女郎蜘蛛
『女郎蜘蛛』パトリック・クェンティン(創元推理文庫)

演劇プロデューサーのピーター・ダルースは、妻アイリスが母親の静養に付き添ってジャマイカへ発った留守中、作家志望の娘ナニーと知り合った。ナニーのつましい生活に同情したピーターは、自分のアパートメントは日中誰もいないからそこで執筆すればいいと言って鍵を貸す。数週経ち空港へアイリスを迎えに行って帰宅すると、あろうことか寝室にナニーの遺体が! 身に覚えのない浮気者の烙印を押され肩身の狭い思いをするピーターは、その後判明した事実に追い討ちをかけられ、汚名をそそぐべくナニーの身辺を調べはじめるが……。サスペンスと謎解きの妙にうなる掛け値なしの傑作。60周年記念新訳。(本書あらすじより)

創元推理文庫伝説のレア本『女郎ぐも』が『女郎蜘蛛』と微妙に名前を変えて復刊です。いい仕事しますなぁ。創元さんは。最近早川さんもあわててようやく復刊の動きを見せているようですが。
さて、パトQの、ピーター・ダルースを主人公とするパズルシリーズは全6冊ですが、タイトルにパズルが入っていないものもその後にちょっとだけあるわけです。本作はさらに、中期クェンティン作品の主人公を務めることになるトラント警部補初登場作品でもあります。まさに前期から中期への移行!という感じ。クェンティンはこの時期ウェッブとホイーラーによる合作なわけですが、『女郎蜘蛛』を最後にウェッブは離脱、ホイーラーによるサスペンス味の強い作品へとさらに移行していきます。

というわけで読んでみました。『巡礼者パズル』の雰囲気を大いに引き継ぐ、巻き込まれサスペンスですね。殺人の容疑をかけられ追い詰められていくピーター・ダルースのどん底心情の書きっぷり、それでもダルースシリーズらしい奥底の明るさと奮闘っぷり、予想は出来るけどよく出来た意外性、と実にお見事。なるほど、これは隙がありません。

おっさんが若い女の子を何となく助けてあげたいおしゃべりしたいみたいな気持ちからちょっと親切にしちゃって、みたいな導入がまずすごくうまいんですよ。ピーターの、浮気はしてないけど何となく仲良くなっちゃったんだぜ、的な心境が(男だからか)無理なく頭に入ってきます。まぁそれで色々疑わしい状況になっちゃうわけですけどね、当然。
その若い女の子の”若い”っぷりといい、上階に住むピーターに対してなれなれしいウザ女優の途方もないウザっぷりといい、妻アイリスのピーターを信じたいけどでもやっぱりどうなのかしらみたいな動揺っぷりといい、相変わらず人物描写も素晴らしいです。特にチョイ役の通りすがり少女アンがもう最っ高です。そんなキャラ立ち激しい登場人物の中、何を考えているのかよく分からない”敵役”トラント警部補がこれまたかっこいいんですよ。着々とピーターに圧力をかけていきますからね、彼は。

終盤のどんでん返しの畳み掛けは、ある意味”畳み掛けてくる”と分かっているだけにちょっと予想はついちゃうんですけど(よくある)、それでも本格ミステリとしてはこれまたよく出来ています。数少ない登場人物で意外な犯人当てを作らせるとこの人は本当に上手ですね。
そういやこのシリーズってピーターはどんなに追い詰められようが必ず最後は「えいくそなんとかしてやる」って開き直って真実を追及すべく頑張るからか、サスペンスはサスペンスでもどこか本当にやばい感じはしない気がします。だからこそ、心臓の弱い巻き込まれサスペンス苦手な自分でも何とか読めちゃうわけですが。

というわけで、今作も堪能いたしました。いやぁクラシック万歳。
ちなみにこの作品から読み始めても何の問題もありませんが、ピーター・ダルースシリーズをきちんと楽しみたいのであれば、やはり『迷走パズル』→『俳優パズル』→『巡礼者パズル』→『女郎蜘蛛』の順で最低限読んだ方がいいと思います。せっかく新刊で買えるのですから、ぜひぜひ。

書 名:女郎蜘蛛(1952)
著 者:パトリック・クェンティン
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-4-6
出版年:2014.05.23 初版

評価★★★★☆
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