グレイストーンズ屋敷殺人事件
『グレイストーンズ屋敷殺人事件』ジョージェット・ヘイヤー(論創海外ミステリ)

1937年初夏の晩ロンドン郊外の屋敷で資産家の遺体が発見された。凶器は鈍器。ヘイヤーの本格長編ミステリ待望の邦訳!スコットランドヤードのヘミングウェイ巡査部長とハナサイド警視が事件を追う!(本書あらすじより)

ジョージェット・ヘイヤーのハナサイド警視シリーズは、以前創元推理文庫から2冊出たきり止まっちゃったんですよね。確かに1作目の『紳士と月夜の晒し台』は微妙でしたが、2作目の『マシューズ家の毒』はかなり良作で大好きだったんですが。と残念がっていたら、なんとシリーズ4作目(というか4作しかない)が論創から翻訳! これは嬉しい!
というわけで気合い入れて読んでみましたが……うぅ、ミステリ部分に全部気付いてしまった……これ嫌いなパターンだ……。

最初にミステリ要素について。屋敷の中で撲殺死体が発見されます。その夜はやたらと疑わしい人が出入りしており、屋敷の中にも親族がいます。ところがこの出入りの時間を突き詰めていくとどうしても矛盾が生じてしまうのです。果たして犯人は? 凶器は? そのタイミングは? というわけで、ハナサイド警視はひたすら時間を分単位で調べていくことになります。意外な凶器もの、としても有名な作品であるとか。
そうなのです、分単位で推理を進めていくんですよ。というわけで結構ややこしい話になりそうなところなんですが、思ったより混乱せず読むことが出来ました。まぁこういう細かいミステリはあんまり好きじゃないんですけどね。
それより問題は、この細かい部分を突き詰めて考えてしまうと犯人が分かってしまうということです。自分、読みながら推理とか全然しないんですが、犯人も凶器もタイミングもストーリーのロマンスの展開すらも分かっちゃって、もーがっかりですよ。何がダメって、自分、この手のパターンにもう飽き飽きしているのです。いや多くないですか、これ、特にポスト黄金時代とかそのへんに。しかも気付いちゃうとある点ですぐ自分が合っていることに確証を得てしまうという……ダメだろこれは……。
良く出来ているのは事実ですが、やっぱりいただけませんでした。ジョージェット・へイヤーって書く話はすごく面白いんだけど、本格ミステリを作るのはあんまり上手くないんじゃないかと思います。そういや既刊2つも情報後出しだったし。

じゃあヘイヤーの強みはどこかというと、エキセントリックな登場人物同士の会話劇にあります。主人公のハナサイド警視は超絶地味で礼儀正しいだけの無個性に近いんですが、彼はとにかく登場人物のおしゃべりをよく聞くんですよね。というか登場人物は警視がいなかろうとひたすらおしゃべりしています。
で、このパートがやっぱり楽しいんです。たとえば今作だと被害者の甥(だったかな)と近隣に住む女史との皮肉の応酬に満ち満ちた会話、エキセントリックなおばあさん、とまぁこんな感じ。この強みが特に出ているのが『マシューズ家の毒』なので読んでみるといいですよ。

ただまぁミステリ部分がとにかく気に入らないので、全体としてはダメだったかな……後半分かっちゃうとひたすら退屈だったし。とはいえめげずに、残る3作目の翻訳を期待したいところです。

書 名:グレイストーンズ屋敷殺人事件(1938)
著 者:ジョージェット・ヘイヤー
訳 者:中島なすか
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 138
出版年:2015.01.30 初版

評価★★☆☆☆
スポンサーサイト
マシューズ家の毒
『マシューズ家の毒』ジョージェット・ヘイヤー(創元推理文庫)

嫌われ者のグレゴリー・マシューズが突然死を遂げた。高血圧なのに油っこいカモ料理を食べたせいだと姉は主張するが、別の姉は検死をやるべきだと主張。すったもんだの末に実施したところ、なんと死因はニコチン中毒で、他殺だったことが判明した。だが故人の部屋はすでに掃除されており、ろくに証拠は残っていなかった。おかげでスコットランド・ヤードのハナサイド警視は、動機は山ほどあるのに、決め手がまったくない事件に挑む羽目に……。巨匠セイヤーズが認めた実力派が練りに練った傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)

いやはや、何とまぁ。驚きました。面白いので(笑)
前作『紳士と月夜の晒し台』は、登場人物の会話は面白いけど、ミステリとしてはうぅぅむ、で、星3つ、でした。ちょっと感想を引用してみます。


これが単なる小説ではなく、本格ミステリであるならば、かな~り不満足な作品ということになってしまうでしょうね。プロットは行き会ったりばったりのようで、伏線はほとんどなし、手がかりもほぼ皆無です。決め手の証拠はかなり良い出来だと思いますが、最後の最後に明かされても困ります(いや、一応解決シーンの前……というか直前ですけど)。著者のヘイヤーさんは、ミステリとしてはこれが処女作だそうなので、まだ書き慣れていないのかもしれませんが。


……つまり、書き慣れたのでしょうか(爆)いやとにかく、非常に良く出来た作品でした。あらゆる点が前作を上回っています。

やはり最大の魅力は、前作でもあった登場人物同士の会話、です。前作では親族が中途半端に集まっていましたが、今作では嫌われ者の家長であるじいさんが死んだことで、大勢いる遺族がやたらといがみ合います。これが面っ白いんですよ。コージーっぽいクリスチアナ・ブランドとでも言うのか(ブランド1つしか読んだことないくせに)。一人一人がはっきりと書き分けられていることもあり、彼らが右往左往して文句を言い合っている様がとにかく読ませます。
この揉め合いと同時進行で描かれるのが、某男と某女の微妙な関係の変化、です。いや、このほのめかしは絶妙ですね。こちらも読んでいてニヤニヤしてしまい、とても楽しかったです。

前作でズタボロだったミステリ面は、まぁ普通かな、というくらいですが、それでも十分水準は満たしています。家族内のごたごたにさりげなく伏線が入っている点などは、なかなか上手いんじゃないでしょうか。肝となるトリックをあえてばらした上で解決シーンに入る、という構成も良いですね(まぁただ、もう1つのある仕掛けは、さすがに分かると思いますが……)。あとは決め手の証拠さえちゃんとあればねぇ。
ちなみに死因はニコチンなわけで、登場人物たちは警察も含めて一様に「珍しいねぇ。そんなの毒になるんだー」みたいなことを言うわけですが、しかし、海を越えてニコチンは有名になってますね、早くも。

というわけでオススメです。探偵役のハナサイド警視のキャラがとてつもなく薄く、シリーズ性もそれほどでもないため、ここから読み始めるのでも十分かと。ただ、こっちを先に読むと、前作の登場人物がちょこっと出てしまうため、第1作の犯人を絞り込めてしまう、かもしれない、という問題は一応あります。だから、第1作を読まなくていいんじゃないかな(ひどい)。

書 名:マシューズ家の毒(1936)
著 者:ジョージェット・ヘイヤー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mヘ-15-2
出版年:2012.3.23 初版

評価★★★★☆
紳士と月夜の晒し台
『紳士と月夜の晒し台』ジョージェット・ヘイヤー(創元推理文庫)

月夜の晩、ロンドンから離れた村の広場で、晒し台に両足を突っ込んだ紳士の刺殺体が発見された。動機を持つ者にはこと欠かないが、浮世離れした容疑者たちを前に、ハナサイド警視は苦戦する。そんなとき、思わぬ事態が発生して……。ヒストリカル・ロマンスの大家として知られる一方、セイヤーズも認めた力量を持つ著者による、巧みな人物描写と緻密なプロットの傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)


まず言っておきますと、非常に楽しいお話でした。巧みな人物描写というのは全くその通りで、テンポ良い会話の進行が読んでいてとっても楽しいんです。またいかにもな黄金時代の作品めいた雰囲気もグッド(嫌な奴が殺され、容疑者は親族で、南米で死んだ弟がいて、みたいな)。
が。

これが単なる小説ではなく、本格ミステリであるならば、かな~り不満足な作品ということになってしまうでしょうね。プロットは行き会ったりばったりのようで、伏線はほとんどなし、手がかりもほぼ皆無です。決め手の証拠はかなり良い出来だと思いますが、最後の最後に明かされても困ります(いや、一応解決シーンの前……というか直前ですけど)。著者のヘイヤーさんは、ミステリとしてはこれが処女作だそうなので、まだ書き慣れていないのかもしれませんが。

一番がっかりなのは、なぜ死体が晒し台にあったのか、という謎。全く、タイトルがこうである以上、いやがおうでも期待してしまうこの最大の謎の答えにはさすがにがっかりです。


というわけで、手がかりも伏線もない以上、この作品の9割は容疑者同士の会話、ということになります。被害者の義理の弟妹である、どう考えてもどこかズレている2人による推理やら無駄口やらおしゃべりやらを中心に、容疑者があーだこーだと話しているお話なんですよ、これは。そしてこれがたいそう面白いと来てます。登場人物一人一人の描写・キャラ付けが秀逸なんですよね。ユーモアあふれる会話にただただ爆笑します。

てなわけですから、主役のはずのハナサイド警視はどうしても脇役・傍観者とならざるを得ません。感じの良い人ではあるんですがねぇ。この作品、バークリーみたいに、ミステリをちょっと皮肉った面があるのではという気がします。


なお、翻訳がちょっと気になりました。登場人物の口調が一定ではないというか。


というわけで、ミステリ的にはかなりアレですが、面白くはあったので、刊行が予定されている次作に大いに期待したいところです。

書 名:紳士と月夜の晒し台(1935)
著 者:ジョージェット・ヘイヤー
出版社:東京創元社
   創元推理文庫 Mヘ-15-1
出版年:2011.5.31 初版

評価★★★☆☆