アデスタを吹く冷たい風
『アデスタを吹く冷たい風』トマス・フラナガン(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


かなり有名な短編集ですが、簡単に紹介します。

トマス・フラナガンは、1923年生まれのアメリカ人作家で、EQMMに傑作短編を投稿していました。非常に寡作で、1961年までの10年間に書いた作品は短編7つのみ。ただ、『海外ミステリー事典』によると、『フランス人の年』なる歴史長編も書いているようですし、Amazonの洋書にもいろいろあるようです。もしテナント少佐の話がまだあるなら、絶対翻訳してほしくださいな。頼むから。

とにかく、フラナガンは間違いなく短編の名手と言えます。『アデスタ~』は日本独自で作られた短編集で、テナント少佐ものが4つ、ノンシリーズが3つ収録されています。もちろん、ノンシリーズの出来も悪くないですが(いくつか個人的に好かんが)、何と言ってもテナント少佐シリーズですよ、えぇ。将軍(ジェネラル)のクーデタにより軍事国家となった某《共和国》を舞台に(地中海に面していて、砂漠があって、なので、北アフリカに位置する気もしますが、良く分かりません)、テナント少佐が活躍するわけですが、もう彼がかっこよすぎすんですよ!自分の良心に従って行動したいと望みつつも、職業軍人であるため、(嫌いな)将軍の定めた法規通りに彼は行動しなくてはならない。良心に背かず、かつ将軍に逆らわないようにして、事件の解決法を見出だしていくのですが、この解決法が非常に優れています。

……と説明してはみましたが、テナント少佐ものの最大の特徴は、フラナガンの抑えられて乾いた描き方が大きいわけで(宇野利泰訳も雰囲気にあってます)、こればっかは説明のしようがありません。てなわけですので、こんな感想をぐだぐだ読まずに、自分で読んで下さいな。


「アデスタを吹く冷たい風(The Cold Winds of Adesta)」(1952)

テナント、密輸業者を取り締まる。

一作目のせいか、まだテナントの特徴が描き切れていない気がしますが、しかしこの独特の砂漠っぽい雰囲気が素晴らしい。


「獅子のたてがみ(The Lion's'Mane)」(1953)

テナント、スパイを摘発する。

傑作。こいつは面白かったです。テナント少佐の魅力が味わえる一品。そもそも短編として構成が良いです。


「良心の問題(The Point of Honor)」(1952)

テナント、国際的犯罪者を取り調べる。

傑作。テナントの良心が一番現れた解決法でしょう。いやはや、めちゃくちゃカッコイイです。なぜ年代順に並べず、「獅子のたてがみ」より後にこの作品を置いたのか分かりませんが、悪い順番ではないでしょう。


「国のしきたり(The Custom of the Country)」(1956)

テナント、またもや密輸を取り締まる。

期間を少し置いて書いたせいか、他のテナントものよりちょっと水準が落ちるようですが、なかなか楽しめます。最後のテナントがキャラ変わってる気も(笑)


「もし君が陪審員なら(Suppose You Were on the Jury)」(1958)

弁護士のアメリイがたった今無罪にした男は、本当に無罪だったのか?

陪審員は罪状を決めず有罪無罪だけを決めるアメリカならではの作品。前半カッコつけていたわりに、後半のアメリイがちょっと頼りないせいで、最後のひねり方が生かしきれていないかも。いかにもアメリカ短編的なひねり方は、個人的にはあまり好きではありません(世の中こんなんばっかだけど)。


「うまくいつたようだわね(This Will Do Nicely)」(1955)

たった今夫を殺したヘレンは、事件の隠蔽を図ろうとするのだが……。

ちょっとベタ。死亡推定時刻で、いくらか言い逃れ出来るかも。あまり好きな話ではありません。


「玉を懐いて罪あり(The Fine Italian Hand)」(1949)

中世の北イタリアを舞台に、密室の宝石盗難事件が発生する。

フラナガンの処女作。最後の一行がニヤリとさせます。7作品の中では一番まともなミステリもの。なかなか面白かったです。

書 名:アデスタを吹く冷たい風(1949~1958)
著 者:トマス・フラナガン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 646
出版年:1961.7.31 初版
    2003.9.30 3版

評価★★★★☆
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