相だとは思うんですが、やっぱり脳内に全く浮かばないんですよ。パズルのピースがぴたっと合う感じがたまりません。これはミスディレクションの上手さですね。伏線が効いているというよりは、真相が明らかになった後の、いままで出て来た怪しい要素が一気にふさわしく収まっていく感じというか。
おまけに、狂言誘拐に巻き込まれる主人公の不安感の描写や、きちんと色分けされたキャラクターなど、プロットだけでなく小説でがっつりと読ませています。アイデアだけの作品とは違うのです。感情移入しつつ毎章の意外な展開を楽しめるぜいたくさ。うーん、すごい。

オチの……さも含めて見事な一品。やっぱり岡嶋二人はちょいちょい読んでいけたらいいなという作家ですね(と前から読んでもいないのに思っていたような)。

書 名:あした天気にしておくれ(1983)
著 者:岡嶋二人
出版社:講談社
     講談社文庫 お-35-3
出版年:1986.08.15 1刷
     1993.12.03 7刷

評価★★★★★
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