『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド
『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)
今宵も人手不足のデントン署において、運悪く署に居合わせたフロスト警部は、強姦・脅迫・失踪と、次々起こる厄介な事件をまとめて担当させられる。警部がそれらの捜査に追われている裏で、マレット署長は新たに着任したスキナー主任警部と組み、フロストをよその署に異動させようと企んでいた……。史上最大のピンチに陥った警部の苦闘を描く、超人気警察小説シリーズ最終作。(本書上巻あらすじより)
私的「海外ミステリを読んだことのない人にムリヤリでも読ませたい海外ミステリ」ランキング堂々の1位である、フロスト警部シリーズ、泣きの最終巻であります。何しろ作者がお亡くなりになってしまったので……つらい……。
いやほんと、フロストシリーズの面白さ、楽しさって、本当にこのシリーズ唯一無二の、変えがたいものなんですよ。読書、特に海外ミステリってこんなに楽しいんだぞ!と心から言いたくなるおすすめシリーズです。以下、個人的な思い入れもあり、かなり長めの感想です。
普段のフロストシリーズではあらすじはあまり意味がないのですが(何しろ次から次へと事件が起きるので、説明しても仕方がない)、『フロスト始末』はフロスト定型パターンから色々と外れている面が多くなっています。それもこれも、フロスト警部デントン署を去る!が本筋のメインだから。故にフロストとペアを組まされる向上心強すぎでフロストに立てつくような部下は登場しないし、フロストはやたらと自らの過去やら刑事になりたてのころやら亡くなった奥さんのことやらを振り返るので相当湿っぽくなっています。
しかしあくまで「シリーズ」としての繋がり・ネタバレは一切なく、このどこから読んでも問題ない感は現代ミステリにおいては貴重ですよね。良いやつではあるけどあまりに使えないモーガン刑事が『冬のフロスト』から続投していてびっくりしましたが、特にわざわざ再登場させた意味はなかったし(作者が気に入っていたんだろうな)。また、新人の女性警官も登場しますが、彼女とフロストのウマが合う、ってのも珍しくて、ますますシリーズ完結編っぽさがつのります。デントン署を去るフロストは、残される彼女のことが不安で仕方がなく、色々と面倒を見ようとするのですよ……セクハラさえなければめっちゃいい上司だ……。
さていつものように続発する事件ですが、この長さとこの登場人物数で、一度も登場人物一覧を見ずに済むというのはやはりすごいことです。フロスト自身が毎回忘れているので、そのついでに読者にも思い出させてくれるというシステムの上手さと、ウィングフィールドの人物の書き分けの巧みさ。ウィングフィールドはモジュラー型のプロ。
その上下巻900ページという長さに、一切無駄がありません。……いや無駄だらけですが、この長さに全く不満がないし、そもそも長さを感じません。残り100ページになってからも新たな事件が発生するなど、モジュラー型の利点をこれでもかと上手く使っており、プロットの組み立ても(きっと)技巧的、なんでしょう、長すぎて分析したくないですが。
というわけでこのシリーズが最of高なのはいつもの通りですが、モロにシリーズ最終巻として書かれたものなので(出版経緯についてはきちんと解説に書かれています)、他作品とは微妙に雰囲気が違います。『クリスマス』の頃と比べるとちょっとだけ味わいにも変化があるような気もするし。そのへんもシリーズ読者向けの楽しみ方でしょうか。
あえて厳しい意見
①いつもこのシリーズにあるような、モジュラー型の中でもしっかりと終盤に作られる見せ場というか、小説としてのピークが、今回はやや小規模というかぱっとしませんでした。終盤のもたつき具合や、後片付け感は否めないかなぁと思います。
②本作の敵役であるスキナー主任警部は、フロスト警部をデントン警察署から追放しようとし、実際それに成功するという、(今までのマレットの比ではない)超大ボスなわけですが、その決着の付け方がやや消化不良。後半スキナーの登場シーンが少ないのも、正直もったいないと思います。
以上、フロスト完結編感想でした。シリーズ未読の方はぜひどれでもいいので手に取って、いずれこの作品にたどり着いてくれたらいいなと強く思います。なお、解説に今後のフロストシリーズについて衝撃的なことが書いてありましたが……あ、あんまり期待できない気がするぞ。
なお、おぼろげな記憶に基づいてざっくり順位を付けると、
『フロスト日和』>『クリスマスのフロスト』>『フロスト始末』>『夜のフロスト』>『フロスト気質』>『冬のフロスト』>80点
『夜』がやや低いのは完全に好みで、好きな人はめっちゃ好きな作品。『始末』は完結編追加点込みです。
原 題:A Killing Frost(2008)
書 名:フロスト始末
著 者:R・D・ウィングフィールド R. D. Wingfield
訳 者:芹澤恵
出版社:東京創元社
創元推理文庫 Mウ-8-8,9
出版年:2017.06.30 初版
評価★★★★☆
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