ゼウスの檻
『ゼウスの檻』上田早夕里(角川春樹事務所)

宇宙居住区の開発に乗り出した人類は、月面、火星さらには木星へと計画を推し進めていた。中でも木星には、“ラウンド”と呼ばれる人々が、宇宙開発が人体に及ぼす影響を探る実験の被験体として居住していた。それは、両性種すなわち男女両性の機能を身体に備えている新人類とも言うべき存在であった。
ラウンドはセクシャル・マイノリティーの身体の問題を解決するために進歩派と呼ばれる人々が生み出した「人体改造」の産物であったが、生命倫理的に反対する保守派との間に常に対立を招いており、〈生命の器〉という保守派の組織はテロ行為をも辞さない過激な活動を繰り広げていた。
そんな情勢下、〈生命の器〉がテロリストを木星の宇宙ステーション・ジュピターIに送り込むという情報がもたらされる。ジュピターIに乗り込んだ警備担当者・城崎がそこで見たのは、従来の人類とは違う価値観を持ちながら、しかし人間的な苦悩に悩むラウンドたちの姿だった。対立を繰り返す城崎たちとラウンドだが、その背後にはテロリストの影がすでに迫っていた……。(本書あらすじより)

今月の月イチ国内ミステリはまさかのSFです。じゃあもう月イチ国内“ミステリ”じゃないっていう。
上田早夕里さん、めちゃくちゃ評判よいので気になってはいるのですが、まだ『華竜の宮』すら読んでいません。なぜいきなり『ゼウスの檻』なのかと言えば、この本ちょいレア本でして、以前たまたま買えたのを欲しい人にあげることになったのですが、せっかくだから渡してしまう前に読んでみようと。3月はSF強化月間ですし。
さて読んでみると、これがまぁすごいジャンルミックス小説でした。ジェンダー小説だといえばそれまでなんですが、前半もりもりSF設定を書き連ね、後半は完全に謀略・テロ小説になるなど、とにかく型にはまらない印象を受けました。さらにそれがめちゃくちゃではなくて、明らかに筆者の確かな実力でひとつの小説にまとめあげられているなと感じられるのです。とりあえず上手い作家です、ってかすごい。

内容は長めのあらすじに示されている通りですが、舞台は木星付近、両性具有的な新たな人類「ラウンド」のコミュニティと、それを保護しようとする人々のもとに、保守的な一派がテロリストを送り込み破壊しようとする話です。最初はラウンドの説明が多く、うーんやっぱザッツSFだわと思っていたのですが、明らかに途中からバトル物に展開していったことでめきめき面白くなりました。伝説の女テロリストが登場して片っ端から殺しまくったりするんですよ、激アツじゃないですか。
ラウンドを保護する人、受け入れられない人、そしてラウンド自身の考えは実に多様です。登場人物全ての考えが、進歩的なものであれ、保守的なものであれ、何かしら説得的であり、ダメな人間にも一定の論理はあるし、中立的なように見える人間でもやや狭量なところを感じます。アンチ「ラウンド」の人々の考えにも微妙に「わかる……」となる要素があるんですよね。この絶妙な掘り下げ方が超上手いのです。筆者は強くジェンダーに関するメッセージを打ち出してはいますが、それが押しつけがましくもなく、あくまで読者の考えに委ねようとしているスタンスは好感が持てます。
そしてそれだけでなく、潜入したテロリストの正体やら、ラストに明かされるばらまかれたウイルスの正体やら、ひたすら後半は物語で殴ってくるので問答無用に面白いのです。ってかすごいラストですよねこれ、むちゃくちゃじゃないですか。なんでしょう、この虚無感は。

というわけで、とりあえず他の作品も読んでみようと思わせてくれる一冊でした。それにしても上田早夕里さんの著作はほぼ現役本なのですが、これが文庫化していないのはなぜなのかな……。

書 名:ゼウスの檻(2004)
著 者:上田早夕里
出版社:角川春樹事務所
出版年:2004.11.08 1刷

評価★★★★☆
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本棚探偵の冒険
『本棚探偵の冒険』喜国雅彦(双葉社)

夢幻の本棚を求めて稀代のユーモア漫画家が帝都を走る! 大評判の傑作随筆。(本書あらすじより)

探偵小説と古書が大好きな喜国さんが、古本を買って買って買いまくるエッセイ集。自分は国内の探偵小説や戦前戦後ごろの翻訳ミステリにはからっきし興味はないので、喜国さんの購入本についてそれほど関心があるわけじゃないんですが、そういうの関係なくむちゃくちゃ面白いですよ、これは。世の中のミステリ系古本好き、いや本好きの必読書です。

とにかく喜国さんの本への愛情とこだわりがやばいのです。本好きである自分は共感しっぱなし。並び順とか函とか豆本とか、結構ビジュアル面での好みが前面に出てくるのはやっぱりという感じでしょうか。自らデザインして色々作っちゃうあたりは自分には絶対できないので、ただただ羨ましいなぁと歯噛みしながら読んでました(笑)
そんでもって文章のユーモアのキレっぷりが半端ないのです。もう笑いっぱなし。やっぱりエッセイは読んで楽しくないと。そんな楽しいエッセイで延々とミステリと古本への愛が語られるんですから、面白くないわけがないのです。まさに俺のためのごとき本。このブログを読んでいるような方であれば楽しめるんじゃないでしょうか。

あと単行本は造本も良いですよ。函帯月報、初版は蔵書票付き(なんだこのマニア向けのせこいやり方は(くそぉ俺のは3刷なんだよ))。次作『本棚探偵の回想』『本棚探偵の生還』も今年出る『本棚探偵最後の挨拶』も読みたいですが、やっぱり単行本で集めたいですねぇ。

書 名:本棚探偵の冒険(1998~2001)
著 者:喜国雅彦
出版社:双葉社
出版年:2001.12.10 1刷
    2002.02.25 3刷

評価★★★★★
桃の侍、金剛のパトリオット
『桃の侍、金剛のパトリオット』浅生楽(メディアワークス文庫)

1900年、清朝末期の中国で、魔神の「金剛力」を秘めた子を産む運命を背負う「桃源公主」が産声をあげた。「香桃」と名付けられた彼女を求め、清の将軍袁世凱の軍が村を襲撃する。だが香桃は村に潜んでいた旧長岡藩士鬼頭周蔵の機転で日本に亡命した。時は流れ1914年。浅草の占い小屋に身をおく書生宇佐美俊介のもとに、侍装束に身を包んだ香桃が現れて――。日本近代、辛亥革命、そして世界大戦。激動の極東を舞台に繰り広げられる歴史伝奇浪漫。(本書あらすじより)

読まされたメディアワークス文庫2冊目。誰も興味ないでしょうから感想もサクッと片付けますよ。
1914年の日本と極東・ヨーロッパの政治状況、さらには明治維新を含めて壮大なスケールで描き出す歴史ファンタジー物、といった感じです。史実と絡めた設定はしっかり練られていて非常に良いのですが、肝心の1914年部分がイマイチなので、面白かったけどそこそこという程度ですね。
1914年パートが説明ばかりでこれといって何も起きずに終わってしまい、あまりに「序章」感が強いのはあんまりいただけないかなぁ、と思います。また能力バトル面もそれほど生かされずに終わってしまい、何というかもったいないんですよ。主人公が仲間集めてわちゃわちゃしているうちに1巻が終わってしまったという感じです。

ケーニヒグレーツの戦いや義和団事件や西南戦争や第二次大隈内閣成立を絡めているところは本当に上手いので、シリーズの今後の展開には大いに期待できるところではあるのですが(作者は東海学園大学人文学部国際コミュニケーション学科で講師として西洋史を教える近代ドイツ史専門の人らしいのでそこのところはさすが)。バトルシーンの味気なさ、全体像の大きさの割の事件のしょぼさなど全体的に物足りなく、竜頭蛇尾な印象になってしまいます。登場人物がみんなやたらと気分変わっちゃうのもしまりがないのかな、大ボス登場してないし。

というわけで、やっぱりそこそこ……くらいかなぁ。感想こんなもんで許してください。

書 名:桃の侍、金剛のパトリオット(2011)
著 者:浅生楽
出版社:アスキーメディアワークス
    メディアワークス文庫 あ-6-1
出版年:2011.4.25 初版

評価★★★☆☆
高丘親王航海記
『高丘親王航海記』澁澤龍彥(文藝春秋)

貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは……。遺作となった読売文学賞受賞作。(本書あらすじより)

初澁龍です。ミステリ以外は久々ですね。
……えぇと、感想は手短に。

雑誌連載だけあって、作者の初長編らしいですが、どっちかというと連作短編集と言う趣きが強いです。というわけで目次。

「儒艮」
「蘭房」
「獏園」
「蜜人」
「鏡湖」
「真珠」
「頻伽」

要は、高丘親王がインドへ向けて御供と一緒に旅をする、って話なんですが。出会うもの出会うものが完全にファンタジーだし、夢と現実の区別も曖昧だし、ちょこちょこ理解不能な設定が入るし、整合性にどうも欠けるしで、何だか作者が思いつきのまま書いたのかなぁ、という印象を受ける小説です。ま、つまりは幻想文学です。

そもそも自分が幻想文学というものをあまり理解していないというのもあるんですけどね。ファンタジー、ってのとはちょっと違うじゃないですか。不合理・不条理な世界が、独特ののんびりとした筆致で描かれ。つまらなくはないんですが、どうもそこまで面白味を感じることが出来ませんでした。まぁ、普段から読む幅が狭いからですね……反省します。
「獏園」「鏡湖」あたりは分かりやすく、素直に楽しめましたが、うぅん、やっぱりそこまでのれませんでした。手に余るので感想はこのくらいで。短編集の評判が良いので、今度そちらを試してみますね……今度っていつだか分かりませんが。

書 名:高丘親王航海記(1985~1987)
著 者:澁澤龍彥
出版社:文藝春秋
出版年:1987.10.25 1刷
    1988.2.10 5刷

評価★★★☆☆
城の崎にて
『小僧の神様・城の崎にて』志賀直哉(新潮文庫)

授業用で読みました。これでようやくミステリに戻れっぞー。
てな感じで消極的に読み始めたんですが、いや、これはなかなか面白かったですね。先日けなした太宰っちとは大違い(こら)。収録作は以下の通り(数字は、執筆年ではなく、発表年)。

「佐々木の場合」(1917)
「城の崎にて」(1917)
「好人物の夫婦」(1917)
「赤西蠣太」(1917)
「十一月三日午後の事」(1919)
「流行感冒」(1919)
「小僧の神様」(1920)
「雪の日」(1920)
「焚火」(1920)
「真鶴」(1920)
「雨蛙」(1924)
「転生」(1924)
「濠端の住まい」(1925)
「冬の往来」(1925)
「瑣事」(1925)
「山科の記憶」(1926)
「痴情」(1926)
「晩秋」(1926)


志賀の作品には生きる力があります。「生」への並々ならぬ関心が感じられます。彼はきっと、あらゆる生き物も含め「生きているもの」を描くことが好きだったんでしょうね。
そして、そうした「生きているもの」は、リアルに描くべきだと考えていたようです。解説にありましたが、場面をはっきり頭に浮かべた上での、明晰でリアリスティックな美しい情景描写を好んだそうです(非常に納得)。
そうした2つの要素が極限まで合わさった結果、「城の崎にて」という傑作が生まれたんでしょう。ちなみに彼は、まぁ一種の天才型で、何にも考えずに書きたいものを書くことで作品が出来上がっていたらしいです(なんか納得)。計算とかも何もなく、ただただ興味関心を持ったものを描いた。となると、このいちいち美しい、生きるものえの温かいまなざしや、豊かな情景は、彼の眼に見える世界そのものだったわけで、そう考えると、志賀直哉という人間はそうとう立派な人だったんじゃないかと思えるわけです。

ちなみに、彼が生を好んだというのは、自殺した作家さんではなく、珍しく天寿を全うしたということにも表れている気がします。なぜ戦前の大作家はみんな自殺するんだろうか……。

特に面白かったのは、「城の崎にて」「赤西蠣太」「流行感冒」「転生」でしょうか。「赤西蠣太」は高校の現代文のテストで一部分が出てきてなかなか面白かった記憶があり、ようやく全文が読めて良かったです。「城の崎にて」は、生と死の狭間を描いた作品で、生き物の描写と合わさりやはり傑作(これも高校の教科書にあったな)。「流行感冒」は好きじゃない人もいるかもしれませんが、まぁやっぱり自分は、教訓話的なベタないい話が好きなですよ。「転生」はユーモラスに夫婦関係を綴っており、異色作。

最後の4作品は連作で、志賀が浮気していたころを題材とした私小説風味が強い物です。これはあまり好きになれませんでした。ただ、「瑣事」「痴情」はなかなか面白いと思います。「山科の記憶」と「晩秋」は微妙かなぁ。

有名な「小僧の神様」ですが、どこか共感できるいい作品だとは思いますが、しばしば言われるような傑作だとは思えませんでした。ちょっと読み取りきれていない気もします。

その他いくつかハズれ作品もあるんですが、明確に線引きできるような物ではないので、ここには明記しないことにします。

まぁ、全体的に面白かったと思います。恥ずかしいことにまだ『暗夜行路』を読んでいないんですよね。いつか読んでみたいと思います。
なお、今出版されているのは、自分の読んだ物の改版のようです。解説が同じだといいんだけど。

書 名:小僧の神様・城の崎にて(1917~1926)
著 者:志賀直哉
出版社:新潮社
    新潮文庫 し-1-5
出版年:1968.7.30 初版
    1985.6.10 35刷改版
    1990.5.20 44刷

評価★★★☆☆
ヴィヨンの妻
『ヴィヨンの妻』太宰治(新潮文庫)

授業用に読みました。最近こんなイレギュラーな感想文ばっかりだな……。

や、その、何と言うのか。こう言っちゃなんですが、つくづく自分はこういう話が好きじゃないんだなと思いました。単なる好みなのか、文学的教養がないせいか。どっちもでしょうね、たぶん。

太宰治の最晩年の作品――戦争が終わってから、自殺するまでの3年間の時期の作品を集めたもので、全体的にひたすら暗く、まっすぐ死に向かって突き進んでいる雰囲気です。収録作は以下の通り。執筆順のようです。

「親友交歓」(1946)
「トカトントン」(1947)
「父」(1947)
「母」(1947)
「ヴィヨンの妻」(1947)
「おさん」(1947)
「家庭の幸福」(1948)
「桜桃」(1948)


全ての作品で、主人公が太宰治がモチーフです……というか、いくつかはたぶん、そのまんま本人なんでしょう。もちろん彼は優秀な小説家ですから、あくまでモチーフであり、現実とは異なるんでしょうが、まーそれにしても、手を変え品を変え、同じ主人公をひたすら配置します。つまり、無気力に生き、稼ぎは全て酒にまわし、妻をほったらかして女と遊び、あぁもう自殺でもしないとやっていられんよ、です。ほぼ全部がこう。これだけ似たテーマなのに、毎回読ませるのはさすがといったとこなんでしょうが。


ただまぁ、こういうひたすらネガティブ思考な話は、ひたすらポジティブ思考のTYに根本的に合わないんですよ。そりゃもちろん、自分はお気楽な人生を送っていますから、自殺するほど思い詰める人間の心境なんか分かりませんよ。分かりませんけど、読みながら、何だってこんなダメな生活してるんだろう、希望をつぶしてんのはあなた自身でしょ、としか思えないんですよね。感動も感情移入もへったくれもありません。いや、好きな人には、ほんっと申し訳ありませんが。

唯一楽しめたのが、死後発表だという「家庭の幸福」。この作品には、どこか皮肉なユーモアが感じられます。ユーモアはある意味全作品にありますが、これが一番極端ですね。
「母」はまぁまぁ。「親友交歓」は、嫌いですが、ちょっと惹かれます。表題作「ヴィヨンの妻」も、まぁ悪くないです。あとは全然ついていけません。


というわけで、どうせ今度読むなら「富嶽百景」みたいなのがいいなと思いました。死にたくなった時に読み直したら、めちゃめちゃはまるのかもしれませんが。

書 名:ヴィヨンの妻(1946~1948)
著 者:太宰治
出版社:新潮社
    新潮文庫 た-2-3
出版年:1950.12.20 1刷
    1985.10.30 63刷改版
    2006.10.25 103刷

評価★★☆☆☆
欧米推理小説翻訳史
『欧米推理小説翻訳史』長谷部史親(本の雑誌社)

日本における推理小説の翻訳の歴史を、作家ごとに追うことで明らかにしようとしたもの。目次は以下の通り。

■アガサ・クリスティー
■S.S.ヴァン・ダイン
■ジョンストン・マッカレー
■R.オースチン・フリーマン
■ガストン・ルルー
■フリーマン・ウィルズ・クロフツ
■フランス推理小説の怪人たち
■J.S.フレッチャー
■アルフレッド・マシャール
■草創期の短篇作家たち
■モーリス・ルブラン
■エドガー・ウォーレス
■ドイツ文化圏の作家たち
■ディクスン・カー
■G・K チェスタトン

いやはや、メジャーな作家からマニアックなものまでよくぞそろえたもんです。もともとは『翻訳の世界』という雑誌に連載されていたもので、そちらでの連載終了後は『EQ』誌で連載されたようです。収録されているのは『翻訳の世界』連載の途中までなので、クイーンとか、セイヤーズとか、ドイルとかが入っていないのがちと残念ですね。

もともとは自分の研究用に読んだんですが、なかなか面白いですよ、こいつは。海外ミステリ好きなら楽しめるはずです。小ネタ的なエピソードも多くて読ませます(クロフツの手紙の話は泣ける)。通して読めば、日本人の好みとか、国内にもたらした影響とか、どのように日本に紹介されていったのか、とかが大きく分かると思います。
まぁ、かなり読む人を限定しそうなものですが、興味のある方はぜひ。最近文庫化されたようですし。

書 名:欧米推理小説翻訳史
著 者:長谷部史親
出版社:本の雑誌社
出版年:1992.5.10 1刷

評価★★★★☆
一房の葡萄
『一房の葡萄 他五篇』有島武郎(岩波文庫)

授業用に読みました。ふむ、もしかして、岩波文庫を読むのって初めてなんじゃ……。こういう本の読み方してると、ろくな大人にならない気がする……。

※確認したら、2008年以降は岩波新書は1冊、岩波文庫はこれだけでした。たぶん初めてですね。2008年以降に読んだミステリ以外=28冊、ミステリ=168冊、ってのはいくらなんでも不健康すぎる……。

えぇと、前置きが長くなりました。収録作は以下の通り。

「一房の葡萄」(1921)
「おぼれかけた兄妹」(1921)
「碁石を飲んだ八ちゃん」(1921)
「僕の帽子のお話」(1922?)
「片輪者」(1922)
「火事とポチ」(1922)

なお、1988年にこの本は改版されたのですが、その時に「片輪者」がはずされたため、現在の題名は『一房の葡萄 他四篇』となっています。改版後のものは、漢字(ルビ付き)が増え、挿絵が入り、字が大きくなっています。

有島武郎が生前に残した短編集は『一房の葡萄』(1922)のみであり、そこに収録されていたのが最初の4つだそうです。

「片輪者」を除くと、すべて主人公に少年を置き、彼の子供らしい目線で話を展開しています。内容もいたって児童文学的(何でも良質の児童文学が少ないことをどうかと思って作者が書いたらしい)。子供が読んだ場合は、おそらく主人公に共感して読めるのだと思います。逆に大人が読むと、おそらく一歩引いた目線で読むでしょうから、子供の物の見方を通して何か普遍的なテーマを感じ取るんじゃないでしょうかねぇ。例えば「一房の葡萄」の読み方なんかは、何通りもあるんじゃないかと思います。

唯一の例外が「片輪者」で、舞台はフランス、状況設定もやや特殊です。確かに一つだけ浮いている感じがありますから、それが改版時に抜かれた理由でしょう。個人的には、なかなか気の利いた話だと思いますが。一般的に同情的に扱われる障害者を、ある意味嫌な目線で描くというのは、ちょっと珍しいと思います。話の結論としては、嘘はやめましょう、という少々ありふれたものではありますが。

6つのうち、一番良かったのは「おぼれかけた兄妹」でしょうか。おぼれた妹を助けに行った若者が、無事妹を連れて岸に帰ってきた時を描いた次の文がかなり印象的です。「私(兄)」が13歳、妹は11歳です。

「飛んで行って見て驚いたのは、若者の姿でした。せわしく深い息をついて、からだはつかれきったようにゆるんでへたへたになっていました。……それで私は少し安心して、若者の背に手をかけて何かいおうとすると、若者はうるさそうに私の手を払いのけて。水の寄せたり引いたりする所にすわりこんだまま、いやな顔をして胸のあたりをなでまわしています。」

ヒーローのように思われた若者は、もちろん単なる人だったことが急に読者に思い知らされる部分。この後の若者の潔さは何だか素敵です。

書 名:一房の葡萄 他五篇(1921~1922)
著 者有島武郎
出版社:岩波書店
    岩波文庫 36-7
出版年:1940.7.2 1刷
    1965.6.16 24刷改版
    1982.5.20 41刷
    1965.6.16 24刷改版

評価★★★☆☆
せっかく授業用に(いやいや)読んで、レビューまで書かされて悔しいので、こっちにも転記します。画像の貼り付けとかその分適当です。


レポート・論文・プレゼン スキルズ大学生のための「読む・書く・プレゼン・ディベート」の方法
『レポート・論文・プレゼン スキルズ』石坂春秋(くろしお出版)/『大学生のための「読む・書く・プレゼン・ディベート」の方法』松本茂・河野哲也(玉川大学出版部)


『レポート・論文・プレゼン スキルズ』は、必ずしも対象を大学生に限定せずに、論文の作成方法やプレゼンの実施方法について説明したものです。ページ構成が非常にわかりやすく、また段階を追って丁寧に説明してくれているため、レポート・論文・プレゼンの基礎を学びたい人には最適なものと思われます。実際に論文を書く際に手元にあると便利でしょう。論文執筆に関しては、アウトライン・暫定目次の作成を強調しているようです。資料収集における整理法の紹介や、論文中の使用語の注意(例えば「考える」ではなく「考察する」を用いろ、といったようなこと)など、1つ1つの細かい手順も図付きで示されています。本書の80パーセントほどはレポート・論文の執筆方法について述べているため、プレゼンテーションのやり方についての説明は少し薄めです。しかしながら、技術的な面や、話すときの観客の反応の科学的データなど、やはり多様でなおかつ必要な情報を提供しています。


『大学生のための「読む・書く・プレゼン・ディベート」の方法』は、タイトルの通りテキストの読解方法・論文の執筆方法・プレゼンとディベートの行い方を説明した本ですが、全体的に面白い着眼点のもと書かれているように感じます。資料として扱う文献をいかなる視点から読み、まとめるか、といったことをやたら詳しく述べていたり、プレゼンテーションにおける観客の聞き方を説明してみたり。ディベートについてで一章まるまる割いているのも珍しいです。おそらく最も詳しい説明がなされているのがプレゼンテーションに関してであり、この章を大学生は熟読するべきでしょう。例が頻繁に出てくるため、内容が理解しやすく、また即効性があるように感じられます。難点をあげるとするならば、論文執筆に関する資料収集方法・序論と本論のまとめ方についての説明が、いささかあっさりめであることでしょうか。


同じような内容を扱っているこの2冊ですが、相互に弱いところを補完しあっているようであるため、2冊合わせて読む方が効果的であるように思います。『大学生のための~』で難点としてあげた部分は『レポート・論文~』で詳しく説明されており、逆に『レポート・論文~』において説明が弱いテキスト分析に関しては『大学生のための~』で詳しく説明されています。なお一つ大きな違いをあげておくと、『レポート・論文~』ではプレゼンにおいて1枚のスライドに付き1分と述べている一方、『大学生のための~』では2~3分を勧めています。
2冊のうち、どちらがより良いかといえば『大学生のための~』ではないかと思いますが、どちらも読みやすいため、個人的には2冊両方を読むことをお勧めします。基礎演習の授業における論文作成とプレゼンテーションが、より行いやすくなることと思います。


書 名:レポート・論文・プレゼン スキルズ ~レポート・論文執筆の基礎とプレゼンテーション~
著 者:石坂春秋
出版社:くろしお出版
出版年:2003.3.20 1刷
    2010.3.25 6刷

書 名:大学生のための「読む・書く・プレゼン・ディベート」の方法
著 者:松本茂,河野哲也
出版社:玉川大学出版部
出版年:2007.3.25 初版1刷
    2008.5.1 初版4刷
一億三千万人のための小説教室
『一億三千万人のための小説教室』高橋源一郎(岩波新書)

小説の書き方を教えます――小説をはじめるまえにすることは何か、小説を「つかまえる」ために何をするのか。基礎篇・実践篇と段階を踏んでいくこの「教室」では、ユニークだからこそ役に立つ「鍵」も示される。小説が好きでたまらない筆者ならではの眼で選ばれた豊富な文例と「遊んで」いくうちに、小説とは何か、が見えてくるだろう。(本書あらすじより)


あらすじの通り。小説の書き方を書いているのではなく、小説とは何か、を作者が伝えたくて書いた本です。こういうタイトルにすれば、小説とは何かを知った小説を書きたい人が世の中に生まれるわけで、そのような人の書いた小説をぜひ作者は読んでみたいんでしょうね(日本語難しい)。もっとも、TYは小説を書こうとして読んだわけではありません。小論文の課題文がこの本の一部だったんですが、むっちゃ面白かったんですよ。


……というわけで、この本は良くも悪くも、作者の「小説観」を伝えようとしています(たぶん)。基本的なスタンスは非常に理解出来るもので、本好きならやっぱり理解しておくべきことであると思います。様々な作品の一部を引き合いに出して「授業」としていますが、そういうのを読むのがなかなか楽しいです。作者もかなーり軽妙な文章をお書きになっているので、すいっと読めてしまうでしょうね。何が書かれているのか理解しいしい読むのはけっこう大変ですが。

『エーミールと探偵たち』の冒頭が何度も紹介されています。うーん、また読みたくなったなぁ。ただ、引用されているのはうちにある岩波少年文庫版とは違うみたいですね。ちっちゃい時、もうなんっかいも読みましたよ。訳者さんが最高です。いや、そもそもケストナーが最高なんですけど(笑)


しっかし、どうもこの本の作者である高橋源一郎さんは(申し訳ないですが、一冊も読んだことがないもんで……)、うーむ、なんつったら良いのか、自分と趣味が合わないんですかねぇ。あの、読書に変化球をぶつけたがる気持ちは分かるし、それを真っ正面で受ける訓練をさせたいのは分かるんですが、なんかエログロ率がやや高い気がするんですよねぇ。間違いなく小学生には読ませちゃいけません(この人なら問題ないとかいいそうだけど)。まぁ、いいですけどね、何書いたっていいんですから、人間は。


ま、ま、興味を持った方は読んで見てくださいな。ついでに読んだことない人は、『エーミールと探偵たち』も読みましょう(笑)


追記:高橋源一郎さんは、ジェイムズ・ジョイスの『フェネガンズ・ウェイク』を読んだんですねぇ。引用部分が頭入るのに何回読んだことか。自分には絶対読めなそうです。


追記2:引用されていたウィリアム・サローヤン『パパ・ユーアクレイジー』を読んでみたいです。


書 名:一億三千万人のための小説教室(2002)
著 者:高橋源一郎
出版社:岩波新書(新赤版) 786
出版年:2002.6.20 1刷

評価★★★☆☆