moblog_51182be7.jpg フォーチュン氏の事件簿
↑読んだバージョンの旧表紙。どうも新しいやつの挿絵はあってない気がする。


『フォーチュン氏の事件簿』H・C・ベイリー(創元推理文庫)

短編に必ずしも巧妙なトリックやエキセントリックなものがある必要はないと思います。いや、あるにこしたことはないですけど。
短編を読んでる途中に基本的に飽きを感じてしまうTYとしては、短編の第一条件はリーダビリティです。第二条件は、トリックはともかく魅力的な謎。つまり、淡々と語られつつも、着々とページをめくれるようなものです。だからこそホームズが面白いわけで。
という点から見ると、『フォーチュン氏の事件簿』は、正直かなり面白かったと言えます。


H・C・ベイリーによりフォーチュン氏の第一短編集が出されたのは、1920年だそうです。自分のイメージではベイリーはチェスタトンあたりの人だったため、こいつはちと意外でした。黄金期の方だったのね。じゃあなんでシャーロック・ホームズのライヴァルたち扱いされてるの?雰囲気はそうだけどさ。
ですから、例えば警察があまりにアホだったりもしないし、読者の先読みはすぐフォーチュンがしゃべっちゃうしで、古い作品特有のウザさが感じられません。これはとっても嬉しいことです。


レジナルド・フォーチュンは一風変わった探偵でして、終始一貫彼は超地味です。しかしこれは没個性的だというわけではなく、非常に人間くさいということでして。考え方が一般人に限りなく近い。だから必ずしも法の裁きを良しとはしないし、金持ちに対してはやや皮肉的だし、社会的弱者や子供達に向ける視線は非常に暖かいんですね。この人柄の良さこそ最大の特徴であり、読者を引き込むポイントであると思います。

作品としては、地味ながらきっちり出来ており、また無理のない解決の提示がなされるなど、一作一作が秀逸ですね。良く出来た作品ばかり集められており、個人的にはかなり満足出来る内容だったと思います。


以下各作品の感想。ちなみに( )内の数字は収録短編集発表年、後ろの数字は第何短編集かを示します(フォーチュン氏ものの短編集は12まである)。


「知られざる殺人者」(1923)2

炭坑に転落死した男。殺された女医。毒殺されかけた男の子。一見意味のない3つね事件だが……。

あらすじであおったほどのミッシングリングはありません(笑)
フォーチュン氏の人の良さ全開の話。だいたいこれで彼の人柄が分かります。
読み終わった時は、犯人の動機微妙じゃない?と思いましたが、現実的に考えれば、狭いエリアで3つの死体が出るというのは確かに妙です。普通でないことに疑問を持つ、というフォーチュン氏ならではの事件と言えるかも。


「長い墓」(1925)3

フェニキア人の墓を掘ろうと意欲を燃やす自称考古学者の秘書が、フォーチュン氏に相談してきた。何やら妙なことばかり起きているとのことだが……。

ややありふれたネタでしょうかね。フォーチュン氏自身が言っていますが、犯人の行動が少々行き過ぎというか。
財産については、はっきり書いた方が良かったかもという気がします。


「小さな家」(1927)4

ある女の子が見かけた隣家の女の子。しかし近所の人達は誰ひとりその子の存在を知らないというのだが……。

これが一番面白かったです。フォーチュンものは小さい子が出ると面白いというのは本当のようです。
あまりミステリミステリしている作品ではありませんが、最初から最後まで読ませる作品でした。お見事。
ちなみに現地の警部さんいいっすねぇ。他には出ないのかな。


「ゾディアックス」(1930)5

ゾディアックス社の株価が大暴落。そんな中殺された会社の重役。彼はなぜ死んだのか?

この作品のみ宇野利泰訳。そのためか、ちと違和感を感じました。
1世紀前の作品ならこの殺人ネタ1つで終わらせそうなものですが、それに限定せず(というかここに重点が置かれていないのがいい)事件の仕組みを暴く所が良いですね。ってか誰か気付けよ(笑)


「小指」(1935)9

連続宝石盗難事件の容疑者として目されるある男。血液型判定のため借り出されるフォーチュン氏だが……。

血液型に関するフォーチュン氏の考えは最もです。ミステリで指摘する人は初めて見たよ(笑)
最後がかなりクールにひねられており、なかなか面白かったです。ってか、強盗は結局どうなったの?


「羊皮紙の穴」(1936)10

とある蒐集家の買った古い聖書をめぐり、各人の思惑が錯綜する。

舞台はイタリア。警部さんグッジョブ!あんた最低や(笑)
他作品と何となく印象が違います。やや微妙だったかなぁ。


「聖なる泉」(1936)10

聖なる泉から見つかった死体。犯人と目される母親が死刑判決を受けた後、フォーチュン氏は誤りだと指摘するのだが……。

ありがちなネタを非常にうまく料理した感があります。うぅむ、舞台設定の妙ですね。最後にはもってこいでしょうか。



後書きに、戸川安宣が第一次世界大戦が黄金時代を生んだとするヘイクラフトの説を紹介しています。うぅむ、なるほど。


ちなみに、黄金時代の五巨匠の一人らしいですが、残りって誰?クリスティ、クイーン、カー、あと一人が誰を入れるべきなんだか。


書 名:フォーチュン氏の事件簿(1923~1936)
著 者:H・C・ベイリー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 178-1(旧分類番号)
出版年:1977.9.23 初版

評価★★★★☆
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