凍氷
『凍氷』ジェイムズ・トンプソン(集英社文庫)

フィンランドはユダヤ人虐殺に加担したか――歴史の極秘調査ともみ消しの指令を受けたカリ・ヴァーラ警部。ヘルシンキで起きたロシア人富豪妻の拷問死事件の捜査においても警察上層部から圧力がかかる。さらにカリを襲うのは原因不明の頭痛。妻のケイトは彼を心配するが、臨月を迎えた妻をこれ以上不安にさせることはできない……。激痛に耐えながら挑んだその結末とは? 好評極寒ミステリ第2弾!(本書あらすじより)

今のところ、今年の新刊の中では2位の面白さです(1位は設定でもう負けた感のある『地上最後の刑事』)。それぐらい面白かったです。やばいです。ふぉう!!!
まずこの作家についておさらいしておきますと、1950年代にアメリカで活躍したノワール作家、ジム・トンプスンとは何の関係もありません。アメリカ生まれですが、フィンランド人女性と結婚して、現在ヘルシンキに住んでいます。フィンランドを舞台にした警察小説『極夜 カーモス』が好評となり、この『凍氷』はそのカリ・ヴァーラ警部シリーズの第2作に当たります。ちなみに自分は『極夜』読んでませんが、まぁ何とかなります。
……という変わった経歴のミステリ作家なのですが、なんと2014年8月2日、急逝してしまったのです! そんなばかな! ちょうど『凍氷』を読み終えて感動に浸っていた私は叫んだのでした。悲しいことですね……。

えーと、前書きが長くなりましたが、とにかくアメリカ人作家によるフィンランド人警部が主人公のミステリなのです。ちなみに警部の奥さんはアメリカ人という設定。なるほど。
で、とにかくこの作品、素晴らしいのです。警察小説でハードボイルドでノワールでモジュラー型で北欧家族小説で北欧歴史小説。これを400ページにまとめているのがさらにいいんですよ。どこがどうとは言えませんが、読んでいて非常に面白かったし、強引な収束もお気に入り。いやぁ、いいね!

一人称の主人公カリ警部がまずいいですねー。一匹狼的な側面はハードボイルドらしく、時として無茶な行動に出るなど危うさをはらみつつ真相解明に奔走していくタイプ。地の文の一人称は俺で、冷めてるけど感情的。周囲に対しても基本シニカル。けど家庭をしっかりと顧みていて奥さんを大事にしていたり、なんだかんだ部下に気を配ったりと人間味もあるいい警部さん。

事件は、かなりお偉いさんの絡む殺人事件(というめちゃくちゃハードボイルドらしい事件)と、戦時中のフィンランドについての歴史調査の2つが主となり進行します。どちらもベタな展開とオチなのですが、しっかりとまとめてあって、おまけにこの2つをめちゃくちゃ強引に重ねるシーンがどうしようもなく好きなんですよ。まぁベタな面白さなんでしょうが、やっぱり読んでいて興奮しますよね、こういうのは。
このように捜査をしつつ、少々無鉄砲で自分の頭の良さを試したくてたまらない若い部下の刑事とか、アメリカからやってた奥さんの面倒な親戚(弟と妹)とかが登場することで話を盛り上げます。周囲のキャラ立ちが非常にはっきりしていて、上手く話に溶け込んでいるんですよね。弟なんかやたらと飲んで暴れて問題を起こすし、妹は多文化を認められないイライラさせるうぜぇアメリカ人女性なんですが、そんな周りがどうであろうとぶれずに警部と奥さんが愛し合っているのがすごくいいと思います(変に相手を疑ったりせず常に信頼し合っている感じがね)。ここまで家庭に問題がないっぽいのは北欧物にしては珍しい気がしますが、米人作家だからかなんでしょうか。

そして大団円と、ある意味びっくりなオチが待ち構えています。この急転直下感と、その扱い方・主人公の向き合い方が途方もなくカッコイイんです、いきなりハードでボイルド。もう大満足。
ぶっちゃけ、読んでいて1作目『極夜』のネタバレらしきものを食らいまくった気もしますが、『凍氷』の方が評判いいし、あんまり気にしなくても何とかなります。今から『極夜』も読まないといけませんね。このシリーズ、今後はどう展開していくのか、ラストがああなだけに気になるところ……。

書 名:凍氷(2011)
著 者:ジェイムズ・トンプソン
出版社:集英社
     集英社文庫 ト-10-2
出版年:2014.02.25 1刷

評価★★★★★
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