メグレと死者の影
『メグレと死者の影』ジョルジュ・シムノン(メグレ警視シリーズ)

事件の第一報は管理人からの電話だった。ヴォージュ広場に近い建物の中庭は、犯罪現場だというのに、暗がりに静まりかえっていた。管理人の案内でメグレが奥の部屋に行くと、曇りガラスに、机につんのめっている男の影が見えた。血清会社社長のクシェが胸のまん中を撃たれて死んでいたのだ。死体が金庫の扉を塞いでいたが、中から多額の金が消えていることが判明した。若い女が現れ、今夜クシェ氏とデートの約束だったと告げた。物盗りか怨恨か、まだ判断のつかないまま、メグレはまずその女から捜査を開始することにして、翌朝、女の住むホテルを訪れた……。(本書あらすじより)

創元推理文庫の創刊当時、シムノンのメグレ警視シリーズの初期作品がかなりの数収録されました。そのうち、例えば『サン・フィアクル殺人事件』などはその後も重版されているので比較的入手しやすいのですが、『怪盗レトン』など創元ではあまり重版されておらず他社から別の翻訳で出ているものは比較的入手しづらい傾向にあります。で、今回の『メグレと死者の影』は後者のパターンで、創元の『影絵のように』に当たるわけですが、この河出のシリーズ自体が入手困難ですからね……(『影絵のように』は一度神保町の均一で拾って友人に譲りました)。ちなみに創元最難関は、他社からも出ず重版もほとんどされていない、『死んだギャレ氏』『オランダの犯罪』『メグレ警部と国境の町』の3冊です、たぶん。
というわけで今月の月イチメグレですが、今回ははずれではないけど大当たりでもないかなという感じ。出だしの雰囲気・キャラの複雑な人物関係・映像的かつ本格ミステリ的な現場の状況は完璧ですが、だんだんしょうもないメロドラマに収束してしぼんでしまいました(いつものことじゃん、とか言わない)。

シチュエーションは本格ミステリ好きなら気に入りそうなものです。建物の中にいる人の動きをカーテンの影越しに管理人が大まかに見ており、その建物からの出入りは見張られており、死体の影に管理人が気付く、というもの。まぁ読んでみるとそんなにカッチリしていないのですが、やはりメグレ物は導入が上手いですね。
加えて人間関係が大変複雑。被害者の社長の元妻とその旦那が同じ建物に住んでおり、さらに被害者には現妻と愛人がおり、元妻との間の息子とその情婦も事件に関係し……とごちゃごちゃ。これらの関係が、序盤~中盤にかけてしっかりキャラを立てながら手際よく描かれていきます。メグレ物にしては珍しく容疑者がきちんと限定されているので、犯人当てをどうしても期待したくなります。

ところが、後半がどうも失速気味です。いつものように容疑者とメグレの関係を軸に話を進めようとしているのですが、読者の予想を全く裏切ってこない展開が前半と釣り合わないのです。真相は想定の範囲内というか、むしろありそうなところに着地してしまったなという感じ。
じゃあメグレらしく渋く切ない人間関係で読ませるかと言えば、こちらも中途半端で盛り上がりません。作者は愛人の踊子とメグレの会話を重視しており、彼女の境遇の描写に力を入れているのですが、途中から被害者の元妻の方に焦点が移ってしまうんですよ。設定が面白かっただけに、残念でなりません。

さて次のメグレは『サン・フィアクル殺人事件』……なのですが未所持なので飛ばして、『メグレ警部と国境の町』……も未所持なので飛ばして、『メグレを射った男』です。あと数冊読んだら手持ちのメグレ一期を読み切れるはずなので、そうなったらランク付けでもしようかなと考えています。

原 題:L'ombre chinoise(1932)
書 名:メグレと死者の影
著 者:ジョルジュ・シムノン Georges Simenon
訳 者:榊原晃三
出版社:河出書房新社
     メグレ警視シリーズ 48
出版年:1980.05.30 初版

評価★★★☆☆
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月の夜は暗く
『月の夜は暗く』アンドレアス・グルーバー(創元推理文庫)

「母さんが誘拐された」ミュンヘン市警の捜査官ザビーネは、父から知らせを受ける。母親は見つかった。大聖堂で、パイプオルガンの脚にくくりつけられて。遺体の脇にはインクの缶。口にはホース、その先には漏斗が。処刑か、なにかの見立てか。ザビーネは連邦刑事局の腕利き変人分析官と共に犯人を追う。そして浮かび上がったのは、別々の都市で奇妙な殺され方をした女性たちの事件だった。『夏を殺す少女』の著者が童謡殺人に挑む。(本書あらすじより)

アンドレアス・グルーバー、好きなんですよ。現代らしい正統派サスペンスで攻めて、(そこそこちゃんとした)謎解きとどんでん返しもあり、という具合で、紹介されているドイツ・ミステリ作家の中でも結構応援しています。他の作家と比べて本格ミステリマインドを解しているのでは、という予感があるのですが。今回で翻訳は3作目。なんと童謡殺人に挑戦です。すごいぞグルーバー。
……と紹介したくなるのですが、残念なことに「童謡殺人」と聞いて期待するようなものではありません。頭のおかしい殺人犯が童謡になぞらえて片っ端から女性を殺し、それを心理学の観点を取り入れて変人捜査官たちが追う、という、ある意味ごくごく真っ当なサスペンス。いつもと違って謎解きの意外性がなく、最初から見せている通りに終わってしまった、という印象が強いです。相変わらず面白いんですけどね、でもあと100ページ短い方がいいかも。

ドイツではメジャーだという童謡を見立てとした連続殺人、というアイデア自体は悪くありません。この童謡の知名度はおそらく日本では皆無に等しいと思いますが、訳者によって巻末に全文が載せられていますし、そもそもこの童謡はあくまで殺害方法(の残虐さ)を示すだけで、ぶっちゃけ捜査にはさほど関係しません。これもやや残念なポイントかも。
『夏を殺す少女』と同様に、今回もドイツとオーストリアの事件が結びついていきます。これを捜査するのが、連邦刑事局の超変人捜査官。さらに被害者の娘である刑事がこれに協力していきます。このコンビでシリーズも続いていくようですが、キャラクターなどは良いですね。とにかく変人がこう実に変人で、無礼ではあるんですが不快ではないというか。恨みを持つチェーン書店にじわじわ攻撃したり(笑)、飲み物にこだわったり、あと無礼だったりですが、おそろしく優秀ですし、目的に向かって突進するところに好感が持てます。今後に期待。

ただやはり事件自体にひねりがなさすぎで、そのわりに分量が多いのが全体としてはマイナスかなぁと。犯人(と思われる人物)のカウンセリングの章が随所に挿入されるのですが、これも作者の趣味にとどまっている気がします。ある人物の名前で驚かせるところとかはすごく良かったんだけど、これ中盤なんだよなー。
安定して面白いのですが、この人にはもっと複雑なプロットを書いてほしいんですよ。グルーバー未読の方は、まずは『夏を殺す少女』を読みましょう、こちらは非常におすすめなので。

原 題:Todesfrist(2012)
書 名:月の夜は暗く
書 名:アンドレアス・グルーバー Andreas Gruber
訳 者:酒寄進一
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-16-3
出版年:2016.02.26 初版

評価★★★★☆
スリー・パインズ村の不思議な事件
『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー(ランダムハウス講談社文庫)

家に鍵をかける習慣さえない、ケベック州の平和な小村スリー・パインズ。感謝祭の週末の朝、森の中で老婦人の死体が発見された。死因は矢を胸に受けたと見える傷。一見、ハンターの誤射による事故死に思えた。だが、凶器の矢がどこにも見当たらないことから、ガマシュ警部は顔見知りによる殺人事件として捜査を始めた……。「ポアロとモース警部へのケベックからの回答!」と絶賛される本格ミステリの新シリーズ第1弾。(本書あらすじより)

この本、6年も積んでいたんですよ。プロの積みラーからすれば短いでしょうが、自分にとって6年前ってまだ大学に入ってすらいないですからね。っていうか何でこれ買ったんだろう(日吉の古本屋さんで、慶應の受験の合間の休み時間で買ったというおぼろげな記憶)。
というわけで、ランダムハウス講談社文庫から4冊出ている、ルイーズ・ペニーのガマシュ警部シリーズ、またはスリー・パインズ村シリーズ第1作です。ランダムハウス講談社文庫は後にRHブックス・プラスに変わって、さらに武田ランダムハウスジャパンそのものがなくなってしまったので、当然ながら全て絶版。現代海外本格が好きな方には結構有名なシリーズです。
でまぁ読んでみたら、確かにこれは自分の好きなタイプの作品でした。アン・クリーヴスやジム・ケリーのような英国地味地味じっっっっみ勢よりは読みやすい、かつヒルやデクスターの流れを受け継いでいるような正統警察官本格ミステリ。というわけで基本的にすごく面白かったんですが、いや本当に面白かったんですけど、ラスト数十ページの失速感が非常に気になります。いろいろ投げっぱなしで、広げすぎた風呂敷を畳めずに、全部強制終了された感じ。

物語は、スリー・パインズ村というカナダの田舎での事故死に見せかけた殺人事件を、ケベック州警察の警部ガマシュたちが捜査する、というもの。都市の警察官が地方に出向く、という黄金パターンであります。ちなみにたぶんコージーではありません。

まずこの捜査陣が個性的。ガマシュ警部はチームのリーダーらしく、冷静で知的で、じっくりと人の話を聞くのが得意な、まぁ典型的なタイプです。村人とどんどん友好的な関係を築いていきます。個人や二人組の捜査ではなく、あくまでチームワークを重視して捜査を進めていきます。
さらに部下のボーヴォワール警部補はガマシュ警部とツーカーの仲。ガマシュのことを非常に尊敬しており、徹底的にサポートに回る、大変好感が持てる人物です。

と、ここまでは超王道なのですが、ここに投入されるのがイヴェット・ニコル刑事。成績優秀で、今回初めて殺人事件の捜査に関わります。だいたいこういう新人は、フロスト警部シリーズに登場するような独善的で調子こきが多いですが、ニコル刑事は正直言って見たことないタイプです。あのですね、もうね、本当にうざいんです。全く自覚のないコミュニケーション障害で、自分の欠点に一切気付かず、全て上司のガマシュ警部が悪いと決めつけます。なにこいつこわい。
で、普通こういうのって最終的に上司といがみあったまま終わろうが、とりあえずはちょっとだけでも上司を認めて終わる、みたいなのが多いじゃないですか。違うんですよ。ガマシュ警部の賢明な導きと指導と教育にもかかわらず、ニコル刑事は何も学ばず、結局捜査の邪魔となってそのまま退場するんですよ何これ。3作目(これが傑作らしい)には何とかなるらしいんですが、それにしてもこいつがこてんぱんにミスするところを見たいという気持ちで読んでいたのでフラストレーションがやばいですよ私どうしてくれるんですか。

という捜査陣。さらにかなりの数の村人が登場しますが、こっちは結構ごちゃごちゃしています。ただ、はっきりと書き分けられている主要人物はそれぞれ相当肉付けがされており、作者のシリーズを通して「村」そのものを描こうという気持ちがよく分かります。殺された、誰からも好かれている老女と、その老女の隠していた秘密、友人関係を軸に、物語は展開していくのです。
途中で殺人事件なども起こらず、なぜ老女が殺されたのか、という一点のみでじっくりじっくりと捜査が進み、比較的厚めであるにもかかわらずグイグイ読んでいったのですが……うーんこのラストはどうなんだろう。事件をかなり複雑に、大きくしていって、この当たり前みたいな着地はややがっかりかも。ニコル刑事の行く末も含めて、2作目以降に期待、というところでしょう。

というわけで、ちょっとまだ未完成かなという印象です。もう少し手慣れてくれば、複雑な人間関係と事件がうまいこと結びつくような話を書くのかなと。次作に期待しましょう。

原 題:Still Life(2005)
書 名:スリー・パインズ村の不思議な事件
著 者:ルイーズ・ペニー Louise Penny
訳 者:長野きよみ
出版社:武田ランダムハウスジャパン
     ランダムハウス講談社文庫 ヘ4-1
出版年:2008.07.10 1刷

評価★★★★☆
2016年上半期に観た映画の感想、続きです。


日の名残り
『日の名残り』ジェームズ・アイヴォリー監督(2016年5月2日)
カズオ・イシグロのベストセラー小説を『最終目的地』のジェームズ・アイヴォリー監督が映画化した文芸ドラマ。自らの職務に忠実なイギリス人の老執事と女中頭の心の交流を綴る。主演はアンソニー・ホプキンス。

基本的に原作に忠実です。ただ、小説の方がはるかに好きなのは、スティーブンスの一人称こそがこの作品そのものの良さだからでしょう。また映画のスティーブンスは小説よりも分かりやすく、というか感情がもう少しあらわになっています。最後の鳩の描写も悪くないと思いますが、原作のラストの方がはるかに良いと思います。
評価★★★☆☆


シーラ号の謎
『シーラ号の謎』ハーバート・ロス監督(2016年5月15日)
妻をひき逃げされた映画プロデューサーは犯人探しをするために妻と親しかった6人を呼び寄せ一艘の船で出港する……。

ミステリ映画としてよく名前が上がる作品ですが、確かにこれは名作でしょう。すごい。
てっきり『そして誰もいなくなった』タイプのミステリなのかと思ってたら、純然たる犯人当てでした。プロットがめちゃ複雑な上に、伏線がこれまためちゃしこまれているので、相当頭使いながら観なきゃいけません。とにかくすみからすみまで非常によく出来ていて、謎の明かし方や手がかりの提示の仕方まで絶妙。冒頭のアレとか超好きなんですけど。
評価★★★★☆


ワールズ・エンド
『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』エドガー・ライト監督(2016年5月21日)
エドガー・ライト監督によるSFアクションコメディ。“ひと晩に5人で12軒のハシゴ酒”をするべく郊外の街に戻って来たアラフォー男たち。だが、街の人々は何者かに操られており……。

もうめちゃくちゃだなって思いました。以上です。
いやねー、『ショーン・オブ・ザ・デッド』はゾンビコメディでやや苦手、『ホット・ファズ』はポリスムービーコメディといいつつかなり面白い傑作ミステリ映画というのが自分の中での評価なんですが、これはその中間くらいかな。メイキングで言われていた今回の敵・ネットワークはゾンビ+近隣監視同盟、ってのがすごく分かりやすいです。
で、この3作の中では、圧倒的に話の筋がないんです。中盤もめちゃくちゃ。終わりもめちゃくちゃ。だから正直、もう少ししっかりした話にまず仕上げて欲しかった、と思わなくもありません。
評価★★★★☆


十戒
『十戒』セシル・B・デミル監督(2016年5月25日)
ハリウッド創世期から70本以上のスペクタクル映 画を次々と製作・監督してきたデミル監督が、生涯の情熱を傾けた映画史上最大のスペクタクル巨編。題材を聖書に求め、前半は知られざるモーゼの出生から成 長を描き、後半は特撮を駆使して忠実に預言者モーゼの波乱万丈を描く。特に紅海が真っ二つに割れるシーンは映画史上空前の迫力である。

仕事で必要だったので観ましたが、これなんと230分もあるんですよ。3時間50分ですよ。しかも1956年の映画の3時間50分ですから、かったるいことこの上ないんですよ。こちとらそんなにヒマじゃないんですよ。
というわけで2倍速、途中からは3倍速で観ましたが、おかげで逆にテンポよく観られてある程度は面白かったです。やっぱり金のかけ方が違うので豪華ですしね。特撮と言うかなんというか、海が割れたり神が語りかけてきたりなどのシーンのチープさもご愛敬ということで。
評価★★★☆☆


ムーンライズ・キングダム
『ムーンライズ・キングダム』ウェス・アンダーソン監督(2016年5月26日)
『ダージリン急行』のウェス・アンダーソン監督による異色コメディ。60年代のとある島を舞台に、ボーイスカウトに所属する少年と同い年の少女の逃避行と、彼らを追う大人たちの姿を描く。ブルース・ウィリス、ビル・マーレイら豪華スターが共演。

我が偏愛映画ベスト10には入るであろう『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督による作品。観始めた瞬間から、このつくり物・まがい物感のある窮屈でおもちゃ箱みたいなセットに早速やられます。くぅぅ好きだ。観終わって最高に幸せになります。好きな人は絶対に好き。おとぎ話めいた世界での駆け落ち逃避行がたまらなく良いのです。ウェス・アンダーソンの凝り性っぷりが、子どもをメインに置いたことでいい方向に出たような気がします。
ただ、この監督の作品はおそらく全てそうだと思うのですが、観ていて観客もがんじがらめになるような不自由さがあるのも事実。合わない人には一切合わないと思います。そういう意味では、『グランド・ブダペスト・ホテル』はかなりキャッチ―だったんだなぁと(だからみんな見よう)。
評価★★★★★


ファイト・クラブ(映画)
『ファイト・クラブ』デイビッド・フィンチャー監督(2016年6月5日)
不眠症に悩む若きエリートのジャック。彼の空虚な生活は、謎の男タイラーと出会ってから一変する。自宅が火事になり、焼け出されたジャックはタイラーの家へ居候することに。「お互いに殴り合う」というファイトにはまっていく二人のもとに、ファイト目当ての男たちが集いあうようになる。そして秘密組織“ファイト・クラブ"がつくられた!

ミステリ映画としても名高い作品。ぐぁぁそう来たか、とまず唸ります。映像トリック的にはかなりせこい(というかアンフェア)んだけど、それでも全てが明らかになるシーンの衝撃がとてつもないのです。エドワード・ノートンは何であんなに目の感じだけで雰囲気をがらっと変えられるの? 天才なの?(そうです) ちょいちょいCGっぽいところとか、非現実的(完全に現代社会のはずなんだけど何となくSF世界か世紀末感がある)なところとかも好き。
ノートンといえば『真実の行方』もミステリ映画としては有名で、こちらの方が驚きは強かったのですが、映画全体の凄味は『ファイト・クラブ』の方が上でしょう。今度はノートン映画で『幻影師アイゼンハイム』でも観ようかなぁ。絶対面白いでしょ。
評価★★★★☆


ホット・ファズ
『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2016年6月12日)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライト監督、サイモン・ペッグ主演のアクションコメディ。左遷されたエリート警官とお人好しの若手警官が残虐事件に立ち向かう。

『ワールズ・エンド』のついでに再聴。
このブログを読んでいる人で、まだ『ホット・ファズ』を観ていない人がいますか? いますね? はいすぐに観ましょう。マイベストミステリ映画トップ5には入るド傑作です。四の五の言わずに観るんだ。そして笑って、うわぁ英国人って変にグロいの好きだねぇと若干引いて、真相にのけぞって、ラスト30分の銃撃戦に大笑いするんだ。
カメラワークとかセリフ回しとかも本当に完璧。なんでこんなにスタイリッシュに面白く撮れるんだろう。すごい。
評価★★★★★


ズートピア
『ズートピア』リッチ・ムーア監督、バイロン・ハワード監督(2016年6月16日)
動物たちの“楽園”を舞台にした感動アドベンチャーアニメ。“楽園”ズートピアで、ウサギとして初の警察官になったジュディが、与えられた48時間で行方不明事件の捜査に挑む。

今年のディズニー映画。あんまり評判いいので観に行きましたが、正直かなりなめてましたよ。はいはいディズニーね、ちょっとミステリしてるからってみんな騒いでるんでしょ。
と思ったらマジで超面白かったのでほんとごめんなさいって感じですはい。ディズニーすげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
本格ミステリではなく、警察小説、バディもの、としての面白さです。新人女刑事(ウサギ)と詐欺師(キツネ)が街に隠された秘密を暴くのです。俺、こういう登場人物を端役にいたるまで丁寧に使いまわしていくタイプの話が超好きなんだよ……プロットいい……。
もう公開は終わってしまいましたが、いやーディズニー馬鹿にしてちゃダメですね。これは素直にオススメ。
評価★★★★☆
ファイト・クラブ
『ファイト・クラブ』チャック・パラニューク(ハヤカワ文庫NV)

ひとつ頼みがある。力いっぱい俺を殴ってくれ――タイラーの一言がすべての始まりだった。映写技師の仕事をする彼との出会いは、平凡な会社員として暮らしてきたぼくの生活を一変させた。週末の夜、密かに素手の格闘を楽しむうち、二人で作ったファイト・クラブはみるみるその規模を拡大し、過激な暴力は果てしなくエスカレートしてゆく。その行く手に待ち受けていたものは? 熱い注目を浴びる、全米大ヒット映画の原作。(本書あらすじより)

えー皆さん、お久しぶりです。2週間も更新できずにすみませんでした。ようやく手があきました。というかちゃんと見に来てくれている方、こんなにいるんですね……ありがてぇ……。今日から通常営業に戻ります。ちなみに「2016年上半期に観た映画の話(その2)」は今週中に更新します。

さて、本日はチャック・パラニューク『ファイト・クラブ』。映画を観た直後に読みました。パラニュークは、実験的、というよりもう独創的すぎる作品をばんばん発表している作家で、日本でも何冊か翻訳されていますが、ほとんど品切れプレミア価。どうなってるんだ(『チョーク!』と『インヴィジブル・モンスターズ』を引き続き探しています)。
……あれですね、映画の脚本はめちゃくちゃ良く出来てたんですね。よくこんな作品をマトモに映画化できたもんだわ……。
別にけなしているわけではないのですが、正直これ映画の前に読んでいたら理解できていた自信がありません。それくらい、読者に「不親切な」作品です。

とりあえず主人公の男がある男と出会い、殴り合いをするファイト・クラブを結成し、しだいに止めようのない計画に巻き込まれ、最後にミステリ的にとんでもないどんでん返しがある、という話。ただ殴り合うだけの話ではありません。っていうか原作はあんまりファイト・クラブのシーンが多くないね。
文章は読みやすいんですが、時系列がめちゃくちゃで非常に読みにくいです(その点映画はある程度整理されているので頭に入ってきやすいのかも)。そして腹立たしいことにネタバレを避けようとするとこれ以上あらすじも語れないんですが、まぁとにかく話としては最後までむちゃくちゃです。かなりのどんでん返しも仕掛けられますが(この点映画はめちゃくちゃアンフェア)、その明かし方もこう丁寧ではなく、ふわっと処理されるので余計に混乱します。

ところが熱狂的パラニュークファンである後輩に言わせると、『ファイト・クラブ』を読むと「見たこともない文体とどうしてもやってしまうミステリ要素に目がくらむんだけどパラニュークのいいところは全然そんなところではない」んだそうで、つまり『ファイト・クラブ』はパラニューク作品の中では全然大したことないと。そうなのか。どんな作家なのか全く分からないぞ。

ですから、パラニュークの評価は保留ということで。まだ何作か積んでいますし。個人的には映画が先の方がよいのかな、と思います。

原 題:Fight Club(1996)
書 名:ファイト・クラブ
著 者:チャック・パラニューク Chuck Palahniuk
訳 者:池田真紀子
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 927
出版年:1999.11.30 1刷

評価★★★☆☆
7月10日まではかなり忙しいので更新が止まりがちになるとは思いますが、ご了承ください。
さて、今年は比較的映画を観ているんです。観てるといっても数作ですが、全体的にわりとミステリ寄りだったので、上半期分をここでとりあえずまとめておこうと思います。忘れちゃうしね、何を観たか。長いので何回かに分けます。
ちなみにベストは『リザとキツネと恋する死者たち』。これはもう圧倒的ですね。超おすすめです。
なお、あらすじは適当に映画紹介サイトやAmazonから引っ張ってきました。


007 スペクター
『007 スペクター』サム・メンデス監督(2016年1月19日)
メキシコでの休暇中に起こした不祥事により、全ての任務からはずされたボンド。Mの監視から逃れ単独でローマへと赴く。そこでボンドは殺害された悪名高い犯罪者の未亡人であるルチア・スキアラと出逢い、悪の組織スペクターの存在をつきとめる。その頃、ロンドンでは新国家保安センターの新しいトップ、マックス・デンビーがボンドの行動に疑問を抱き、Mが率いるMI6の存在意義を問い始めていた。ボンドは秘かにマネーペニーやQの協力を得ながら、スペクター解明の手がかりとなるかもしれないボンドの旧敵、ホワイトの娘マドレーヌ・スワンを追う。死闘を繰り広げながらスペクターの核心部分へと迫る中、ボンドは追い求めてきた敵と自分自身の恐るべき関係を知ることになる――。

弟曰く、これまで観た007の中で一番面白かったとのことなので、自分も観に行きました。ちなみに初007です。いいのかこれで。
メキシコの死者の日を初めて動画で観てテンションあがって、モリアーティ登場にテンションあがりました(最後までモリアーティでした)。あと基本的に最初から最後までQに萌える映画ってことであってますよね(思い返せば思い返すほど、Qかわいい以外の感想が出てこない)。
まぁでもやっぱり007って頭空っぽにして観る男性向けの映画なんでしょうかねー。突っ込みだしたりするとキリがなさそう。女性の扱いとか。ボンドの考えなしの行動とかそういう。
評価★★★★☆


リザとキツネと恋する死者たち
『リザとキツネと恋する死者たち』ウッイ・メーサーローシュ・カーロイ監督(2016年1月27日)
日本の恋愛小説と、彼女だけに見えるユーレイ日本人歌手"トミー谷"が心のよりどころのリザ。30歳の誕生日に住み込み先の元日本大使未亡人に許可をもらい、素敵な出会いを求め外出している間に未亡人が殺害されてしまう! 刑事ゾルタンが捜査を命じられるが、リザに殺人の気配はない……。恋に恋する彼女が巻き込まれる連続殺人事件。その影にチラつくキツネの呪い……。果たして孤独なリザに幸せはやってくれるのか――。

傑作です。これはもう皆さん観ましょう。めっちゃどストライクだったというのもありますが、もうね、監督頭おかしいんじゃないかと。すんごいキワモノなんですけど、これが超はまるのです。『グランド・ブダペスト・ホテル』を観た時の興奮に近いのですが、あれよりも映画の意味不明度がかなり高いです。
とりあえず予告編を観てみましょう。どうですか、既にちょっと変でしょう。ところが実物はもっと変なのです。日本もフィーチャーされまくってますがむちゃくちゃです。登場する楽曲からしてもう謎の日本歌謡ばっかりですからね。ぜひこの面白さをですね、体感してもらいたいなと。本当に。お願いだから。
評価★★★★★


オデッセイ
『オデッセイ』リドリー・スコット監督(2016年2月17日)
人類による有人火星探査ミッション<アレス3>が、荒れ狂う嵐によって中止に追い込まれた。ミッションに参加した6人のクルーは撤収を余儀なくされるが、そのひとりであるマーク・ワトニーは暴風に吹き飛ばされ、死亡したと判断される。しかしワトニーは奇跡的に生きていた。独りぼっちで火星に取り残され、地球との交信手段もなく、次にNASAが有人機を送り込んでくるのは4年後。サバイバルに不可欠な食糧も酸素も水も絶対的に足りない。そのあまりにも過酷な現実を直視しながらも、ワトニーは決して生き延びることを諦めなかった。やがてワトニーの生存を知って衝撃を受けたNASAや同僚のクルーは、地球上のすべての人々が固唾をのんで見守るなか、わずかな可能性を信じて前代未聞の救出プランを実行するのだった……。

身も蓋もないことを言うと、原作の方が面白かったという理由で若干印象が悪いです。いや別に悪くないんですよ。ないんですけど、原作の方が100倍面白いんですよ。
ただ、とりあえず何かストレスなしに観られるちょうどいいやつない?って聞かれたらおすすめしたい、いい映画。こんなにサスペンスっぽい題材なのに、本当に緊張感がないのです(いい意味で)。音楽の使い方もすごく上手かったですね。原作の後半をかなりはしょっているので、未読の人はぜひ小説版も。
個人的に一番ツボったのは、エルロンドの会議にボロミアがいたことです。グロールフィンデルを誰かが名乗りを上げた時に(えらいマニアックなチョイスだ)、お前そこで言えよー!って思いながら観てました。

なお、映画にはなかった原作の好きなシーン
①おっぱい(ほのめかされてはいた)
②ワトニーがアレス4に着いて走って転ぶところ
③ルイス船長が一緒に寝るよう言うところ

評価★★★☆☆


モネ・ゲーム
『モネ・ゲーム』マイケル・ホフマン監督(2016年3月17日)
印象派の巨匠モネ。その代表作「積みわら」の連作には、消えた1枚が存在した……。
英国の美術鑑定士ハリー(コリン・ファース)は、その消息不明のモネの名画を使った大掛かりな贋作詐欺を企てる。完全犯罪に必要なのは、完壁な贋作と、持ち主を演じる美人の相棒PJ(キャメロン・ディアス)と、カモになる億万長者(アラン・リックマン)。成功必至の計画だったが、相棒PJがその天然すぎる性格で、次々と計画を変えてしまう。全く想像もつかない怒涛の展開に焦るハリーも大暴走、贋作の鑑定を第三者に奪われるという大ピンチに! 果たして、一発逆転なるか!?

アラン・リックマン、亡くなっちゃいましたね……悲しい……。
内容は程よいコメディクライム。騙し方も意外とクールで、悪くない作品でした。
評価★★★★☆


純黒の悪夢
『名探偵コナン 純黒の悪夢』静野孔文監督(2016年4月18日)
阿笠博士とともに東都水族館にやってきたコナンたちは、ケガをして記憶をなくした女性と出会う。彼女の瞳は左右で色が違うオッドアイ。その風貌と雰囲気から、灰原は女性が黒ずくめの組織の人間ではないかと疑う。しかし、少年探偵団は自分たちで女性の記憶を取り戻そうと大はりきり、女性と観覧車へ乗り込んでしまう。実は女性は前夜に警察庁に侵入、警察がつかんでいるスパイのリストを盗み、逃亡中に事故を起こした犯人だったのだ。しかも、黒ずくめの組織が女性を奪い返そうと迫ってきていた!!

観終わった瞬間から笑いが止まりませんでいた。というか実際ラスト20分くらい、爆発音を聞きながらずっと笑ってました。こーれーはーひどい!(大笑) ありえないほどツッコミどころはありますが、とりあえず『業火の向日葵』の100倍は面白いです。っていうか近年の中では一番面白いかも。コナンって謎解きをゼロにするとここまですごいのが出来るんだな……。
正直、無限につっこめますが、スペースもないので省略。ただ、毎年コナンを劇場に観に行っている人としては、今年は大当たりでした。まだまだ出来るもんですね、劇場版名探偵コナンも。次回は宇宙にでも行きましょう。
ちなみに誰も言ってくれていませんが、今回のMVPはドンズべりしてた阿笠博士だったのでそこはもっと評価してあげましょう(ちなみに観客が一番笑ったのも阿笠博士によるワンシーンなのでそこも評価してあげよう)。
評価★★★★☆


世紀末の魔術師
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』(2016年4月21日)
怪盗キッドから“インペリアルイースターエッグ”を狙うと予告状が届く。コナンたちは早速大阪へ向かうが、逃走中のキッドが何者かに撃たれ…。

なぜか唯一観ていなかったコナンの過去作。これでようやく全20作品観たことになります。
この頃のコナンはちゃんと謎解きするし、フーダニットあるしで、マジで良心的で面白いですね……。若干ばたばたしているし、ラストが尻すぼみですが、キッドの扱いも上手いことやっていて、そこそこ上出来の部類だと思います。
評価★★★★☆


ベイカー街の亡霊
『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』(2016年5月3日)
バーチャルリアリティ空間で遊ぶ新型体感ゲームシステム「コクーン」が完成し、コナンたちはその披露パーティに招待される。だが、現場では開発責任者が殺される事件が発生、解決の鍵はゲームの中にあるとにらんだコナンは、ゲーム空間として用意された、切り裂きジャックの恐怖に包まれた19世紀末のロンドンへ。

観るのは2回目かな……? コナン映画史上でも屈指の出来の作品です。
やっぱりね、バーチャル空間でのアクション&謎解き、という展開が超楽しいわけです。工藤優作が探偵役となり捜査する現在パートも、こちらは倒叙ですが、しっかりと作っているし。謎解きに隙が無くツッコミどころもない、なんてことは、ま、いつも通りないわけですが、それでも謎解きとアクションのバランス、およびシチュエーションの魅力が大きい、傑作だと思います。
ところで最初に観た時からずーっと、「諸星くん一番タチ悪いやつだったのに……」と言う悲しさを感じ続けています。
評価★★★★★


漆黒の追跡者
『名探偵コナン 漆黒の追跡者』(2016年5月4日)
東京、神奈川、静岡、長野で6件の連続殺人事件が発生。警察の捜査会議に参加したコナンは、そこで刑事に変装した黒ずくめの組織のメンバーを発見する。

劇場で観て以来2回目。最初に観たときよりはマシでした。というか最初に観たときはDAIGOの吹き替えが気になって気になって……げふんげふん。でもやっぱりラストがむちゃくちゃですし、黒ずくめのメンバー“アイリッシュ”はどの警察官に変装しているのか?という謎を前面に出すからには、伏線の仕込みもちゃんとやって欲しいです。変装を見抜くポイント、ぬるすぎません? おまけに殺された人たちもかわいそうだし。60%くらい『純黒の悪夢』とかぶってるような……。それにしても蘭姉ちゃんの劇場版における戦闘員化がハンパないですね。
評価★★★☆☆


探偵たちの鎮魂歌
『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』(2016年5月28日)
コナンの正体を知る謎の黒い影にコナン、平次たちが決死の戦いを挑む。小五郎とコナンたちは謎の招待を受け、ある巨大な城へ向かうが……。

映画館ぶり2回目。10年前に映画館で観た時には、結局最後まで誰が犯人で何が起きたのかすらよく分かっていなかったのですが、今回ようやく全てを理解できました。といってそんなに評価が上がるわけではないのはなぜだろう……。悪くはないんですけどね、なんか10作目ということで気合いを入れたのが空回りしちゃった感じ。最後の爆破を待つシーンで、園子が一緒にいるのはかわいそうすぎるのでは。
評価★★★☆☆