ルパン、最後の恋
『ルパン、最後の恋』モーリス・ルブラン(ポケミス)

父親のレルヌ大公が突然自殺し、一人娘のコラは悲しみに沈んでいた。そんなコラを助けるのは、大公から後見を託された4人の男たち。大公は遺書の中で、じつはこの4人の中に正体を隠したアルセーヌ・ルパンがいる。ルパンは信頼に足る人物なので、それが誰かを見つけ出して頼りにするようにと記していた。やがて思いがけない事実が明らかになる。大公はコラの本当の父親ではなく、コラの母親がイギリスのハリントン卿との間にもうけた子だったのだ。高貴な血をひくコラは、にわかに国際的陰謀に巻き込まれ、そんなコラを救うべく、ルパンは動きだすが……永遠のヒーロー、ルパンと姿なき敵との死闘が幕を開ける!
アルセーヌ・ルパン・シリーズの第1作「アルセーヌ・ルパンの逮捕〔初出版〕」も収録。従来の邦訳は、フランスで雑誌に初掲載後ルブランが加筆した単行本収録バージョンでしたが、ここでは雑誌掲載時そのままのテキストを採用。正真正銘の初登場版は、本邦単行本初収録となります。ルブランのエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」もあわせて収録。(本書あらすじより)


常々言っていますけど、小中学生の頃に読んだという思い出補正をかけまくった上で、自分はルパンが大好きなんですよ。というわけで、今回新作……というか、未発表作が出るということで、当然のように気合が入りまくるわけです。
その出版までの過程やら、詳しい考察やら感想やらは、「怪盗ルパンの館」というサイトの『ルパン、最後の恋』の感想ページ(こちら)で十二分に語られていますので、既読の方はぜひそちらをご覧下さい。かなーり理解が深まり、より一層楽しめること請け合いです。未読の方も、「ネタバレ雑談」の途中までは大丈夫ですよ。

……とか言ってしまうと、ここに感想文書く意味がなくなってしまうんですけど。まぁとにかく気を取り直して。

未発表作であり、手直しは一応されているとはいえ全部終わっているわけではない、と聞いていたもので、正直、読む前にそこまで期待していなかったのです。妙に薄いことからも、明らかに推敲が不十分であることが推測できます。ポケミスなのに1段組(アルテ『殺す手紙』以来二度目)だし、ページ数も本編は230ページくらいですからね……(ポケミス一日で読み終わるとか初めてじゃないですかね)。

まぁ読み始めると、案外面白かったですよ。ナポレオンとか、四銃士とか、オックスフォード公とか、ルパンが開き直っちゃったりとか、《頭髪狩り》とか、美女の水着シーンとか、まるで意味が分からなくて非常に楽しいです。そりゃあルパンは娯楽作ですからね、楽しくなくちゃ困るんですけど。

ただ、読み終わった感想としては、完全にファン向けの作品かな、と。ルパンの新たな一面が(新た過ぎる気もするけど)見られる点で、興味深いのは間違いないです。ただ、話としては未完成で、先程も言ったように推敲も不十分、設定は面白いのにそれを生かし切れていない感が強いです。作中の年代・ルパンの年齢などにもかなり矛盾が。ルブランがこれを仕上げられなかったというのがつくづくもったいないですね……。

タイトルからも分かる通り、ルパンの最後の恋が描かれるのです。この「最後」というのが曲者で、すでに普段のルパンとは異なるわけですが。毎度のこととはいえ、「あなたの前に愛した女は一人もいません。本当に愛した女は。」と言っちゃうとか、いくら何でも調子に乗りすぎですよ、ルパンさん。過去を省みなさい。
うん、まぁ、しかし、ルパンはこれだけ言っているのに、問題のヒロインのコラの魅力がよく分からないのが惜しいです。これもやはり描写不足、駆け足で描いているためイマイチ伝わらない、というのはあるでしょうね。


だいぶ雑な感想ですが、正直言うことがあんまりなくて……。興味のある人が手に取れば、それでいいんじゃないでしょうか。若き頃ルパンを楽しんだ人向け、というか。面白かったですけどね。強いて読もうとする必要はないと思います。
付録としてシリーズの第1作「アルセーヌ・ルパンの逮捕〔初出版〕」が収録されていますが、これはミステリマガジンに載ったものをそのまま移したもので、やはりファン向け。ルブランのエッセイも、まああってもなくてもいいですね。

ま、もともと出版されたことすら「お祭り」というイメージですし、ルブランに文句を言うのもかわいそうです。1つ言わせてもらうなら、あのぉ、1段組とか、第1話収録とかでページ数増やすの、やめていただけませんか。それよりは、フランス語原書に載っていた「序文」「前書き」が読みたかったですね……。
あと、一番驚くべきことは、本国フランスで出版された5月から4ヶ月たらずで、平岡敦氏が訳され、出版にまでこぎつけた、ということですよね。すごいペース……。


書 名:ルパン、最後の恋(2012)
著 者:モーリス・ルブラン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1863
出版年:2012.9.15 1刷

評価★★★☆☆
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813 続813
『813』『続813』モーリス・ルブラン(偕成社)

パリ市内のホテルで連続殺人事件が発生した。殺されたダイヤモンド王ケッセルバッハはある人物の調査を進めており、謎の暗号「813」と「APOON」がその鍵となっているらしいのだが……。ルパン、ロシア貴族、国家警察部長、謎の男爵、ドイツ皇帝、ホームズ、そして殺人鬼「L・M」が死闘を繰り広げる大長編。ルブランの最高傑作とも言われる。(あらすじ)

ここ数年またルパンを読み直したいなぁと思っていたんですが、ようやく実現できました。とりあえず、傑作と名高い『813』を再び読むことにしましたが、読み終わって気付きました。ははぁ、わたしゃこの本を読んだことはないな、と(笑)

ルパン物の中では推理小説要素が強いとも言われます。○○の正体は誰だ!的な謎が中心となりますが(一番身近なところでは、ルパンは誰に変装しているのか、という見え見えの問題)、推理小説ファンの間では変装とか、あの男は実は○○だ!みたいなネタはあまり評価されない傾向にあります。ま、仕方ないですね。やはりルパンは推理小説というより冒険小説ですから。

前作『奇岩城』の4年後ということになっており、ルパンももはや38歳、立派なおっさんであります。そして前作までのルパンは、軽妙でちょっとやんちゃな、いわゆるザ・義賊、ってキャラクターだったと思いますが(たしかね)、今作ではルパンの性格に変化が見られます。目的のためなら周りのやつらなんか知ったこっちゃねぇ、というジコチューな性格になっちゃったわけで、ぶっちゃけちょっと性格が悪いです(いや、そんな悪くはないけどさ)。こんなルパンだからこそ、最後の最後に痛い目を見ることになるわけで、そこが見どころの一つでもあります。

ルパンと敵対する人間はぞろぞろ出てきますが、やはりルノルマン国家警察部部長がいいですね。彼の活躍シーンはルパンの出張っているシーンよりワクワクします。彼がどう物語に関わってくるかが面白いですね。ちなみにホームズさんは一瞬名前が登場するだけという散々な扱いです(爆)


全体的に言って、冒険小説としては非常に楽しめる佳作だと思います。子供心に帰って、ルパンの活躍に胸を躍らせればいいんじゃないでしょうか。まぁ個人的には、後期の渋いルパンの話の方が好きな印象がありますが。

ちなみに翻訳権の関係上、現在入手が容易な『813』は、この偕成社版と新潮社版のみです。新潮社版の堀口大學訳はルパンの一人称が「わし」だったり妙に漢語調だったりするため、個人的には偕成社版をお勧めします。児童書という扱いではありますが(だから翻訳権にひっかからなかったらしい)、大人が読んでも何の問題もありません。ルパンの全集は偕成社版しかないわけですし。

なお、ルパンの解説については「怪盗ルパンの館」というサイトがオススメです。『813』の解説では、舞台となった場所、時代背景、登場人物の追跡などやたらに詳しくてこっちがひくほどです。読み終わった方はぜひ一度ご覧になってみてくださいな。

書 名:813(1910)、続813(1910、1917年に大幅改訂)
著 者:モーリス・ルブラン(モーリス=ルブラン)
出版社:偕成社
出版年:【813】1981.9 1刷
         1989.8 11刷
    【続813】1981.10 1刷
          1988.8 9刷

評価★★★★☆