法の悲劇
『法の悲劇』シリル・ヘアー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

10月は巡回裁判の月だった。高等法院判事ウィリアム・バーバーは裁判の開廷予定地へ赴き、晩餐会に出席した。そしてその後で大失態をしでかした。自ら運転する車で高名なピアニストを轢き、一生を台無しにしてしまったのだ。多額の賠償金が要求され、その頃から彼の元へ、不気味な脅迫状が頻々と舞い込むようにもなった。スキャンダルは巷間に伝わり、苦悩するバーバーは、ついに服毒自殺を図ったのだが……? イギリス風ユーモア、アイロニイをまじえながら一裁判官の見に起った悲劇を余すところなく描く、本格派の雄の大作。(本書あらすじより)

今月12月は「マケプレオーバー2000月間」と題しまして、「てめぇ買った/貰った(なお悪い)はいいけど積みっぱなしじゃねぇか! ばか!」 みたいなマケプレ2000円超え本をひたすら読んでいくという実に生産的な活動を行っています。もう12月も20日なので8冊目に突入しているんですが、ううう感想頑張って追いつきます。
というわけで出ました、ハヤカワ・ミステリ文庫の最レアクラス、シリル・ヘアー『法の悲劇』です。ヘアーは以前『風が吹く時』を読んで以来だから6年ぶり?
いや何というか、仕込みにとんでもなく手間暇かけた、料理の鉄人によるメインディッシュという感じですね。クリスティーの某作のホワットダニット感とホワイダニット感をマシマシにした的な。いやー面白かったです。

巡回裁判という、判事や弁護士、検事ら御一行様が地方を順番にまわりながら各地の裁判を行っていくという、実にイギリスらしい設定のもと事件が起きます。といっても出だしが非常にスロースタートで、終盤になるまで殺人事件も発生しません。
じゃあ退屈かと言うとそんなことはありません。自動車事故、脅迫の手紙、毒入りチョコレート、深夜の侵入者などなど、とにかく様々な不穏な出来事が各町で発生するのです。主人公である(と言ってよいでしょう)ウィリアム・バーバーが、だんだんとのっぴきならない状態になっていきます。

地味ですし、きちんと証拠立てるタイプのミステリではないし、ホワイが分かるかと言うと絶対そんなこともないし、400ページまで丁寧にゆっくりと物語が進むのでグイグイ系でもありません。が、ラスト50ページ、丹念に積み上げられた伏線が見事に回収されながら納得しかない真相が提示されるのです。震えます。このホワイダニットは、事前に情報が提示されていなくても感心してしまうな……。
(実は『風が吹く時』だけヘアーは読んでいたりとか、ちょっと読みながら作品リスト見たりとかで損しちゃったのですが、最終的にはそこまで問題でもありませんでした。でもヘアー未読者はあまり情報入れずに、発表順通りいきなり『法の悲劇』から読むのがベストだと思います。『自殺じゃない!』だけは事前に読んでも可かな、なぜとは言えませんが)

というわけで、やはりこれは一読の価値ありです。ポスト黄金時代の作品の中でも突出した出来ではないでしょうか。復刊しないかなぁ。

原 題:Tragedy at Law(1942)
書 名:法の悲劇
著 者:シリル・ヘアー Cyril Hare
訳 者:宇野利泰
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 60-1
出版年:1978.09.30 1刷

評価★★★★☆
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風が吹く時
『風が吹く時』シリル・ヘアー(ハヤカワポケミス)

素人音楽家たちによるマークシャア管弦楽団、シーズン最初のコンサートが何とか始まった。到着の遅れが心配されていたクラリネット奏者もぎりぎり間に合い、オルガン奏者の姿が見えなかったのも演奏曲目の順序を変更することで切り抜けた。いよいよプロのヴァイオリニスト、ルウシイ・カアレスを迎えて、メンデルスゾーンの協奏曲。が、ミス・カアレスを迎えに舞台をおりた指揮者のエヴァンズは、戻ってくると聴衆にミス・カアレスの死を告げた……。そして混乱の中、クラリネット吹きは消えてしまったのだ!建物の構造上、犯人が管弦楽団員のうちにいることは間違いない。やがて捜査が進むにつれ、楽団員の錯綜した人間関係と思惑が明るみに……。弁護士ペティグルウを探偵役に、イギリスの小さな地方都市で起こった殺人事件を、イギリス風ユーモアをまじえて描く、作者の代表作。(本書あらすじ改)


はっはっは、さすがは宇野利泰訳。文体が古い……というかぎごちないねぇ。職業人って、プロフェッショナルの訳かな。ワルソウって、ワルシャワだよな。そしてなんでみんな語尾が「……だぜ」か「……なんじゃ」か「……たまえ」なんだろう(いやほんと)。

というのは置いといて(実際、古い訳って悪くないもんだよ)。

シリル・ヘアーは初読ですが、地味~に面白かったです。最近の作品はまったく激しいのばっかで……なんてグチっぽい人にはぜひ。ポスト黄金期&イギリスクラシックのお手本みたい。基本警部の尋問メインで話が進むんですが、意外に読みやすいんですよね。全体に渡ってまさにミステリミステリしてます。

トリックに大きな感動があるわけではなく、普通に読んでいれば犯人は見当がついてしまうかもしれません。しかし、この最後に綺麗にまとまる感じが何とも言えないです。伏線として重要でないものまでさらっと拾ってくるのがなかなかかっこいいです。

シリル・ヘアーはユーモアの効かせ具合がうまいとよく目にします。うぅん、それはそうなんでしょうが、残念なことに、訳がちょっとブレーキかけちゃった感じですね。ただ、最後はめちゃくちゃ面白かったです。ペティグルウも気の毒に(笑)


てなわけで、全体的に非常に好印象なんですが、あえてちょっとケチをつけます。

まず、容疑者が楽団員のみ、とするところをもっとはっきりして欲しかったなぁと。そうじゃなきゃ、例のクラリネット吹きの重要性がいまいち働きません。詳しくは言えないんですけど……後でネタバレ感想付けときますか。

もうひとつ、こいつはかなりまずいんですが、犯人のある設定です。どうも作者の勘違いかと思われますが、ある一カ所のみ、犯人に関して矛盾した設定があります。おまけにこいつがメイントリックに結び付く結構大事なとこなんだわ。しかもTYが読んだ本には、ご丁寧にその部分に線まで引いてあって(笑)それとも誤訳なのかな?こいつも後でネタバレ感想付けときます。


ま、しかし、大目に見れないミスがあるとは言え、基本このおおらかな雰囲気を味わう小説ですから。気に入る人はきっと気に入ります。黄金期の本格好きにはぜひ。

書 名:風が吹く時(1949)
著 者:シリル・ヘアー
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 178
出版年:1955.6.30 初版
    1983.9.30 2版

評価★★★☆☆


<以下、ネタバレ感想>
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