灯火が消える前に
『灯火が消える前に』エリザベス・フェラーズ(論創海外ミステリ)

劇作家の死を巡る灯火管制の秘密とは……H・R・F・キーティング編「海外ミステリ名作100選」採択作品! 殺意と友情の殺人組曲が静かに奏でられる、大戦下の一夜に消えた命の灯火。(本書あらすじより)

今年は論創からフェラーズが2冊も出るんですよ! やったね! 論創さんいい仕事するぅ!
『カクテルパーティー』は狭いコミュニティー内での殺人、および疑心暗鬼に陥った容疑者同士の推理披露大会、みたいな話でした。比較的正統派の黄金時代本格ミステリです。一方今回の『灯火が消える前に』は、回想の殺人でこそないのですが、これはもしかしてフェラーズによる『五匹の子豚』なんじゃないか、と思わせられた作品でした。探偵役による容疑者巡礼に加えて、殺人者と被害者の人格を5人の容疑者の視点から描き出していくところなんか特に。今回もフェラーズらしい良作です。

物語は、第二次世界大戦中の灯火管制の夜、屋敷内で人気劇作家リッターが殺害される、という発端です。すぐさま犯人と目される人物ジャネットが逮捕され、事件自体は決着したかのように見えたのですが、状況に不信感を抱いた平凡な女性セシリーはその晩館にいた人たちを訪ねて回ることで、被害者リッターとジャネットの人柄を調べていきます。セシリーがリッターおよびジャネットと親しくなかった、というのがポイントでしょう。

ジャネットしか犯人になりえなそうな状況を成立させたトリック自体は、まぁそういうことだろうなと予測はつくものですし、犯人も同じく想像通りではあります。本格ミステリとしては及第点かな、という感じ。
それよりも、ひたすら登場人物による回想トークでのみ読ませているという点でなかなか強烈な作品でした。事件当時の状況を調べるのではなく、ジャネットとはどういう人物か、リッターとはどういう人物だったのか、ということのみに焦点を当てて話が進んでいくのです。正直フェラーズがこういうものを書けるとは思いませんでした。推理合戦とかユーモアがなくてもいいじゃないか。
まぁこの人物調査パートが一通り終われば、あとはひゅっと出てきた探偵役がぱぱっと謎解きをして、終わっちゃうんですけどね。この2つがもっと結び付いていたら、すごい傑作になったかも。

というわけで、今年のフェラーズ2冊目でした。全くタイプが違うので、読み比べてみるといいと思います。個人的には重厚な読み口の『灯火が消える前に』より、変態的な構成の『カクテルパーティー』の方が好きですが、どちらもオススメですよ。ノンシリーズフェラーズ、もっと紹介されるといいなぁ。

原 題:Murder Among Friends(1946)
書 名:灯火が消える前に
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:清水裕子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 170
出版年:2016.04.30 初版

評価★★★★☆
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カクテルパーティー
『カクテルパーティー』エリザベス・フェラーズ(論創海外ミステリ)

イギリス、ロンドン郊外の小さな村。平穏な日常に忍び込む殺人事件。元女優、大学講師、医師、作家。犯人は誰だ。ミステリ本格黄金時代イギリス女流作家の巨匠、本邦初訳の代表作が今!(本書あらすじより)

フェラーズは、トビー・ダイク&ジョージのシリーズを2冊読んだだけなのですが、かなり好きな作家(『猿来たりなば』はめちゃくちゃ楽しい本格ミステリで、海外ミステリを読みなれていない人には最適の作品なので、読んだことない人はなるべく事前情報なしでさっさと読もう)。今回論創でノンシリーズが出たのでさっそく読んでみました。なお、今月もまた1冊出ましたね、すごいペース。
シリーズ作品とは違い、ユーモアが抑えめの、どろどろしそうな人間関係で読ませるタイプの作品です。誰が殺されるか(または殺されるはずだったのか)読者にしぼらせないところから始まって、登場人物全員に好感が持てない自己中を配し、あいつが犯人に違いないとどいつもこいつも告発しまくったあげく、最終的に探偵役すら曖昧なままラストに突入するというすごい作品。えらい、フェラーズがんばった。
事件自体は会食で全員が同じものを食べ殺人事件が起きる、という数あるミステリのパターンですが、この種の殺害状況は初めて読んだかもしれません。非常に魅力的な毒殺なので、これだけでも一読に値します。終盤少々やり過ぎな嫌いはありますが、これはこれで面白いのでおすすめかな。

小さな村で骨董品屋を営むファニー。ある日彼女の年の離れた義理の弟が婚約したことで、狭いコミュニティに動揺が走る。緊張感漂う中、婚約者の紹介を兼ねたカクテルパーティーで隣人や友人が一堂に会した。そしてパーティーの後で、一人の人物がヒ素により死亡してしまう。

自分はまずこの殺された人物すら意外でした。パーティーの参加者全員がロブスターパイを一口食べ、味がおかしいと言ってそれ以上食べなかったのですが、唯一おいしいと言って食べ過ぎた人物が死ぬ、という状況。その人物はなぜ味に疑問を持たずにパイを食べたのか、というのがまず発端となります。
この理由は、まぁそれしかないなという当然の答えなのですが、別のある人物の発言により事件の複雑さが一気に増してから面白くなるのです。自己中心的な登場人物たちの間を視点が頻繁に行き来し、お互いの思惑が次々と明かされる(ただし地の分ではなく、発言で、というのが上手い)ことで、複数の動機が提示されていきます。個人的にはファニーのイヤ~なキャラ造形が何とも……女性作家はこのへん強い……。

そして登場人物たちが好き勝手に(というかヒステリックに思い込んで)誰かを殺人犯だと名指しし、それを聞いた別の人物がいやきっとあいつが犯人だと名指しし、と次々と思いつき推理を示していく推理リレーが非常に個性的ですし、また巧みです。これによって最終的に探偵役すら曖昧になり、真犯人の意外性にもつながっています。
もうこれ全員怪しいじゃん、となったあげく、ある人物がようやく真相を提示するのですが、そこまでの過程がまた作りこみまくっているんですとね。ちょっとくどいというかしつこいのですが、それがまたとっても楽しく読めました。動機の引っ張り出し方なんかは古典本格らしくて好み。

『自殺の殺人』もそうですが、フェラーズは事件や過程や終盤をめちゃくちゃこねくり回しても、それを最終的にストレートに上手く解き明かし、説明できる作家なんでしょうね。綺麗にはまるとすごく面白いんです。トビー&ジョージシリーズのユーモラスなフェラーズしか知らない人には、最適のノンシリーズ作品ではないでしょうか。
なお、横井司氏による解説がフェラーズの作風についてめっちゃ詳しいので勉強になります。『私が見たと蠅は言う』の翻訳にまつわる話とか。


原 題:Enough to Kill a Horse(1955)
書 名:カクテルパーティー
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:友田葉子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 165
出版年:2016.02.29 初版

評価★★★★☆
自殺の殺人
『自殺の殺人』エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)

嵐の夜、ジョアンナの父が身投げを図った。偶然通りかかった青年たちに取り押さえられ、その場は事なきを得たものの、彼は一切動機を語らぬまま、翌朝、秘蔵の拳銃によってこの世を去った。突然の父の死に思い悩む娘に対し、警察は他殺の可能性があることを告げる。彼女は妄想のように脳裏を離れぬ疑惑に苦しみ、前夜父を助けてくれた青年、トビー・ダイクに助けを求めた。はたして、これは自殺に見せかけた他殺なのか、それとも、その反対なのか?真相を巡って推理は二転三転する。英国の巨匠エリザベス・フェラーズの傑作本格ミステリ第二弾。(本書あらすじより)

第二弾というのは紹介順で、シリーズとしては第三作にあたります。
いやしかし、『猿来たりなば』も面白かったですが、これはそれ以上ですね。非常に出来のいい本格ミステリだと思います。ちなみにユーモア度合いはそんなに高くありません。

終始、果たして自殺か、それとも他殺か、ということが問題となります。これ自体は割とあるネタなんですが、前日の自殺未遂(この状況もうさんくさい)、被害者(?)の当日の曖昧な行動、関係者の偽証に次ぐ偽証、などの要素を極めてバランス良く配置することで、真相がとてもつかみにくいものとなっています。これが実に上手いんですよ。あくまで問題はシンプルでありながら、ひねくり回して長編に出来るくらいの手掛かりを置くことに成功しています。

そして最後の真相の提示の仕方がまた上手いんですよねぇ。この手のミステリって結構型が決まっていて、「実は殺人でした」→「実は自殺でした」→……の無限ループによって二転三転させていくため、だんだんひっくり返しに驚けなくなってしまう、という問題があります。ところが作者は、まぁ何と言うか、調度良いところにクッションを置いたわけですよ。そのおかげか、素直にラスト驚くことが出来ました。というか、このシリーズを読んだことあるんだから、どんでん返しに気付けても良さそうなものなのに(笑)

というわけで、オススメです。古き良き英国本格ミステリの一品。ちなみに英国新本格世代ということもあり、黄金時代の作家とはやはり明らかに何か違いを感じるのですが、上手く言語化出来ません。今後の課題と言うことで。

書 名:自殺の殺人(1941)
著 者:エリザベス・フェラーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mフ-13-2
出版年:1998.12.25 初版
    2000.9.8 3版

評価★★★★☆
『猿来たりなば』エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)
猿来たりなば

ゆるやかな丘の広がるダウンズ地方の片田舎、イースト・リート。異邦人からの助けを求める手紙に応え、連続誘拐未遂事件を解決するため、トビーとジョージはロンドンから遠く離れたこの地まで遠路はるばるやってきたのだ。だが、想像以上の寒村で彼らが出くわしたのは、前代未聞の誘拐殺害事件であった。たしかに、嫉妬に遺産に保険金と、動機にも容疑者にも困らない状況なのだが、誘拐されて死体となって見つかったのは、なんと、チンパンジーだったのだ!英国ミステリを代表する作家の一人、エリザべス・フェラーズ初期の傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)


レビュー書くの一ヶ月ぶりやな……。
初フェラーズです。こういう本を紹介してくれる創元推理文庫はやっぱり素晴らしいですね。訳(中村有希さん)とタイトルがまたおしゃれでいいんだよね。

一応紹介しておくと、エリザベス・フェラーズはイギリス黄金時代末期(1940年)に登場したイギリスミステリ界ボス級キャラの一人。であるにも関わらず紹介がありえないほど遅れている、というのが定番のご説明。
1998年に本書が訳されるまではポケミスから2冊のみであり、現在はもう少し紹介が進んでいます(創元から6冊と別の所から1冊)。


本書のメインは「チンパンジー殺人事件」なわけですが、かなーりきっちりした本格物です。なぜチンパンジーが殺されたのか?というバカバカしいネタではありますが、別にユーモアミステリなわけではありません。いたってちゃんとした、いかにもイギリス的な、かなりの水準の本格物です。

登場人物というのがまためんどくさい人ばっかりなんですが、くどすぎない味付けで、いやなやつばっかりなのに好感が持てます。キャラ配置的に特に良かったのは牧師さんでしょうか。


最後のトビーの解決シーンは、非常に分かりやすく的確で良かったですね。チンパンジーがなぜ殺されたのか……うぅむ、散々ヒントがあったのに気付かなかった自分が悲しすぎる。ある人物の行動を犯人である理由の一つとしていまして、個人的にはここに一番うならされました。伏線は十分過ぎるほどありますが、その隠し方がなかなかのもんです。最後の罠、まさにコロンボですが、これもまた良いですね。だからといって殺したのが誰かはまだ決まらない気がしないでもないですが。

なんにも気付かなかった自分ですが、ある人物の行動は分かってしまいました。○○が○○されていなかった理由とか、ということは○○の○○○が実はあの人なんじゃないかな、とか。じゃあなぜ真相が分からなかったんだろう(笑)


このトビー&ジョージのシリーズは本格時代への一種のパスティーシュの面があるといいます。語り手のトビーはいわゆる"迷"探偵の部類であり、散々外した推理をしますが、表立って調査をしたり真相を語ったりするのはもっぱら彼の役目です。一方、裏主役とも言える目立ちたがらないジョージが実はかなりの切れ者で、実質的に謎を解くのは彼の仕事です。この両者の関係がなかなか面白いですね。語り手がワトソンだと考えると、ある意味原点にかえっているとも言えるわけですが。ジョージみたいなキャラは大好きです。


というわけで、高水準の傑作でした。本格好きには結構オススメです。


書 名:猿来たりなば(1942)
著 者:エリザベス・フェラーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mフ-13 1
出版年:1998.9.25 初版

評価★★★★☆