夜の記憶
『夜の記憶』トマス・H・クック(文春文庫)

ミステリー作家ポールは悲劇の人だった。少年の頃、事故で両親をなくし、その直後、目の前で姉を惨殺されたのだ。長じて彼は「恐怖」の描写を生業としたが、ある日、50年前の少女殺害事件の謎ときを依頼される。それを機に“身の毛もよだつ”シーンが、ポールを執拗に苛みはじめた―人間のもっとも暗い部分が美しく描かれる。 (本書あらすじより)

今まで何となく敬遠していたんですよ、クックって。暗そうだし重そうだしつらそうだし。それで、自分が企画した読書会のためについに初クックを読んだんです。『夜の記憶』は記憶シリーズの中でも本格要素があって読みやすいという話でしたし。でまぁ、クックの印象は実際そんなに間違っていなかったんですが、そんなことはどうでもいいんです。

断言しましょう、傑作です、大傑作です。読んだことある人からすれば超いまさらでしょうけどね、いやね、ほんとね、もうやばいっすよこれは。自分のオールタイムベストが書き換えられるレベル。すっばらしい、言うことなしです。
二つの過去の真実が明らかになる瞬間の感動が、もうね、忘れがたいんです。重く、暗い文章に引き込まれ、ラスト、がつんと背中を押されました。これを傑作と言わずして何といいましょうか。

あらすじ。作家である主人公は、悲惨な過去を抱え、それに向き合えていない、という引きこもりみたいな重っ苦しい男です。さらに、想像力が激しく、勝手に物語を作り上げ悲惨な出来事をイメージしてしまうという妄想癖を持ちます。やばいです。そんな彼が、50年前に起きた少女の殺人事件を再構成して小説にするよう、とあるご婦人から依頼されるのですね。過去にとらわれながらも、彼はたまたま出会った戯曲作家の女性と協力して、真実を見つけようともがくことになります。

主人公の過去は大まかに最初に明かされ、細かい部分は徐々に明らかになっていくという形。当然ながら重すぎて、読んでいて非常につらいんです。そんな主人公目線で物語が進行するもんですから、明るさなんてみじんもありません。
ところが、これになーぜか引き込まれてしまうんです。単に鬱屈としているわけではなく、主人公の妄想癖が自由すぎて信頼できない語りが非常に魅力的です。主人公の目と、手記を通して、様々な人間の心が迫力をもって描かれていくのですね。

そして主人公の過去・小説、協力する女性の過去、50年前の殺人事件、という要素が、似たような要素をはらんでいるんですが、その絡ませ方・見せ方・明かし方がもうめちゃくちゃにうまいんですよ。おそらくかなり細かいところまで計算しつくされています。全ての部分が絡み合い、そして怒涛の勢いとなって最後に主人公の過去を攻撃します。この構成のうまさはもううなるしかありません。
回想の殺人物で本格っぽいということでしたが、この点でも期待を大きく上回る出来と衝撃でした。刑事の手記や、まだ生きている人の証言、そして主人公の妄想から、試行錯誤しつつ真実が引き出され、そして最後、ぱっと目の前に立ち上がります。妄想推理的な面はデクスター好き的にもツボでしたね。
うーん、その、なんというか、単に衝撃的なオチを用意したってだけではなく、一切無駄のない構成によってオチが衝撃的になっているところがすごいんですよ。そしてこのラストじゃないですか。正直安易だとは思いますが、このラストのために、主人公が自分を自作の小説内登場人物とダブらせていく様がもうすごくて。そこに主人公の成長みたいなものも見られて。いやもう、すごすぎ。

と、いうわけで、べた褒めです。おそらく今年読んだ本1位です。クックなめてました、完全に。読みましょう。
……しかしやっぱり重量級の作品ではあるので、続けてクックを読もう、とはならないんですねこれが。うぅ。

書 名:夜の記憶(1998)
著 者:トマス・H・クック
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-6-10
出版年:2000.05.10 1刷

評価★★★★★
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