未亡人
『未亡人』ミッシェル・ルブラン(創元推理文庫)

貿易商のダニエルは美貌の妻コーラを愛していたが、彼女は夫に情事を問いつめられて以来、殺意をいだくようになった。妻の企みを知った夫はリヨンへ商用で行くとき、秘かに妻を愛している秘書に一通の手紙を託し、旅行中、行方不明になっても心配するなと言い残して出かけたが、事件は意外な方向へと発展した。複雑なプロット、二十三重のどんでん返しで読者の意表をつくルブランの快心作「未亡人」と「罪への誘い」を収録。(本書あらすじより)

個人的に『殺人四重奏』はフランス・ミステリの中でもトップファイブに入る作品じゃないかと勝手に思っているのですが、まぁそんな感じでお気に入りのミッシェル・ルブランです。って読むのはまだ2作目ですが。
それぞれ200ページほどの「未亡人」と「罪への誘い」を収録。いずれも殺人を計画する人物の物語で、ルブラン流のどんでん返しを味わえますが、タイプはだいぶ異なります。良い組み合わせだと思いますね。綺麗にまとまっている小粒な良品。特に「罪への誘い」を楽しめました。以下、それぞれの感想を。


「未亡人」(1958)

夫ダニエルの横暴な振る舞いに耐えられず愛人を作っていたコーラ。ところがある日夫に不倫がバレていたことが分かり、彼女は思わず夫を瓶で殴り倒してしまいます(しかし世の中そんな簡単に人は死なない)。妻と愛人を脅してくるダニエルに我慢出来ず、コーラは夫の殺害を計画し始めますが……。

暴力は振るうわ独占力は強いわと夫はひでぇ奴で、しかしコーラはコーラでかわいそうではあるけど自己中、愛人も実はそんなにコーラを愛していないので夫を殺そうとしたと聞いてえっそんなマジかよ困るぜ、という態度だしさらに夫の秘書がコーラを好きだったりしてもう酷いですねこの構図(笑)
愛人のことを調べ尽くしネチネチとイヤミを言う旦那。コーラはついに、深夜なのにこれから車をぶっ飛ばして出張に行く夫のコーヒーに睡眠薬を入れてしまいます。翌朝我に返ったコーラはパニくってしまいますが、そこに夫は病院にいるという電話が……とここからが壮絶などんでん返しのオンパレード。
とにかくまぁ物語をひっくり返すことひっくり返すこと。登場人物の身勝手な思惑がグチャグチャと入り混じり、ますます追い詰められるコーラ。これが読ませるんです。終盤の張り詰めた対決シーン、一周回って喜劇的とすら言える悲劇的な結末、と怒涛の展開を楽しめます。まさにおふらんす。

ただ個人的な好みで言うと、この結末はさすがに後味が悪すぎるのであんまり好きくはないかなぁ。あまりにバッドエンド(というか苦手なパターンなのです)。皮肉にも程があります。ラスト一文の絶望感。しかしこういう所がおふらんす作家の上手いところですよねぇ。あ、ちなみに、ややネタバレなので、登場人物一覧は読まないように。


「罪への誘い」(1959)

老舗レコード会社を共同経営している兄弟。弟はヤク中で問題を起こしてばかり、年中弟の尻拭いをしている兄の眉間のヒビは広がるばかり。さらには兄が色目を使っている技術主任(常に胸元が開いているような服しか着ないような超有能ウーマン)は兄の熱烈な想いを華麗に突っぱねます。
ある日美人さんが、弟に襲われたもう耐えられないヒドイワと兄に泣きついてきます。これぞチャンス、えぇい積年の恨み果たさでおくべきか、ついでに彼女もゲットだぜ、と彼女に言われるがまま着々と弟殺害計画を立てる兄。かくして決行日と相成るが果たして――?(もちろん順調にはいかない)

言っちゃっていいと思いますが、つまり悪女もの。計画がどう上手くいかなくなっていくのかという面白み、中盤のどんでん返し(この引掛けは上手い)、後半の視点変更による伏線の配置、さらには物語全体に散りばめられた伏線が効果的な結末、と実にスリリングかつトリッキーな作品です。これは面白かったですね。
広義の倒叙もの、という言い方がしっくり来るかもしれません。フランスミステリのどんでん返しって、えてして伏線もへったくれもなくドーン!ってのが多いような気がしますが、これは実に精巧。かつ犯罪計画とその露呈というストーリーが単純に面白く読ませます。少ない登場人物の使い方も上手いですね。
話の展開はそんなに意外というのでもなくて、結構バレバレなんですが、逆にそれが面白みを増させている気もします。先のチラつく感じがね。という感じなので、ほとんど文句のつけ所がないんじゃないでしょうか。200ページという中編の分量を活かしきった一編。大いに堪能しました。


フランスミステリはそれほど読んでいるわけではないので偉そうなことは言えませんけど、自分が読んだ中ではミッシェル・ルブラン『殺人四重奏』をまずは強くオススメしておきたいです。自白合戦的な話の面白さ、効果的な伏線とどんでん返し、フランス的皮肉な結末、お洒落な雰囲気、と読みやすく面白い作品。まずはそこからぜひぜひ。

書 名:未亡人(1958,1959)
著 者:ミッシェル・ルブラン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 431(Mル-3-3)
出版年:1972.7.14 初版
    1973.8.24 3版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
殺人四重奏
『殺人四重奏』ミッシェル・ルブラン(創元推理文庫)

人気絶頂の映画女優シルヴィーが殺された。報せをうけた映画監督、脚本家、俳優たちの表情は硬い。素人から、瞬くうちにスターの階段を駆けあがっていったシルヴィー。傷つかずにやりすごせた者など、はたしていたのか……?かくして、殺したのは自分だと皆が言う、奇妙で魅惑的な物語の幕が切って落とされる。フランス推理小説大賞受賞、華麗な技巧が冴える小粋な傑作。(本書あらすじより)


フランス推理小説大賞受賞作……って言うと、何が有名なのかなぁ。最近なら『私家版』とか。超有名所ではジャプリゾ『シンデレラの罠』とか。全部未読……。『雨を逃げる女』とかは読んでみたいなぁ。『シンデレラの罠』は絶対読まないかん。


で、『殺人四重奏』ですが。
いっやはや、久々に面白いもんを読みました。なるほどねー、っという感じです。こないだ読んだピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』もそうだったけど、おフランスものってなんか変わった味なのね。ただ、『殺人四重奏』はどちらかと言うとアメリカ風でしょうか。ってそんなことはどうでもいい。

何書いてもネタバレになりそうなので感想を書きにくいんですが、まず特徴としては、ウィルキー・コリンズばりの何人もの独白メインなことが上げられます。一つの大きな出来事が、極めて多面的に描かれるわけです。映画の『バンテージ・ポイント』(オススメ!)も似た感じ、なのかな。いや違うか。
そしてこの(ある意味ありふれた)描き方が、非常にいい味なんですよ。さらに作者がなか上手いもんだから、淡々とした(?)語りが読みやすく、リーダビリティ抜群。


内容については……やっぱりノーコメントで。下手にネタバレになると嫌だし。個人的にお気に入りのトリックだったと言っておきます。最後の一行は……うん、ちょっとお気に入りじゃないかな(笑)フランス人って皮肉が好きなんですねぇ。

1つだけ不満な点があり、ここさえ完璧なら文句なしなんですが、うーむ、下の方にネタバレで感想を後で書いておきます。未読の方はうっかりでも見ないように。

今年のベスト10にたぶん入るはず。しかし230ページとは薄いな……すぐ終わってしまう。

ちなみに、解説に紹介されていた小林信彦の感想「ルブランなんて、第一、名前がいいじゃないですか。」は受けました(笑)
邦題はしゃれてていいと思いますが、いくらなんでも意訳しすぎかな。構わないけどね。


書 名:殺人四重奏(1956)
著 者:ミッシェル・ルブラン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mル-3-1
出版年:1961.4.21 初版
    2000.11.10 10版

評価★★★★☆


<以下ネタバレ>
... 続きを読む