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シャーロット・アームストロング名言2

2020-01

『ドアは語る』M・R・ラインハート - 2019.12.29 Sun

ラインハート,M・R
ドアは語る
『ドアは語る』M・R・ラインハート(ハヤカワ・ミステリ)

あれほど巧妙に組み立てられた計画が、それが最後にドア一つ――錆びた真鍮のノブが付いているペンキ塗りの木製ドア――のために粉砕されようとは。事件後すでに幾月も過ぎ、その間、無数の手がそのノブに触れた。ドアそのものも塗り直してあった。それなのに無心のそのドアが謎を解き、悪魔のような狡猾な殺人犯を破滅させるのだった……。
ベル家の裏にある未開墾地を、青年を乗せた葦毛の馬が静かに進んでいく。と、出し抜けに、馬は猛然と後ずさりし何かに怯えている様子。脚もとの下水管には、数日前から行方不明になっていた看護婦セアラの死体が……。
アメリカのクリスティーと評されるラインハートが、スイートでロマンチックな雰囲気の中に神秘的なサスペンスを色濃く漂わせた堂々たる本格探偵小説(本書あらすじより)

いわゆるHIBK派、すなわち Had I But Known 〈もし知ってさえいたら〉派の始祖、ラインハートの中期の作品。ううううううん、これは評価がむっずかしい。

「私」ことエリザベス・ジェーン・ベルは、オールドミスの金持ちの老嬢。ほどほどの親戚づきあいや、たまに訪ねてくれる姪との会話に満足していた彼女だが、ある日不審者が家に侵入してきたことを皮切りに、不審な事件が相次ぐようになる。やがて家に住む看護師セアラが死体となって見つかり……。

1900年代にデビューしたアメリカ人長編ミステリ作家って貴重だよね、ってだけではない、きちんとした実力のある作家なのは間違いないと思います。感じの良いオールドミスが全てを見聞きするという制限のある一人称の中で(このおばちゃんの語りがまた悪くないんだよね)、とにかく事件を起こし続け(やや長すぎるけど)、フーダニットへの期待を高めさせ続け、かなりの数の登場人物が入り乱れる話をまとめ上げているのはすごいです。
何より登場人物たちがめちゃくちゃ生き生きとしている(語り手のオールドミスやつまようじ大好きな警部が特に良いんです。というか一族間の争い物として、一族をそれぞれ超絶魅力的に描けているのはなかなかに優秀)のは、クイーンとかヴァン・ダインとは一線を画していて、例えばE・D・ビガーズに近いのかも、と感じました。

「事件が終わった後にこの話を書きました!」感のある文章を延々と読まされるのは正直きつい(し長くなりがち)ですが、「もし知ってさえいたら」派の始祖としては申し分のない徹底っぷりでもあります。「あの時ああすれば良かったのに」的な後悔などはほとんどないので、予期していたほどはうっとうしくはないのですが、とはいえ「もし〜」だの「実はあのとき〜」だの「誰それがこの後死んでしまう」だのが連呼されていて正直うざいはうざいです。

ただ、一番残念なのは、ミステリとしての核の部分なのです。タイトルにもなっており、1ページ目から語り手が言っている、狡猾な殺人犯が数か月後に逮捕される決定的な手がかりである「ドア」云々の部分は、正直がっかり。というか、手がかりをめちゃくちゃ提示して、登場人物の行動を整理して、疑問リスト容疑者リストまで作っているのに、一番大事な手がかりが全部後出しなのはつらいなぁ……。

謎解きミステリをガッツリやろうという黄金時代味はあるのに、肝心なところがいろいろ大味なのは、1930年に発表された、けどデビューは黄金時代前であるラインハートの作品として、ある意味妥当なのかもしれません。でも正直『螺旋階段』は早く読んでみたいかも。それくらいには楽しめる作品でした。

原 題:The Door (1930)
書 名:ドアは語る
著 者:M・R・ラインハート Mary Roberts Rinehart
訳 者:村崎敏郎
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 644
出版年:1961.07.15 初版
     1999.10.31 2版

評価★★★☆☆
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『黄』雷鈞 - 2019.12.01 Sun

雷鈞
黄
『黄』雷鈞(文藝春秋)

中国の孤児院で育ち、富裕なドイツ人夫婦の養子となった盲目の青年、阿大ことベンヤミン。中国で六歳の少年が木の枝で両目をくり抜かれる凄惨な“男児眼球摘出事件”が発生。ベンヤミンは被害者の少年を力づけ、同時に事件の真相を暴くべく、お目付け役のインターポール捜査員・温幼蝶とともに中華文明発祥の地・黄土高原へと旅立った――。第4回噶瑪蘭(カバラン)島田荘司推理小説賞受賞。(本書あらすじより)

何が嬉しいって、島田荘子推理小説大賞が、またちゃんと単行本として刊行されるようになったってことですよ。第3回受賞作の『ぼくは漫画大王』『逆向誘拐』は、ほら、あのなんかよく分からない版型だったじゃないですか(しかもクラウドファンディング)。第1回の『虚擬街頭漂流記』、第2回の『世界を売った男』のように、またきちんと出たというのは嬉しい限り。これも華文ミステリが以前よりも普及したおかげ……なのでしょうか。
さて、今回もごりっごりの、島荘大賞らしい、日本の新本格らしい本格ミステリ。正直言って、あんまり嫌いになれない(むしろまぁまぁ好き)な自分がいます。第3回(『漫画大王』、『逆向誘拐』)よりも、第1回(『虚擬街頭』)、第2回(『世界を売った男』)寄りというか。今年の海外本格ミステリの中では大きな収穫ではないでしょうか。

あらすじは省略。上記のあらすじが一番簡潔にまとまっています。
というわけで、主人公は盲目、しかも彼の一人称という時点で、何らかのそれを生かしたトリックが出てくるんだろうなぁ(そしてアレ系統かなぁ)と予想はしていたわけですが、これが実にきれいに決まっているのです。何というか、主人公の驚きと気付きがちゃんと物語全体に結び付けられているところに好感を持てます。作り物っぽい不自然さも、そのおかげで許せるというか。似た系統のトリックは海外ミステリの中でも何作か思いつきますが、それをかなり巧妙にやっているように思います。
ちなみに本書の冒頭で、「この小説には一つ叙述トリックが含まれている。ご注意を。」という注意書きがあります。読み終わってみると……叙述トリックという言葉の意味を正確に理解していれば、なるほど、そういうことか!となるのではないでしょうか。ここらへんも、地味に上手いし楽しいところ。

無理があるんだけど、無理がなく、シリアスにもなりすぎず、けど内容は(社会的に)シビア。主人公の自分探しの旅と推理がきちんと決着するところがすごく良いのです。270ページでこじんまりとまとまった良作。今年の華文ミステリの中では一番のおすすめです。

原 題:黃 (2015)
書 名:黄(コウ)
著 者:雷鈞(らいきん)
訳 者:稲村文吾
出版社:文藝春秋
出版年:2019.07.25 1刷

評価★★★★☆

『雪が白いとき、かつそのときに限り』陸秋槎 - 2019.11.25 Mon

陸秋槎
雪が白いとき、かつそのときに限り
『雪が白いとき、かつそのときに限り』陸秋槎(ハヤカワ・ミステリ)

冬の朝の学生寮で、少女が死体で発見された。白い雪に覆われた地面には足跡がなく、警察は自殺として処理する。5年後、生徒会長の馮露葵(ふう・ろき)は、寮委員の顧千千(こ・せんせん)の相談を受ける。いじめ騒動をきっかけに過去の事件の噂が校内に広がっているのだ。真相を探るべく、彼女は図書室司書の姚漱寒(よう・そうかん)と調査を始める。明らかになる、少女に関わった者たちの苦い過去。そんな折、新たな殺人事件が寮で発生する。しかもその現場は5年前と酷似した〝雪密室"だった……冷徹なロジックと青春の痛みが織りなす華文本格ミステリの新境地。(本書あらすじより)

えぇ……感想書かなきゃダメですか……。
去年話題になった歴史ミステリ『元年春之祭』の作者による、現代が舞台の青春本格ミステリ。周りの感想を色々と聞いたところ、要は法月綸太郎『密閉教室』(読んでないけど……)のような、エモさ重視の青春ミステリ好きのための作品、なのかな。ハマる人はめちゃくちゃハマっている一方で、全く響いていない人には全然ダメ、ということのようです。残念ながら自分は後者なのですが……。

かつて高校の学生寮で起きた、自殺か殺人か分からない雪密室下での事件。5年後、現在の生徒会長である馮露葵は、生徒の間に拡がるウワサを止めるため、事件の再捜査を始める。しかしそれは、新たな事件へのきっかけとなってしまうのだった……。

なんかねー、こういう小説を、どう楽しめばいいのか分かんないんですよ。少女たち・若者たちの、痛々しさとか、危うさとか、見ていられなさとか、そのへんが青春小説としてのエモさなんでしょうが、そういうのを読むこと自体が苦手、っていう。積極的に嫌いというよりは、興味が持てないというか。少女と少女の友情とかさ、そんなにしんどいのを読みたくないじゃないですか……。
本格ミステリとしても、正直これが真相?という感じで。某友人には、エモさ優先だからいいんだよ!『密閉教室』とかもそうだよ!(そうなの?)とか言われましたが、特に現在の事件なんかは、本当にこれでいいの?と思ってしまうのです。『元年春之祭』を読めば分かる通り、この作者はフー、ハウは用意しつつも、メインはホワイダニットな作風なわけですが、今回の、ザ・青春小説ぅ!!みたいな動機もさ……まぁ自分は動機にそもそもあんまり興味が持てないんだけど……。

全体的なシリアスさとか雰囲気も、『元年春之祭』と通じるものがあり、持ち味は十分に発揮されているとは思います。とはいえ、やっぱりハマらないんだよなぁ。これが日本の新本格のフォロワーなのか……シンホンカク難しいよ……なんなんだシンホンカクって……。

原 題:当且仅当雪是白的 (2017)
書 名:雪が白いとき、かつそのときに限り
著 者:陸秋槎
訳 者:陸秋槎
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1948
出版年:2019.10.15 1刷

評価★★☆☆☆

『休日はコーヒーショップで謎解きを』ロバート・ロプレスティ - 2019.10.03 Thu

ロプレスティ,ロバート
休日はコーヒーショップで謎解きを
『休日はコーヒーショップで謎解きを』ロバート・ロプレスティ(創元推理文庫)

拳銃を持って押し入ってきた男は、なぜ人質に“憎みあう三人の男”の物語を聞かせるのか? 意外な真相が光る「二人の男、一挺の銃」、殺人事件が起きたコーヒーハウスで、ツケをチャラにするため犯人探しを引き受けた詩人が、探偵として謎解きを繰り広げる黒い蘭中編賞受賞作「赤い封筒」。正統派推理短編や私立探偵小説等、短編の名手によるバラエティ豊かな9編をお贈りします。(本書あらすじより)

「ローズヴィルのピザショップ」The Roseville Way (2014)
「残酷」Brutal (2012)
「列車の通り道」Train Tracks (2018)
「共犯」The Accessory (2014)
「クロウの教訓」Crow's Lesson (2013)
「消防士を撃つ」Shooting at Firemen (2015)
「二人の男、一挺の銃」Two Men, One Gun (2013)
「宇宙の中心(センター・オブ・ザ・ユニバース) ——ワシントン州シアトル、フリーモント地区にて」The Center of the Universe (2009)
「赤い封筒」The Red Envelope (2013)

まさかの一日で読み切ってしまいました。面白かったぁ。
昨年、ミステリ作家シャンクスを主人公とした短編集『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』で話題となった、ロバート・ロプレスティの第二短編集(日本オリジナル)。基本的にシャンクスシリーズと同様の軽妙さ、良い意味での軽さを持ったノンシリーズ短編集です(一部シリーズ物もあり)。
ツイストもりもり、みたいな作風ではありませんが、この気軽さはジャック・リッチーを思い出します……と思ったのですが、よくよく考えたらそこまで似てないんですよね。現代ではちょっと珍しいとすら言える、気持ちの良い作品集ではないでしょうか。軽さと暗さを両立させた作品を読めるのが良いんだよなぁ。

変則マフィアもの&田舎住民一致団結が楽しい「ローズヴィルのピザショップ」、シリアスな復讐譚からの着地点が見事な「列車の通り道」、読みにくさが一種の魅力であり急展開でも読ませる「宇宙の中心」、ばりばりネロ・ウルフ中編インスパイアの「赤い封筒」あたりが好き。中編「赤い封筒」は、うわっ100ページもある上に登場人物ごちゃごちゃしてて読みづらい、と思って読み始めたら、正統派謎解きもので、しかも結構読みやすかったので、この作者の長編も面白そうだなと感じました。

というわけで、これは本当におすすめ。シャンクスシリーズも良かったけど、こっちの短編集の方が好きだなぁ。継続して作品が紹介されることを期待します。

原 題:The Red Envelope and Other Stories (2012~2018)
書 名:休日はコーヒーショップで謎解きを
著 者:ロバート・ロプレスティ Robert Lopresti
訳 者:高山真由美
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mロ-10-2
出版年:2019.08.09 初版

評価★★★★☆

『ブルーバード、ブルーバード』アッティカ・ロック - 2019.03.07 Thu

ロック,アッティカ
ブルーバード、ブルーバード
『ブルーバード、ブルーバード』アッティカ・ロック(ハヤカワ・ミステリ)

テキサス州のハイウェイ沿いの田舎町で、ふたつの死体があいついで発見された。都会から訪れていた黒人男性弁護士と、地元の白人女性の遺体だ。停職処分中の黒人テキサス・レンジャー、ダレンは、FBIに所属する友人から、事件の周辺を探ってほしいと頼まれて現地に赴くが――。愛と憎悪、正義の在り方を卓越した力量で描き切り、現代アメリカの暗部をえぐる傑作ミステリ。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長篇賞の三冠受賞作!(本書あらすじより)

アッティカ・ロック……『黒き水のうねり』(未読)だけ邦訳のある黒人女性作家ですね。エドガー賞を獲った本作は、人種差別を扱ったアメリカ南部物……ではあるのですが、読む前に想像していたものとはかなり違いました。おそらく大多数の人が想像するものよりは読みやすいのではないかと思います。

主人公ダレンは、テキサス州法執行官であるテキサス・レンジャー。田舎町で黒人男性、そして白人女性が殺された事件に、強引に首を突っ込んだダレンであったが、そこではお馴染みの、そして複雑な白人社会と黒人社会の対立があり……。

目立った大きな動きがほとんどない地味〜な捜査物。黒人である、主人公のテキサス・レンジャー(こういう法執行官がいることも初めて知った)と白人社会(保安官含む)との露骨な衝突から幕を開けます。が、こういった場面は、序盤はありますが中盤以降はほぼありません。21世紀のテキサス州では、黒人と白人は色々な意味で共存しているわけです。ですから、表立った分かりやすい対立ばかり起きるわけではありません。本作は、アメリカ南部における黒人と白人の水面下の対立と共存を、様々な形でじっくり描き出しているのです。

そして、その合間合間に挿入される回想シーンがめちゃくちゃ良いんですよ。数年前、さらには数十年前から続く、田舎町ならではの問題点が、回想によって徐々にあぶり出されていくのが非常に上手いのです。これは、人種という壁を背景とした、家族の、そして愛のミステリなんだなぁ……。
主人公ダレンを含め、誰一人完全な正しさは持っていないし、それぞれの正義も曖昧です。だからか、終わり方含めてすごくもやっとさせるのですが、でもこれはこれで超リアルな、現代のテキサスの姿なのではないかと思うわけです。

もったいないのは、ダレンが追い求める白人至上主義団体ABTの存在とか、ダレンのプライベートである妻や家族との関係の部分とかが、ストーリーの中では浮いて見えちゃうところ。要するに主人公関連のことが浮いているんです。ただ、本作が田舎町ラークに凝縮された「テキサスの物語」である以上、ダレン自身の物語も必要なのは分かるので……うーん難しい。これは続編(絶対ある)でもっと掘り下げて欲しいですね。

というわけで、現代ミステリらしいハードな物語でしたが、意外と読みやすいので、ちょっと気になるなぁという方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。濃厚、濃密な「家族の物語」を堪能できるはず。

原 題:Bluebird, Bluebird (2017)
書 名:ブルーバード、ブルーバード
著 者:アッティカ・ロック Attica Locke
訳 者:高山真由美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1938
出版年:2018.12.15 1刷

評価★★★★☆

『ホテル・カリフォルニア』アラン・ラッセル - 2018.11.28 Wed

ラッセル,アラン
ホテル・カリフォルニア
『ホテル・カリフォルニア』アラン・ラッセル(集英社文庫)

サンディエゴの海岸に聳え建つ、客室数712を誇る豪華リゾートホテル「ホテル・カリフォルニア」。副総支配人のアム・コールフィールドは保安部長の兼任を仰せつかったが――ひとの集まるところには事件も起こる。下着泥棒、飛びおり騒ぎ、175人の同姓同名客の押し寄せた晩についに死体まで見つかって……かくしてアムは右往左往の毎日。素人ホテル・ディックのオフ・ビートな活躍。(本書あらすじより)

以前Twitterで、集英社文庫には知られざる名作がいっぱいありそう、誰か教えて、と呟いたところ、教えていただいた本です。
いやもう、めちゃくちゃ楽しかったです。超おすすめしたくなる、びっくりするくらい良い本です。誰かに無理やり渡したいレベル。古本屋さんで見かけたら、即購入すべし。

超高級ホテルの副支配人が、支配人不在の中、ホテル探偵としてありとあらゆる揉め事をホテル研修の女の子と解決して回る話。殺人2件、巨大ブラ盗難事件、疑わしい自殺、シェフの癇癪、175人の同姓同名、クレーマー夫妻、などなど、全450ページを通じて最初から最後まで事件が起き続けます。

さて、まず登場人物一覧の一部をご覧ください。
ホテル・カリフォルニア登場人物一覧
ね? もう最高でしょ?(有無を言わさない)

何か既視感あるなと思ったら、これ、ホテル版フロスト警部なんですよ。マレット不在の中、新人と一緒に街の事件を解決して回る、まさにフロスト警部そのものなんです。つまりはモジュラー型。従業員1000人と宿泊客750人を抱えるこの超高級ホテルは、一種の街みたいなもんなわけです。
起きる事件はキテレツなものばかり、登場人物もクセの強い変人ばかり、哲学専攻だった主人公のブラックユーモアも光りまくり。そんなユーモアまみれの展開の中に、ホテルで働く人たちや住人の悲哀やプライドがこそっと描かれていきます。面白くないわけがないでしょう。最高かよ。
ホテルのことは裏も表も知り尽くす主人公アムの、文句を言いつつもプロとしてひたすら対応を続けていく様が、まーたかっちょいいのですね。一方、冒頭からうっかり人を殺し、その後特に行く当てもなくうろつきまわっている殺人犯の情けなさ、所在なさげな様子も、まさに人間味あふれんばかりで、なぜだか妙に印象に残ります。オーバーなキャラの登場人物がはい回る横で、こういった人間臭い登場人物をさらっと混ぜ込んでしまう作者アラン・ラッセルさん、いい……。

このゴタゴタした話にどうオチをつけるのかと思ったら、これまたちょっぴり苦さの残るエンディングが素晴らしいんです。シリーズ2作目が訳されなかったのは、いやほんと、悲しいとしか言いようがありません。集英社さん、俺は読みたかったよ……(23年前に出た本に文句をつける悪い読者)。

というわけで、まだまだ埋もれた名作はある、ということです。気軽に読める、満足度120%の人情とユーモアあふれるミステリですので、興味がある方はぜひぜひ。

原 題:The Hotel Detective (1994)
書 名:ホテル・カリフォルニア
著 者:アラン・ラッセル Alan Russell
訳 者:日暮雅通
出版社:集英社
     集英社文庫 ラ-5-1
出版年:1995.08.25 1刷

評価★★★★★

『まちがえた番号 ストリッパーの死』ミッシェル・ルブラン - 2018.11.12 Mon

ルブラン,ミッシェル
まちがえた番号 ストリッパーの死
『まちがえた番号 ストリッパーの死』ミッシェル・ルブラン(創元推理文庫)

真夜中の三時、妻の留守中、アランの帰りを部屋の前で待ちわびていたのは、七年前に愛しながら別れた恋人のユゲットであった。しかし、楽しいはずの再会も束の間、彼は次々と起こる《不可解な事件》へと巻き込まれることになった。劇作家アランを主人公に、彼とかかわりのあった女性の身の上に起こる二つの怪事件「紙切れに書かれた謎の電話番号と一時預りの半券の裏に潜む殺人事件の謎」冒頭から波瀾に富む挿話や意外な出来事を複雑なプロットで描く異色作二作収録。(本書あらすじより)

表紙タイトルは『まちがえた番号』ですが、奥付を見ると『まちがえた番号 ストリッパーの死』とあるので、そのようにしています。『未亡人』などと同じく、創元推理文庫のミッシェル・ルブラン二作収録のひとつ。
ミッシェル・ルブラン、まだ3冊しか読んでいない中で言うならば、『殺人四重奏』だけは読んでほしいけど、あとはまぁ、別にいっかな、という結論になりつつあります。少なくとも、今回の出来は微妙かなぁ。

「まちがえた番号」「ストリッパーの死」は、共に劇作家アラン・ヴィネルが探偵役(という名の別に解決できない人)という、ルブランの中では比較的本格ミステリ寄りのものです。が、結局そこに期待してもしょうがないので、だったらサスペンスに全振りした作品の方が圧倒的に良いよねと思った次第。

「まちがえた番号」は、突如訪れてきたかつての恋人から頼まれ、男の家に電話するも、見知らぬ女、見知らぬ男が返事し、そこから殺人事件に巻き込まれてしまう、というもの。180ページしかないのに、ややこしすぎて頭がパンクしそうになります。いくつかネタ的には面白いところもありますが、ややこしくすることが目的みたいなプロットはちょっと気に入りません。

「ストリッパーの死」は、地方への旅行で何となく入ったストリップ・バーで出会った女性が、別れた後殺されていたことを知り、大金の絡む殺人事件に巻き込まれてしまう、というもの。結構純粋なフーダニットでそこは面白いのですが、結局サスペンス寄りになるせいで謎解き要素はほぼなく、中途半端なまま終わってしまったという印象です。

例えば、『殺人四重奏』なんかはどんでん返しを仕掛けまくった見事な作品ですし、『未亡人』収録の「未亡人」「罪への誘い」もまた、これでもかとどんでん返しを主軸とした良作だっただけに、やっぱりミッシェル・ルブランの得意なのは謎解きではなくこっちなんだろうな、と思います。

原 題:Faux numéros / La mort dans ses bagages (1956, 1959)
書 名:まちがえた番号 ストリッパーの死
著 者:ミッシェル・ルブラン Michel Lebrun
訳 者:鈴木豊
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 432(Mル-3-4)
出版年:1973.04.13 初版

評価★★☆☆☆

『元年春之祭』陸秋槎 - 2018.10.18 Thu

陸秋槎
元年春之祭
『元年春之祭』陸秋槎(ハヤカワ・ミステリ)

前漢時代の中国。かつて国の祭祀を担った名家、観一族は、春の祭儀を準備していた。その折、当主の妹が何者かに殺されてしまう。しかも現場に通じる道には人の目があったというのに、その犯人はどこかに消えてしまったのだ。古礼の見聞を深めるため観家に滞在していた豪族の娘、於陵葵は、その才気で解決に挑む。連続する事件と、四年前の前当主一家惨殺との関係は?漢籍から宗教学まで、あらゆる知識を駆使した推理合戦の果てに少女は悲劇の全貌を見出す――気鋭の中国人作家が読者に挑戦する華文本格ミステリ。(本書あらすじより)

いろいろと忙しかったので、久々の更新です。今から10月末までは頑張りたいところ。
さて、新本格からモロに影響を受けていると思われるガチ本格の華文ミステリが、ついにポケミスから出る時代になりました。読者への挑戦ですよ、読者への挑戦。SF大作の劉慈欣『三位』の翻訳も早川書房から予告されたことですし、『13・67』以降、各出版社から華文ミステリがどんどん出る動きが続けばよいですね。
さて、感想なのですが……うーむ、難しい。どこを見るかで、大きく評価が分かれるかなと思いますが、一読の価値は大いにある作品ではないでしょうか。

舞台は前漢時代の中国……の田舎。地方の名士・観一族のもとに、中央の豪族の娘・葵が訪れる。明晰な頭脳と推理力を持つ葵を交えて宗教談義などに花が咲く中、観一族の当主の妹が不可能状況のもとで殺されてしまう。4年前の一家惨殺事件との関連は? 当主の娘・露申は、葵と共に殺人事件の真相を調べるが……。

冒頭から雪密室大量殺人、さらに衆人環視下の不可能犯罪、連続殺人事件、二度にわたる読者への挑戦と、これ本当にポケミスなの?と言いたくなるくらいのギミックもりもり本格ミステリです。大きな仕掛けやどんでん返しも特になく、黄金時代的な正攻法の本格、というのもまた一周まわって珍しいですね。さらに、前漢の、長安ではなく地方を舞台にしており、宗教・信仰、地方豪族の立ち位置なども描かれ、雰囲気もなかなか趣きがあります。

まず、本格ミステリとして評価した場合ですが……ここが一番、迷うところです。トリックなどは、正直言って手放しで褒められるものではないですし(雪密室も、衆人環視も、そう解決しちゃうかぁ……という残念なやつ)、二回挿入される読者への挑戦もあまり効果的とは思えません。ただ、舞台立てや、名家殺人事件というシチュエーションはかなり楽しいですし、推理談義や偽の真相、最後の明かし方などは結構好み。「本格ミステリ」という読み物として面白い、という感じです。あとあれか、ホワイダニットに目がない人はこういうの好きかも。
ただ、個人的にはストーリーラインの方を評価したいです。性格の合わない少女二人の捜査、現実を知り打ちのめされる主人公、来て、そして去っていく名探偵などなど。苦い結末も、実にちょうど良い具合というか。やや記号的な登場人物たちはあまり深く描かれておらず、テンポよく死にゆくのみですが、ある意味これが許されるのが「ザ・本格ミステリ」な構造なのかなと思います。

というわけで、『13・67』に続く、華文ミステリブームの火付け役になるかも、という作品でした。初期島田荘司推理小説賞のようなゴリゴリのどんでん返し中心のミステリよりも、強いて言えばより現代海外ミステリ的な作品の方が、いまの海外読みの間には広まりやすいのではないかな、と思うだけに、今回の『元年春之祭』が大きなきっかけになると良いですね。なんてったって、ポケミスなわけですから。

原 題:元年春之祭 (2016)
書 名:元年春之祭
著 者:陸秋槎 陆秋槎
訳 者:稲村文吾
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1935
出版年:2018.09.15 1刷

評価★★★★☆

『虎の宴』リリー・ライト - 2018.08.24 Fri

ライト,リリー
虎の宴
『虎の宴』リリー・ライト(ハヤカワ・ミステリ)

コレクターで研究家の老ダニエルにチャンスがめぐってきた。盗掘者が偶然に発掘した、アステカ最後の皇帝の宝石で作られた美しいマスクを入手できそうなのだ。彼の代理でメキシコへ飛ぶのは、娘のアナ。だが入手直前、取引現場に乱入してきた暴漢がマスクを強奪してしまった。富豪コレクター、マローンの横槍だ。怒ったアナは奪回のため、秘かに彼の身辺に潜入する。いっぽう地元の麻薬王レイエスもまた、マスクを手に入れようと画策して……かくして執念と欲望まみれの壮絶な闘いの幕がここに切って落とされた! 混沌の地で繰り広げられる、争奪戦! 高く評価された新鋭、注目のデビュー作。(本書あらすじより)

発売前は、あらすじ見て超面白そうじゃん、ポケミスで久々のガッツリ冒険小説だぜ!と思っていたんですが。こんなのに時間取られたんだと思うと、だんだんイライラしてきました。うーん、マジで読む必要がなかったかも……。

メキシコを舞台に、アステカ帝国最後の皇帝のマスクをめぐり、アメリカ人収集家とその娘、麻薬王、盗掘屋、よく分からん現地の画家などが争い合う……のですが、とにかくお互いマスクを取り合っているだけで何にも話が深まりません。なんでこんなのに500ページもかかるんじゃ。
なんでかって、要するにサスペンス感がゼロだからなのです。サスペンス感がゼロというより、そもそもサスペンスじゃない、という方が近いかも。主人公である若い女性が、拳銃を突き付けられても、ぼんやりそれを見ているだけで、気付いたらマスクを持っていかれた、みたいな描写ですからね。

じゃあサスペンスじゃないなら何をやっているかというと、それぞれがメキシコというカオスな舞台で、ヤクに溺れたりワンナイトラブを狙ったりと、好き勝手やっているのです。これが、とりとめない(ラリってるほどでもない)文体で、だらっだら語られます。主人公アナのキャラクターとか、どこまで作者がちゃんと掘り下げたいのか分かんないぞ……。
やってることはギャング物に近いんでしょうが、それほどカッチリした話作りをしていないので、どうしてもエンタメ的には弱い作品なのです(あらすじの「執念と欲望まみれの壮絶な闘いの幕がここに切って落とされた!」に騙されてはいけません)。そういう意味では、作者がアメリカ人とはいえ、南米物の独特の雰囲気に似ていなくはないかも。『ネルーダ事件』とか。

というわけで、『老いたる詐欺師』に続いて、今年はポケミスの爆弾をよく引くなぁ……。新刊ポケミスは12冊中6冊は読もう、というのが毎年の目標なので、まぁこれも修行だと思って頑張ります。まさに修行だよ、いやほんと。

原 題:Dancing with the Tiger (2016)
書 名:虎の宴
著 者:リリー・ライト Lili Wright
訳 者:真崎義博
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1932
出版年:2018.06.15 1刷

評価★★☆☆☆

『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』ロバート・ロプレスティ - 2018.07.08 Sun

ロプレスティ,ロバート
日曜の午後はミステリ作家とお茶を
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』ロバート・ロプレスティ(創元推理文庫)

「事件を解決するのは警察だ。ぼくは話をつくるだけ」そう宣言しているミステリ作家のシャンクス。しかし実際は、彼はいくつもの謎や事件に遭遇し、推理を披露して見事解決に導いているのだ。取材を受けているときに犯罪の発生を見抜いたり、『マルタの鷹』初版本盗難事件に挑んだり、講演を依頼された大学で殺人事件に巻き込まれたり……。図書館司書の著者が贈る連作短編集!(本書あらすじより)

「シャンクス、昼食につきあう」 Shanks at Lunch (2003)
「シャンクスはバーにいる」 Shanks at the Bar (2014)
「シャンクス、ハリウッドに行く」 Shanks Goes Hollywood (2005)
「シャンクス、強盗にあう」 Shanks Gets Mugged (2005)
「シャンクス、物色してまわる」 Shanks on the Prowl (2006)
「シャンクス、殺される」 Shanks Gets Killed (2009)
「シャンクスの手口」 Shanks on Misdirection (2009)
「シャンクスの怪談」 Shanks' Ghost Story (2014)
「シャンクスの牝馬」 Shanks' Mare (2014)
「シャンクスの記憶」 Shanks for the Memory (2014)
「シャンクス、スピーチをする」 Shanks Commences (2012)
「シャンクス、タクシーに乗る」 Shanks' Ride (2013)
「シャンクスは電話を切らない」 Shanks Holds the Line (2014)
「シャンクス、悪党になる」 Shanks Goes Rogue (2016)

今年一番の話題作になりつつあるような短編集。確かに現代でこういうミステリ短編集は貴重です。良いものを読んだ、という感じ。
どれも20ページほどの短編で、長くても40ページくらい、短いものだと6ページしかありません。寝る前に1編だけ読むような、気軽で、軽く捻りもある、軽妙なミステリ短編集なのです。『黒後家蜘蛛の会』とか、『快盗ルビイ・マーチンスン』とか、ジャック・リッチーとかを思い起こさせます。最近はこの手の短編集はなかなか訳されないので……(という訳者の思いは、後書き参照)。

ミステリ作家シャンクスの出くわした、ちょっとした事件からちょっとしない事件まで、を描いた14作品が収録されています。ほとんどの作品が《アルフレッド・ヒッチコック・ミステリ・マガジン》に掲載されたもので、それら9編に未発表作品4作を加えた形で、本国で『Shanks on Crime』として2014年に発表されています。日本版は、これに最新作「シャンクス、悪党になる」を付け加えたもの。

ミステリ作家シャンクスによる作家あるあるネタが、思ったより豊富に散りばめられているのが効果的で、程よいユーモアとなり、楽しく読めるのかなと思います。極力血なまぐさい犯罪を排した中で、謎解きのシチュエーションを設けようとする作者のがんばりがすごい……。作者自身が、この手の気軽な作品って良いよね!という気持ちで書いているのがこのシャンクス・シリーズのようです。だから、三回連続で雑誌掲載を断られたあげく、泣く泣くシャンクスを殺人と遭遇させざるを得なかった作者の気持ちを考えると……うぅむ、作家はつらいぜ。

良い意味で全部70点くらいですが、特に印象に残ったのは、多重解決の趣もある「シャンクスはバーにいる」、安楽椅子探偵ものの「シャンクス、タクシーに乗る」あたり。比較的長めの「シャンクス、スピーチをする」も面白かったので、中編、長編もいける作家なのかもしれません。
がっつり本格ミステリ寄りのものから、ツイストを楽しむもの、日常の謎、コン・ゲーム風までテンコ盛りですので、何か好きな作品が見つかるのではないでしょうか。各作品の後の、作者による一言コメント(黒後家蜘蛛風)と合わせて、ぜひどうぞ。

原 題:Shanks on Crime and the Short Story Shanks Goes Rogue (2003~2014)
書 名:日曜の午後はミステリ作家とお茶を
著 者:ロバート・ロプレスティ Robert Lopresti
訳 者:高山真由美
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mロ-10-1
出版年:2018.05.11 初版

評価★★★★☆

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人3年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から9年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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