悪魔の星 上 悪魔の星 下
『悪魔の星』ジョー・ネスボ(集英社文庫)

一人暮らしの女性が銃で撃ち殺され死体で見つかった。左手の人差し指が切断されていた上に、遺体から珍しいダイヤモンドが見つかると、猟奇的な事件に、注目が集まる。ハリー・ホーレ警部は、3年前の同僚刑事の殉職事件を捜査し続けていたが、証拠を得られず捜査中止を命じられ、酒に溺れて免職処分が決定。正式な発令までの間、この猟奇的事件の捜査に加わるが、事態は混迷を深めていく……。(本書上巻あらすじより)

『その雪と血を』がかなり面白かったので、ジョー・ネスボのシリーズもの、ハリー・ホーレ刑事シリーズを手に取ってみました。とりあえず今年出た『悪魔の星』です。そしたらまぁ面白いもんで、びっくりしました。
もたれそうなオスロ描写、「悪魔の星」連続殺人、警察との知能戦を仕掛けるシリアルキラー、やたらとまき散らされるミスディレクション、やたらと本格ミステリな証拠、大ボスとのたっぷりバトルと、くどいっちゃくどい北欧警察小説なのですが、これがカッチリはまっていて完璧な構成だからすごいのです。

初ホーレなのでよく分からないのですが、どうやらハリー・ホーレは心に大きな傷を抱えて自暴自棄になり、警察クビ一歩手前の様子。さらには組織内に犯罪組織とつながるものがいると踏んでいるのですが、手が出せず余計に荒れまくっています。そんな中で猟奇的な連続殺人が発生してしまう、というお話。

読み始めてからずっと某古典本格ミステリっぽい(タイトル言うとネタバレになってしまう)な……と思っていましたが、そこに警察小説、北欧ミステリらしい社会問題、ノワールなどの味付けをほどこしており、見事に現代ミステリとして昇華できている点が素晴らしいですね。某古典本格ミステリというのは、あのーそのーあれです、4つくらい事件が起きるやつです(伝われ)。

ある意味普通の連続殺人警察小説なんですが、主人公のキャラクター、頻繁に挿入される視点の変更、ついでにべらぼうに上手い文章のせいで全く凡庸さが感じられません。文章の上手さに、そりゃ『その雪と血を』くらい書けますわ……みたいな気持ち。
アルコール中毒警部ハリー・ホーレを巡るあれこれに、一切雑さがないのです。あぁこういうキャラクターなんだなと思わせる人物描写の上手さに、ネスボすげぇとしか言えません。ハリーは人間的にはもう完全にダメですが、刑事としては超一流。組織のつまはじきもの、嫌われ者ではあっても、数少ない信頼してくれる仲間と共に、わずかな手掛かりから事件を追っていきます。捜査が軌道に乗り始めてからのホーレのかっこいいこと。ディーヴァーっぽいのかもしれませんが、より警察小説らしいというか、良い意味で泥臭いですね。

連続殺人犯の正体については、ある程度ミステリの王道パターンを知っていれば定石かもしれませんが、それでもきちんと驚けました。特に犯人特定の決め手が、もう笑っちゃうんですが、本当に見事ですよね。なかなかお目にかかれない、バカミスっぽさすら感じる独創的なものです。本格ミステリ・ベスト10で誰か投票するんじゃないか……?
しかし『悪魔の星』の、おそらく作者が一番書きたかったのはここから。犯人が分かった後がまたすさまじいのです。ノワールのようなエグみとか容赦のなさではないのですが、とにかくラストの念の入った構成に感心します。冒険小説も真っ青なバトルを見たぞ……。

ジョー・ネスボ、良い意味で健全な作家なのかなぁと思うのです。プロットの組み立ての上手さと、旺盛なサービス精神によって、正統派の作品を書きつつ、その中で本格ミステリ、ノワール、警察小説、冒険小説といった要素が手加減することなくマジで合体しちゃってるのがすごいですね。聞くところによればハリー・ホーレものは他もすごいという……いやーこれは楽しみなシリーズを見つけてしまったかもしれません。おすすめです。

原 題:Marekors(2003)
書 名:悪魔の星
著 者:ジョー・ネスボ Jo Nesbø
訳 者:戸田裕之
出版社:集英社
     集英社文庫 ネ-1-8, 9
出版年:2017.02.25 1刷

評価★★★★☆
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その雪と血を
『その雪と血を』ジョー・ネスボ(ハヤカワ・ミステリ)

オーラヴ・ヨハンセンは殺し屋だ。今回の仕事は、不貞を働いているらしいボスの妻を始末すること。いつものように引き金をひくつもりだった。だが彼女の姿を見た瞬間、信じられないことが起こる。オーラヴは恋に落ちてしまったのだ――。雪降りしきる70年代のノルウェーを舞台に、世界で著作累計2800万部を突破した北欧ミステリの重鎮が描く、血と愛の物語。(ハヤカワ・ミステリ)

ジョー・ネスボといえばハリー・ホーレ刑事シリーズで有名な北欧ミステリ作家の筆頭ですが、シリーズ外作品も多数紹介されています。そもそも北欧くくりにあまり興味ないのでネスボも読んだことなかったのですが、今回訳されたポケミスがわずか180ページ、しかもポケミスなのに1段組みという非常に短い長編だったため、とりあえず読んでみました。
……いや、これはすごいです。騙されたと思って読んでみてください。自分の中では、読了後、めきめきと評価が上がり続けているんですけど。

物語は大筋よくあるクライム・ノベルっぽいものです。ちょっと抜けていて、独特のユーモアを持ち、かつ無邪気な残忍さを見せる殺し屋の主人公(ジム・トンプスンっぽい)が、恋に落ち、ボスに追われるようになる、でとりあえず十分。
それもそのはず、この作品は「1950年代から70年代にかけて大量生産されたペイパーバックオリジナルの犯罪小説を模して書かれた」もの、なんだそうです。舞台となるのも1970年代のノルウェー。キレキレの文章は魅力的ですが、ボスやヒロインなど主人公以外のキャラクターは結構大人しめということもあり、基本的に定型っぽさがあります。というわけで前半は、正直なところ寒いトンプスン(気候的に)だなぁくらいの気持ちで良くある良くあると読んでいたのですが……。

終盤で全体の印象がメキメキと変化し始めて、しっかりとノワール・クリスマス・ストーリーとして着地したので衝撃を受けました。すごい、すごいよこれは。たった180ページしかない中で、緻密に構成を練ることで読者の全てを裏切り、かつ贖罪の物語を紡ぐことが出来るだなんて。
単なる血の話でもなければ、惚れた女がどうこうというセックスの話でもないんです。この主人公だからこそ成り立つ「一人称」としての傑作ノワールなのです。こ、これが現代のトップ作家による、ジム・トンプスンへのアンサーだってのか……やばい、やばすぎる……。

ネスボの作品って基本的に長めなのでなかなか読む気が起きないのですが、これは薄くてすぐ読めますし、何より読んでもらわないと凄さが伝わらないはず。現代ミステリの奇跡をぜひ味わってみてください、おすすめです。

原 題:Blod på snø(2015)
書 名:その雪と血を
著 者:ジョー・ネスボ Jo Nesbø
訳 者:鈴木恵
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1912
出版年:2016.10.15 1刷

評価★★★★★
シャドー81
『シャドー81』ルシアン・ネイハム(新潮文庫)

ロサンゼルスからハワイに向かう747ジャンボ旅客機が無線で驚くべき通告を受けた。たった今、この旅客機が乗っ取られたというのだ。犯人は最新鋭戦闘爆撃機のパイロット。だがその機は旅客機の死角に入り、決して姿を見せなかった。犯人は二百余名の人命と引き換えに巨額の金塊を要求、地上にいる仲間と連携し、政府や軍、FBIを翻弄する。斬新な犯人像と、周到にして大胆な計画―冒険小説に新たな地平を切り拓いた名作。(本書あらすじより)

えーさて、新潮文庫ミステリチャレンジ第六弾です……ま、またまた更新が遅れてもうしわけないですね……いったい俺は何ヶ月前に読んだ本の感想をまとめているんだ……。
序盤がだらだら、中盤は怒涛の冒険小説(いいぞハイジャック、ユーモアもナイス)、終盤にちょっとしたサプライズとだらだら。うぅん、面白いんですが、両手を上げて褒めたくなるような話ではなかったかなぁ、という感じです。

まず、冒険小説としての面白みは十分でしょう。戦闘機によるハイジャックというアイデアがまず良いし、これにより引き起こされる数々の騒動も取材が行き届いていて描写が上手く読ませます。銀行強盗をする警官とか、水陸両用機を渡さないで代わりにバカ高い飛行機を要求する男とかで笑いを持って来るのも楽しいですね。
また、ハイジャックの計画、どう脅しどう奪いどう逃げるか、という部分に関してはとにかく感心させられっぱなしでした。プロ対プロに徹したミスのない展開も好み。終盤で明かされるある事実も結構驚きで、なるほどうまいことやるなぁと。読んでいてワクワクするこの楽しさはなかなかのものです。

……とこう書くと褒めてるだけみたいなんですが、ハイジャックまでとハイジャック後があーんまり楽しくないんですよ。だいたいはベトナム戦争描写なんですが、もうはっきり言ってどうでもいいんですよベトナム戦争とかこっちにとっては。地味だし。話の要素としては大事なんですが、作者が、ストーリーを作るのはうまくても、心情とか葛藤とかを書くことについてはステレオタイプ的なところを脱せられていないせいで、読ませる力に欠けているのかなぁと思います。こういう人の作品は2作目を読んでいろいろ考えたくなるんですが、これ1作しかないので仕方ありません。ただまぁ、東西ミステリーの順位は個人的にはちょっと高すぎかなとは思います。

ちなみに、なぜネイハムが2作目を書かなかったのか、というか『シャドー81』がアメリカでは売れなかったのか、という疑問ですが、自分は勝手に『鷲は舞い降りた』が本作と同年にイギリスで(さらには同年中にアメリカでも)発売され、爆発的大ヒットとなってしまい、埋もれてしまったのでは……と推察したのですが、どうでしょうね。単にネイハムさんがネタ切れになっただけかもしれませんが。

というわけで、新潮文庫ミステリチャレンジ、これにて終了です。初ブラッドン、初ハリス、初フリーマントル、初アーチャー、初バゼル、初ネイハムでした。この中だとフリーマントル『消されかけた男』が1位、ブラッドン『ウィンブルドン』が2位でしょうか。『ウィンブルドン』が絶版なのはもったいないですね……。

書 名:シャドー81(1975)
著 者:ルシアン・ネイハム
出版社:新潮社
    新潮文庫 ネ-1-1
出版年:1977.04.30 1刷
    1991.09.25 26刷

評価★★★★☆
心ひき裂かれて
『心ひき裂かれて』リチャード・ニーリィ(角川文庫)

精神病院を退院したばかりの妻がレイプされた。夫のハリーは犯人逮捕に執念を燃やすショー警部補に協力する。そんなハリーを嘲笑し、陥れようとするかのように、その身辺で続発するレイプ事件。心病める者の犯行か……。だが、ハリーも、かつての恋人との間に決して妻には知られてはならない秘密をつくろうとしていた――。二転三転する展開と濃密な心理描写。サイコ・スリラーの元祖、ニーリィの最高傑作!(本書あらすじより)

角川文庫ミステリチャレンジ第六弾です。これでおしまい。いやぁ有名作を読みまくりましたねぇ。
さて、初ニーリィ、ニーリィの代表作です。古典的なサイコ・スリラーとして有名な作品(なのか?)。今となってはそれほど意外でもない真相1の後に待ち受ける衝撃の真相2に目ん玉が飛び出るほど驚きました。いやはや、これは確かに強烈ですね……ただ、さすがに長すぎだったかなと思います。

連続レイプ魔という、深刻なわりに切迫感のない事件だけで話を500ページ近く引っ張るのは少々つらいのです。もちろん、レイプ魔探しだけで話を持っていくのには限界があるので、主人公が妻を殴ったの隠すためにレイプでっち上げたんじゃね?と疑われる展開もあったりするんですけど、それも中盤からなあなあだし。奥さんのメンヘラっぷり(入院レベルのメンヘラ)も序盤のキレが薄れていってこれまたなあなあで。
要するに、序盤のイヤーな感じが持たないんです。これがもったいなくって。娘がレイプされた過去を持つがゆえに犯人逮捕に向けて異様な執着を持つ警部補とか、奥さんのメンヘラ治療をする精神科医とかをもっと生かせばよかったのかなと。いや、彼らは彼らで大事な役どころなんですが。

とまぁ少なからず(個人的には)退屈だったんですが、終盤の怒涛の会話劇(良い)の後に待ち受けるラストのぷぎゃーさには度肝を抜かれました。い、いやぁ、これは確かに名作レベルのすごさ。こういう驚き方はあんまりしたことがない気がします。これの伏線を仕込むために長かったんですねこの話は……。
とはいえ読んでいる途中は全然心が踊らなかったので、やはり超面白かったよとは言い難いですかねぇ。もう少しサスペンス度を高めてくれたら良かったのにと思います。いや十分サスペンス度高いんですけどね。難しい。

1月の角川文庫ミステリチャレンジ、6冊読了で無事終了です。初ケンリック、初レンデル、初シューヴァル&ヴァールー、初フォーサイス、初トレヴェニアン、初ニーリィでした。有名作中心に読むんだからアベレージがそもそも高いのがこのチャレンジの良いところです、いやほんと。
この6冊の中でトップ3をあげるなら、1位トレヴェニアン『夢果つる街』、2位トニー・ケンリック『バーニーよ銃をとれ』、3位マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー『笑う警官』でしょうか(ケンリックは好みど真ん中だったからむしろこれ1位でもいいけど、さすがにどうかと思ってやめました)。さて2月は新潮文庫の予定です。どれになるかお楽しみに。

書 名:心ひき裂かれて(1976)
著 者:リチャード・ニーリィ
出版社:角川書店
    角川文庫 ニ-3-3
出版年:998.09.25 初版

評価★★★☆☆
エジンバラの古い柩
『エジンバラの古い柩』アランナ・ナイト(創元推理文庫)

エジンバラ城の崖下で男の遺体が発見された。捜査をはじめたファロ警部補は現場付近で男性の肖像が描かれたカメオを拾う。さらに警官だった父の遺品から、40年前に城の壁の中から赤ん坊の遺体を納めた古い柩が発見されたという事件の記録と、現場で発見したものと対のメアリー王女のカメオを見つける。ふたつの宝飾品が示す驚愕の真相とは?英国史を覆しかねない大胆な傑作。(本書あらすじより)

自分はね、いつも、もっと面白いミステリを読みたいなぁと思いながら、本を手に取っています。つまり、そういうことです(意味深)。

これを読んではっきりと分かりましたが、どうもこのアランナ・ナイトさんと自分は反りが合わないのです。全然面白くないのです。第一作よかマシになるかと思いきや、それよりはるかに楽しめなかったのです。別に評判そこまで悪くないのに……。こりゃ、もう、しょうがないっすね(一種諦めの境地)。


割と真っ当な本格ミステリであった前作と比べ、フーダニット要素は薄いです。何と言ってもこれは歴史ミステリですからね。メアリー女王に纏わる真実が解きほぐされていくのです。おぉ、『時の娘』みたい!

……と思うでしょ?

この「歴史ミステリ」に意外性を求めてはいけないのです。なぜかと言えば、ぶっちゃけ序盤に明かされてしまうから。いやでも『時の娘』だって真相を明かしてから徐々に証拠固めをするじゃん、とおっしゃるかもしれませんが、別に証拠固めもしません。何やかんやで合っていることにされます。うわぉそんな。
ちなみに柩の件は事実らしいですが、現実では誰も真面目に取り上げていないようですね。義経=チンギスハン説みたいなもんじゃないかな(いやそこまでじゃないか)。

じゃあなぜ帯にデカデカと「歴史ミステリ」と書いてあるのか。そう、ここでいう歴史とは、ファロ警部補のお父さんの時代、19世紀前半のことなのです。つまり、ファロ警部補の時代(=19世紀後半)から、お父さんの時代(=19世紀前半、柩が見つかった頃)を説き明かそう、という、そういうことなんですよ。「19世紀を舞台に繰り広げる16世紀の歴史」ミステリの側面もあるにはありますが、メアリーやエドワード6世は中心ネタではなく、あくまでメインは1830年の柩です。


となると、読めばさらに分かると思いますが、これは陰謀物としての要素が強いんですね。いかに歴史が抹消されたのか、ケネディ暗殺は実は!みたいな。
ただ、その「陰謀」の面白さは認めますが、他がどうもなぁ。肝心の柩云々は根拠が弱すぎだし、犯人の行動も何だか方向性がなくてよく分からないし。
つまり、雑なんですよ。いきあったりばったり感が否めません。ネタを思い付いたはいいけど(これ自体は良い)、それを「小説」として生かしきれていない、というか。見せ方が下手なのです。最後にドーンと「陰謀」を見せて作者がドヤ顔しているに過ぎないんですよ。もはや別に柩じゃなくてもネタは何でもいいよね、という。そのラストだって、もっとファロが葛藤するところを見たかったですし。

あと個人差はあると思いますが、自分はファロ警部補に萌えないので生活パートがそんなに楽しくないのです。恋愛パートなんか前作の二番煎じっぽい何かですよ。

全体的に物足りないのでした。読んでいて楽しくないとも言います。


まぁでもぶっちゃけ、英国王室が扱われている時点で、日本人読者が楽しめる要素がある程度限定されてしまうのは仕方ないんですよね。メアリー大好きなスコットランド人なら読めるんでしょうが。結局身近じゃないから。そこが悔しいっちゃ悔しいかな。『闇と影』読了後も似たようなこと言いましたけど。

ってなわけで、”シリーズ続編としての”三作目は気になりますが(このラストをあっさり流すのではないかと予想してますけど)、そんなに興味が湧かないし、どうもこの作家さんとは合わなそうだなぁということで、もう読まないかもしれません。しっかし、『おやすみなさい、ホームズさん』といい、アランナ・ナイト2冊といい、『闇と影』といい、ここ1年間に読んだ19世紀ミステリのハズレっぷりがとんでもないような……あくまで個人的に。

ちなみにですが、ファロ警部補シリーズを見ると、『To Kill a Queen』『The Seal King Murders』『Faro and the Royals』『The Final Enemy』『Unholy Trinity』と、実にそそられる陰謀物くさいタイトルが並んでおります。うーん。

書 名:エジンバラの古い柩(1989)
著 者:アランナ・ナイト
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mナ-2-2
出版年:2012.7.27 初版

評価★★☆☆☆
修道院の第二の殺人
『修道院の第二の殺人』アランナ・ナイト(創元推理文庫)

煙ただよう古都、ヴィクトリア朝エジンバラ。パトリック・ハイムズは修道院で働く妻と、そこの学校の教師だった女性を殺した罪で絞首刑に処された。しかし、彼は妻の殺害は認めたが、第二の殺人は頑として否認したまま死んだのだった。彼の最後の訴えを聞いたファロ警部補は、新米医師である義理の息子のヴィンスと再捜査を始める。歴史ミステリの大家が贈る、軽快な犯人捜し!(本書あらすじより)

うぅん……ぶっちゃけ、つまらなかったです。これはもう、向き不向き・好き嫌いの問題としか。

1870年、ヴィクトリア朝のイギリスが舞台だと聞くと、これはもうディケンズ的なザ・歴史ミステリに違いない!作者もディケンズ好きらしいし!……と思ったのがそもそも間違いなんですが。少なくとも、「歴史ミステリ」としての側面に大きく期待しない方が良いですね。この時代を舞台にしたのは、何と言うか単なる雰囲気のためであり、それほど必要性は感じません。随所で「ヴィクトリア朝っぽさを楽しめた!」という感想を見かけますが、個人的にはそれほどでもないというか、当たり前ですがディケンズには勝てないというか。せめて、現代とははっきり違うような文化的側面をもっと描いてくれれば良かったのですが……。

さらに、「歴史ミステリ」ということですが、ミステリとしての側面もイマイチでした。修道院の第一の殺人が結局放置されていたり、容疑者全員の扱いが均等でなかったり、決め手の証拠が皆無だったり、と、なんかこなれてないなぁという印象を受けます。
ということで、ほとんどキャラ小説なのかなぁ、と。ただ、登場人物が割と予定調和的というか、そこまで書きこまれたものではなく、どちらかと言うとありきたり。良い意味でも悪い意味でも緩すぎるんですよ。こういう読みやすい小説を好きな人は一定層いるはずですが、個人的には好みではなかったな、ということです。

とはいえ、続編の告知がね……。スチュアート朝の歴史を覆すらしいですよ。いわば、歴史を舞台に歴史ミステリってことですよ。英国史に挑戦とか、まさに『時の娘』!うぅん、結局続編も買ってしまうのかな……。

書 名:修道院の第二の殺人(1988)
著 者:アランナ・ナイト
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mナ-2-1
出版年:2012.3.16 初版

評価★★☆☆☆
『陸橋殺人事件』ロナルド・A・ノックス(創元推理文庫)

こんなじめじめした日の午後は、気分転換のために人殺しでもやってみたくなるものだが─剣呑な台詞を契機にした推理談義がもたらしたか、雨上がりのゴルフ場で男の死体を発見した四人組。すわこそ実践躬行とばかり、不法侵入に証拠隠匿、抵触行為もなんのその、いささか脱線転覆ぎみの素人探偵根性を発揮するが……。迷走する推理も一興、究竟の真相に喫驚の、古典的名作決定版!(本書あらすじより)

イギリス、1925年、僕は中古でなんとか見つけて買いました。入手が割と困難でしょう。

ノックスは「ノックスの十戒」と呼ばれるミステリの原則を発表した人なのですが(十戒を知りたければ、コメントでも残してください、書きますから)、この作品では何度も肩透かしをくらう(いい意味で)こと間違いなしです。なにしろ、結論が何回も出て、そのたびに間違っているのですから。バークリーの『毒入りチョコレート事件』のように、事件は一つの推理だけではないと主張している作品です。この推理がいちいち否定されるのは、現代ではデクスターにも通じるものがあるのかもしれませんね……ただ、デクスターは直感すぎますけど。

まぁ、よくも1冊持つよなぁ、と思わんでもないほど、ひたすら捜査を続ける探偵君たちの話です。飽きはしませんが、あまり盛り上がらないと感じるかもしれません。いずれにせよ、最終的な結論にはちょっと感心しました。つまり、こんな簡単な事件を、よくもまぁこんないくつもの解答をつくったなぁってことで。

ミステリ好きが最後に到達する作品と言われますが、そんなこと全然気にしなくていいので、見つけられたら海外ミステリ読者は読んどきましょう、少なくとも自慢にはなりますよ。ただ、よく言われるように、「ミステリそのものを皮肉った作品」ではないんじゃないでしょうか。あとがきにはそんなことが書いてありましたが、今の感覚ではそれほどではないと思います。『毒入りチョコレート事件』は読んでいておちょくってる感が確かにあったのですが、『陸橋殺人事件』は普通のミステリとしても通るんじゃないでしょうか。

書 名:陸橋殺人事件
著 者:ロナルド・A・ノックス
出 版:東京創元社
    創元推理文庫 Mノ-1-1
発 行:1982. 1版
    1982.12.3 2版

評価★★★☆☆
『陸橋殺人事件』ロナルド・A・ノックス(創元推理文庫)

こんなじめじめした日の午後は、気分転換のために人殺しでもやってみたくなるものだが─剣呑な台詞を契機にした推理談義がもたらしたか、雨上がりのゴルフ場で男の死体を発見した四人組。すわこそ実践躬行とばかり、不法侵入に証拠隠匿、抵触行為もなんのその、いささか脱線転覆ぎみの素人探偵根性を発揮するが……。迷走する推理も一興、究竟の真相に喫驚の、古典的名作決定版!(本書あらすじより)

イギリス、1925年、僕は中古でなんとか見つけて買いました。入手が割と困難でしょう。

ノックスは「ノックスの十戒」と呼ばれるミステリの原則を発表した人なのですが(十戒を知りたければ、コメントでも残してください、書きますから)、この作品では何度も肩透かしをくらう(いい意味で)こと間違いなしです。なにしろ、結論が何回も出て、そのたびに間違っているのですから。バークリーの『毒入りチョコレート事件』のように、事件は一つの推理だけではないと主張している作品です。この推理がいちいち否定されるのは、現代ではデクスターにも通じるものがあるのかもしれませんね……ただ、デクスターは直感すぎますけど。

まぁ、よくも1冊持つよなぁ、と思わんでもないほど、ひたすら捜査を続ける探偵君たちの話です。飽きはしませんが、あまり盛り上がらないと感じるかもしれません。いずれにせよ、最終的な結論にはちょっと感心しました。つまり、こんな簡単な事件を、よくもまぁこんないくつもの解答をつくったなぁってことで。

ミステリ好きが最後に到達する作品と言われますが、そんなこと全然気にしなくていいので、見つけられたら海外ミステリ読者は読んどきましょう、少なくとも自慢にはなりますよ。ただ、よく言われるように、「ミステリそのものを皮肉った作品」ではないんじゃないでしょうか。あとがきにはそんなことが書いてありましたが、今の感覚ではそれほどではないと思います。『毒入りチョコレート事件』は読んでいておちょくってる感が確かにあったのですが、『陸橋殺人事件』は普通のミステリとしても通るんじゃないでしょうか。

書 名:陸橋殺人事件
著 者:ロナルド・A・ノックス
出 版:東京創元社
     創元推理文庫 Mノ-1-1
発 行:1982. 1版
     1982.12.3 2版

評価★★★☆☆