影の顔
『影の顔』ボアロー/ナルスジャック(ハヤカワ・ミステリ文庫)

交通事故で醜い傷を負い失明した電気会社のワンマン社長エルマンチエは、不安と疑心暗鬼の日々を送っていた。手紙すら書けない無力な彼に、上流出の美しい妻や部下達は果して信頼を寄せてくれるだろうか? 別荘に籠もった彼に対する妻や共同経営者の態度は今までと変りなく思える。しかし、盲目特有の感覚で彼は微妙な変化を感じとった。彼らの妙なよそよそしさ、匂うはずのない松の花粉の匂い、抽斗が左右逆になった戸棚。俄か盲目の焦りが生んだ錯覚か、それとも……迫りくる恐怖を盲人の感覚を通して描く、フランス・サスペンス小説の傑作!(本書あらすじより)

フランスミステリ固め読み。ボアナルは、『技師は数字を愛しすぎた』というちょっと異色作かと思われる作品しか読んでいなかったので、代表作からとりあえずこれです。というかまず『悪魔のような女』を読めって話なんですけど。
創元はボワロで、早川はボアローでしたっけ。ややこしいな……。
ボアナルはコンビでは戦後のフランスで活躍した作家ですね。当時のフランスでは英米の影響を受けていわゆる犯罪小説が流行っていましたが、彼らはそれとは一線を画し、心理描写による緊張感・恐怖感と、一見異常に見えるがそれらにきちんと現実的な解決がつくという謎解きの要素を融合させた、現代的なサスペンスを発表しました。と手元の資料にはあります。

で、『影の顔』です。盲人になった男が妻や部下など周囲に騙されているのではないかと不安を感じ、真実にたどり着こうともがいていく悪夢のような心理サスペンス。全て男の視点からのため、推測と疑問と違和感に満ちた文体が不安定さを生み出します。
うわ……恐怖小説だ……つらい……、というのが読了時の感想だったんですが、しかしそれだけ読後感は強烈でうまかったわけで、読んでいる間もめちゃくちゃ面白かったです。うぅむすごい。

まず何がすごいって、主人公エルマンチエの怯え・恐怖がガツンと伝わってくる文章が生み出すサスペンスがすごいのです。事故によって盲人になった彼は自分の見た目がどうなのかすら分かりません。四感を駆使して真実を求めようとするあたりは非常に謎解きものっぽいんですが、雰囲気はもうほとんどホラー。
でまぁえぐいラストですよね……真相自体はそれほど意外性はないんですが、そこにたどり着くまでの不安感からの急転直下がつらすぎます。ボアナルの作風として聞いていた要素そのまんま。現代でも古びていない良サスペンスとして評価したいところですね。

なお、せっかくなので、『海外ミステリー事典』のボアナルの項目を引用しておきましょう。まさにそのまんまという感じなので(この項目の執筆者は堺康麻呂氏)。
「合作に当って、作者の創作態度は、探偵は登場させない。捜査員は常に読者であること。犠牲者を殺人者より重視すること。論理は無視はしないが、それに負けない幻想的なものを描くこと等々であった。つまり、怪奇と恐怖を多く利用し、しかも合理的な説明が可能な、異常な悪夢の世界を作り出すこと。そして、物語の解明がそれで終らず、もっと恐ろしいドラマを予想されるようにすることであった。」

書 名:影の顔(1953)
著 者:ボアロー/ナルスジャック
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 31-1
出版年:1976.08.31 1刷

評価★★★★☆
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