パーフェクト殺人
『パーフェクト殺人』H・R・F・キーティング(ポケミス)

その事件は、最初からパーフェクト(完全)殺人と呼ばれた。ゴーテ警部はその言葉を新聞で見るたびに、肩のあたり一面に汗が吹き出るのを感じた。まるで四億の国民が彼に向かって解決してみろといっているかのようだった。しかし、事実は四億人になるはずはなかった。ボンベイでもどこでも、パーフェクト殺人という見出しが何回使われようと、大部分の連中は、その話は知りっこない。字を読むことさえできない者が多いのだ。だが、事実が知られないことが、かえって頭痛のタネでもあった。人々はパーフェクト殺人といいつづけているが、それは完全でも何でもなかった。ただ、被害者の名前がパーフェクトということにすぎなかったのだ……。
パーフェクトは、大富豪ララ・ヴァルデーの右腕となって働いていた秘書だった。ヴァルデーからいきなりパーフェクト殺人といわれ、ゴーテ警部は前途多難であると覚悟していた。が、パーフェクト殺人といわれたのに、まさか、被害者のファーフェクトがまだ生きているとは、さすがのゴーテ警部も気がつかなかった……!
ボンベイの名刑事ガネシュ・ゴーテ警部、本邦初登場!英国推理作家協会最優秀作品賞に輝く本格巨篇!(本書あらすじより)


これ、CWA受賞作なんですか……なんか不思議。

まぁまぁ面白かったです。インドが舞台であり、かなり異色なミステリだと思います。意味なく奇をてらってインドを舞台にしたわけではなく、「インド」という舞台装置によって結末の独特さが生まれているわけです。おそらくこの終わり方が評価されて受賞したんでしょうが……まぁ、そこまですごくはないかなという気もします。嫌いではありませんが、結局のところ証拠が全然ないわけで、ちょっと投げやりな終わり方のようにも思えます。

このパーフェクト「殺人」事件と並行して、警察・芸術大臣の事務室から小額のお金が盗まれた事件がゴーテ警部によって捜査されます。この2つの事件、一見関係ないように見えて実は……といったほのめかしがずっとなされていますが、あまり期待すると肩すかしを食らうかもしれません。こちらの事件の終わり方も、なんだか唐突かなぁという気もします。

語り口が非常にユーモラスであり、そのためか非常に読みやすいですね。いや語り口というより、起きることがちょっと理不尽さがあって、なんとなくジョイス・ポーターのドーヴァー警部物を彷彿とさせます(特に前半)。こういう笑いは好みなんですよねぇ。インドが舞台と言うことで、その案内役としてか、アクセル・スヴェンソンというスウェーデン人が登場します。彼の存在がなかなか話を面白くしていますね。なんだ、結構良いやつじゃないか。


まぁ特に出来が良い作品というわけではありませんが、クスクス笑いながらサラッと読めますし、異国情緒あふれる変わり種のミステリとしては、一読の価値はあると思います。異国情緒といってもそこまで強くなく、結構イギリス的ですので、その点ちょっと躊躇されている方は大丈夫だと思いますよ。

なお題名ですが、訳者さんは苦労したんだろうなぁと思います。「完全殺人」じゃ上手くないし、かといって「パーフェクト殺人」って、タイトルとしてはちゅうぶらりんで謎の日本語です。

書 名:パーフェクト殺人(1964)
著 者:H・R・F・キーティング
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 997
出版年:1967.8.20 初版
    1981.5.15 2版

評価★★★★☆
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