若きウェルテルの怪死
『若きウェルテルの怪死』梶龍雄(徳間文庫)

編集者の私は、知り合った金谷という老人から、推理小説になるかも知れないと日記を預かる。――金谷が旧制二高生だった昭和九年、師事する考古学者・大平の家で友人の堀分が変死した。同じ頃、大平邸から考古学資料として重要な人間の化石骨が盗まれていた。そして堀分がメンバーであつた非合法組織・東北反戦同盟を名乗る犯人から、化石骨と引換えに二千円の要求が……。長篇ミステリー。(本書あらすじより)

これは月イチ国内ミステリを読もう企画とかそういうのではなくて、たまたま手元に読む本がこれしかなくって仕方なくですね……まぁ梶龍雄読んでみたかったので全然構わないんですが。
しかしまぁものっすぉいオーソドックスな本格ミステリでした。やっぱり自分は新本格読んでるより、こういう昭和本格ぅぅぅな感じのを読んでる方が圧倒的に幸せな気がするんですけど、いやほんと。

1930年代の旧制二校(現東北大学)生を主人公に、戦争の影の迫る中起こった自殺事件を、時代情勢を絡めて描いた青春小説です。地味だけど非常に堅実な出来の本格が作品の舞台と主人公の青臭さにうまーく絡んだ秀作でしょう。

いきがってはいるけど世間のことを何にも知らない主人公が、友人の自殺事件を調べていくうちに友人が居候していた学者先生宅の盗難事件やら東北反戦同盟やら警察の特捜部やらおませな女の子にかかわり悲劇的な真相にたどり着く……というもので、ストーリーの展開自体はもうベッタベタです。「僕は何も知らなかったのだ」みたいなアレです。
しかしかなり緻密に作られていて、この展開に一切の無駄がありません(なさすぎるくらいです)。終盤もあらゆる要素とあんなとここんなとこの伏線を使ってどんでん返します。バッタバタと登場人物が退場していくということもあって、『グリーン家殺人事件』的な意味で、意外性という点では少し弱いんですが、それでもきっちり作ってきっちり返したるという姿勢が大変良いです。

世間を知らない主人公の成長小説というか青春小説というか、そういう要素も謎解きに生かされていて、おまけに青春小説としても良く出来ているんだから、まぁすごいですよね……。戦争突入前の旧制二校の学生の様子や、当時の知識人の生活なんかもしっかりと魅力的に描かれており、風俗小説としても楽しめます。また、なんで回想の形にしなきゃならないんだろと思ったら、こういう落としどころを作るためだったのね、とか(どんだけベタが好きなんだ)。いやほんと隙がありません。

というわけで、どこか突き抜けた点のある傑作、とかそういうのではありませんが、あらゆる要素が”うまい”良本格ミステリと言えるんじゃないでしょうか。めちゃくちゃ読みやすいこともありおすすめです。梶龍雄もね、友人に頼まれて全冊コンプリート目指している作家なんですが、うん、見つからないよね……。

書 名:若きウェルテルの怪死(1983)
著 者:梶龍雄
出版社:徳間書店
     徳間文庫 か-4-8
出版年:1991.01.15 1刷

評価★★★★☆
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