エッフェル塔の潜水夫
『エッフェル塔の潜水夫』ピエール・カミ(ちくま文庫)

セーヌの川底からお化け潜水夫に水死体が運び去られた。それを目撃したヴァランタン・ムーフラールも水死体となって、所もあろうにエッフェル塔の上に現われ、おまけに幽霊船『飛び行くオランダ人』号船長の契約書までも添えてあった。血の気の多いパリっ子を巻き込んで次々おこる怪事件、登場する怪人物、深まる謎……。エッフェル塔の構造の秘密という奇抜な着想から繰り出される奇想天外な物語。(本書あらすじより)

フランスミステリ固め読み中。
カミの他作品よりはユーモア抑え目?で、幽霊(船)の出没によりパニくるパリの人々と、それに立ち向かう人たちの冒険小説というテイスト。うーん、これ、フライング・ダッチマン物だったのね。奇想とオカルト入り怪人二十面相的な。まぁ笑えますけどね! ただ、楽しく読めましたが、いまいち物足りない気もします。

物語は、溺死体に幽霊船からの手紙、エッフェル塔に潜水服を着た男の首つり死体、カタコト仏語の英国人大富豪、恋する男女、幽霊船船長に狙われる女、丁稚は友人と仲良く冒険、とひたすらはちゃめちゃ。パリ上空に幽霊船が出没して大パニックになったりと、奇想に満ちていて楽しいです。
ダイエットのためエッフェル塔を徒歩で上り下りするデブ(美食家なので料理は得意)とか、海に出たい元洗濯船船長とか、ちょこちょこ出ていた奇人キャラが、さて幽霊船「飛び行くオランダ人」を追いかける船の乗員を決めるぞ、という時にわらわら集まってくるあたり冒険小説的に超好き。こういう、冒険メンバーを決める部分ってどうしてこう興奮するんでしょう。

ただ、主人公がいまいち誰かあやふやでばらばらダラダラと話が進むので、ちょっと中だるみ感はあります。ラストに関しても、なかなか面白い説明が出て来るのですが、むしろそのせいで奇想度が落ち着いちゃってる気がしなくもありません。『三銃士の息子』とか『機械探偵クリク・ロボット』みたいに、もっとバカに徹した感じの方が個人的には好きですね……いやこれでも十分カミさん頭おかしいんですが。

というわけで、気が付くと『ルーフォック・オルメスの冒険』も『エッフェル塔の潜水夫』も『機械探偵クリク・ロボット』も『三銃士の息子』も読了しちゃってたわけですが、この中で一番を決めるとなると、もう断然『機械探偵クリク・ロボット』です。あのユーモアミステリっぷりは唯一無二でしょう。他はどちらかというと冒険譚的なテイストが強めなのかな、という気がします。

書 名:エッフェル塔の潜水夫(1929)
著 者:ピエール・カミ
出版社:筑摩書房
     ちくま文庫 か-10-1
出版年:1990.08.28 1刷

評価★★★☆☆
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三銃士の息子
『三銃士の息子』カミ(ハヤカワ・ミステリ)

人類史上最高のスーパーヒーローをご紹介しよう。かの三銃士を父に持つその名も〈三銃士の息子〉だ。なにしろダルタニャンの機知、アトスの気高さ、ポルトスの精力を一身に受け継いでいるのだから天下無敵も道理(アラミスがいないのは気にしないこと)。そんなヒーローが、美しくも無垢で薄幸のヒロインを救うべく、悪の権化の公爵殿と闘うんだから、コレを見逃す手はない! かのチャップリンも脱帽したとかしないとかいう、ユーモアの神様カミが、脱力ギャグと「あり得ない」展開で世紀の冒険を描き切った大巨篇! 『機械探偵クリク・ロボット』に続く脱力必至の物語をご堪能あれ!(本書あらすじより)

今年の早川書房は、ポケミスからジャック・リッチーの短編集が出るわカミが出るわ、異色作家短篇集の文庫化をするわ文庫復刊投票をするわと、最近では珍しく古めの作品にも目を向けている感があります。というかHM文庫の売れ行きがやばいから方針転換をしたんじゃないかなとか勝手に思ってたんdゲフンゲフン。

さて、『機械探偵クリク・ロボット』のカミがまさかのポケミス再登場です。クリクは勝呂忠表紙時代の最後の最後でしたから、もう数年にはなりますね。で、あちらはヘンテコ探偵物(だけどそれなりな本格ミステリ的ななにか)でしたが、今作はよりカミの本領発揮と言えるような冒険小説風三銃士パロディです。
三銃士の息子である「三銃士の息子」さん(そういう名前)が、愛する乙女のために乙女をつけねらう悪党と戦うドタバタギャグ冒険小説。デュマを読んでなくても問題ありません(自分も『三銃士』の内容はすっかり忘れているし、そもそも児童向けだったので全部は読んでいませんが、全く関係なかったです。話は変わりますが、原作の『三銃士』(『ダルタニャン物語』って本当に長いんですよね……ちゃんと全部読んだ人どれだけいるんでしょう)。本当にしょうもないんですけど、案外ストーリーはしっかりしていて、それにまぁとにかく楽しいんですよね。だから出来をどうこう言うより、これを出してくれた早川書房に感謝です。

中盤くらいまでは、「三銃士の息子」が、いかに乙女を守り、悪党をやっつけるか、というアイデアがバカみたいで面白く(水責めにスポンジで対抗する的なアイデアがいかにもカミっぽい)、ただテイストは古典的な「世界の冒険文学」みたいな感じ、というなんともおかしな読み心地。大真面目に変なことやるので非常に楽しいです。変は変ですが、ホラ話があるくらいで、奇想ってほどでもないかな。
ところが後半から過去の悲劇みたいのが語られ始めるんですが、この辺からがカミの本領発揮で、いやいやどこのファンタジーでもそんなこと起きねぇよ(笑)みたいなアホアイデア炸裂です(大変よろしい)。鉄仮面のアイデアをなんちゅー使い方してるんですか……。最後どう考えてもアホなのになんか感動してしまうし。

というわけで、良かったですよ、色々な意味で。こういうの年に一回は読みたいかな。年に一回以上は……うん……まぁしょうもないから……って感じですけど、立ち並ぶ重々しい新刊軍団の中においてこういうバカっぽいのは大変貴重です。

書 名:三銃士の息子(1929)
著 者:カミ
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1882
出版年:2014.04.15 1刷

評価★★★★☆
ルーフォック・オルメスの冒険
『ルーフォック・オルメスの冒険』カミ(出帆社)

ナンセンス文学の極北!! 登場しますは、プシット、プシュットなるおとぼけコンビ、名探偵ルーフォック(ちょっとキ印の意)・オルメス、怪盗スペクトラetc。奇想天外、機智縦横、モダンで奇抜でナンセンス、とてつもなく愉快でだんぜん風変わりな、奇才溢るる「大笑い」の作家カミの傑作コント31篇。ユーモア文学傑作シリーズ第二弾!!(本書あらすじより)

なんだってこんな忙しいんでしょうかね(と言えば更新が一週間ぶりであることの言い訳が立つと思っている浅はかな中の人ですこんばんは)。
さて、なんと新刊としてカミのポケミスが4月に出ちゃいましたので、それに向けて積ん読からこいつを引っ張り出してきました。タイトルのルーフォック・オルメスはその名の通りホームズパロディ物ですが、収録作はそれだけではありません。とりあえず目次をご覧ください。

【プシット、プシュットの人生サーカス】(1932)
1、新案薩摩守
2、安い昼食
3、珍奇な馬車
4、恐慌時代
5、のんきな兎
6、爆弾チーズ
7、成層圏探検
【ルーフォック・オルメスの冒険】(1926)
8、奇妙な自殺
9、十一番列車の怪盗
10、調律師殺人事件
11、骸骨の失踪
12、鮮血トランク事件
13、ヴェニスの潜水夫
14、仇討二重奏
【怪盗と名探偵】(1926)
15、大西洋の盗賊
16、赤ん坊は渇く!
17、細菌の正体
18、カタコンプの怪
19、インクは昇る!
【モダン錬金術】
20、蹴球珍試合
21、優しき殺人犯
22、復活祭は楽し
23、最後の審判
24、ディオゲネスの娘
25、モダン錬金術
【不景気解消!】(1934)
26、最後のフランス人
27、ビング・ゴング
28、マラソン
29、不景気解消!
30、リキキ一家の日曜日
【衣裳箪笥の秘密】(1924)
31、盗まれた処女性
32、パリの恐怖

コントですから、ほとんどが10ページ前後くらいのものです。全部で31篇じゃなかったのかと思うかもしれませんが、えぇまぁつまり目次の書き方が悪くて、つまりこの最後の「衣裳箪笥の秘密」だけ、短編というか中編くらいの分量なんですね。31、32、じゃなくてつまり31「衣裳箪笥の秘密」ってことです。ちなみに発表年などはあっちゃこっちゃのサイトにあるのを持ってきましたがかなり怪しいと思って下さい。
まぁとにかくアホっぽいコントが大量。全体的に普通というか微妙というか、あんまりパッとしないなぁと思って読みすすめていたのですが……最後の「衣裳箪笥の秘密」が超絶スプラッタおバカ傑作だったので褒めざるを得ません。うわぁこれはすごいぞ。

あらすじ順に見ていくと、弥次喜多風おバカ二人組を描く【プシット、プシュットの人生サーカス】(7編)、名探偵オルメスの活躍を描いた【ルーフォック・オルメスの冒険】(7編)、オルメスと怪盗スペクトラの対決を描く【怪盗対名探偵】(5編)、ナンセンスなユーモア譚など様々な【モダン錬金術】(6編)と【不景気解消!】(5編)、そしてオルメスがパリを恐怖のどん底に陥れた殺人事件に取り組む中編「衣裳箪笥の秘密」の、6部構成、全31編からなっています。「衣裳箪笥の秘密」以外は台本風のコント文体で、「衣裳箪笥の秘密」のみ散文体です。

で、オルメス以外のユーモア譚については、おおむねしょうもないというか、特にコメントがないですね……。普通のギャグだったり、例えば食肉人種をネタにしたナンセンスだったりと色々。コント集って色々なものがありますが、自分は正直台本風の文体があんまり好きじゃないというのもあるかもしれません。

さて、メインのオルメス物です。オルメスは、以前アンソロで読んだ「トンガリ山の穴奇譚」がバカエロ奇想!って感じだったので期待していたのですが、意外と事件は変だけどそんな超常的だったりせず、オルメスがズバズバと解決していくマトモなものが多かったので少しがっかりしたというのは確かです。
自分の骸骨を盗まれた男が依頼してくる「骸骨の失踪」(もうこの時点で意味わかんない)、あの手この手を使って怪人二十面相並のアイデアでパリを混乱に陥れ金儲けを企む怪盗スペクトラとの対決最終譚である、作家にむりやり小説を書かせる拷問の発想が天才的な「インクは昇る!」あたりが良かったでしょうか。いずれも小品感はぬぐえませんが。

そして「衣裳箪笥の秘密」ですよ。こんな話。天才博士は娘アンジェールの処女性を持った器官を非処女のそれに置き換え、娘に自由奔放な(性)生活をさせ、いずれ将来を共にする相手が決まったら器官を戻し、処女として初夜を迎えられるようにしていました(初っ端からすごい設定)。
さてアンジェールはしつこい男マカルイユ(解剖学の大家)をはねつけ、クロチルドといい感じの仲になります。ところがその矢先、博士の助手が殺され、アンジェールの処女器官がマカルイユに盗まれてしまうのです。さらにマカルイユは解剖学の大家なだけに若い男の脚を捜査課長の鼻に移植し(は?)、あげくのはてにオルメスを拉致。果たして名探偵の運命は? そしてマカルイユの生み出した化物により、パリは血の海と化す……。
……まぁそういう感じで最終的に殺人箪笥が人を殺しまくる話になるわけです。意味が分かりません。カミ天才じゃないですか。というわけで奇想が炸裂しまくるこの中編だけは傑作と断言できます。入手が難しい『ルーフォック・オルメスの冒険』でしか読めないのが悩ましいところですね……他の作品がどうでもいいので……。

総じてたいしたことはないので、無理して手に入れる必要はないですが、カミファンならやはり必読でしょうね。変な作品集でした。やっぱカミはバカだなぁ。

書 名:ルーフォック・オルメスの冒険(1936年に日本で最初に独自に編纂される)
著 者:カミ
出版社:出帆社
出版年:1976.09.10 初版

評価★★★★☆
機械探偵クリク・ロボット
『機械探偵クリク・ロボット』カミ(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

四角い頭に鋼鉄の身体、チェックのスーツを着こなし、頭には小粋なチロリアン・ハット……古代ギリシャの偉大なる発明家の直系の子孫、ジュール・アルキメデス博士の発明になるクリク・ロボットをご覧ください。事件が起こるや、計算機としての能力を最大限に発揮し、正確無比な方程式を立て、代数学的に謎を解くのです。その冷徹な推理力の前に、解けない謎などこの地球上には存在いたしません。広大な庭園で起きた殺人事件の謎を解く「五つの館の謎」と、有名人の遺体を強奪した悪党団に挑む「パンテオンの誘拐事件」の二大巨篇を一挙収録!(本書あらすじより)


いやはや、これこそユーモアミステリです。

とにかく、クリク・ロボットが面白すぎます。クリクは<手がかりキャプチャー>、<推理バルブ>、<仮説コック>、<短絡推理発見センサー>、<思考推進プロペラ>、<論理タンク>、<誤解ストッパー>、<事実コンデンサー>、<情報混乱防止コイル>、<真相濾過フィルター>、<自動式指紋レコーダー>、<解読ピストン>、<首長潜望鏡>、<鼓膜式録音マイク>、<逃亡阻止用伸縮アーム>、<追走用縞馬ギャロップ>、<空中逮捕のための屋根歩行用スタビライザー>などを兼ね備えた、頭の回転も速けりゃ腕っ節も強い、無敵の探偵です。

登場人物も、どこかはめをはずした変なやつばっかり。アルキメデス博士は、多少嫌味っぽいこれまた頭のいい方で、クリク・ロボットを操り事件を解決に導きます……というか、クリクはレバーとかを操作しないと動いてくれないのね(笑)当時はリモコンとかがなかったんでしょうか……。

この面白さをいっそう盛り上げてくれるのが、カミ本人による挿絵です。いやもう、3ページに1回くらい絵が入ってくるんだから。この絵がまた、へたうまというか、非常に楽しませてくれる絵です。だいたいクリクのイメージなんか、挿絵がなければうまく浮かびません。由緒あるポケミスを挿絵だらけにすることに踏み切ったポケミス担当者の判断は大当たりでした。

忘れちゃならないのが、訳者の高野優さんの奮闘です。なんと、フランス語のダジャレをがんばって日本語のダジャレに変えてらっしゃるんですよね。一部なんかはほとんど表現を差し替えてしまっていますし。こういう訳し方について文句を言う人がいるのは百も承知ですし、いや結構自分もそうだったりしますが、このがんばりは素直に認めたいところです。そうとうなダジャレセンスのある方とお見受けしました(笑)

収録作2編のうち、「五つの館の謎」(1945)は、割と本格的な推理物。このトリックって割と有名ですが、もしかしてこれが初出だったりするのかな?クリクの推理力が生かされる話です。「パンテオンの誘拐事件」(1947)は、逆に推理というよりはクリクが犯人をやっつける話、という側面が強いのかな。どちらも一気に読める軽い中編です。クリク・ロボットのシリーズがこの2つしかないというのは残念ですね。もっと読んでみたかったものです。

まぁ、自分はこういう作品は結構好きなので、どうしても評価が甘めになっちゃう感は否めないですけど、ユーモアミステリ好き、又はバカミス好きなら、必読の一冊かな。カミの作品はもっと手を出してみたいですね。


ちなみに、この作品が勝呂忠が表紙を手掛けた最後のポケミス作品です。これ以降のポケミスの表紙ったら……(以下省略)。

書 名:機械探偵クリク・ロボット(1945,1947)
著 者:カミ(フルネームは、ピエール・ルイ・アドリアン・シャルル・アンリ・カミ)
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1837
出版年:2010.6.15 初版

評価★★★★☆