ゼウスの檻
『ゼウスの檻』上田早夕里(角川春樹事務所)

宇宙居住区の開発に乗り出した人類は、月面、火星さらには木星へと計画を推し進めていた。中でも木星には、“ラウンド”と呼ばれる人々が、宇宙開発が人体に及ぼす影響を探る実験の被験体として居住していた。それは、両性種すなわち男女両性の機能を身体に備えている新人類とも言うべき存在であった。
ラウンドはセクシャル・マイノリティーの身体の問題を解決するために進歩派と呼ばれる人々が生み出した「人体改造」の産物であったが、生命倫理的に反対する保守派との間に常に対立を招いており、〈生命の器〉という保守派の組織はテロ行為をも辞さない過激な活動を繰り広げていた。
そんな情勢下、〈生命の器〉がテロリストを木星の宇宙ステーション・ジュピターIに送り込むという情報がもたらされる。ジュピターIに乗り込んだ警備担当者・城崎がそこで見たのは、従来の人類とは違う価値観を持ちながら、しかし人間的な苦悩に悩むラウンドたちの姿だった。対立を繰り返す城崎たちとラウンドだが、その背後にはテロリストの影がすでに迫っていた……。(本書あらすじより)

今月の月イチ国内ミステリはまさかのSFです。じゃあもう月イチ国内“ミステリ”じゃないっていう。
上田早夕里さん、めちゃくちゃ評判よいので気になってはいるのですが、まだ『華竜の宮』すら読んでいません。なぜいきなり『ゼウスの檻』なのかと言えば、この本ちょいレア本でして、以前たまたま買えたのを欲しい人にあげることになったのですが、せっかくだから渡してしまう前に読んでみようと。3月はSF強化月間ですし。
さて読んでみると、これがまぁすごいジャンルミックス小説でした。ジェンダー小説だといえばそれまでなんですが、前半もりもりSF設定を書き連ね、後半は完全に謀略・テロ小説になるなど、とにかく型にはまらない印象を受けました。さらにそれがめちゃくちゃではなくて、明らかに筆者の確かな実力でひとつの小説にまとめあげられているなと感じられるのです。とりあえず上手い作家です、ってかすごい。

内容は長めのあらすじに示されている通りですが、舞台は木星付近、両性具有的な新たな人類「ラウンド」のコミュニティと、それを保護しようとする人々のもとに、保守的な一派がテロリストを送り込み破壊しようとする話です。最初はラウンドの説明が多く、うーんやっぱザッツSFだわと思っていたのですが、明らかに途中からバトル物に展開していったことでめきめき面白くなりました。伝説の女テロリストが登場して片っ端から殺しまくったりするんですよ、激アツじゃないですか。
ラウンドを保護する人、受け入れられない人、そしてラウンド自身の考えは実に多様です。登場人物全ての考えが、進歩的なものであれ、保守的なものであれ、何かしら説得的であり、ダメな人間にも一定の論理はあるし、中立的なように見える人間でもやや狭量なところを感じます。アンチ「ラウンド」の人々の考えにも微妙に「わかる……」となる要素があるんですよね。この絶妙な掘り下げ方が超上手いのです。筆者は強くジェンダーに関するメッセージを打ち出してはいますが、それが押しつけがましくもなく、あくまで読者の考えに委ねようとしているスタンスは好感が持てます。
そしてそれだけでなく、潜入したテロリストの正体やら、ラストに明かされるばらまかれたウイルスの正体やら、ひたすら後半は物語で殴ってくるので問答無用に面白いのです。ってかすごいラストですよねこれ、むちゃくちゃじゃないですか。なんでしょう、この虚無感は。

というわけで、とりあえず他の作品も読んでみようと思わせてくれる一冊でした。それにしても上田早夕里さんの著作はほぼ現役本なのですが、これが文庫化していないのはなぜなのかな……。

書 名:ゼウスの檻(2004)
著 者:上田早夕里
出版社:角川春樹事務所
出版年:2004.11.08 1刷

評価★★★★☆
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はだかの太陽
『はだかの太陽』アイザック・アシモフ(ハヤカワ文庫SF)

すべてがロボットによって管理される惑星ソラリア――だが、そこで、有史以来初の殺人事件が発生した。ロボットしかいない密室で人間が殺されたのだ。ロボットに殺人ができるはずはない。ソラリアの要請で急遽地球から派遣されたイライジャ・ベイリ刑事は、ロボットのオリヴォーとともに捜査に着手するが……『鋼鉄都市』の名コンビがふたたび登場し、完全殺人の謎を鮮やかに解明する、ファン待望の傑作SFミステリ!(本書あらすじより)

今週の土曜日に千葉で行われる『鋼鉄都市』読書会に参加するので、せっかくだから続編のこっちも読んでおこうと積んでいたものを引っ張り出してきました。ちなみに『はだかの太陽』は、去年ハヤカワ文庫補完計画の一環で新訳復刊されました。おぉめでたい。なおシリーズ前作にあたる『鋼鉄都市』は品切れです。ど、どういうことだってばよ。
実は『鋼鉄都市』はあまり楽しめなかったので、今回も「はいはいアシモフの書くSFミステリってSF設定がメインでついでに殺人事件も要素に入れちゃいましたみたいな感じでしょ」と完全になめてかかって読んだのですが、なんとちゃんと面白かった上にちゃんとミステリしてて、えー、土下座して詫びたいですアシモフさんに。

前作では地球で起きた宇宙人殺しをロボットであるオリヴァーとともに捜査・解決した地球の刑事ベイリが、今回は惑星ソラリアで起きた殺人事件を捜査するため宇宙に旅立ちます。他人と直接会うことを決してしないという、ソラリアの文化に基づく特殊設定のもとでの不可能犯罪、というのがすでにアツい。刑事の見ている前で新たな殺人事件が発生したりと、適度なミステリ展開の引っ張りもあり、ミステリ読み的にも面白さ十分なのです。
舞台となるソラリアは警察機構がないため、証拠保全などという考えも当然ありません。そこでベイリが地球のやり方で一から捜査を開始する、という流れがあるのですが、おかげで異星だというのに現地の刑事と衝突とかそういうこともなく、すごくしっかりとした捜査小説、あるいは言ってしまえばハードボイルド/私立探偵小説になっています。今回相棒オリヴァーがおせっかいかつ邪魔する存在でしかないので、『鋼鉄都市』に見られるバディ物要素は完全に犠牲になりましたが、むしろそのせいで単独捜査行感がにじみ出ていて楽しく思えました。

そう、『はだかの太陽』は、ロボット三原則を生かしたトリックだとか、宇宙人と地球人の出会いだとかこれでもかというSFである一方で、オリヴァーの素性を生かしたラストの解決や、真相自体はそこまで意外ではなくてもその上でのワンどんでん返しの盛り込みによって、こじんまりとはした、ある意味すごく堅実なミステリになっているんですよ。だからはっきり言って地味ですが、個人的にはこういうものの方が好きです。
堅実にまとめたぶん、ギャラクシーが云々とかオリヴァー派遣の理由とか色々ほのめかされ広げられた風呂敷を最終的に全くたためなかったのですが、ええいそんなものいらないんじゃ。なんかこう異星まで行っておいて、数人の容疑者を尋問し、被害者の妻といい感じの仲になり、結局せこせこした殺人事件だよ、みたいな地味さがいいじゃないですか(こういうところがまたハードボイルドっぽくてよい)。最後ちょっと警句っぽいことにページを費やすのが若干説教くさいけど(アシモフだから仕方ない)。

あと付け加えておくと、今回新訳ではなく冬川亘さんによる旧訳で読みましたが、これめっちゃ読みやすいですね。『鋼鉄都市』は福島正実訳だったのですが、あちらよりはるかに読みやすいと思います(別に『鋼鉄都市』が読みにくいわけでもない)。

というわけでこれはおすすめ。当然『鋼鉄都市』から読むべきだと思いますが、そこで止まっている人はぜひ次作も読んでみると良いです。このシリーズあと2作あるけど、うぅん、いずれ読むのかな……。どちらかというと『ABAの殺人』とか『象牙の塔の殺人』の方が興味あります。

原 題:The Naked Sun(1957)
書 名:はだかの太陽
著 者:アイザック・アシモフ Isaac Asimov
訳 者:冬川亘
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫SF 558
出版年:1984.05.31 1刷
     2001.05.31 16刷

評価★★★★☆
深夜プラス1
『深夜プラス1』ギャビン・ライアル(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ルイス・ケインの引き受けた仕事は、男をひとり車でリヒテンシュタインへ送り届けること、タイムリミットは深夜プラス1。だが、フランス警察が男を追っているし、男の敵は名うてのガンマンを差し向けてきた! 執拗な攻撃をかいくぐり、ケインの車は闇の中を疾駆する! 英国推理作家協会賞受賞の名作冒険小説。(本書あらすじより)

冒険小説の名作として今でも有名な作品です。2012年版の『東西ミステリーベスト100』では25位、1985年版ではなんと6位ですよ。という世評の高さは理解しているのですが、んんんんんんなんでしょう、この微妙さは。なんか感想書くのが難しくてここまで引っ張ってしまいましたが、いい加減ブログを更新しないといけないので頑張っています。
ロードムービーというかロードバトル調のストーリー自体とどんでん返しは、比較的ありきたりとは言え悪くはないんだけど、実は話のメインは(読むと分かるけど)そこではないのです。その点の、こう描き切れなさに、もやっとするのです。
いやなんでしょう、描き切れていないわけでもないんですよ、なんだ、結局かっこよさというか、主人公の”カントン”という戦時中活躍した自分に戦後も生きようとする生き様に惚れなきゃダメなのかしらん。

話の内容は、主人公の英国人ルイス・ケイン(戦時中のコードネーム・カントン)と米国人ガンマンが、ある男を、フランスからリヒテンシュタインまで無事に運ぶ、というもの。ケインの一人称で語られていきます。Amazonにある説明によると、「命の危機にさらされても自分の生き方を曲げない男たちの姿を、全編にわたり主人公の一人称で描写したハードボイルドな冒険小説である。 酒に弱く、それでいて女性の優しさを引き出さずにいられないガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルは『ハヤカワミステリ』の〈冒険小説人気キャラクター〉部門で1位を獲得した」とありますが、いやもうまさにこの通りだと思います。そうなんですよ、主人公より、その相棒であるガンマン、ハーヴェイの方がはるかに印象に残るんですよ。

様々な妨害にあいながらゴール地点を目指す、というだけの話で評価することは難しいと思います。それだったら、もっとアクション要素が強いものがありますし(最近だと『暗殺者グレイマン』とか?)。ですから見るべきは、その戦いの中で描かれるハードボイルドっぷりなのでしょう。
それは分かるのですが……ここまで世評が高くなったことが謎です。自分、プロ対プロの話が大好きなので、ハーヴェイとカントンはその点すごくいいキャラだとは思います。ただハーヴェイは魅力的ですが単体で引っ張れるほどでもないし、カントンに関してはラストの壮絶なオチを読みながら、もっと楽に生きればいいのに……って思いました(でもあれは巡り巡ってハッピーエンドになりそう)。

決してつまらなくはないし、読ませる小説ではあると思います。それは確か。「めっちゃ世評高いのに読んでみたらまぁまぁくらいでその落差により何とも言えない感じになった」作品リストに加えたいです。ところであらすじにある「タイムリミットは深夜プラス1」ってどういう意味なんだろう……一夜ってこと?
ちなみに超個人的なことですが、この本は、先日閉店してしまった地元の名書店・友朋堂書店で、閉店間際に購入したものです。悲しい……。

原 題:Midnight Plus One(1965)
書 名:深夜プラス1
著 者:ギャビン・ライアル Gavin Lyall
訳 者:菊池光
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 18-1
出版年:1976.04.30 1刷
     2013.08.25 43刷

評価★★★☆☆
ジャック・リッチーのびっくりパレード
『ジャック・リッチーのびっくりパレード』ジャック・リッチー(ハヤカワ・ミステリ)

男がバーで「マクジョージ」と叫び客を撃つ。が、撃たれたのはマクジョージではない? これは単なる間違いか。ターンバックル刑事が迷推理を展開!(「容疑者が多すぎる」)。強盗3人が家に押し入ってきた。カード遊びに興じる犯罪者に私が仕掛けたのは……(「ようこそ我が家へ」)。男は自らを異星人と主張し、殺人光線がもう地球に届くという。が、話は予想外の話“フララリーオードル”へと広がり……(「殺人光線だぞ」)。100%予想不可能なほどの“びっくり”が保証付。日本初訳25篇を集めたオリジナル短篇集。(本書あらすじより)

ジャック・リッチーの短編集を読むの、これで5冊目になるんですね……はやいもんだ。
小鷹信光さん編集によるジャック・リッチー短編集第2弾です。亡くなってしまったので、これが実質最後ということになります。小鷹さんとリッチーの関わりについては、ミステリマガジン2013年9月号を参照してください。
で、2年前に出た前短編集『ジャック・リッチーのあの手この手』は、そりゃあ面白かったですけど、でもやっぱり出がらし感がぬぐえなかったのです。もう4冊も短編集が出ているのにこれ以上いい作品残ってないっつーの、という。というわけであんまり期待していなかったのですが、意外や意外、前短編集よりもクオリティが安定しており、ショートショート的な幅広い作風を楽しめる好編が多かったのでした。リッチーの導入としてこれはちょうど良いかも。

収録短編は以下の通りです。

Part Ⅰ 1950年代
「恋の季節」(松下祥子訳)
「パパにまかせろ」(高橋知子訳)
「村の独身献身隊」(小鷹信光訳)
「ようこそ我が家へ」(松下祥子訳)
「夜の庭仕事」(松下祥子訳)

Part Ⅱ 1960年代
「正当防衛」(松下祥子訳)
「無罪放免」(高橋知子訳)
「おいしいカネにお別れを」(松下祥子訳)
「戦場のピアニスト」(高橋知子訳)
「地球壊滅押しボタン」(松下祥子訳)
「殺人光線だぞ」(松下祥子訳)

Part Ⅲ 1970年代
「保安官は昼寝どき」(高橋知子訳)
「独房天国」(高橋知子訳)
「地球からの殺人者」(松下祥子訳)
「四人で一つ」(松下祥子訳)
「お母さんには内緒」(高橋知子訳)
「容疑者が多すぎる」(高橋知子訳)
「指の訓練」(高橋知子訳)
「名画明暗」(松下祥子訳)
「帰ってきたブリジット」(高橋知子訳)
「夜の監視」(高橋知子訳)

Part Ⅳ 1980年代
「見た目に騙されるな」(高橋知子訳)
「最後の旅」(松下祥子訳)
「リヒテンシュタインのゴルフ神童」(小鷹信光訳)
「洞窟のインディアン」(松下祥子訳)

年代ごとに区切られており、各章最初で小鷹さんがその年代のリッチーの活動についてまとめています。「恋の季節」はデビュー作、「リヒテンシュタインのゴルフ神童」は遺作。発表年がついていないのがやや残念。
この流れを見る限りでは、デビュー当時はミステリばかりではなく、次第にミステリっぽい作品が増え、後半になるほどシリアスなもの、SFなど作風に幅が広がっていく、という感じでしょうか。やはりリッチーならではの軽みが楽しめる1950年代、1960年代が個人的には良かったです。ベストは「村の独身献身隊」「殺人光線だぞ」「独房天国」「地球からの殺人者」あたりで。

ところで、ジャック・リッチーって、旦那が奥さんを殺害し庭に死体を埋めたと疑われる、っていうパターンがめちゃ多いですよね……毎回ちゃんと違う展開なのがこれまた偉いんですが。

というわけで、初リッチーには『クライム・マシン』か『ジャック・リッチーのびっくりパレード』なのかなぁと。ミステリ多めが良いなら前者、いろいろ読みたいなら後者、がおすすめです。

原 題:Jack Ritchie's Wonderland part2(2016)
書 名:ジャック・リッチーのびっくりパレード
著 者:ジャック・リッチー Jack Ritchie
編訳者:小鷹信光
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1903
出版年:2016.01.15 1刷

評価★★★★☆
死角に消えた殺人者
『死角に消えた殺人者』天藤真(創元推理文庫)

帰らない母を案じて眠れぬ一夜を明かした塩月令子は、後ろ髪引かれる思いで出社し針谷警部から凶報を受ける。駆けつけた千葉県銚子の霊安室で令子を待っていたのは、変わり果てた姿で横たわる母と耳を掩いたくなるような事実だった。その朝、屏風浦で数十メートルの断崖から海に落ちた車が見つかり、同乗四名の遺体が収容された。その一人が外ならぬ母であり、現場の状況から単なる事故ではなく謀殺に違いないというのである。懸命の捜査にも拘らず被害者間の交友関係は確認できず、容疑者はおろか動機すら判然としない。いったい誰が、何のために? 令子は自力で真相を追うが……。(本書あらすじより)

月一国内ミステリです。今回は何年も前に傑作『大誘拐』を読んだっきりの天藤真。とあるサイトで『死角に消えた殺人者』を非常におすすめされたので、4年前に高松の紀伊国屋で購入したのでした。
と、かなり期待して読み始めたのですが、うーんなんでしょう、すごく微妙でした。真相が結局たまたまで色々処理されているのも気になるし、作者の狙い通りとは言え主人公の語りがややウザすぎだし、あとロマンス的に分かっちゃうのももったいないし。そもそも読んでいてあんまり面白くなかったのです。

事件は発端は4人の無関係な人たちの死体が銚子の崖から落ちた車の中で見つかる、という、めちゃくちゃ謎に満ちた魅力的なものです。被害者がなぜ銚子に集まっていたのかといった謎など調べていくうちにある程度落ち着きはしますが、それでも事件の全貌がまるで分からないという点でホワイダニット的にかなり読者をひきつける作品だと思います。実際、動機やミッシングリンクを探る部分はかなり面白かったと言えます。
問題は結局、この最後の真相が全く納得できないものだった、ということなんですよね。いやマジでそういう理由でこんなことしちゃったのかと。ミッシングリンクとかで読者を引っ張っておいてこれはないだろうと。まぁ自分があんまりホワイダニットに魅力を感じないというのもあるとは思いますが、それでもさぁ……。また物語の構成的に、前半・中盤と、それ以降のパートにあまりつながりがないのもやや気になるところではあります。こんなに長くする必要はなかったんじゃないかなと。

さらに一番の難点ですが、話や文章自体は読みやすいのに、主人公の女の子がウザくてなかなか読み進められないというのもあります。単純に古い価値観だからとかじゃなく(それもあるでしょうけど)、こう、あまりにバカっぽいし、流されまくってるし。このことが読者へのだましにもなっているので一概に文句は言えませんが、でもこれのせいで自分読み終わるのに一週間もかかりましたからね。だってしんどくないですか。

というわけで、うーんやっぱりだめだ、あんまり合わなかったのかなぁ。天藤真、他にいくらでも代表作があることですし、もうちょっと読みたいなとはずっと思っているのですが。

書 名:死角に消えた殺人者(1976)
著 者:天藤真
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mて-1-8
出版年:2000.05.19 初版

評価★★☆☆☆
SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦
『SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦』梶龍雄(ジャガーバックス)

科学空想小説(SF)は、うその世界を書いたものではない。今は、私たちの知識で想像した頭の中の世界だが、何年か後には必ず目の前にあらわれる世界なのだ。この本には、あなたたちの科学知識で推理できる、楽しいSFクイズが出ている。さあ、頭をひねってみたまえ。(著者のことばより)

以前安く手に入れたこの本を、この度手放すことになったので、その前にささっと読みました。感想もあっさり目に。
梶龍雄は『透明な季節』を発表する前には、児童向け翻訳や、このような児童向け書籍の執筆を行っていました。この作品は、まぁタイトル通りなのですが、1~2ページほどの長さのイラスト付きショートSFクイズがひたすら出題されるクイズ本となっています。

全体的には絵本なのでしょう。小説風からパズル的なもの、犯人当てのマンガまでとそのクイズの見せ方もかなり多種多様。ちゃんと「SFクイズ」ばかりであったことに一番驚きました(地球と月との重力差を利用したクイズとか)。SFというより宇宙関係のものが多めかな。
単純にパズルっぽい問題もありますが、半分くらいは理系クイズ的なもので、これ小学生わかんないだろみたいな容赦のないものすらあるので油断なりません。クイズの出来は良いです。マンガは絵の中にヒントがあったりと色々試されているので、解きがいもあるし。児童向けですが、手を抜いていない、きちんとした作品かなと思います。


書 名:SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦(1974)
著 者:梶龍雄
出版社:立風書房
     ジャガーバックス
出版年:1974.04.20 初版

評価★★★☆☆
洞窟の骨
『洞窟の骨』アーロン・エルキンズ(ミステリアス・プレス文庫)

旧石器時代の遺跡の洞窟から人骨が発見された。調査に協力したギデオンの鑑定により、事態は急転した。人骨は旧石器時代のものではなく、死後数年しかたっていなかったのだ。ギデオンは、以前に先史文化研究所で捏造事件が起きた時、行方不明者が出た事実をつかむが……複雑に絡みあう人類学上の謎と殺人の真相にスケルトン探偵が挑む、人気シリーズ第九作。(本書あらすじより)

この間読んだスケルトン探偵シリーズ最新作である『葡萄園の骨』がもうあんまりにもあんまりだったので……。ただ一説によると、スケルトン探偵シリーズは、南の方、あるいは暑いところが舞台だとつまらなくなるらしくて、そういえば『葡萄園の骨』の舞台はイタリアだったし南の方なのかなぁ、なら仕方ないなぁ、と思いましたわけです。だったら積んでいるのも読んでやろうじゃないかと。はい、『洞窟の骨』の舞台はフランスなのですね、なら何とかなるんじゃないか?
ちゃんと骨の話を主軸に進んでおり、全体的に悪くはない方のスケルトン探偵でした。トラベル物としては、場所が田舎だったせいかかなり控えめかな。謎解きに期待してはいけないのですが、1点評価できるところもあるし、そこまでの過程が読んでいてわりあい面白いので許せます。でも個人的には、たまにはスケルトン探偵が頭を殴られない話も読みたいぞ、毎回じゃないか。

洞窟から見つかった3年前の死体の謎とその正体、さらにネアンデルタールをめぐる学者たちの対立が絡み合い、珍しく骨と考古学と殺人がかなりしっかりと混ざっているため、読んでいて面白いし勉強になります。ギデオンの骨の鑑定・司法解剖による意外な展開が後半に多いのもよいですね。
それらの鑑定結果が全て手がかりとして示された上で犯人が明かされるので、あまり後出し感もありません。まぁね、飛行機のくだりとか偽医者のくだりとかは、かなり盛ったわりにすげぇご都合主義的な解決をするので、真相は読んでややがっくしではあるけど、そもそもそんなに期待してないからまぁいいでしょう。

オリヴァー夫婦(延々とイチャイチャしている)の他に『古い骨』でも登場したルシアン・ジョリ警部が再登場するなど、シリーズ感を強めている点はちょうどいいくらいだと思います。学者の話がメインなので比較的落ち着いていてなかなか良かったんじゃないかと。でも過度な期待は禁物だよ、とだけ言ってきます。やっぱりエルキンズ読むならまずは『古い骨』ですねー。

原 題:Skeleton Dance(2000)
書 名:洞窟の骨
著 者:アーロン・エルキンズ Aaron Elkins
訳 者:青木久惠
出版社:早川書房
     ミステリアス・プレス文庫 155
出版年:2000.12.15 初版

評価★★★☆☆
世界の終わりの七日間
『世界の終わりの七日間』ベン・H・ウィンタース(ハヤカワ・ミステリ)

小惑星が地球に衝突するとされる日まであと一週間。妹のニコに、もう一度会いたい――元刑事のパレスは、警官たちが集う〈警察のいえ〉を後にして旅に出る。小惑星の衝突を阻止する方法はあると確信して、地下活動グループと行動をともにしているニコ。今、彼女はどこにいるのだろう? パレスはニコとその仲間たちの痕跡を地道にたどってゆく。終末を目前とした世界を描く、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作『地上最後の刑事』、フィリップ・K・ディック賞受賞作『カウントダウン・シティ』に続く三部作の完結篇。(本書あらすじより)

明日の引っ越しをひかえ、今日まで大忙しでした。一週間ほどネットがパソコンでは使えない環境になるので、今週は更新できないと思います。
さて、ベン・H・ウィンタースの、隕石衝突までの崩壊する世界での刑事小説/ハードボイルドシリーズ3部作がついに完結しました。いやぁ感慨深いなぁ。『地上最後の刑事』を読んだ時は本当にね、衝撃でしたよ。
今作は隕石衝突まで残り一週間、というところから始まります。いよいよ主人公のパレス刑事は偏執狂じみているし、物語は前作と比べてめちゃ小規模ですし、穴掘ってご飯食べてるだけの話なんですが、それだからこそこの作品は3部作の完結編として完璧ではないかと思うのです。読み終えて生じる深い感動が止まりません。

失踪した妹ニコの捜索を通じて描かれるのは、小惑星衝突まで一週間を切った世界の人々の生活。形はどうあれ、彼らはある種の平穏を求めて、様々な暮らしを送っています。そのような中で、(元)刑事として妹の捜索に死力を尽くすパレスの様子ははっきり言って異常で、どう見ても病気。客観的に出会う人々の小惑星病(衝突を前にしてパラノイアっぽくなる病気)を分析しているパレスですが、彼自身マトモとは思えません。第1作は世界が無秩序に向かう中、しょうもない自殺事件に疑いを持ったパレス刑事がひたすら捜査を続ける話で、こんなしょうもない事件になぜここまでのめり込むのか、という点で既に変人感はありましたが、もうそんなレベルじゃないです。
そして前作『カウントダウン・シティ』は話を大きくしすぎで何だかなぁと思っていたんですが、今回はとことん小さいエリアに話を絞ったおかげで、ひたひたと迫る衝突の日がむしろ意識させられるようになっています。これ以上ないSF世界なのに、一方でそれを極限まで感じさせない作られた”平穏さ”の不穏さがたまらないのです。

意外なことに、今までで一番ミステリ要素も強い気がしました。血痕、指紋、証言、証人といった要素にこれまで以上にパレスが偏執的にこだわり、全てが取り返しがつかなくなった後ですら真相を求めようと尋問を続けるからでしょうか。第1作で感じた、「世界の終わり」での「捜査」というギャップが戻ってきた感じ。結構どんでん返しもあるし、章の引きも強いし、これはまず作者が上手くなったのでしょう。なぜか『そして誰もいなくなった』感もあります。

そしてラストがさぁ……本当によかったのです。これなんでパレスが戻ってきたのかを考えたら、もう、泣きますよ、マジで。ここで終わっちゃうのかという残念さもあるけど、ここで終わらなきゃいけなかったのでしょう。いやーいいもん読めたなぁ。いいミステリであり、いいSFであり、そしていいハードボイルドでした。

シリーズを総括すると、作品世界にのめり込むという点では『地上最後の刑事』がダントツで(あれは読んでいる間中、自分も小惑星衝突が迫っている気分になっていた)、『カウントダウン・シティ』はやや中だるみ、『世界の終わりの七日間』は完全に持ち直して、ウィンタースの持ち味が出せたなと。なかなか稀有な面白さを備えたシリーズですので、ぜひ1作目から読んでみることをおすすめします。

原 題:World of Trouble(2014)
書 名:世界の終わりの七日間
著 者:ベン・H・ウィンタース Ben H. Winters
訳 者:上野元美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1902
出版年:2015.12.15 1刷

評価★★★★☆