『悔恨の日』発売

2017-11

『樹脂』エーネ・リール - 2017.11.02 Thu

リール,エーネ
樹脂
『樹脂』エーネ・リール(ハヤカワ・ミステリ)

デンマークの僻地に住む一家。ほぼ自給自足の幸せな暮らしは、クリスマスに起きた事件を境に一変する。変わり者の父は偏屈さを増し、物静かな母は次第に動けなくなり、少女リウはゴミ屋敷と化した家で、隔絶された世界しか知らずに育っていく。やがて赤ん坊が生まれることになったが、そのときリウは父の意外な姿を目にし……。一家はなぜこうなってしまったのか? 心を打たれる切なさで北欧ミステリ界に新風を吹きこみ、北欧最高のミステリ賞「ガラスの鍵」賞、デンマーク推理作家アカデミー賞の二冠に輝いた傑作長篇。(本書あらすじより)

新刊ベスト5が更新されたことをお知らせします。
いやもうマジで素晴らしかったです。エッセンスだけ抜き出せば「監禁系この家やばい」ミステリに近いんでしょうが、少女の視点や母親の手記の挿入によって、独特な仕上がりになっています。非常にクセのある書き方のせいで、むちゃくちゃ読みづらいですが、ぜひぜひ最後まで読み通してほしい作品です。薄いし。

まず、いきなり開始3ページで分かるクレイジーさ。なにやらクレイジーな家族のクレイジーな少女の語りから始まるのですが、どう考えてもこの家おかしいぜ、普通におばあちゃんを殺してるぜ、ってな幕開きなのです。しかもそれを、純真な少女が書き綴っているので余計にやばさがあります。
ゴミ屋敷の少女視点、ゴミ屋敷の主の視点、ゴミ屋敷の過去視点によって、読者がこの家に対して主観的な視点しか持てないのが上手いですよね。そのせいで、問題を抱えてはいるものの、問題ありまくりな登場人物全てに好感を持ってしまうのがズルい。巨大化して身動きの取れないというファンタジーみたいな設定の母親、息子の嫁に対して執拗なまでに悪意をぶつける姑、と登場人物どれもがクレイジーで、かつ心からは嫌いになれない人たちなのです。
その核となる家の主であるおとうさんは、ほぼ狂気に囚われているとはいえ、やはり悪人とは言い切れないところがあります。さっき「ゴミ屋敷」という言葉を使いましたし、解説にもゴミ屋敷という言葉が使われていますが、正直言って「ゴミ」であふれてはいても「ゴミ」とは言いたくなくなるあたり、作中人物にめっちゃ共感してしまっているんだろうなぁ、なんて思うわけです。

しかし終盤、この家の外の人物による、客観的な視点が登場することで、はっとさせられてしまうのです。なるほど、この家はこんなにやばかったのかと。けど嫌いになれない、という、その塩梅が絶妙です。
こういったことが、現在過去がばらばら、視点もバラバラの、まとまりのない分かりにくい叙述で語られていくので、真ん中あたりまで読みにくいことこの上ないのですが、その過程でしっかりと読者が状況を把握できるんだから不思議。意図的な分かりにくさが実に効果的です。
そしてラストのカタストロフィがねー、いやもう、こういうの好きだって前から言ってますが、やっぱり良さしかありません。ラスト1ページの余韻も見事で、ここで傑作認定をしました。

というわけで、今年の新刊の中ではかなりの変わり種変化球ですが、ぜひぜひ試していただきたい一作。いよいよ北欧ミステリも、正統派じゃないのがたくさん紹介されるようになり、面白くなってきた感がありますね。

原 題:Harpiks(2015)
書 名:樹脂
著 者:エーネ・リール Ane Riel
訳 者:枇谷玲子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1923
出版年:2017.09.15 1刷

評価★★★★★
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『代診医の死』ジョン・ロード - 2017.10.29 Sun

ロード,ジョン
代診医の死
『代診医の死』ジョン・ロード(論創海外ミステリ)

資産家の最期を看取った代診医の不可解な死。プリーストリーの鋭い推理が暴き出す真相とは……。筋金入りの本格ミステリファン必読。あなたは作者が仕掛ける巧妙なプロットを読み解けるか?(本書あらすじより)

初ジョン・ロード。退屈派の一人と呼ばれるようですが、意外と面白いじゃん……と思っていたのは序盤まで。トリックなど大いに評価はしますが、よくて70点かなぁという感じ。結局のところ、ジョン・ロードは「退屈派」だったのでした。

田舎町の医者が休暇中に代わりを務める代診医が殺された。事件当時、周辺の村では不審人物の目撃が相次いていたが、時間や場所の説明がつけられず捜査は難航。ワグホーン警視とプリーストリー博士が導き出した結論は?

捜査手順を逐一書いてしまうどうしようもなく小説が下手なところ(黄金時代風)や、はっきりしない微妙な事件を牛歩レベルで解き明かしていく過程など、最初はとにかく好ましさしかありませんでした。これですよ、こういう地味な本格ミステリを読みたかったんですよわたしゃ。
序盤で提示される謎の複雑さ、先の見えなさ、説明のつけられなさは、これぞ本格ミステリ!という楽しさ。読んでいる途中で、こういうことでは……?という50点くらいの予想は立てられるものの、(ある意味アンフェアと指摘される部分のおかげで)完答は難しいですし、何より意外性も強けりゃラストの腑に落ちるっぷりもすごいのです。代診医の死という、事件そのもののホワイとハウがかなり強めなのも嬉しいポイント。何よりタイトルがこれなのに、最初に代診医が死なないところが良いじゃないですか。

と、本格ミステリとしては大いに評価したいのですが、中盤のアホみたいにダルい(そして大して役にも立たない)試行錯誤推理談議がさすがに退屈すぎました。ジミー・ワグホーン警視が調査した内容をプリーストリー博士らに報告し、推理する、という構成なのですが、ここで何にも意外なことが出てこないからなぁ……。警視は頑張って全部調べていて偉いね、という感想しかありません。

とりあえず論創海外ミステリらしい良本格ミステリだと思います。レオ・ブルースあたりならもっとスマートに書けそうだけど。あと、これがジョン・ロードのベスト級なのだとすれば、とりあえずこの1作で十分と思ってしまう自分がいるな……。

原 題:Dr. Goodwood's Locum(1951)
書 名:代診医の死
著 者:ジョン・ロード John Rhode
訳 者:渕上痩平
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 191
出版年:2017.07.30 初版

評価★★★☆☆

『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ - 2017.10.13 Fri

レピラ,イバン
深い穴に落ちてしまった
『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ(東京創元社)

ある日、兄弟が森で穴に落ちてしまった。深さ7メートルの穴からどうしても出られず、木の根や虫を食べて何か月も極限の環境を生き延びようとする。外界から遮断された小さな世界で、弟は現実と怪奇と幻想が渾然一体となった、めくるめく幻覚を見はじめる……。名も年もわからない兄弟は、なぜ穴に落ちたのか? なぜ章番号が素数のみなのか? 幻覚に織り交ぜられた暗号とは? 寓意と象徴に彩られた不思議な物語は、読後、驚愕とともに力強い感動をもたらす。スペイン版『星の王子さま』であり、暗黒時代を生きる大人のための寓話。(本書あらすじより)

あらすじ読んで、面白そうと思うじゃないですか。素数の章番号とかめっちゃ興奮するじゃないですか。で、読んでみるわけじゃないですか。
……なんじゃこりゃ。
とりあえず『星の王子さま』のタイトルを出して、「大人のための寓話」なんて言うのはやめた方がいいと思うぞ。そんな生易しいもんじゃないぞ。虫食って生き延びるんだぞ。

名前も明かされない、なぜ森にいたのかも明かされない兄弟が、深い穴に落ちてしまいます。どうあがいても出られず、食料もない中、だんだんと狂気に蝕まれていく二人ですが……。

わずか120ページほどの小説であり、確かにこれは寓話なのでしょう。解説にもある通り、スペインの政権批判やら、読者に向けられた暗号やら(解説読んでも分からなかったのでググってしまった)、まぁ、そういう比喩とかメッセージに満ち満ちた作品なのだと思います。
思いますが、ぶっちゃけ読んでいて比喩とかメッセージとか何も分からないので、そうなると単純に「サバイバル虫食い気持ちわる小説」としてでしか評価できません。穴の中に落ちてきた鳥を、すぐ食べてしまうのではなく、吊り下げておいて、湧いてきた虫を食べようとか言うんですよこのお兄ちゃんは(賢明な判断かもしれないけど)。弟がどんどん狂気に苛まれ、衰弱していく様を読むしかないわけですよ読者としては。何これきっつ。

うーん……感想を書きようがないので、このへんで切り上げるか……。読んでいて謎が多いのは確かなので(母親へ届ける食料、とかあれは何だったのか)、もやっとする文学がお好みの方向けかなぁ。

原 題:El niño que robó el caballo de Atila(2013)
書 名:深い穴に落ちてしまった
著 者:イバン・レピラ Iván Repila
訳 者:白川貴子
出版社:東京創元社
出版年:2017.01.20 初版

評価★★☆☆☆

『母の記憶に』ケン・リュウ - 2017.10.10 Tue

リュウ,ケン
母の記憶に
『母の記憶に』ケン・リュウ(ハヤカワ・ミステリ)

不治の病を宣告された母が愛する娘のために選び取った行動をつづる表題作、明治時代の満州にやってきた熊狩り探検隊一行の思いがけない運命を描いた「烏蘇里羆(ウスリーひぐま)」など、あたたかな幻想と鋭い知性の交錯を透徹した眼差しで描いた16篇を収録した、待望の第二短篇集。(本書あらすじより)

「烏蘇里羆(ウスリ―ひぐま)」The Ussuri Bear(2014)
「草を結びて環(たま)を銜(くわ)えん」Knotting Grass, Holding Ring(2014)
「重荷は常に汝とともに」You’ll Always Have the Burden with You(2012)
「母の記憶に」Memories of My Mther(2012)
「存在(プレゼンス)」Presence(2014)
「シミュラクラ」Simulacrum(2011)
「レギュラー」The Regular(2014)
「ループのなかで」In the Loop(2014)
「状態変化」State Change(2004)
「パーフェクト・マッチ」The Perfect Match(2012)
「カサンドラ」Cassaandra(2015)
「残されし者」Staying Behind(2011)
「上級読者のための比較認知科学絵本」An Advanced Readers’ Picture Book of Comparative Cognition(2016)
「訴訟師と猿の王」The Litigation Master and the Monkey King(2013)
「万味調和――軍神関羽のアメリカでの物語」All the Flavors(2012)
「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」The Long Haul: From the ANNALS OF TRANSPORTATION, The Pacific Monthly, May 2009(2014)

間違いなく面白かったんですが、なんだか後半は疲れてしまいました。『紙の動物園』は413ページだけど、『母の記憶に』は526ページもあるんですよねー。
さて、ひと頃話題をさらったケン・リュウの、日本オリジナル短編集第二弾です。バラエティの面では、同じテーマの繰り返し感の強かった(それもいいんだけど)『紙の動物園』よりはるかに増しており、作者の成長を感じられます。また、間違いなく完成度も高いんですよね。今回も、SFファンに限らず、広くおすすめしたい作品集です。だいたい自分もSFファンじゃないし。しかし、あまりガジェットっぽくもSFっぽくもない作品が好きなので、やっぱ自分はSF読みにはなれないなぁ。

3作あげるなら「母の記憶に」「レギュラー」「訴訟師と猿の王」でしょうか。表題作はかなり短い掌編なのですが、当然のように良いです。こんなん泣くわずるい。
「レギュラー」は、SFハードボイルドなんです。攻殻機動隊的な。私立探偵が、SF的な要素の絡む犯罪を追う、という話。本短編集のベストです。こういうのもっと書いてくれればいいのに。
「訴訟師と猿の王」は、ケン・リュウが最近はまっているらしい歴史もの。清代初期が舞台の中編で、史実の混ぜ方が上手いですね(もはやSFでもない気もする)。

ぶっちゃけ『紙の動物園』の方がより方向性が分かりやすいだけに、とりあえずケン・リュウを手に取ってみよう、という人は『紙の動物園』からどうぞ。ちなみに例の長編三部作は……読む予定はないかな……。

原 題:Memories of My Mother and Other Stories(2004~2016)
書 名:母の記憶に
著 者:ケン・リュウ Ken Liu
訳 者:古沢嘉通
出版社:早川書房
     新ハヤカワ・SF・シリーズ 5032
出版年:2017.04.25 1刷

評価★★★★☆

『寝た犬を起こすな』イアン・ランキン - 2017.09.21 Thu

ランキン,イアン
寝た犬を起こすな
『寝た犬を起こすな』イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)

女子学生が運転する車が起こした衝突事故。不自然な状況に気づいたリーバスは、車に同乗者がいたことを突き止めるが、彼女は頑として口を開かない。事故の影には、何かが潜んでいるようだが……いっぽう、組織改編で犯罪捜査部に送られることになったフォックスは、内部調査の最後の仕事としてリーバスが若き日に所属した署に、隠蔽された事件の痕跡を発見する。彼の捜査はリーバスの身におよぶのか? 独立の是非に揺れるスコットランドで展開する、人気シリーズ最新刊!(本書あらすじより)

『寝た犬を起こすな』が面白すぎたので、今までイアン・ランキンを読まず嫌いにしていた自分にだんだん腹が立ってきました。そりゃそうだよ、イギリス警察小説だもん……好きに決まってらぁ……。

不可解な点の残る些細な交通事故、スコットランドの独立をめぐるごたごた、30年前の若かりし頃のリーバスをめぐる警察の不正、といった事件の捜査が同時並行的に進められる警察小説らしい内容。登場人物が相互に絡み合うので非常に複雑ですが、非常に読みやすいです。

過去と現在がゆる~く交差し、あんまり少なくもない登場人物たちが関連し合うだけで読ませます。不可解な交通事故から始まるホワットダニットが、次第にスコットランドの独立という政治的な面の絡む大事(おおごと)に発展していくのが面白いのですが、最後のたたみ方はちょっと期待しすぎたというか、やや安易だったかなという気がしなくもありません。
とはいえ書き方が極上なので、普通に捜査の過程が面白いんですよね。リーバス、フォックス、シボーンという三者三様の刑事たちを主人公に据えることで、刑事とは何か?という問に迫っているのも良いです。30年前、若造であったリーバスには知らされていなかった、通称「裏バイブルの聖人たち」の刑事たちが隠していたことは何なのか?という疑問に、リーバス自らぶつかり、かつての仲間を追い込んでいくのです。ぶっちゃけ拷問まがいのことをしてでも自白を引き出した方が良い刑事なのか、それとも例えどんなに容疑者が疑わしくとも証拠不十分であればきちんとした捜査にのっとり釈放すべきなのか、という問いが老刑事リーバスに突き付けられます。ラストにリーバスが辿り着く「刑事像」が、警察小説とノワールのギリギリのラインを攻めているようで興奮します。

とりあえずこれからはリーバス警部シリーズを読もうという気持ちになれたので、それだけで読めて良かったなぁと。普通に『紐と十字架』から読んでみます。ちなみに原題は素直に『裏バイブルの聖人たち』にした方が、意味不明だけどかっこいい、かも。

原 題:Saints of the Shadow Bible(2013)
書 名:寝た犬を起こすな
著 者:イアン・ランキン Ian Rankin
訳 者:延原泰子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1919
出版年:2017.05.15 1刷

評価★★★★☆

『棺のない死体』クレイトン・ロースン - 2017.06.12 Mon

ロースン,クレイトン
棺のない死体
『棺のない死体』クレイトン・ロースン(創元推理文庫)

強大な権力を有する実業家ウルフには、死を異常に恐れる一面があった。怪しい男の来訪をきっかけに彼の周囲では怪異現象が続発し、ついにはウルフ自身が不可能状況下で殺害される! 何度死んでも生き返る“死なない男”の存在が不気味な影を投げかける、奇術師探偵マーリニが手がけた最大の難事件。カーと並ぶ密室本格派の名手が、二重三重の仕掛けを駆使した謎解き推理長編!(本書あらすじより)

積みっぱなしにしていたら復刊してしまい、何とかようやく読めました。初長編ロースンです。短編は『37の短篇』で読みましたね。
ぶっちゃけロースンは微妙だぞと、あまり期待するなと聞いていたので、覚悟して読み始めましたが……なんだろう、この……劣化版カーっていうか……密室とラブコメと怪奇(笑)みたいな……。

実業家ウルフの屋敷を舞台に、不可能殺人事件が起こります。ただこれは中盤以降で、それまでに死体を隠したり、その死体が消えたり、はたまた生きているのが目撃されたりと、死体もののコメディっぽい不可能状況も生じています。

基本的に物理(迫真)トリックの極致みたいな密室トリックが連発されます。ひとつだけ悪くないトリックもあるのですが、全体的に謎解きを最後に持ってこないというか、ちょこちょこネタをバラしながら話が進行するので、何の意外性も驚きもないまま終盤がもったりと進んでいきます。
マーリニのキャラクターも「奇術師」であること以外何にもないし(うんちくがつらい)、読みにくいわけではないですが、不可能興味だけで読み進めるのも(そのシチュエーションがそれほど魅力的でもないせいで)しんどいのです。何度も死ぬ男、というメインアイデア自体は悪くないんですが、いちいち後出しかつ驚かせ方が不十分で、提示の仕方がなぁ、微妙なんだよなぁ。

ふと思ったのですが、カーって不可能状況からトリックを考えていたのでしょうか。ロースンはマジックのネタからミステリを書いてるような気がするのです(だからシチュエーション自体はいまいち盛り上がらないのかなと)。事件自体は『三つの棺』レベルでめちゃくちゃ複雑なんですが、ワチャワチャしている印象しかないんですよね。鮮やかさには大いに欠けます。

というわけで、まだまだロースンの長編は未読があるのですが、確かにこの作家はトリックをバーンと示せば終われる短編型かなと思います。そう考えるとカーってすげぇな……。

原 題:No Coffin for the Corpse(1942)
書 名:棺のない死体
著 者:クレイトン・ロースン Clayton Rawson
訳 者:田中西二郎
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mロ-2-1
出版年:1961.05.19 初版
     1994.10.21 2版

評価★★★☆☆

『復讐の子』パトリック・レドモンド - 2017.06.06 Tue

レドモンド,パトリック
復讐の子
『復讐の子』パトリック・レドモンド(新潮文庫)

“私生児”と蔑まれながらも才能に恵まれ、美しい少年に成長したロニー。豊かな幼少期を過ごしたものの、母親の再婚とともに不穏な世界へと突き落とされたスーザン。多感な年頃に出会ったふたりは、待ちに待っていたかのように惹かれあう。だが、ロニーがスーザンに打ち明けた秘密は恐るべきものだった……。愛情を憎悪に変え、悲劇の連鎖を引き起こす戦慄の少年少女を冷徹に描く力作。(本書あらすじより)

パトリック・レドモンド。そう、あの大傑作『霊応ゲーム』の作者です。その作者によるもうひとつの邦訳作品が、この『復讐の子』なのです。これだけダサいタイトルであっても、傑作オブ傑作『霊応ゲーム』の作者であることを考えると、面白くないわけがないのです。期待せざるを得ないのです。

読みました。

くそーー! おもしれーなーーー!! パトリック・レドモンドめっちゃおもしれーなーーー!! なんで2作しか訳されていないのかなーーー!!! もっと読まれてほしいんだけどなーーーーーーーー!!!!
というわけで、今回もおすすめです。

あらすじは超普通。私生児であり、過酷な親戚のもとで少年時代を過ごした美しく賢いロニー。彼はやがて、表面的には優等生を演じつつ、影で自らと母親に害をなすものに対して容赦ない罰を与えるようになってしまいます。
これだけならどこかで見たことある話なのですが、作者が上手いのはこの先。ロニーの話と並行して、別の町に暮らす美少女スーザンの物語が描かれるのです。スーザンはこれまた複雑な過程に育ち、過酷な少女時代を過ごすはめになります。ひたすらエグいです。ロニーの比ではないどん底の生活なのです。
この2人が後半に出会い、ついに、物語は大きく動き出すのです。

『霊応ゲーム』ほどの衝撃やカタストロフィはありませんが、それでも非常に読ませる作品。少年少女のつらい幼年時代(ベタ)からの復讐(ベタ)というテンプレートで殴る面白さがたまりません。終盤に明かされる過去のインパクトも良いですね。670ページもあるのにとんでもなく読みやすいので、厚さが苦になりません。
心に闇を抱えた復讐の子、ロニー・サンシャインの狂気譚……というだけなら、ありきたりかなとは思うのです(それでも十分面白いと思うけど)。ところが同じく復讐の子であるスーザン・ラムジーの話も並行させているあたりが上手いんだなぁ。成長したふたりがついに出会い、大人たちへの反逆を企てるんですよ、めっちゃお話として強くないですか。
救いのあるラストが光りますが、これはスーザンの強さあってこそのものですね。

というわけで期待にたがわぬ面白さでした。レドモンド、あと3作未訳の作品があるようなのですが、頼むからどうにかして紹介されてくれませんか……。
というわけでまずは『霊応ゲーム』がもっと売れなければ困ります。とりあえず未読の人は『霊応ゲーム』を読むのです、話はそれからです。分厚いと思うかもしれないけど気にしてはいけません(めっちゃ読みやすいし)。寄宿舎BL興味ないとか言っていないで読むのです。登場人物も多いけど気にしてはいけません(どうせみんな死ぬ)。そしてハマった方は、『復讐の子』もぜひ。

原 題:Apple of My Eye(2003)
書 名:復讐の子
著 者:パトリック・レドモンド Patrick Redmond
訳 者:高山祥子
出版社:新潮社
     新潮文庫 レ-9-1
出版年:2005.03.01 1刷

評価★★★★☆

『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ - 2017.06.01 Thu

ル・カレ,ジョン
寒い国から帰ってきたスパイ
『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ(ハヤカワ文庫NV)

薄汚れた壁で東西に引き裂かれたベルリン。リーマスは再びこの街を訪れた。任務失敗のため英国諜報部を追われた彼は、東側に多額の報酬を保証され、情報提供を承諾したのだ。だがすべては東ドイツ諜報部副長官ムントの失脚を計する英国の策謀だった。執拗な尋問の中で、リーマスはムントを裏切者に仕立て上げていく。行手に潜む陥穽をその時は知るよしもなかった……。英米の最優秀ミステリ賞を独占したスパイ小説の金字塔(本書あらすじより)

ついに読みましたよ巨匠の名作を。スパイ小説と言えば『寒い国から帰ってきたスパイ』、スパイ小説作家といえばジョン・ル・カレなのです。読む前までてっきりジョージ・スマイリーが主役なのかと思っていたのに、いざ読んでみたら端役だったのでビックリでした。そもそも「寒い国」をソ連のことだと思っていたのに違ったし……。
久々にぐうの音も出ない傑作を読みました。いやーこれは確かにスパイ小説の金字塔でしょう。「スパイ小説」「エスピオナージュ」というジャンルそのものを変えた作品だったのではないでしょうか。トールサイズ370ページほどの中で東西冷戦がぎゅっと圧縮され、隙のないプロットに乗せて個人と国家を見事に対比した職人技が光る傑作。晴らしかったです。イアン・フレミングとは対極の観点から「スパイ」という職業をとことん描いた作品です。

ちょうど先月、007を読んだところだったじゃないですか。あちらが夢と冒険のスパイ小説だとすれば、こちらは現実と非情のスパイ小説。主人公であるアレック・リーマスは、ヒーローでも何でもない、ロンドンに、さらには冷戦という世界の構図そのものに翻弄されるだけの悲しき一スパイに過ぎないのです。
ある意味それだけの話を、延々と続く裏切ったスパイの尋問シーンだけで作るので、退屈になりそうなもんなのに全くそうならないのがすごいのです。策略が上手くいくかというギリギリの緊迫感と、その中で作者が仕掛けるどんでん返しがラストで炸裂し、さらに作品のテーマが一気に浮かび上がるというわけ。単にどんでん返しがあるだけではこうも名作として評価されることはなかったでしょう。「スパイ」という、国家に属する個人を描き切り、あのようなラストシーンに到達したからこそ、ここまで名作になったのです。うまい、うますぎる。

というわけで今更感のある感想ですが、やはり読めて良かったです。東西ミステリーベスト100から漏れたのが意外なんですよねー。1985年版は33位だったのに。

原 題:The Spy Who Came in from the Cold(1963)
書 名:寒い国から帰ってきたスパイ
著 者:ジョン・ル・カレ John le Carré
訳 者:宇野利泰
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 174
出版年:1978.05.31 1刷
     2015.01.25 36刷

評価★★★★★

『バサジャウンの影』ドロレス・レドンド - 2017.05.28 Sun

レドンド,ドロレス
バサジャウンの影
『バサジャウンの影』ドロレス・レドンド(ハヤカワ・ミステリ)

スペイン、バスク地方のバスタン渓谷で、連続少女殺しが発生する。絞殺された少女たちは森の中で、裸身を晒して仰向けに横たわるポーズをとらされていた。州警察は地元出身の女性捜査官アマイアに捜査主任を命じる。迅速に捜査を進めるべく奮戦するアマイアだが、故郷に戻ったことで否応なしに、捨てたはずの自分の過去に直面し、公私ともに追い込まれてゆく。さらに死体発見現場では、バスク神話の精霊である大男バサジャウンの姿が目撃されていた……歴史と伝説に彩られた秘境を舞台に展開する、大型サスペンス。(本書あらすじより)

最近週1更新が板についてきました。こ、このペースだけは維持したいぞ。
さて今年のポケミスですが、スペイン版ピエール・ルメートルみたいな作品でした。どんでん返し的な意味ではなく、捜査官の親族が巻き込まれてしまうサイコ・サスペンスという意味で。それに加えてバサジャウンというスペインの伝説が関係する……というものです。
読む前は非常に面白そうだなと思ったのですが、う、うーん、これは久々に覇気のないポケミスを読んだなというか……。やりたいことを色々詰め込んだのは評価しますが、やるならちゃんと書いてほしいなというのが正直な気持ちです。

奇妙な状態で死体を残す少女連続殺人犯。死体はバスタン渓谷で発見されていた。女性捜査官アマイアはバスタン渓谷出身で地元に明るかったため、捜査主任として地元に舞い戻ることに。しかし故郷の家族内での軋轢、部下の刑事の不審な行動など問題が多発する一方で、次々と殺人は起き続け……。

この地方で目撃されるはずのない熊のような動物の痕跡が現場で発見されたことから、犯人はバサジャウン(雪男のような伝説上の怪物で森の守護者)ではないか?という話が序盤からちらほらと出ているのですが、主役のアマンダがそんなことはあり得ないとバッサリ切り捨てます。
……いや、それはいいんですよ。警察官がまともに伝説を扱ったら話が進みません。ただ、「バサジャウン」の出し方が物語全体を通じて雑というか。とりあえず伝説仕込んでみました、あとはまぁラストでね?みたいな。やるからには適当に出すのではなく、もっと存在を強調して欲しいのです。

で、物語の主軸はアマンダの家族内の問題、およびアマンダの部下の問題に収束していきます。連続殺人事件の被害者の家族などは、ちらっと登場しますが影が薄いです。登場人物がどいつもこいつも自己中なので非常につらい……。主人公のアマンダ含めて自己中なので、それはもうつらいのです。
人物描写について言えば、1ページだけ脇役の捜査官視点の家庭シーン入れるみたいな、意味のない視点変更も気になるっちゃ気になります。連続殺人を相手にしている捜査官が息抜きにピクニックに行っちゃうあたりはスペインまじ偉いと思いましたが、実際どうなんでしょう。

で、当然内輪の問題が殺人にも絡んでくるのですが、そこのミステリとしてのどんでん返しっぷりも甘いし、終わらせ方も慌ただしく感じました。いちおうミスリーディングもあって、もしこの通りに終わったら作者ぶっ飛ばしてやるぞと思っていたらさすがにそこまで単純ではなかったんですが、かといって意外かというとそんなこともないし。全然読者の期待と想像を超えてこないのです。

というわけで、凡庸なスリラーだったなという感想。別に読んでいてつまらないと感じるほどではないですが、面白いかと言うとそうでもないという……。3部作らしいですが、読むか迷うなぁ。
ちなみに翻訳ですが、「~じゃ」みたいな口調を最近のミステリで久々に見ました。全体的に大人向けというより児童向けの翻訳っぽさを感じたのですが、気のせいかな?

原 題:El guardián invisible(2013)
書 名:バサジャウンの影
著 者:ドロレス・レドンド Dolores Redondo
訳 者:白川貴子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1914
出版年: 2016.12.15 1刷

評価★★☆☆☆

『誰もがポオを読んでいた』アメリア・レイノルズ・ロング - 2017.04.30 Sun

ロング,アメリア・レイノルズ
誰もがポオを読んでいた
『誰もがポオを読んでいた』アメリア・レイノルズ・ロング(論創海外ミステリ)

E・A・ポオの作品に見立てた連続殺人事件。盗まれたポオの手稿と殺人事件の謎を追う究極のビブリオミステリ。多数のペンネームで活躍したアメリカンB級ミステリの女王アメリア・レイノルズ・ロングが遂に日本初紹介!(本書あらすじより)

仕事が休みの日に隙をぬってブログを更新しています。帰ったらすぐ寝てしまうのでなかなか書く時間が……読了本はたまっているんですけど。書きためておくか。

狙いすぎな邦題がアレですが(案の定現代とは全然違う)、どえらい訴求力があるので良いと思います。
さて、全く聞いたこともないアメリカB級作家だそうです。B級と言ってもヴァージル・マーカムとかハリー・スティーヴン・キーラーのような荒唐無稽なものではなく、どちらかというと読み捨て系ペーパーバック本格ミステリ。詳しくは解説参照ですが、意外としっかりとした本格ミステリの書き手だったようです。
で、読んでみたら、素人探偵っぽい大学院生の女の子(シリーズ探偵で、職業は推理作家らしい)が、検事局の既婚男性と一緒にわーきゃーしながら事件に取り組むライト・ミステリっぽい読み口の作品でした。総合的な出来はぶっちゃけ微妙ですが、色々わちゃわちゃしているのでそこそこ楽しめます。

ポオの直筆原稿をめぐって、ポオの研究家のゼミの中で殺人事件が続発します。しかも殺された状況はポオの作品の見立てとしか思えないものばかり。果たして犯人の目的は?

ポオ見立ても思ったよりガチで、気軽に見立てられつつ主人公の友人がバタバタと死んでいき、死体がゴロゴロと転がっていくのです(金田一少年かよ)。死に方も結構アレで、大学生たちが焼き討ちにテンションをあげていたら箱の中から生きた人間が、みたいな焼死シーンとかすごい金田一少年感があります。怖くない横溝正史(解説談)。
犯人があまりにバレバレ、トリックもまぁうん(あったか?)という感じで、本格ミステリ的にそれほどでもない感は否めませんが、分単位のアリバイチェックしたり見立て殺人があったりするポスト黄金時代の作品を久々に読めてそこそこ満足なのも確か。好きな人は好きだと思います。

たぶんもっと出来の良い作品が眠っていると思うので、ぜひ翻訳してくれないかなぁ。こういうB級作品って、むしろ最近じゃなかなか読めないですし。

原 題:Death Looks Down(1944)
書 名:誰もがポオを読んでいた
著 者:アメリア・レイノルズ・ロング Amelia Reynolds Long
訳 者:赤星美樹
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 186
出版年:2016.12.30 初版

評価★★★☆☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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