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2020-01

『国会議事堂の死体』スタンリー・ハイランド - 2020.01.04 Sat

ハイランド,スタンリー
国会議事堂の死体
『国会議事堂の死体』スタンリー・ハイランド(世界探偵小説全集)

英国国会議事堂の時計塔、ビッグベンの改修工事中、壁の中からミイラ化した死体が発見された。後頭部を打ち砕かれ、着衣等から100年前のものと推定されたこの死体をめぐって検屍裁判が開かれたが、事件に興味を感じた若手議員ブライは調査委員会を組織し、謎の解明に乗りだした。やがて少しずつ集まりだしたデータから、19世紀の国会議事堂建設をめぐる秘話と、激しい愛憎の物語が次第に明らかにされていく。個性豊かな国会議員の面々が推理の饗宴を繰り広げる「時の娘」風の歴史推理の前半から、後半にいたって物語は思わぬ展開を見せはじめる。読み巧者フランシス・アイルズがただ一言、「真の傑作」と評した50年代の知られざる名作。(本書あらすじより)

今まで読んだ中でも断トツで読者に不親切な小説。わっかりにくいし、読みにくい。というわけで、決してオススメしようとは思わないのですが……なんかね、最後の方には、嫌いになれない自分がいました。なぜだ。
中盤までは、とにかく読みにくいわ分かりにくいわ場面転換がめちゃくちゃだわキャラクターの区別がつかないわ(これは最後までか)、とにかくキッツい小説だったのに、最終的にはなんかまぁ面白かった気がしないこともないんだよなぁ。『時の娘』+『毒入りチョコレート事件』という感じでしょうか……と思いつつ読んでいたら、解説でフランシス・アイルズ絶賛!ということを知り笑いました。そりゃあんたは好きでしょうよ。

国会議事堂でミイラ化した死体が発見される。おそらく100年前に殺された男のものであろうということで、やる気のない警察に代わって、国会議員たちが独自の委員会を結成し、殺人事件の調査を行う……という発端。

ミイラの手がかりとなりそうな、謎の絵エフレナーテの手がかりが華々しく登場する割に説明と結びつけが超下手だったり、1850年代の事件であろうと検討をつけるのはいいとして、国会議事堂の歴史を絡めないと調査が進まないからってこれでもかと建物やら議員やら制度やらの説明があったり。とにかく説明くさくて分かりにくい小説。そのくせ、主要登場人物の描き分けを全然ちゃんとしてくれないので、最後まで区別もつかないし……。
国会議員という、いかにも探偵仕事向きではなさそうな方々が、(出世のため)素人探偵遊びに興じ、100年前の事件を暴く……という前半、というか3分の2は、めちゃくちゃつまらないということもないにしても、歴史ミステリ的なワクワク感には欠けます。複数探偵ものとしてちゃんと謎解きをやってはいるんですが、たぶんこれ見せ方が悪いんですよね。はっきり言って、説明と展開はド下手です。ザ・アマチュアミステリ。

……ところがです、この謎解きにハマりかけてきたところで、急に物語の調子が変わるんです。これはやられました。油断していたとしか言いようがありません。前半と切り離されるわけでもないし(まぁ手がかりは怒涛の後出しで、前半と結びつけ切れてない感はありますが)、さらに真犯人も上手く持ってこれてるし(これも誰?感は否めないけど)、オチも皮肉がきいてるし。くっそー、こういうの好きだなぁ。

アマチュアミステリオタクっぽさがちゃんと形になって良かったね、という作品なんです。要はあれですよ、『赤い右手』のような、国書刊行会世界探偵小説全集っぽい、ってことですよ(意味不明)。通向けの本格ミステリとして、気になる方は手に取ってみても……まぁ損はしない、はず。

原 題:Who Goes Hang? (1958)
書 名:国会議事堂の死体
著 者:スタンリー・ハイランド Stanley Hyland
訳 者:小林晋
出版社:国書刊行会
     世界探偵小説全集 35
出版年:2000.01.20 初版

評価★★★★☆
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『陸軍士官学校の死』ルイス・ベイヤード - 2020.01.02 Thu

ベイヤード,ルイス
陸軍士官学校の死 上 陸軍士官学校の死 下
『陸軍士官学校の死 上下』ルイス・ベイヤード(創元推理文庫)

引退した名警官ガス・ランダーは、ウエストポイント陸軍士官学校のセアー校長に呼び出され、内密に処理したい事件の捜査を依頼される。同校の士官候補生の首吊り死体から、何者かが心臓をくり抜き持ち去ったというのだ。捜査の過程でランダーは、ひとりの年若い協力者を得る。士官候補生一年の彼は青白い顔の夢想家で、名をエドガー・アラン・ポオといった――青年時代の文豪ポオを探偵役に迎えた、詩情豊かな傑作謎解きミステリ。(本書上巻あらすじより)

あけましておめでとうございます。本年もブログ、ヨッシーワールドをよろしくお願いします。
このタイミングで2019年のベスト10を発表したいところなのですが、諸事情により、あと一週間くらい先にさせてください。ちょっとね、今は無理ですね……。というわけで、今日は普通に11月に読んだ本の感想です(はよ書け)。

さて『陸軍士官学校の死』。この本が出て話題になっていた2010年、まだ自分は大学に入っていなくて、つまり新刊を読んでいなかったわけです。「なんか面白いらしい」くらいには聞いていたのでとりあえず買っておいたら、そのまま8年くらい積んでしまっていた、という。
そしていざ読んでみると、めちゃめちゃ良かったのでした。しかし、これほどの作品が当時のこのミス8位か……今ならもっとカササギ的な扱いを受けるだろうに……。

1830年代、イギリス。引退した警官であるランダーは、近隣にある陸軍士官学校から内密に呼ばれる。学校内で自殺と思われる首つり死体が見つかり、さらに死後、死体から心臓が抜かれていたというのだ。ランダーは、陸軍士官学校の士官候補生、個性的でぶっ飛んだポオ青年を助手にし、捜査を始めることにするが……。

まず、何と言っても読みやすさ。1830年代のアメリカ陸軍士官学校を舞台にした上下巻のミステリ……うーん面倒臭そう、と思いきや、事件が起き、引退した名刑事による捜査がなされ、手記やら手紙やらを織り交ぜつつ、とにかくテンポよく読ませてくるので、単純に読み物としてべらぼうに面白いのです。ゴシックっぽすぎないおかげかも。すごく現代風なんですよ。

そして、「若き日のポオが登場する……でも別にポオに何の感情もないんだよなぁ」みたいなそこのあなた、何の問題もありません。読んでみて意外だったのですが、探偵役はあくまで引退した刑事ランダーであり、ポオは調子こいて恋愛しがちな助手役に過ぎないのです。単に、キャラの濃いポオという若者の出る小説、という扱いで何の問題もありません(詳しければ色々なネタも楽しめるんでしょうが)。
もちろん、主人公ランダーもホームズ的な推理能力の持ち主であり、名探偵役として十分。あと、想像力がたくましい人は、ランダーとポオの関係にBL要素を見出しましょう。こっちも描写が絶妙で良いんだよな……。

謎解きは、19世紀的というかホームズ的というか、いわゆる純フーダニット的なものではありません(まぁポオだしね)。ただ、自殺に見せかけた首吊り死体、から抜き取られた心臓など、インパクトのある事件が続くため、謎解き物としてもちゃんと評価できる作品だと思います(そして、実はこれだけじゃない……という部分があり、そこもまた良し)。
実際問題謎解き物としてかなり楽しい趣向が凝らされているので、本格ミステリ好きであれば一読の価値はあり。ただの冒険小説風ミステリと思っちゃいけません。

割と有名な作品なので今さら読んでテンション上げているのもちょっと恥ずかしいのですが、これは今さらだろうが読んで正解。気軽に手に取って欲しい、すごく現代的なオススメ歴史ミステリです。

原 題:The Pale Blue Eye (2006)
書 名:陸軍士官学校の死 上下
著 者:ルイス・ベイヤード Louis Bayard
訳 者:山田蘭
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mヘ-14-1,2
出版年:2010.07.16 初版

評価★★★★☆

『死体が転がりこんできた』ブレット・ハリデイ - 2019.12.22 Sun

ハリデイ,ブレット
死体が転がりこんできた
『死体が転がりこんできた』ブレット・ハリデイ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

マイク・シェーンの事務所に血だるまの男が転がりこんできた。男はマイクのかつての友人ジムで、胸に弾丸をくらっていた。話す間もなくこと切れたジムの手には謎の紙片が握られていた。折も折、そこへ依頼人が現れた。ヘレンと名乗るその女は、昔ジムと組み離婚斡旋で稼いでいたという。驚くべきことに女の用件は、脱獄中の夫を殺してくれという殺人の依頼だった! 紙片に残る謎の文字、そしてジムとヘレンの出現の奇妙な符合は? マイアミの赤毛探偵シェーンは、友人の弔い合戦に立ち上がった! 好評のハードボイルド・シリーズ第二弾。(本書あらすじより)

かつて『37の短篇』で読んだブレット・ハリデイの「死刑前夜」が好きすぎて、んで買って、そのまま7年間放置していた作品。開始4ページでさっそく死体が転がりこんできたのですが、悲しいことに開始4ページでもうつまらなそう感があるという……。
うむむむむ。軽ハードボイルドって、今でも楽しめるものとキツいものに分かれるのだと思いますが、この作品に関してはがっつり後者であると言わざるを得ません。もうね、かなり厳しい。最初から最後までずっと厳しくて、割としんどかったです。

私立探偵シェーンの事務所に突如飛び込んできた男がそのまま死んでしまった。かつて私立探偵仲間だった男の死体を抱えたシェーンのもとに、夫殺害を依頼する女性が訪れる。果たしてシェーンが巻き込まれた事件の全貌とは?

とにかく、依頼人の女性クレアと、シェーンの妻であり探偵事務所の協力者であるフィリスがウザいのです。1942年という発表年を考慮しても、女性の描き方が無能すぎ。また戦時中の作品であることもあり、愛国心やらスパイやらが絡んだり絡まなかったりする部分も、悪い意味でややアメリカ色が強すぎ、という感じ。
事件自体も、複数の人間が物を取り合う系のごたごたが、ただごたこたしていて複雑なだけ。おまけにシェーンが有能というよりは強引さで捜査を進めているので、どうしても印象が悪くなります。最後の真相に驚かなかったとは言いませんが、それにしたってもっと上手く事件を見せられなかったかなぁ……。

色々感想を漁った感じ、どうも妻フィリスと死別してしまった後のシェーンの方がキャラクターが良さそうな気がするので、今度読むならむしろ中後期作でしょうか。同時代のアメリカだと、レックス・スタウトやE・S・ガードナー、クレイグ・ライスやフランク・グルーバーなんかがいるわけですが、それらと比べるとどうしても格落ち感は否めないかな、と思います。

原 題:The Corpse Came Calling (1942)
書 名:死体が転がりこんできた
著 者:ブレット・ハリデイ Brett Halliday
訳 者:平井イサク
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 65-2
出版年:1981.06.30 1刷

評価★★☆☆☆

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ - 2019.12.14 Sat

ホロヴィッツ,アンソニー
メインテーマは殺人
『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ(創元推理文庫)

自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知りあった元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかと誘われる……。自らをワトスン役に配した、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ! 7冠制覇の『カササギ殺人事件』に匹敵する傑作!(本書あらすじより)

去年、『カササギ殺人事件』で一世を風靡した、アンソニー・ホロヴィッツの作品。今年もどうやらランキングを席巻しそうな感じですが……どうもあんまりはまらない。
いっろいろ考えた結果、たぶんこれは構造・構成の上手さ・面白さで感心するべき本なんだと思います。『カササギ』下巻と同じで、読んでいてそこまで面白くない(面白さとして評価すべき部分の面白さが自分には分からない)ところが、はまらなかった理由なのかなぁ、などというどうでもいい結論になりました。つらい。

主人公は作家アンソニー・ホロヴィッツ本人。元刑事ホーソーンから、現在事件を手掛けている自分と共に行動し、俺のことを本にしてほしいと頼まれる。失礼で無礼で傲慢な男ホーソーンに付き従い、いやいや調べ始めたホロヴィッツの前に現れた事件は、自らの葬儀の手配をした日に絞殺された女性の事件だった……。

ワトソン役(あるいは書き手)が前面に出るタイプのミステリ自体は結構好きなので、主人公ホロヴィッツがやたらとぶーたれたり、書き上げた第一章を探偵役ホーソーンからダメ出しされたり、みたいなメタっぽいところは好きではあります。あと、ホロヴィッツが映画タンタンの脚本をスピルバーグとピーター・ジャクソンに依頼されるシーンとかも最高。これ実話なの?
その他にもこの作品の構成の上手さというのは、まぁとにかく色々と多岐にわたっているんですが、そこだけでは個人的には物足りないのです。そうなると、本格ミステリ・謎解き部分での評価、ということに自分はなるんですが、こっちもこっちで難しくて。

自分の葬儀の依頼をした女性がその日に殺されるという発端、意外な犯人と動機、きちんと張り巡らされた伏線、と、要素としては申し分ないし、これを黄金時代のミステリとして読んだら多分普通に満足していると思います。
でもこの作品は、着々と捜査を進めるわけではないわけです。助手と探偵の対立やら、メタっぽい部分やら、そしてそこにも伏線があったりやらで、こう、なんだ、集中できなかったのかもしれません。ただ、好みとかおいておいて、「そこにも伏線がある」というのは紛れもなく構成の上手さの部分なので、だからダメとも言えなくて。でもなぁ……面白くはないんだよなぁ……。

ってなわけでなんか、ちゃんと楽しめてなくてすみません……みたいな気持ちしかありません。もっと、何でも楽しめる心と、何でも言語化できる力が欲しいと思います(皮肉じゃなくて本気で)。

原 題:The Word Is Murder (2017)
書 名:メインテーマは殺人
著 者:アンソニー・ホロヴィッツ Anthony Horowitz
訳 者:山田蘭
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mホ-15-3
出版年:2019.09.27 初版

評価★★★☆☆

『11月に去りし者』ルー・バーニー - 2019.12.01 Sun

バーニー,ルー
11月に去りし者
『11月に去りし者』ルー・バーニー(ハーパーBOOKS)

1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に嫌な予感を覚える。数日前に依頼された仕事はこの暗殺絡みに違いない。ならば次に死ぬのは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃れてきた訳ありの母娘と出会ったギドリーは家族連れを装いともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っていた――MWA賞受賞作家の話題作。(本書あらすじより)

以前一部で話題になった『ガットショット・ストレート』のルー・バーニーが、再び翻訳されました。あれ読んだの、大学4年(1回目)の時だから、もう5年も経つんですね……。
そして読んでみたら……うぉぉぉぉめっちゃ良いぃぃぃぃぃぃぃ。ほんっとうに良い。2019年度のハメット賞、アンソニー賞長編賞、バリー賞長編賞、マカヴィティ賞長編賞を獲っちゃったらしいですね、この作品。実にめでたい。個人的にも、今年イチ押しの傑作です。

ケネディ大統領暗殺にアメリカ中が悲嘆にくれている、1963年11月。暗殺の数日後、暗黒街の組織の幹部であるギドリーは、組織からある命令を受けた。ダラスにある車を処分しろというのだ。ケネディ大統領暗殺との関連に気付き、この仕事を終えたら自分も消されるのではないかと危惧したギドリーは、組織から逃れて西に逃げようとするが……。

追うものと追われるもののクライム・ロード・ノベル。非情さしかない犯罪者たちの世界で、追う側にも追われる側にも偶然の出会いが訪れることで、それはもう感傷的でドラマチックな、でも非情な世界が作り出されます。登場人物たちから醸し出される人間臭さと、小説ならではのタフさのバランスが見事なのです。
ギドリーはバトルタイプというよりは、頭を使うタイプ。逃走の途中、とある母子と出会ったギドリーは、彼らと疑似家族的な関係を作ることで組織の目を騙そうとします。一方、追っ手である殺し屋バローネも、道案内として黒人の少年と行動を共にすることに。それぞれのこの出会いが何をもたらすのか……そりゃね、人情的に良い話になることくらいね、分かってましたよ。非情な犯罪者が出会いによって変わったりするやつでしょ、知ってたけどもさ……こういう展開になるとは思わなかったし、犯罪小説としてカンペキなストーリーなんだよなぁ……。
あとは、端役が生きている、ということをすごく感じました。保安官、ウェイトレス、自動車整備士など、それぞれが魅力的であるからこそ、それぞれとの出会いに意味が生まれるのです。もちろん、メインのキャラクターたちがそれを上回る魅力を持っているからこそなんですが(というか出会いのおかげで、より魅力的になっています)。これこそロード・ノベルの醍醐味。

さて、「組織」に狙われ、逃げようとする……という物語で一番気になるのが、どう終わらせるか、という点。そんな簡単に逃げられるわけもないし、簡単に殺されてしまっても意味がないわけで。さぁどうするのかと思いきや……うひゃあ、これもすごい。主人公の数々の出会いの後に、物語全体がエンディングに貢献するようなこの終わらせ方は、一つの理想型ではないでしょうか。人生は素晴らしい! そういうことです。

『ガットショット・ストレート』のような軽妙さはないけど、個人的にはむしろこっちの方が好き。今年はロード・ノベルの傑作が多いな……ぜひぜひ読んでいただきたい作品です。

原 題:November Road (2018)
書 名:11月に去りし者
著 者:ルー・バーニー Lou Berney
訳 者:加賀山卓朗
出版社:ハーパーコリンズ・ ジャパン
     ハーパーBOOKS Mハ-5-1
出版年:2019.09.20 1刷

評価★★★★★

『魔女の不在証明』エリザベス・フェラーズ - 2019.11.23 Sat

フェラーズ,エリザベス
魔女の不在証明
『魔女の不在証明』エリザベス・フェラーズ(論創海外ミステリ)

イタリア南部の海辺の町で起こった不可解な殺人事件に巻き込まれる若きイギリス人の苦悩。嘘つきは誰だ! 技巧を凝らした傑作長編ミステリ。(本書あらすじより)

3年ぶりの論創フェラーズ。以前紹介された、シリアスさが目立つ『灯火が消える前に』や『カクテルパーティー』の方が好きですが、でも全員が正直に見えないという複雑さ、謎解きシーンの怒涛の提示っぷり、そしてトビー&ジョージシリーズの本格ミステリっぽさに近い感じは嫌いじゃありません。今回も楽しく読めました。やっぱりフェラーズは良い作家だ……。

主人公のルースは、イタリアのバラード家に勤める住み込みの家庭教師。そろそろイギリスに帰るべきか……と考えるも、バラード家の不仲な父子を放っておけないとの思いから迷っていた。そんな時に、彼女が面倒を見ているバラード家の16歳の息子ニッキーが、家から走り出ていくのを目撃する。不審に思ったルースが客間で見つけたのは、いつもと異なりみすぼらしい恰好に身を包み、血まみれで倒れている一家の主人バラードだった……。

主人公含めてとにかくみんながそれぞれの事情から嘘を言うため、先行きが全く読めません。主人公が死体を隠した後に、同一人物の死体がもう1つ見つかるという理解できないサプライズがまず強烈。これ以降、終始、誰が何をするか分からない、誰が味方かも分からない、という状況が続き、その中で相手を信用しきれないロマンスも始まります。
主人公のルースが色々な意味で窮地に陥ったりもしますが、基本的には旅先巻き込まれサスペンス風のお話。ふわっとした感じとダラダラっとした感じがやや強く、シリアスさが強かった過去の論創フェラーズと比べてちょっと面白みに欠けるかなという印象はありますが、最後次々と謎が解かれていく快感は非常に良いものです。

というわけで、ユーモア&軽快さ全開のトビー&ジョージシリーズとは違う、色々な風味のあるノンシリーズのフェラーズ、今回も良作でした。いずれもちゃんと面白いので、もっと出てくれないかなぁ。今後にも期待しましょう。

原 題:Alibi for a Witch (1952)
書 名:魔女の不在証明
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:友田葉子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 239
出版年:2019.08.30 初版

評価★★★☆☆

『秘められた感情』レジナルド・ヒル - 2019.11.18 Mon

ヒル,レジナルド
秘められた感情
『秘められた感情』レジナルド・ヒル(ハヤカワ・ミステリ文庫)

パスコー部長刑事は大学時代の仲間たちと五年ぶりに再会するため恋人エリーと二人でオックスフォードシャーの美しい村を訪れた。が、そこで目にしたのは惨殺された旧友たち三人の死体だった。四人目の友人で招待主のコリンは行方不明のため、殺人の嫌疑がかけられる。パスコーはダルジール警視の指揮下にある自分の署の連続空き巣事件を捜査する一方で、警官としての権限なしに村の殺人事件にも関われずにはいられない。(本書あらすじより)

ダルジール警視シリーズの長編文庫3冊の中では、一番好きかもしれません。最初から最後まで良かったです。

ダルジール警視シリーズ3作目。パスコーはまだ部長刑事で、エリーとは結婚していません。
パスコーが旧友たちに誘われエリーと共に彼らの住む村に行ったところ、三人が銃殺されているのを見つける、というショッキングな始まり。パスコーは個人的に捜査のことが気になるも、一方で連続空き巣事件も抱え込む……という話。

旧友三人の殺害事件では、行方不明となっている被害者の夫が状況的に犯人であると思われるも、友人であることからそれを信じきれないパスコーが、現地のバックハウス警視(彼がめっちゃ良い)に迷惑をかけつつ、地元警察の捜査に鼻を突っ込んでしまいます。突然容疑者にケンカを売ってしまったり、勝手な行動を取ってしまったりと、パスコーのある種未熟な部分が描かれるわけです。
一方でパスコーがダルジール警視と共に捜査する連続空き巣事件は、もちろん田舎の殺人事件のような狭いコミュニティを相手にするわけではありません。広範囲を、そもそも手がかりが少ない中で調べ回らないといけないわけです。こちらでは優秀で冷静なパスコー(けどたまに間違う)がたっぷりと描かれるわけです。

二つの事件が別々に調べられていき、やがて徐々に結び付けられていくという本格ミステリとしての面白さもあれば、ダルジールとバックハウスという二人のくせ者警視(どちらも超優秀)の下で右往左往するパスコー(優秀だけどまだまだ未熟)の成長を楽しむという面白さもあり、非常にまとまりの良い長編だと思います。英国ミステリらしからぬ派手な殺人事件であったり、名探偵(パスコー)が皆を集めて(というか集まっちゃって)無理やり思い付くままに語っていく、という真相解明シーンのあり得ないくらい雑さ(めっちゃ笑える)だったりと、地味地味英国ミステリの定石をちょっと外しつつ、やっていることはすごく良い意味でスタンダード……という、なかなかおすすめしやすい作品ではないでしょうか。

ダルジール警視シリーズをまだ4作しか読んでいなく、今回なんか6年ぶりになってしまったのは、正直合わねぇなぁ(というか苦手)と最初の頃思っていたからなんですが、かなり楽しめるようになってきたのは好みが変わってきたからなのか、それとも作品の違いのせいなのかはよく分かりません。というわけで、次こそ『完璧な絵画』読まないと……母親にも早く読めって十年くらいせっつかれてるし……。

原 題:Ruling Passion (1973)
書 名:秘められた感情
著 者:レジナルド・ヒル Reginald Hill
訳 者:松下祥子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 200-2
出版年:1996.04.30 1刷

評価★★★★☆

『ハワイの気まぐれ娘』カーター・ブラウン - 2019.11.10 Sun

ブラウン,カーター
ハワイの気まぐれ娘
『ハワイの気まぐれ娘』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ)

ニュー・ヨークの私立探偵ダニー・ボイドは、常夏の島ハワイへやってきた。が、観光旅行としゃれた訳ではない。ニュー・ヨークの実業家エマースン・レイドの依頼で、ハワイに駈落ちした彼の妻ヴァージニアのあとを追ってきたのである。ヴァージニアの相手は、エマースンが所有するヨットの船長エリック・ラーセン。ボイドの仕事はこのエリックとヴァージニアを、有無を言わせずハワイから追い出すことだった。
ハワイに着いたその夜、ボイドは私立探偵にふさわしい大歓迎をうけた。歓迎してくれたのは、ハワイに住むエマースンの元情婦ブランチ・アーリントンの素っ裸な死体だった! さすがのボイドもこれにはびっくり。彼は、ブランチにハワイを案内してもらい、ヴァージニアを見つけるつもりだったのである。だが、これは続いて起る事件の序の口にすぎなかった――ブランチの死体を見つけてから数時間もたたぬうち、今度はハワイ一の踊り子の訪問をうけた。しかも、彼女は驚きあきれているボイドの眼の前で、みるまに一糸まとわぬ裸体となったのである!
20年前、銀行強盗によって隠された宝をめぐってハワイに展開される奇怪な事件の数々! ダニー・ボイド・シリーズ第2弾!(本書あらすじより)

年に一冊のカーター・ブラウン。おなじみダニー・ボイド物です。
殺人はありますが、謎解き・絵解き要素はいつものカーター・ブラウンと比べると少なめ。むしろハワイを舞台に金塊をめぐって繰り広げられるコン・ゲームと言った方が良いかもしれません。ダニー・ボイドが簡単に寝返ったり、金第一で動いたりするからこそのストーリー。

依頼によりハワイを訪れたダニー・ボイド。しかしそんな彼を待ち受けていたのは、女性の素っ裸の死体だった。宝探しを目論む人々の争いに巻き込まれたボイドは、彼らの陰謀に関わろうとしていくが……。

何人もの人間が、お互いを仲間に引き入れつつ騙し合いにらみ合い、その中に巻き込まれたダニー・ボイドが調停する……のではなく、むしろ騙し合いに積極的に参加していくのが面白いのです。遠慮なくみんながみんなを撃ち殺していき、ボイドもずるく立ち回り続け、でも最終的にボイドも甘い汁を吸いきれない……というこち亀みたいな終わり方。

というわけで面白かったのですが、ボイド物なら以前読んだ『殺人は競売で』の方が好きかなぁ。ダニー・ボイドは破天荒な「私立探偵」ですので、買収されて依頼人を乗り換えつつ、むちゃくちゃが出来てしまうわけです。が、主人公がアル・ウィーラー警部だと、一応警察官であるためその無茶苦茶さにきちんとした道筋が出来るので、カーター・ブラウンお得意のドタバタミステリの完成度がより高くなるんじゃないかなぁという気がするのです。来年はアル・ウィーラー読んでみようかなぁ。

原 題:The Wayward Wahine (1960)
書 名:ハワイの気まぐれ娘
著 者:カーター・ブラウン Carter Brown
訳 者:山下諭一
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 702
出版年:1962.04.30 1刷
     1974.11.15 2刷

評価★★★☆☆

『潤みと翳り』ジェイン・ハーパー - 2019.11.09 Sat

ハーパー,ジェイン
潤みと翳り
『潤みと翳り』ジェイン・ハーパー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

企業の合宿研修で森に入った五人の女性。道に迷い、やっとの思いで脱出したとき、そのうちの一人が忽然と消えていた。手がかりは消えた女性が連邦警察官フォークの携帯電話に残したボイスメッセージ。遭難か、事件か。外界から隔絶された大自然は、女たちの虚飾を容赦なく剥ぎ取っていく。オーストラリアの豊かな森を舞台に繰り広げられる、衝撃のサスペンス。英国推理作家協会賞受賞『渇きと偽り』続篇!(本書あらすじより)

オーストラリアの作家ジェイン・ハーパーによる、『渇きと偽り』に続くシリーズ第2作です。
決してつまらなくはないのですが、何が起きたのか、を軸にして読ませるかのような思わせぶりな描写が生かされていないところが残念。そのせいで、こういうことだったのね!的な驚きや意外性もあまりなく、落ち着くべきところに落ち着いて終わってしまっただけ、みたいな感じなのです。前作がその点上手かっただけに、なおさら残念なんだよなぁ。

企業の研修の一環で、「森林の中を数日かけて抜け出す」というサバイバルに参加した、年齢も地位もばらばらの5人の女性たち。彼らは途中で遭難し、出てきたときには1人がいなくなっていた。消えた女性は、連邦捜査官フォークと連絡を取っていた、企業の告発のための内部協力者。彼女がいなくなったのは事故か、あるいは殺人か?

人間の醜さ丸出しサバイバル的サスペンス描写……で読ませるのは良いのです。しかし、「遭難中に何が起きていたのか」を、全てカットバックによる過去のシーンで語ってしまうので、せっかく捜査も描いているにもかかわらず、何も驚きがありません。動機が見所なのかもしれませんが、その手がかりがこれしかないとばかりに提示されているせいで、なるほどね以上の感想にならないのです。
他にも、主人公の連邦捜査官フォークの「捜査感」が足りないなぁとか、今作の相棒女性捜査官カーメンが色々と都合良すぎるよなぁとか、結局フォークたちの追っていた方の事件の掘り下げが宙ぶらりんだよなぁとか、全体的に消化不良感が否めません。完成度たっか!だった『渇きと偽り』と比べると……うーん。

まぁこれは、いくら読んでて面白くても、捜査小説である以上は、せめてホワットダニット部分くらいは「驚き」が欲しい、という本格ミステリ畑出の意見ですので、あまり気にしないでください。既にシリーズ3作目も出ているようですが、訳されても読もうかちょっと迷っちゃうんだよなぁ……でも『渇きと偽り』がめちゃくちゃ良かっただけに無視もしたくないし……。

原 題:Force of Nature (2017)
書 名:潤みと翳り
著 者:ジェイン・ハーパー Jane Harper
訳 者:青木創
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 467-2
出版年:2019.08.15 1刷

評価★★★☆☆

『007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕』イアン・フレミング - 2019.07.31 Wed

フレミング,イアン
007/死ぬのは奴らだ
『007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕』イアン・フレミング(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボンドの今回の標的は、全米の暗黒街を牛耳る男ミスター・ビッグ─彼はジャマイカから大量の古代金貨を盗み出し、世界の金相場を狂わせようと企んでいた。Mの指令を受けたボンドはニューヨークへ飛び、旧友のCIA局員ライターとともに調査を開始した。だがやがて、敵の罠に陥ったライターは瀕死の重傷を負い、ボンドも絶体絶命の窮地に! 鮮烈なヒーロー、ジェイムズ・ボンドの名を確立した初期の傑作。改訳決定版(本書あらすじより)

約2年に1回のペースで読み進めているHM文庫改訳版ジェイムズ・ボンドをそろそろまた読もう、ということで、今回はシリーズ第2作の『死ぬのは奴らだ』です。……何というか、今まで読んだ『ゴールドフィンガー』『ドクター・ノオ』と比べて、単純に頭が悪い内容でした(主にボンドの。敵は悪くない)。

ざっくり中盤までのあらすじを書くと、
ボンド、アメリカの黒人を束ねるミスター・ビッグの組織を潰すよう命令される
→まずボスに会ってみようと、のこのこハーレムに行って捕まる
→とりあえず敵の部下を殺して逃げる
→ビッグが仕返しにボンドの友人を半殺しにする
→ボンド、キレてまた部下を殺す
うーん、主人公に何の計画性もないのでは……。

暴力描写もエロ描写も割と直接的。毎回007が何らかの敵と戦うという基本コンセプトがありますが、今回の大ボス、アメリカで黒人組織を操るミスター・ビッグは、ただただ威圧感はあるし、有能だし、隙もないしで、文句なしの敵役です(本人はバトらないあたりが首領感あります。直接的にボンドとバトるのは物語中盤の中ボスだし)。そしてミスター・ビッグが超有能な一方で、主人公ジェイムズ・ボンドに有能さを感じられないのが何とも。だって、ジェイムズ・ボンド、敵の組織に囚われて、ボスの女に会った3秒後くらいにはその女を味方にしているんですよ。さすがに都合が良すぎでは……?

基本的に今回のボンドは、すぐ見つかるわバレるわで、延々と痛そうな目に合います(友人はもっと合うんですけどね)。警察に目はつけられていても証拠がないミスター・ビッグの一味の企みを暴くという命令を受けているボンドですが、もろもろ解決するために、とりあえず「死ぬのは奴らだ」から殺す、というスタンスはどうなんだおい。いくら殺しの許可を持っているからって、そりゃFBIもボンドに怒るわ。
だからこそ、君はこれまで送られてきたスパイの中で一番優秀だよ、的なことをミスター・ビッグがボンドに言うシーンが、イマイチしっくり来ません。そうか、この程度で一番なのか……と思わなかったのかな、当時の読者は。マジで。
そしてラスボスであるミスター・ビッグも、確かに超有能だし、最後の残虐な刑罰含めて大ボス感満載で結構好きなんですが、ああいう形でボンドに負けるのはやっぱりしょぼくないか?と、ちょっと思ってしまうのですが……。ただまぁ、そりゃあんな無理やりな方法でボンドが解決するとは思わないから、仕方ないとも言えます(なぜちょっとミスター・ビッグを応援したい気持ちになっているんだろう……)。

……と、こういうツッコミどころを楽しみながら読むのが、このシリーズの醍醐味というか、作者イアン・フレミングが全力で書いたサービス精神満載の大人のための童話の読み方なのかなと思いますし、何ならエンタメとしては単純に楽しめたので、意外と文句はありません。いわゆるスパイ小説としての面白さとは別物ですが、たまに読む娯楽小説としては申し分ないのが、このシリーズの魅了なんでしょう。

原 題:Live and Let Die (1954)
書 名:007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕
著 者:イアン・フレミング Ian Fleming
訳 者:井上一夫
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 224-2
出版年:1998.03.31 1刷

評価★★★☆☆

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人3年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から9年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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