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シャーロット・アームストロング名言2

2019-11

『秘められた感情』レジナルド・ヒル - 2019.11.18 Mon

ヒル,レジナルド
秘められた感情
『秘められた感情』レジナルド・ヒル(ハヤカワ・ミステリ文庫)

パスコー部長刑事は大学時代の仲間たちと五年ぶりに再会するため恋人エリーと二人でオックスフォードシャーの美しい村を訪れた。が、そこで目にしたのは惨殺された旧友たち三人の死体だった。四人目の友人で招待主のコリンは行方不明のため、殺人の嫌疑がかけられる。パスコーはダルジール警視の指揮下にある自分の署の連続空き巣事件を捜査する一方で、警官としての権限なしに村の殺人事件にも関われずにはいられない。(本書あらすじより)

ダルジール警視シリーズの長編文庫3冊の中では、一番好きかもしれません。最初から最後まで良かったです。

ダルジール警視シリーズ3作目。パスコーはまだ部長刑事で、エリーとは結婚していません。
パスコーが旧友たちに誘われエリーと共に彼らの住む村に行ったところ、三人が銃殺されているのを見つける、というショッキングな始まり。パスコーは個人的に捜査のことが気になるも、一方で連続空き巣事件も抱え込む……という話。

旧友三人の殺害事件では、行方不明となっている被害者の夫が状況的に犯人であると思われるも、友人であることからそれを信じきれないパスコーが、現地のバックハウス警視(彼がめっちゃ良い)に迷惑をかけつつ、地元警察の捜査に鼻を突っ込んでしまいます。突然容疑者にケンカを売ってしまったり、勝手な行動を取ってしまったりと、パスコーのある種未熟な部分が描かれるわけです。
一方でパスコーがダルジール警視と共に捜査する連続空き巣事件は、もちろん田舎の殺人事件のような狭いコミュニティを相手にするわけではありません。広範囲を、そもそも手がかりが少ない中で調べ回らないといけないわけです。こちらでは優秀で冷静なパスコー(けどたまに間違う)がたっぷりと描かれるわけです。

二つの事件が別々に調べられていき、やがて徐々に結び付けられていくという本格ミステリとしての面白さもあれば、ダルジールとバックハウスという二人のくせ者警視(どちらも超優秀)の下で右往左往するパスコー(優秀だけどまだまだ未熟)の成長を楽しむという面白さもあり、非常にまとまりの良い長編だと思います。英国ミステリらしからぬ派手な殺人事件であったり、名探偵(パスコー)が皆を集めて(というか集まっちゃって)無理やり思い付くままに語っていく、という真相解明シーンのあり得ないくらい雑さ(めっちゃ笑える)だったりと、地味地味英国ミステリの定石をちょっと外しつつ、やっていることはすごく良い意味でスタンダード……という、なかなかおすすめしやすい作品ではないでしょうか。

ダルジール警視シリーズをまだ4作しか読んでいなく、今回なんか6年ぶりになってしまったのは、正直合わねぇなぁ(というか苦手)と最初の頃思っていたからなんですが、かなり楽しめるようになってきたのは好みが変わってきたからなのか、それとも作品の違いのせいなのかはよく分かりません。というわけで、次こそ『完璧な絵画』読まないと……母親にも早く読めって十年くらいせっつかれてるし……。

原 題:Ruling Passion (1973)
書 名:秘められた感情
著 者:レジナルド・ヒル Reginald Hill
訳 者:松下祥子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 200-2
出版年:1996.04.30 1刷

評価★★★★☆
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『ハワイの気まぐれ娘』カーター・ブラウン - 2019.11.10 Sun

ブラウン,カーター
ハワイの気まぐれ娘
『ハワイの気まぐれ娘』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ)

ニュー・ヨークの私立探偵ダニー・ボイドは、常夏の島ハワイへやってきた。が、観光旅行としゃれた訳ではない。ニュー・ヨークの実業家エマースン・レイドの依頼で、ハワイに駈落ちした彼の妻ヴァージニアのあとを追ってきたのである。ヴァージニアの相手は、エマースンが所有するヨットの船長エリック・ラーセン。ボイドの仕事はこのエリックとヴァージニアを、有無を言わせずハワイから追い出すことだった。
ハワイに着いたその夜、ボイドは私立探偵にふさわしい大歓迎をうけた。歓迎してくれたのは、ハワイに住むエマースンの元情婦ブランチ・アーリントンの素っ裸な死体だった! さすがのボイドもこれにはびっくり。彼は、ブランチにハワイを案内してもらい、ヴァージニアを見つけるつもりだったのである。だが、これは続いて起る事件の序の口にすぎなかった――ブランチの死体を見つけてから数時間もたたぬうち、今度はハワイ一の踊り子の訪問をうけた。しかも、彼女は驚きあきれているボイドの眼の前で、みるまに一糸まとわぬ裸体となったのである!
20年前、銀行強盗によって隠された宝をめぐってハワイに展開される奇怪な事件の数々! ダニー・ボイド・シリーズ第2弾!(本書あらすじより)

年に一冊のカーター・ブラウン。おなじみダニー・ボイド物です。
殺人はありますが、謎解き・絵解き要素はいつものカーター・ブラウンと比べると少なめ。むしろハワイを舞台に金塊をめぐって繰り広げられるコン・ゲームと言った方が良いかもしれません。ダニー・ボイドが簡単に寝返ったり、金第一で動いたりするからこそのストーリー。

依頼によりハワイを訪れたダニー・ボイド。しかしそんな彼を待ち受けていたのは、女性の素っ裸の死体だった。宝探しを目論む人々の争いに巻き込まれたボイドは、彼らの陰謀に関わろうとしていくが……。

何人もの人間が、お互いを仲間に引き入れつつ騙し合いにらみ合い、その中に巻き込まれたダニー・ボイドが調停する……のではなく、むしろ騙し合いに積極的に参加していくのが面白いのです。遠慮なくみんながみんなを撃ち殺していき、ボイドもずるく立ち回り続け、でも最終的にボイドも甘い汁を吸いきれない……というこち亀みたいな終わり方。

というわけで面白かったのですが、ボイド物なら以前読んだ『殺人は競売で』の方が好きかなぁ。ダニー・ボイドは破天荒な「私立探偵」ですので、買収されて依頼人を乗り換えつつ、むちゃくちゃが出来てしまうわけです。が、主人公がアル・ウィーラー警部だと、一応警察官であるためその無茶苦茶さにきちんとした道筋が出来るので、カーター・ブラウンお得意のドタバタミステリの完成度がより高くなるんじゃないかなぁという気がするのです。来年はアル・ウィーラー読んでみようかなぁ。

原 題:The Wayward Wahine (1960)
書 名:ハワイの気まぐれ娘
著 者:カーター・ブラウン Carter Brown
訳 者:山下諭一
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 702
出版年:1962.04.30 1刷
     1974.11.15 2刷

評価★★★☆☆

『潤みと翳り』ジェイン・ハーパー - 2019.11.09 Sat

ハーパー,ジェイン
潤みと翳り
『潤みと翳り』ジェイン・ハーパー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

企業の合宿研修で森に入った五人の女性。道に迷い、やっとの思いで脱出したとき、そのうちの一人が忽然と消えていた。手がかりは消えた女性が連邦警察官フォークの携帯電話に残したボイスメッセージ。遭難か、事件か。外界から隔絶された大自然は、女たちの虚飾を容赦なく剥ぎ取っていく。オーストラリアの豊かな森を舞台に繰り広げられる、衝撃のサスペンス。英国推理作家協会賞受賞『渇きと偽り』続篇!(本書あらすじより)

オーストラリアの作家ジェイン・ハーパーによる、『渇きと偽り』に続くシリーズ第2作です。
決してつまらなくはないのですが、何が起きたのか、を軸にして読ませるかのような思わせぶりな描写が生かされていないところが残念。そのせいで、こういうことだったのね!的な驚きや意外性もあまりなく、落ち着くべきところに落ち着いて終わってしまっただけ、みたいな感じなのです。前作がその点上手かっただけに、なおさら残念なんだよなぁ。

企業の研修の一環で、「森林の中を数日かけて抜け出す」というサバイバルに参加した、年齢も地位もばらばらの5人の女性たち。彼らは途中で遭難し、出てきたときには1人がいなくなっていた。消えた女性は、連邦捜査官フォークと連絡を取っていた、企業の告発のための内部協力者。彼女がいなくなったのは事故か、あるいは殺人か?

人間の醜さ丸出しサバイバル的サスペンス描写……で読ませるのは良いのです。しかし、「遭難中に何が起きていたのか」を、全てカットバックによる過去のシーンで語ってしまうので、せっかく捜査も描いているにもかかわらず、何も驚きがありません。動機が見所なのかもしれませんが、その手がかりがこれしかないとばかりに提示されているせいで、なるほどね以上の感想にならないのです。
他にも、主人公の連邦捜査官フォークの「捜査感」が足りないなぁとか、今作の相棒女性捜査官カーメンが色々と都合良すぎるよなぁとか、結局フォークたちの追っていた方の事件の掘り下げが宙ぶらりんだよなぁとか、全体的に消化不良感が否めません。完成度たっか!だった『渇きと偽り』と比べると……うーん。

まぁこれは、いくら読んでて面白くても、捜査小説である以上は、せめてホワットダニット部分くらいは「驚き」が欲しい、という本格ミステリ畑出の意見ですので、あまり気にしないでください。既にシリーズ3作目も出ているようですが、訳されても読もうかちょっと迷っちゃうんだよなぁ……でも『渇きと偽り』がめちゃくちゃ良かっただけに無視もしたくないし……。

原 題:Force of Nature (2017)
書 名:潤みと翳り
著 者:ジェイン・ハーパー Jane Harper
訳 者:青木創
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 467-2
出版年:2019.08.15 1刷

評価★★★☆☆

『007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕』イアン・フレミング - 2019.07.31 Wed

フレミング,イアン
007/死ぬのは奴らだ
『007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕』イアン・フレミング(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボンドの今回の標的は、全米の暗黒街を牛耳る男ミスター・ビッグ─彼はジャマイカから大量の古代金貨を盗み出し、世界の金相場を狂わせようと企んでいた。Mの指令を受けたボンドはニューヨークへ飛び、旧友のCIA局員ライターとともに調査を開始した。だがやがて、敵の罠に陥ったライターは瀕死の重傷を負い、ボンドも絶体絶命の窮地に! 鮮烈なヒーロー、ジェイムズ・ボンドの名を確立した初期の傑作。改訳決定版(本書あらすじより)

約2年に1回のペースで読み進めているHM文庫改訳版ジェイムズ・ボンドをそろそろまた読もう、ということで、今回はシリーズ第2作の『死ぬのは奴らだ』です。……何というか、今まで読んだ『ゴールドフィンガー』『ドクター・ノオ』と比べて、単純に頭が悪い内容でした(主にボンドの。敵は悪くない)。

ざっくり中盤までのあらすじを書くと、
ボンド、アメリカの黒人を束ねるミスター・ビッグの組織を潰すよう命令される
→まずボスに会ってみようと、のこのこハーレムに行って捕まる
→とりあえず敵の部下を殺して逃げる
→ビッグが仕返しにボンドの友人を半殺しにする
→ボンド、キレてまた部下を殺す
うーん、主人公に何の計画性もないのでは……。

暴力描写もエロ描写も割と直接的。毎回007が何らかの敵と戦うという基本コンセプトがありますが、今回の大ボス、アメリカで黒人組織を操るミスター・ビッグは、ただただ威圧感はあるし、有能だし、隙もないしで、文句なしの敵役です(本人はバトらないあたりが首領感あります。直接的にボンドとバトるのは物語中盤の中ボスだし)。そしてミスター・ビッグが超有能な一方で、主人公ジェイムズ・ボンドに有能さを感じられないのが何とも。だって、ジェイムズ・ボンド、敵の組織に囚われて、ボスの女に会った3秒後くらいにはその女を味方にしているんですよ。さすがに都合が良すぎでは……?

基本的に今回のボンドは、すぐ見つかるわバレるわで、延々と痛そうな目に合います(友人はもっと合うんですけどね)。警察に目はつけられていても証拠がないミスター・ビッグの一味の企みを暴くという命令を受けているボンドですが、もろもろ解決するために、とりあえず「死ぬのは奴らだ」から殺す、というスタンスはどうなんだおい。いくら殺しの許可を持っているからって、そりゃFBIもボンドに怒るわ。
だからこそ、君はこれまで送られてきたスパイの中で一番優秀だよ、的なことをミスター・ビッグがボンドに言うシーンが、イマイチしっくり来ません。そうか、この程度で一番なのか……と思わなかったのかな、当時の読者は。マジで。
そしてラスボスであるミスター・ビッグも、確かに超有能だし、最後の残虐な刑罰含めて大ボス感満載で結構好きなんですが、ああいう形でボンドに負けるのはやっぱりしょぼくないか?と、ちょっと思ってしまうのですが……。ただまぁ、そりゃあんな無理やりな方法でボンドが解決するとは思わないから、仕方ないとも言えます(なぜちょっとミスター・ビッグを応援したい気持ちになっているんだろう……)。

……と、こういうツッコミどころを楽しみながら読むのが、このシリーズの醍醐味というか、作者イアン・フレミングが全力で書いたサービス精神満載の大人のための童話の読み方なのかなと思いますし、何ならエンタメとしては単純に楽しめたので、意外と文句はありません。いわゆるスパイ小説としての面白さとは別物ですが、たまに読む娯楽小説としては申し分ないのが、このシリーズの魅了なんでしょう。

原 題:Live and Let Die (1954)
書 名:007/死ぬのは奴らだ〔改訳版〕
著 者:イアン・フレミング Ian Fleming
訳 者:井上一夫
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 224-2
出版年:1998.03.31 1刷

評価★★★☆☆

『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハ - 2019.07.28 Sun

フォン・シーラッハ,フェルディナント
刑罰
『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハ(東京創元社)

黒いダイバースーツを身につけたまま、浴室で死んでいた男。誤って赤ん坊を死なせてしまったという夫を信じて罪を肩代わりし、刑務所に入った母親。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護することになった新人弁護士。薬物依存症を抱えながら、高級ホテルの部屋に住むエリート男性。──実際の事件に材を得て、異様な罪を犯した人々の素顔や、刑罰を科されぬまま世界からこぼれ落ちた罪の真相を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』で読書界を揺るがした短篇の名手が、真骨頂を発揮した最高傑作!(本書あらすじより)

「参審員」Die Schöffin
「逆さ」Die falsche Seite
「青く晴れた日」Ein hellblauer Tag
「リュディア」Lydia
「隣人」Nachbarn
「小男」Der kleine Mann
「ダイバー」Der Taucher
「臭い魚」Stinkefisch
「湖畔邸」Das Seehaus
「奉仕活動(スボートニク)」Subotnik
「テニス」Tennis
「友人」Der Freund

シーラッハ、今まで出たのは全部読んでいるのですが、結局短編集の方が好き、という結論になっています。第3短編集となる今回も安定のクオリティで、割と本気で楽しめたのですが、『犯罪』『罪悪』とはまた違ってきているように感じました。

『犯罪』『罪悪』という2つの短編集の違いはいったんおいておいて、この2つの方が荒削りというか、内容的にはよりキツい犯罪(者)そのものを描いていたという印象です。個々の短編にクオリティの差は多少あるのですが、ガツンと残る作品が多かった、というか。
今回の『刑罰』は平均的に質は上がったし、依然としてシーラッハ節もあります。というわけで相変わらずの大満足なんですが、どちらかと言うと大人しくなったなぁ、というのが少し気になりました。ただ、バリエーションは確実に豊かになっていて、シーラッハらしく法や罪人を描きつつ、そこにストーリー上の起伏が加わっているため、むしろ一般的な「面白さ」は増しているようにも思えます。キラーチューンがないけど色々試そうとし始めたベテランの後期のアルバムみたいな感じ。
犯罪に至るまでの心情を描いた話、法の抜け道的なものを描いたりどんでん返しがあったりとややトリッキーな作品、視点変えたらコメディにすらなりそうな脱力系のオチ、などなど。長めの作品も短めの作品もまんべんなく上手いので、やっぱりシーラッハは良いですねぇ。

というわけで、シーラッハはやっぱり今後も長編より短編を読みたいなぁと思うのですが、どうでしょう。スタンリイ・エリンみたいにじっくり書いてもらうスタイルで構わないので……。

原 題:Strafe (2018)
書 名:刑罰
著 者:フェルディナント・フォン・シーラッハ Ferdinand von Schirach
訳 者:酒寄進一
出版社:東京創元社
出版年:2019.06.14 初版

評価★★★★☆

『ドーヴァー⑧/人質』ジョイス・ポーター - 2019.07.07 Sun

ポーター,ジョイス
ドーヴァー⑧/人質
『ドーヴァー⑧/人質』ジョイス・ポーター(ハヤカワ・ミステリ)

そのスキャンダルは嵐のようにスコットランド・ヤードを揺さぶった。副総監は頭をかかえ、マグレガー部長刑事はつつましく心の中で快哉を叫んだ。同僚たちも祝杯をあげ、顔を真っ赤にして喜んでいる。ヤードきっての憎まれ者、ドーヴァー主任警部が不気味な〈クラレット・タッパーズ〉一味に誘拐されたのだ!
誘拐団の要求は囚人二人の釈放と一万ポンド。ただちに副総監はテレビに出演して犯人側に呼びかけた。「人質がどうなろうと、当局は一銭たりとも出す気はない。すみやかに自首したまえ」テレビ局も世論も、同胞の生命を無視した冷酷な措置に非難の声をあげた。もちろんヤードでは百も承知、対象が対象だけに当然の作戦なのだ。
一方テレビに注目していた誘拐団は意気消沈した。なにかにつけて腹が減ったと怒鳴りちらす巨体のドーヴァーだ。食事代だけかさんで身代金がとれないのなら、こんな厄介な人質は百害あって一利もない。頭にきた一味はさっそく始末するに限ると、がんじがらめに縛り上げビニール袋に突っ込んだ。ドーバー危うし!
こともあろうに現役警官が誘拐されてスコットランド・ヤードはてんやわんやの大騒ぎ。史上最悪の名探偵が四面楚歌の中で繰り広げる、抱腹絶倒のユーモア本格シリーズ8作目。女史会心の最新作。(本書あらすじより)

年一ドーヴァー、ついに8作目。あと2年で終わりかぁ……。
地方都市で殺人が起き、ドーヴァーたちが派遣される、といういつものパターンから急に離れた作品。マンネリ防止でしょうか。なんとドーヴァーが誘拐され、自らの誘拐事件を捜査する……というぶっ飛んだ捜査物。ところが、いつもと違うことをやろうとした結果、謎解き的にもユーモア的にもストーリー的にもイマイチになってしまったという、実にもったいない作品でした。違うんだよ、ドーヴァーシリーズはこうじゃないんだよなぁ……。

ドーヴァー主任警部が〈クラレット・タッパーズ〉と名乗る集団に誘拐された。敵は何らかの政治団体なのか? 狂喜乱舞するスコットランドヤード(&ドーヴァーの妻)は、要求として突き付けられた犯罪者の解放と身代金の支払いを断固拒否。死体となってドーヴァーが発見されるかと思いきや、ドーヴァーを誘拐しても何の得にもならないことに気付いた誘拐犯たちはドーヴァーを解放してしまった。仕方なく、ドーヴァーは自らの誘拐事件の犯人探しに乗り出すが……。

ドーヴァーシリーズの本格ミステリ的な見どころは、
①地方都市における殺人事件という英国ミステリの典型的なパターンのパロディ
➁衝撃的な動機が示されるというホワイダニット
③誰が謎解きをするか予想のできない解決
の3点かなと思っています。今作では、①はもちろんなし、➁はほぼ皆無、③は新パターンでした。①②については『⑦/撲殺』あたりから行き詰まっている感があるので、9、10作目で果たしてどこまで頑張ってくれるのか……あんまり期待しておかない方がいいのかな、もしかして。

本格ミステリとして行き詰まった結果、ドーヴァーのうざさを増させることでキャラ小説としての要素を強めよう、と作者が思ったのかどうかは分かりませんが、『撲殺』からドーヴァーが(元々そうとはいえ)ただのぐうたら悪口野郎、積極的な動きをしないただただ不快なキャラクターに成り下がってしまっています。今回も、せっかくドーヴァーが誘拐されるという超面白要素があるにもかかわらず、それがあまり生かされていないように思えるのは、そんなキャラクターに作者自身が手こずったせいかなぁとちょっと思いました。
謎解き的にも、今回も名推理が飛び出す割に、それが上手く推理と捜査の楽しさにつながっていなくて、意外性などが全くないのが実にもったいないです(尻すぼみ感がすごい)。むしろ身代金の受け渡し方法にオリジナリティを感じます。なかなか斬新じゃないですか、これ。

一方、誘拐事件という内容上、いつもよりも捜査小説としての要素が強め。ドーヴァーが誘拐されたロンドンをスタート地点に、ひたすら誘拐犯につながる手がかりを追い求め、車や電車に乗り、あちこちに移動するという、史上初のドーヴァーの捜査を見ることが出来るのです。誘拐に対する同僚や妻たちの反応とか、誘拐犯の指示のもと歩き回されるドーヴァーなんかは相変わらず超楽しいんですけどね……。

というわけで、もともとあまり期待していなかったのですが、結局いつもの方が良かったなぁと思わざるを得ないところが残念。とはいえ、ドーヴァーもあと2作、どんなパターンをやってくれるのか、楽しみではあります。

原 題:Dover and the Claret Tappers (1976)
書 名:ドーヴァー⑧/人質
著 者:ジョイス・ポーター Joyce Porter
訳 者:小倉多加志
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1305
出版年:1978.04.30 初版
     1982.11.15 2版

評価★★★☆☆

『カッコーの歌』フランシス・ハーディング - 2019.06.18 Tue

ハーディング,フランシス
カッコーの歌
『カッコーの歌』フランシス・ハーディング(東京創元社)

「あと七日」意識をとりもどしたとき、耳もとで言葉が聞こえた。わたしはトリス、池に落ちて記憶を失ったらしい。少しずつ思い出す。母、父、そして妹ペン。ペンはわたしをきらっている、憎んでいる、そしてわたしが偽物だという。なにかがおかしい。破りとられた日記帳のページ、異常な食欲、恐ろしい記憶。そして耳もとでささやく声。「あと六日」……わたしになにが起きているの? 『嘘の木』の著者が放つ、傑作ファンタジー。英国幻想文学大賞受賞、カーネギー賞最終候補作。(本書あらすじより)

YAミステリとして話題になった『嘘の木』のハーディングによる、邦訳2冊目。今回は、ファンタジー要素もあるミステリ、ではなく、ガッツリ目のファンタジーです。
前半は何が起きているのか分からないホラーのような展開、後半はトップスピードのサスペンス。ファンタジー色が前面に出ているのが好みだったのか、『嘘の木』(好き、というほどでもない)よりも、こちらの方が楽しめました。

物語は、主人公である少女トリスが、しばらく記憶を失っていたことに気付くところから始まります。数日間の記憶がないだけ……と思いきや、妹のペンから偽物呼ばわりされ、自分の行動にも明らかな違和感を覚えるトリス。果たして自分の身に何が起きているのでしょうか?

個人的にファンタジーに求める要素、ファンタジーの見どころは、以下の3点です。
①設定・世界観の面白さ
②何でもありのキャラクターの楽しさ
③(色々な意味での)バトル
この3つすべてを満たしている必要はなくても、どれかに惹かれなくてはその作品にはハマれないかな、と。特に『カッコーの歌』のようなローファンタジーは、①、その中でも「現実との地続き感」(9と3/4番線からホグワーツ特急に乗れる、みたいな)が面白さの大事な要素かな……と思っているのですが(あくまで個人的に、ですよ)、今作は①~③のどれも良かったのです。
なかなか①の全貌が明かされない前半は、精神的につらい展開。つらいのですが、だからこそ終盤の③が生きる、という必要な部分なので仕方ありません。言ってみれば義理のない相手のためのバトル、そして家族とのバトルは、主人公にとっては本来必要のない闘いであり、もがきなのですが、前半があるからこそ説得力のある強いものになっています。なにより、心から応援したくなるトリスという主人公が生まれているのは、この前半があるからこそでしょう。

白黒つけられない現実というものを逃げずに冷静に見つめ、妥協しながらも自分のやりたいことを通そうと努力した人たちが、それぞれ絶妙な形でおさまるところにおさまるラストがとっても良いんですよね。大人向けファンタジーとしても、背伸びしたい子どもたちに読ませるファンタジーとしてもおすすめの作品です。

原 題:Cuckoo Song (2014)
書 名:カッコーの歌
著 者:フランシス・ハーディング Frances Hardinge
訳 者:児玉敦子
出版社:東京創元社
出版年:2019.01.25 初版

評価★★★★☆

『Ⅹと云う患者 龍之介幻想』デイヴィッド・ピース - 2019.05.15 Wed

ピース,デイヴィッド
Ⅹと云う患者 龍之介幻想
『Ⅹと云う患者 龍之介幻想』デイヴィッド・ピース(文藝春秋)

小説家、芥川龍之介。東方と西方の物語と伝承と信仰に魅せられた男。そのなかで静かに渦を巻く不安。それがページから少しずつ滲み出す。半透明の歯車が帝都を襲った震災の瓦礫の彼方にうごめき、頽廃の上海の川面には死んだ犬が浮き沈み、己が生み出した虚構の分身と邂逅し、キリストと信仰の物語に心を囚われ、漱石がロンドンでの怪異を語る。河童。ポオ。堀川保吉。ドッペルゲンゲル。鴉。マリア像。歯車。羅生門、藪の中、蜘蛛の糸、西方の人――キリスト。私のキリスト。イギリスの鬼才が芥川文学をコラージュし/マッシュアップし/リミックスして生み出した幻想と不安のタペストリーを、精妙に美しい日本語に移し替えた決定的翻訳。文学的にして音響的、イギリス文学であり日本文学であり、近代文学と現代文学を越境する野心作。(本書あらすじより)

デイヴィッド・ピースを読むのは『占領都市』以来2冊目。あのノワール作家による、日本を舞台にし、芥川龍之介を取り上げた作品だということで、いったいどんな内容なのか、と思っていましたが……うーん、もはやノワールですらないんじゃないか、これは。なんじゃこりゃ。
様々な芥川作品をベースに作られた、連作短編集のような一冊なのです。各短編の作風は結構バラバラですが、基本的に幻想色が強く、いわゆるノワール(ではないとは言わないけど)を期待して読むようなものではなかったな、と。とはいえ、これを翻訳して、完璧な日本語版を作り上げてしまった訳者さん、すごいとしか言いようがない……。

というわけで、あらすじもカット。個別の短編の感想もカット。出版社あらすじにあるように、本作は「芥川文学をコラージュし/マッシュアップし/リミックスして生み出した幻想と不安のタペストリー」なので、芥川作品への理解がある程度ないと元ネタすら分かりません。分からなくても読めますが、面白さをどれだけ理解できたのか、と言われると……。幻想小説好き、芥川好きにはどハマリしそうですが、正直ターゲットから思いっきり外れているっぽい自分的には、感心はしまくっても最後まで面白さそのものにピンと来ないまま読み終わってしまいました。っていうかむしろこの面白さが分からないのが色々と申し訳なく感じてくるな……。
ロンドンを舞台にした切り裂きジャックの話は、ゴシック小説っぽくてちょっと好きかも。

というわけで、俺にはこの作品の感想は書けないんじゃ、許してくれ。自分は、まず普通に『TOKYO YEAR ZERO』とかを読むべきなんだろうなぁ。

原 題:Patient X: the Case-Book of Ryūnosuke Akutagawa (2018)
書 名:Ⅹと云う患者 龍之介幻想
著 者:デイヴィッド・ピース David Peace
訳 者:黒原敏行
出版社:文藝春秋
出版年:2019.03.20 1刷

評価★★☆☆☆

『座席ナンバー7Aの恐怖』セバスチャン・フィツェック - 2019.05.01 Wed

フィツェック,セバスチャン
座席ナンバー7Aの恐怖
『座席ナンバー7Aの恐怖』セバスチャン・フィツェック(文藝春秋)

上空数千メートルを飛ぶ旅客機。そこに乗り込んだ飛行機恐怖症の精神科医クリューガー。彼を見舞ったのは想像を絶する悪夢だった。誘拐された娘を救いたければ、この飛行機を墜落させろ。それが犯人の要求だった。恐怖と苦悩にさいなまれるクリューガー。乗客乗員と娘の命を守るには、着陸までに無数の謎を解明しなくてはならない。ドイツでベストセラーを記録したタイムリミット航空サスペンス。(本書あらすじより)

『乗客ナンバー23の消失』に続く、セバスチャン・フィツェックの〈閉鎖空間タイムリミット・サスペンス〉。皆様ご承知の通り、自分は(フィツェックが得意な)サイコ・サスペンスがむしろ苦手な方ですし、さらに言えば〈閉鎖空間タイムリミット・サスペンス〉なんていう息のつまるような作品なんで読みたくもないのです。が、好みはどうあれ『乗客ナンバー23の消失』は謎解きミステリ的には面白いことをやっている作品でしたし、その前に読んだ『アイ・コレクター』なんてサイコの極みだったとはいえ超面白いことをやっていたわけなので、仕方ない今回も読むか……と覚悟を決めました(前置きが長い)。
という期待を持って読んだからかもしれませんが、うーむ、いや、別につまらないわけでもなく、リーダビリティも抜群だし、なかなかトリッキーなこともやっているゴリゴリサイコサスペンスではあるんですが、「今回は大人しいな……」って思ってしまったのでした。

誘拐された妊婦とそのイカれた誘拐犯の話、妊婦の父親である精神科医クリューガーが旅客機で飛行機を落とすよう脅される話、飛行機墜落のキーとなる過去の無差別銃撃事件、などなどが複雑に絡まり合い、毎章抜群の引きで同時多発的に進行していきます。やや強引ですが、そもそもこれをまとめあげられるのがすごいっていう。

『乗客ナンバー』のように閉鎖空間密室物ではありますが、旅客機外部の話が多いせいかあまり閉鎖感はありません。精神科医である主人公に与えられた、無差別銃撃事件に関わった女性カーヤの心を壊し、飛行機内で暴れさせ飛行機も壊せ、という激ヤバミッションも、比較的苦労せずゆっくり進んでいきます。
誘拐部分(きっつい)とか過去の事件とかはいつも通りサイコさんまみれですし、紛れもなくサスペンスではあるんですが、タイムリミット感とか追い詰められたギリギリ感がなく、意外と落ち着いて謎解きを行っている……というのが、結果的にはこういう話を読んだにもかかわらず「大人しい」という印象を持ってしまった理由かもしれません。あと前作のような変などんでん返しもないし(ここはむしろない方が好き、という人も多そう)。要するに、わりと正統派……?

というわけで、面白いことは面白いんだけど、なんかちげぇ、という贅沢すぎる感想を持ってしまいました。どんでん返しなどで評価が高いのは、むしろ(サイコ要素強めの)初期作なんですよね。そっちを……読む……しかない……のか……うぐぐ。

原 題:Flugangst 7A (2017)
書 名:座席ナンバー7Aの恐怖
著 者:セバスチャン・フィツェック Sebastian Fitzek
訳 者:酒寄進一
出版社:文藝春秋
出版年:2019.03.10 1刷

評価★★★☆☆

『きたれ、甘き死よ』ヴォルフ・ハース - 2019.02.28 Thu

ハース,ヴォルフ
きたれ、甘き死よ
『きたれ、甘き死よ』ヴォルフ・ハース(現代ウィーン・ミステリー・シリーズ)

ウィーンから新しいミステリーの風!ドイツ・ミステリー大賞最優秀賞受賞作品。白昼のウィーン中心街で、血液銀行社長とその恋人が狙撃された。その背後には、「人命救助」を賭けて熾烈なライバル争いを繰り広げる2つの救急隊組織の存在が……。ウィーンで人気のブレナー・シリーズ、日本初登場。(本書あらすじより)

序盤「何これジャック・ルーボー感がある、超好き」
中盤「割と飽きた」
終盤「やっぱり好き」

……という、何ともクセモノなミステリでした。とりあえず、出だしの10ページを読めば、どんなタイプのミステリかが一発で分かると思います。フレッド・ヴァルガスや、ジャック・ルーボーっぽいというか。全部を褒めることは出来ないのですが、このシリーズ、ぜひ他の作品も読んでみたいです。

元刑事である救急隊員ブレナーは、社長からライバル会社について調べるよう求められる。仕事の傍ら、気乗りしないまま調査を開始したブレナーだったが、やがてとある射殺事件が発生したことで、否応なく事件に巻き込まれていくが……。

ジャック・ルーボーなどと同じく、作者の一人称語りが鼻につくタイプの小説(あれほどではないけど)。さらに、唐突な場面転換、敵に捕まるようなシリアスなシーンの非シリアスっぷり、映像化したら爆笑物の追跡シーンなど、オフビート感がすごいのです。見ていてとても楽しい、主人公ブレナーの注意力散漫な感じも、オフビートっぷりを加速させています。もう、めっちゃユーモラスなミステリなんですよ。
ある程度は軽ハードボイルドに近いミステリなんでしょうが、終始冗談めいた語り口のクセの強さやら変なテンポやらで、全然それっぽさがありません。どんでん返しや真相が、さらっと書かれてはいるけど、往年のフランス・ミステリっぽい、というのもポイント高いです。

個人的にはこういうミステリ、すごく好き。近年紹介されたドイツ語圏(含むオーストリア)ミステリってサスペンス寄りのものばかりで、この手の軽快なものをあまり読んだことがなかったので新鮮でした。ブレナーシリーズ、他の作品もぜひぜひ読みたいんですが、今から創元あたりで出る可能性はないのかな……シュテファン・スルペツキみたいな枠でなんとか……。
ところで、これはもしや、現代ウィーン・ミステリー・シリーズ、好みかもしれないから買い集めて読み進めていかなきゃいけないってことなのか? マジか……。

原 題:Komm, süßer Tod (1998)
書 名:きたれ、甘き死よ
著 者:ヴォルフ・ハース Wolf Haas
訳 者:福本義憲
出版社:水声社
     現代ウィーン・ミステリー・シリーズ 4
出版年:2001.05.30 初版

評価★★★★☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人3年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から9年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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