『悔恨の日』発売

2017-09

『聖エセルドレダ女学院の殺人』ジュリー・ベリー - 2017.09.19 Tue

聖エセルドレダ女学院の殺人
『聖エセルドレダ女学院の殺人』ジュリー・ベリー(創元推理文庫)

十代の少女7人が在籍する小規模な寄宿学校で、ある日の夕食中、校長先生とその弟が突然息絶えてしまう。それぞれの事情から家族の元へ帰されたくない生徒たちは、敷地内に死体を埋め、事実を隠して学校生活を続けることにする。翌日、科学の得意なルイーズの分析により、ふたりは毒殺されたと判明。生徒たちは得意分野を活かして大人の目をあざむきつつ犯人を探り始めるが……。(本書あらすじより)

冒頭20ページを読んだ時点で、これは俺が大好きな傑作『スイート・ホーム殺人事件』の再来ではないか……?と思っていたのですが、だいぶタイプが違いました。少女たちを探偵役に据えた良作です。

何がすごいって、女学院の女校長と弟が毒殺され、家に帰されるのを恐れた女生徒7人は死体隠しに奮闘する……というストーリー部分ではないのです。中盤まで、少女たち7人が互いが犯人かと疑い、実際犯人“ではない”ことを示す内面描写が出てこないことなのです。誰が殺したんだろうと思った、みたいな字の文がほぼないんですよね。『そし誰』みたい。
19世紀末という舞台設定の生かし方も良いです。少女たちがあくまで型に外れないことを求められる時代の中で、それぞれ好きなことをやろうと戦うわけですよ。召使いを呼び捨てる階級的なもの、ストロベリーパーティのような風俗、ヴィクトリア朝らしい恋模様などもしっかり描かれ、話に織り込まれているのです。
だからちょっとくらいのリアリティのなさ(少女の一人が、変装で死んだ女校長に成りすましちゃうところとか)も許せちゃうのかも。そもそも序盤からして、死体が転がっている家に大量のお客さんが来てわちゃわちゃしているところなんて、完全にスラップスティックコメディですもんね。

また本格ミステリとしても好印象。長めの解決編と怒涛の伏線回収による丁寧な謎解きが、これ、という手がかりこそないものの、良質なフーダニットという感じで大変良いです(殺人以外のぜい肉犯罪の挿入の仕方なんかはクリスティーっぽい)。7人それぞれの個性を生かし切った捜査と、言うなれば殺人を隠す犯罪が、キャラ物としても秀逸。

『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』もそうでしたが、こういうちょっとした苦みのある、かつ少年少女同士のちょっとしたいがみ合いをきちんと描いたYAらしいミステリには好感が持てます。ちなみに『お嬢さま学校~』の方が全体的には上かな……うーん、この手のミステリを新刊でいろいろ読み比べられるのは嬉しいですねー。

原 題:The Scandalous Sisterhood of Prickwillow Place(2014)
書 名:聖エセルドレダ女学院の殺人
著 者:ジュリー・ベリー Julie Berry
訳 者:神林美和
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mヘ-17-1
出版年:2017.01.13 初版

評価★★★★☆
スポンサーサイト

『赤い収穫』ダシール・ハメット - 2017.09.11 Mon

赤い収穫
『赤い収穫』ダシール・ハメット(ハヤカワ・ミステリ文庫)

醜悪な町だった。 垂れこめる空は精錬所の煙突から吐き出されたようだった。町に着くとすぐ、私をサンフランシスコから呼んだ男が殺されたことがわかった。町の最高実力者の息子で、鉱山会社の労働争議で力をつけたボスどもの一掃を目指していたらしいが……その犯人探しの途中で、私は新たに父親の実力者から依頼を受けた。ドブネズミどもを残らず追い出してくれという。私、コンチネンタル探偵社のオプは、汚れきった町の実力者、警察署長、ボス連中を巻き込み、血の抗争の果ての共倒れを画策する。ハードボイルドの記念碑的名作。新訳決定版。(本書あらすじより)

う、嘘だろ……めちゃくちゃ面白いじゃないか……。

というのが読んでいる間、読み終わった後に思ったことでした。
思い返せば5年前、ハードボイルドなるものを勉強する読書会で、初めて『マルタの鷹』を読んだのでした。でまぁ、確かに楽しめましたが、はいはいマッチョでタフな感じね、いわゆるハードでボイルドね、脳みそより腕力がものを言うのね、という感じで、サム・スペードはイメージ通りのハードボイルド探偵そのもの、内容もまさしくハードボイルドそのものだったわけです。好きかと言うと、まぁそうでもないという。
そしてその後、例えばマイクル・Z・リューインを読んだり、S・J・ローザンを読んだりする中で、なるほど俺の好きなハードボイルド/私立探偵小説はこっちなんだなということが薄々分かってきました。端的に言うとハメット、チャンドラーはもういいかなと(チャンドラー、『長いお別れ』しか読んでないけど……)。ロスマクは『縞模様の霊柩車』というド傑作に会えましたが、ハメットに心から好きな作品はないだろうな、と思い込んでしまったわけです。

しかしながら周囲のミステリ賢者たちは一様に「鷹とかどうでもいいから収穫を読め!」と散々言うわけです。いわく、収穫は本格ミステリだ、鷹とは全然違う、ゴタクはいいから読め、云々。めんどくせぇなぁと思いながら月日は流れ、ついに2017年、『赤い収穫』を読むこととなったわけです。
傑作でした。グウの音も出ません。ごめんよハメット……。

まず何に驚いたかって、現在の正統派ハードボイルドとは全然違う、ということです(だから『マルタの鷹』の方がクローズアップされやすいのかな)。本格ミステリ、ハードボイルド、ノワール、サスペンス、コン・ゲームなどの要素が見事に結びついています。
設定だけ見ると、地方都市ノワールみたいなんですよね。内容はあらすじの通り。1929年発表とは思えないくらいのテンポの良さで、腐敗渦巻く地方都市の抗争を、主人公であるコンチネンタル探偵社の探偵(名前不明、通称オプ)がひっかきまわしていきます。大きな探偵社に所属しており、同僚の助けも借りられるという従業員私立探偵もの、あんまり読んだことがないのですが(ジョー・ゴアズはこれに近いらしい)、設定として超面白いと思います。

そしてコンチネンタル・オプが、もうとにかく名探偵すぎるのです。脳筋探偵サム・スペードとは違って(失礼)黄金時代顔負け(矛盾)のキレキレ名推理、数十人の死人を生み出す血みどろの抗争を起こせる悪魔的コン・ゲーム力、マッチョっぷりを出さずとも適度に強く一度も頭を殴られず意識も失わないまま長編を終えられるバトル強さを持つ雇われ探偵、それがコンチネンタル・オプなのです……スペック高すぎじゃね?
いや実際、殴ったり殴られたりしているだけのサム・スペードとは大違いです。頭を殴られる、すぐ女と寝る、軽口を叩く、みたいなハードボイルドのテンプレイメージにほとんど乗っからず(作中で一度も女と寝ていない)、ただただ優秀というキャラクター、好感しかありません。

そして何より推理力が高すぎます。いきなり最初の100ページで最初の事件をキレキレロジックと推理で解決し、170ページくらい読んだところで唐突にまたキレキレロジックと推理によって事件を解決し、中盤でもキレキレロジックを炸裂させ、最後にまた名推理を披露します。何回も推理シーンが出てきて、そのたびにどう見ても本格ミステリな謎解きが展開されるのです。基本的に全事件を発生から100ページ以内で解決するので、ポアロより優秀なのでは……。本格ミステリを軸にせず、ハードボイルドという枠組みを作り出し、その中で明らかに本格ミステリを展開するダシール・ハメット。まぎれもなく天才です。
この本格ミステリハードボイルドの面目躍如とも言えるのが、終盤自分が殺人を犯したか記憶があいまいなオプが、あくまで理詰めで真相を追い求めようとするところですよね。すごいんだ、これが。っていうか全部すごすぎるし、正直プロットが複雑すぎるので、例えば誰が弁護士を殺したのかとかもう覚えてないよね……。

そして100ページから後は延々と抗争なのですが、回想の殺人やら現在進行形の同時発生の殺人やら脱獄やらをいちいちロジカルに解き明かしていくので、コンスタントに謎解きカタルシスがあるのが大変良いです。銀行強盗のやつとか、あんなちょっとしたものまでちゃんと伏線はってあるんですよ。なおかつオプさん、「これで16人か……」と死人のカウントをし、ちょっと萎えたりしつつも基本的に非情に徹し(けどあんまり冷たい印象も受けない)、おちょくられた仕返しというだけで勝手に町の抗争という追加任務を粛々とこなすのです。だいたいの人が死にます。どこのノワールの犯人だあんた。強すぎる。

とある作品を褒めるために他の作品を引き合いに出すのはどうかとは思いつつ言っちゃいますが、『マルタの鷹』は一旦いいから『赤い収穫(血の収穫)』を品切れにしない努力を出版社はするべきだと思います。歴史的意義をふまえずとも、間違いなく傑作ハードボイルド/ノワールであり、そして優れた本格ミステリでもある作品でしょう。あまりハードボイルドに興味がない本格ミステリ読者こそ、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。自分でもビックリなくらい、おすすめです。

原 題:Red Harvest(1929)
書 名:赤い収穫
著 者:ダシール・ハメット Dashiell Hammett
訳 者:小鷹信光
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 143-2
出版年:1989.09.15 1刷
     1994.09.30 3刷

評価★★★★★

『晩夏の墜落』ノア・ホーリー - 2017.09.07 Thu

晩夏の墜落 上 晩夏の墜落 下
『晩夏の墜落』ノア・ホーリー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

メディア界の要人がチャーターしたプライベートジェット機が大西洋上に墜落。この惨事に巻き込まれた画家のスコットは救出した男の子とともに夜の海を命がけで泳ぎきり、奇跡的な生還を果たす。世間から英雄視されるスコットだったが、落下原因の究明が難航するなかで次第に疑惑の目が向けられ始め……その飛行機にいったい何が起こったのか? 人気ドラマクリエイターによるアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。(上巻あらすじより)

エドガー賞受賞ということで、ポケミス文庫同時発売という気合いの入った本だったわけですが、正直なところ、あんまり好みじゃないという。たぶん最初の100ページが好きな人はとにかく好きでしょうし、最初の100ページに何も思わない人は最後まで何も思わないだろうな、と。

プライベートジェットの墜落事故から奇跡の生還を果たした、売れない画家のスコット。訴訟を控えたメディア王や富豪が死んだのは偶然なのか? 墜落原因がはっきりしない中で、テレビの人気司会者の扇動により、次第にスコットは疑惑のヒーローへと祭り上げられていくが……。

上巻終了の時点で、あらすじの「世間から英雄視されるスコットだったが、落下原因の究明が難航するなかで次第に疑惑の目が向けられ始め」という内容ではないのですが(下巻にはそうなる)、こうでも書かないとどういう話なのか説明できない、という出版社側の気持ちも分かります。ラスト150ページになってようやく事故の墜落原因に焦点が当てられ、ラスト100ページになってどんどん謎が増えていく、という感じ。
じゃあ終盤までなにやってるのかと言うと、まぁ基本的に登場人物それぞれのサイドストーリーとか過去エピソードとかで構成されているわけです。事故で死んだ人物の過去、事故で助かった人の過去、事故に関係した人の現在、などなど。その記述の仕方はある意味終盤になって真相が語られる際も同じです。
また後半になるにつれ、私生活をひたすら暴き、あることないこと言い立てるメディアのあり方がクローズアップされていくのですが、その書き方も思ったよりぬるかったなぁという印象。あんまりえげつないとそれはそれで読み通すのがつらいとは言え、この程度を書けば十分なの?と思わなくもありません。

ですから、ストーリーで引っ張るというよりも、墜落事故によって結びつけられた各人の人生を読ませるタイプの作品なのだと思います。飛行機の墜落事故というホワットダニットを、あくまで作品を構成する上でのツールに留めた群像劇、という感じ。爆発事故前を描いたエレナー・アップデール『最後の1分』にどことなく近いものを感じます。やっぱり、こういうフワフワした作品は心からはハマれないかなぁ。ラストの落とし方も、そこまで、こう、心にこなかったし、なんですかね、やっぱりタイプじゃない作品ってありますよね……。気になる方は、とりあえず冒頭だけ読んで判断してみてはいかがでしょうか。

原 題:Before the Fall(2016)
書 名:晩夏の墜落
著 者:ノア・ホーリー Noah Hawley
訳 者:川副智子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 450-1,2
出版年:2017.07.15 1刷

評価★★☆☆☆

『閉じられた棺』ソフィー・ハナ - 2017.08.29 Tue

閉じられた棺
『閉じられた棺』ソフィー・ハナ(クリスティー文庫)

招待先のアイルランドの荘厳な子爵邸で、ポアロと盟友キャッチプール刑事は再会を果たす。その夜、ディナーの席で、招待主である著名作家が、全財産を余命わずかな秘書に遺すという不可解な発表をした。動揺した人々がようやく眠りについたころ、おぞましい事件が……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ公認続篇第2弾。(本書あらすじより)

懐かしのソフィー・ハナです。いつぞやは『モノグラム殺人事件』なる、1ミリもクリスティーっぽさがないけど本格ミステリとしては結構良い、という何とも評価に困る内容の公式ポアロを書かれた作者様であります。パスティーシュ2作目となった今回も、前作同様エセポアロ・エセクリスティー感がすごいのですが、今時これだけ黄金時代風本格ミステリを書いてくれる人もいないわけで、設定だけクリスティーから借りたジェームズ・アンダースン、みたいなノリで読めばいいのかなと思いつつ読み始めました。が……。
なんかもう色々言いたいことはあるんですけど、とりあえず結論から言うと、ソフィー・ハナによるポアロパスティーシュを今後も読み続けていける自信がありません。これは厳しいぞぉ。以下その理由をグダグダと。

前作は、これどこの現代サスペンスですかってな具合のグロ死体から始まりましたが、今回事件自体は一見かなりクリスティーっぽい内容です。アイルランドの屋敷に招かれたポアロとキャッチプール刑事、遺言状の書き換えを宣言する屋敷の主、起こる殺人。殺人が目撃されていたため容疑者が即生まれる、なんてところも定番中の定番です。

『モノグラム殺人事件』を読んだ時にポアロパスティーシュとしての欠点をぼっこぼこになるまでに書きましたが、今回も特に改善は見られず。「クリスティーの簡潔にしてテンプレでありながらしっかり印象を残す描き分けられたキャラクターはここにはいない。描かれなすぎか、強く描かれ過ぎかのどちらか。」3年前と同じ感想です。
初期ポアロ(1920s~30s)のうざっぷりの強調(自信満々さ、フランス語、大げささなど)はちょっと抑えられたかなとは思いますが、会話の節々や行動がいちいちポアロの変装をした怪しげなおっさんにしか見えなくて気持ち悪いです。前にも言ったけど、単純に1920年代の英国が舞台のミステリを書きたいだけなら、ポアロ登場させなくていいんじゃないの……?
一方、うざさ100倍ヘイスティングズみたいだったポアロdisりマンことキャッチプール刑事は、今回はポアロに心酔しまくっているのでむしろほぼキャラクターがなくなりました。存在意義がない……ジジイになるまでポアロの推理と行動に疑問を呈し続けたヘイスティングズの一貫性を少しは見習ってほしい……。
キャラクターについて言えば、今回は警察の無能さが飽きれるほど炸裂しています。アイルランド警察の警部が特に酷く、究極のアホ丸出しで、警察医を頑なに用いようとしないのはさすがに意味が分かりません。不要な発言ばかりする部下の刑事も適当なキャラ付けにしか見えないし。そもそも舞台がアイルランドである必要性すらない気もするんですよね。クリスティー作品に登場するジャップ警部は、ポアロの悪口は言うけどここぞというところではポアロを信用しているし、アホではありません。ガチの無能な警官って、意外と書いていないと思います。

さて事件について。今回は……まぁホワイダニットということになるんでしょうが、この本サイコパスしか登場しないのかよとビビります。ほぼ全員行動がむちゃくちゃで、作者による理由付けにいまいち納得がいきません(説明されていない人すらいます)。遺言状を書き換えた理由、犯行を目撃した人の証言などなど、作者が話を面白くするためだけにムリヤリ作られた行動とシチュエーションが多いように思います。驚愕の動機は……確かにこんなもの読んだことはないので、思い付きは評価しますが、じゃあ面白いかって言うと……。
また『モノグラム殺人事件』と比べると、緻密さや伏線、論理的な謎解きという点ではかなり劣ります。矛盾した証言(クリスティーってここまで矛盾した証言を前面に出す謎ってあまり作らないですよね、むしろ地味なところから掘り下げていくイメージ)から導き出される真相は、正直それアリかよってな気分。『死との約束』が好きだという作者らしい、「開かれた棺」云々という漏れ聞いた言葉からの謎解きも、正直お、おう……の域を出ません。そして相変わらずソフィー・ハナは謎解きの演出が下手ですね……長い謎解きは好きですが、この本に関しては謎解き80ページはかけすぎだと思います。

というわけで、全然褒められるところがありませんでした。いずれ本国でパスティーシュ第3作も発表されるのでしょうが、正直このクオリティのままではつらいなぁというのが正直な気分です。しっかりしてくれ、ソフィー・ハナ&クリスティー財団……これ以上クリスティーの名を汚さないでくれ……。

原 題:Closed Casket(2016)
書 名:閉じられた棺
著 者:ソフィー・ハナ Sophie Hannah
訳 者:山本博、遠藤靖子
出版社:早川書房
     クリスティー文庫 105
出版年:2017.06.25 1刷

評価★★☆☆☆

『ゼルダ』カーター・ブラウン - 2017.08.20 Sun

ゼルダ
『ゼルダ』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ)

(長いので読まなくていいあらすじ)
ハリウッド郊外の豪勢な館で、突然女の悲鳴があがった。私立探偵リック・ホルマンが駆けつけると、ブラジャーとパンティ姿のゼルダが硬直したようにつっ立っていた。眼は大きく見開いたまま寝室を見つめている。リックは寝室へ飛び込んだ。ベッドでは男の死体がシーツを真紅に染めあげ、頭からは脳ミソがはみだし、髪にからみついて床に流れ落ちていた……。
その夜のパーティの主宰者は、セックス・シンボルと騒がれているグラマー女優ゼルダ・ロクサンヌ。招待されたのは奇妙な人間ばかりだった。彼女との結婚生活が半年ともたなかった三人の前夫。彼女と一夜の契りを結んだ南米の大統領。ゼルダの人気をねたんでいるおちぶらた中年女優。そして、私立探偵リック・ホルマン。楽しかるべきパーティは、ゼルダの意外な告白によって一変していた─彼女が是が非でも自分の伝記映画をつくりたいというのだ! もしその映画ができれば、招待客たちのスキャンダルは全世界に広がり、彼らの命とりになりかねない。彼らは戦々恐々となり、パーティは不吉な沈黙におおわれた。そして、はたして無残な殺人事件が起ってしまったのだ! 肉体女優ゼルダをめぐる血なまぐさい戦いに敢然と飛び込むタフ・ガイ探偵! 洒落た会話とお色気に溢れる、リック・ホルマンの記念すべき初登場作!(本書あらすじより)

『カナリヤ殺人事件』というしんどい本を読んだので、次は何かさくっと一日で読み切れるものを……ということで、カーター・ブラウン『ゼルダ』を読みました。アル・ウィーラーでもなくダニー・ボイドでもなく、少し毛色が違うというリック・ホルマンもの。なんだかんだでカーター・ブラウンも6冊目です。というか、何か軽いものを読みたい、という時にカーター・ブラウンを手に取ることついに5年目ですよ。完全に「読書に疲れたらカーター・ブラウン」が定着しつつあります。
上記の長ったらしいあらすじは別に読まずとも良いのですが、この『ゼルダ』、はっきり言ってスゴイのです。いったいどんな才能があれば、たった140ページの中で、個性的な容疑者を屋敷に集め殺人を起こしタイムリミットサスペンスを設定しアクションを交え非情な復讐譚にどんでん返しをミックスしついでにお色気をこれでもかとまぶしたお話が作れるんだ……?

有名女優であるゼルダ宅で殺人事件が発生。ハリウッドのトラブルシュータ―、リック・ホルマンがこの捜査に乗り出すことになる。容疑者はゼルダ、およびゼルダ宅に滞在していたゼルダと因縁ありまくる人々。何しろゼルダはあちこちに脅しをかけることで金を巻き上げようと計画していたのだ。動機が無数に転がる中で、ホルマンは犯人を見つけることが出来るのか……?

何はともあれ、探偵が8時間以内に犯人を見つけ、それを余すところなく証明しないと探偵が殺されるというシチュエーションを、この上なく見事に提示しているのが素晴らしいです。タイムリミット本格ミステリを軽ハードボイルドでやるならこうだぜ!というお手本のような作品(他の例知らないけど)。「よう名探偵、そろそろ犯人は捕まえたのかい」的な名探偵ちゃかしがふんだんに挿入されるので、本格ミステリパロディみたいになってます。しかも出来も悪くないっていう。
また、『猿来たりなば』ばりの伏線が炸裂するリック・ホルマンの狙い(作者は超さらっと流しているんですが、こんなネタをついででやっちゃうんかい!というのがまたすごい)とか、ホルマンの2年前からの恨みを炸裂させるケリの付け方だとかも、めちゃうまいのです。私立探偵らしい騙しですよね、これは。ホルマンは軽口タフな点で基本的にウィーラーやボイドと変わりませんが、ある種の強引さを持っているため、こういうオチを自然に出せるのかなと思います。
ついでに、見る者が息を飲まずにはいられないらしい見事な胸を持った秘書が合間合間に登場するので、エロい方面でも安定のカーター・ブラウンです。まぁカーター・ブラウンってプロット構成力とちょっとした伏線とちょっとじゃないお色気のバランスが常に取れている作家なので……天才職業作家だから……。

というわけで『ゼルダ』、これまたおすすめです。アル・ウィーラーがちょっとした非情さを見せる『死体置場は花ざかり』なんかとセットでどうぞ。ちなみに英語版Wikipediaを見ていたら、カーター・ブラウンの生み出した主人公たちの一人としてハリウッド女優ゼルダ・ロクサンヌ Zelda Rxanne があげられていて、言うまでもなく『ゼルダ』のヒロインなわけですが、ゼルダ登場作って他にもあるんですか……? 教えて詳しい人。

なおこの本、熱心なカーター・ブラウン読者だったらしいサークルの後輩のご親族のもので、巻末の作品リストを見ても既読作品にチェックを入れる上にポケミス番号の誤植まで指定するという気合いの入りっぷりに感動します。分かる、分かるぞ元の持ち主さん、カーター・ブラウンいいよね。毎年一冊はカーター・ブラウン充したい(雑誌掲載長編なんかも含めれば死ぬまで読み続けられそう)。

原 題:Zelda(1961)
書 名:ゼルダ
著 者:カーター・ブラウン Carter Brown
訳 者:田中小実昌
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 771
出版年:1963.06.15 1刷

評価★★★★☆

『暗い夜の記憶』ロバート・バーナード - 2017.06.21 Wed

暗い夜の記憶
『暗い夜の記憶』ロバート・バーナード(ミステリ・ボックス)

1941年、ロンドンからイーズドン駅に着いた学童疎開列車に、名簿に記載されていない男の子が混じっていた。サイモン・ソーンと名のった5歳ほどの少年は、里親となったカザリッジ夫妻に育てられるが、ロンドンの家がどこにあるかもわからず、自分自身が本当はだれなのかも思い出せなくなった。彼と過去をつなぐものは、たびたび見る悪夢だけだった――ころしちゃううよ! やめて!(本書あらすじより)

気付いたら感想書いていない本が10冊になっていたので、若干焦っています。最近週1ペースでしか更新してないからな……。
というわけで、ロバート・バーナードです。読むのは3冊目。ポケミスと光文社文庫が中心ですが、これはミステリ・ボックスなのです。それはともかく、これは良い作品だ……。
ノンシリーズを3冊読んで、ロバート・バーナードの作風がようやく掴めてきた気がします。市井の人々を登場人物に置き、本格ミステリ的な枠組みの中に人間関係を軸にした小説としての感動を落とし込む(あるいはその逆)のが抜群に上手い作家なのかなぁと。ですから基本的には、非常に地味で、ガチガチではないけど本格ミステリっぽさのある小説……という仕上がりになるのだと思います。

『暗い夜の記憶』は、サイモン・ソーンという少年が学童疎開で田舎町に着いたところからスタートします。サイモンは集団疎開でやってきたものの、出自が不明で、一切戸籍などの情報が分かりません。とはいえサイモンは心優しい里親のもとで成長し、やがて自らの親を探し求めるべくロンドンに舞い戻るのです。

この本、何がすごいって、どう見ても本格ミステリではないことなんですよ。身元不明の状態で疎開した主人公の出生探しという過程は、確かに調査は調査だし、母親と子供はどうなったのかという謎はありますが、母親が機転を利かせてどうにかやったんだろう、くらいの謎にしか見えないのです。
ところがもう伏線につぐ伏線が仕込まれていたことが終盤明らかになり(名前のくだりとか超丁寧すぎてやばい)、主人公の出自がこれ以上なく明解に明かされ、さらに小説全体を通じて描かれてきた右翼活動(ユダヤ人排斥・移民排斥運動など)とぴったりリンクします。なんだこの職人技は。引っかけ方といい、話のテーマといい、いやもう実にお見事という他ありません。

おそらくバーナードの文体ってあんまり読みやすくないのかなと思うのですが、今回はそこに浅羽莢子訳という破城槌がぶち込まれるボーナスポイント付き。これは素直におすすめです。『作家の妻の死』『雪どけの死体』もそれぞれクセがあって感想を一言で伝えにくいのですが、読んだ人とぜひ感想を共有したくなる何かがあるんですよね。

原 題:Out of the Blackout(1984)
書 名:暗い夜の記憶
著 者:ロバート・バーナード Robert Barnard
訳 者:浅羽莢子
出版社:社会思想社
     現代教養文庫 3023
出版年:1991.03.30 初版

評価★★★★☆

『007/ドクター・ノオ〔改訳版〕』イアン・フレミング - 2017.05.03 Wed

007/ドクター・ノオ〔改訳版〕
『007/ドクター・ノオ〔改訳版〕』イアン・フレミング(ハヤカワ・ミステリ文庫)

紫紺の影が波のように通りを覆う黄昏。英国情報部カリブ海域地区の責任者は、本部に定期連絡を取るため静まり返ったジャマイカの高級住宅街を歩いていた。彼が道にうずくまる三人組の男のそばを通り過ぎたとき、突如、三挺消音銃が火を噴いた。数分後、今度は支局内で悲鳴が……Mの密命を帯び、ボンドは事態を探るためカリブ海に浮かぶ孤島へと飛んだ。だが、そこは恐るべき陰謀を企む怪人ノオ博士の根城だったのだ!(本書あらすじより)

積んでいるHM文庫改訳版007を読んでみようシリーズ第2弾(2年ぶり)。劇場版の007はスペクターしか観たことないのですが、原作は読んでいる、って、なんかかっこいいですよね(適当)。
ぶっちゃけ思ったより面白かったのでビックリしています。以前読んだ『ゴールドフィンガー』より確実に面白いかも。

さて、今回は『ドクター・ノオ』。これさえ読めば東郷隆の定吉七の1作目も読めるぞ。
ささいな事件の調査のためジャマイカに来た007ことジェイムズ・ボンド。ところがカリブ海では大いなる陰謀が進行していた。どうやら中国系黒人の間に何かがあるらしい。ボンドはノオ博士の支配する島に乗り込んでいくのですが……。

ところでイアン・フレミングのHM文庫改訳版をなぜ全冊まとめ買いして持っているのかと言うと、世界ミステリ全集のフレミングが入っている巻の座談会で、井上一夫だったかが「秘密道具が踊るおとぎ話みたいなスパイ小説を大人向けに本気で書いているフレミングは偉い」的なことを述べていて興味を覚えたからなんですよね。という視点のもと読み始めると、さっそく冒頭に盲人に扮する中国系黒人三人組の殺し屋が霊柩車に乗って現れます。さすがだぜフレミング。
話のメインはノオ博士のアジトである島への侵入になります。ノオ博士の目的とは? 博士の持つ火を吐くドラゴンとは?などなど。ノオ博士のアジトに入ってからの一連のシーンとかやばくないですか。怪人二十面相も真っ青なドSダンジョンとか。

まぁ人種差別的なところとかはもう色々限界だとは思いますが、それでも思ったよりジェイムズ・ボンドの冒険譚として楽しめました。島を支配して自分の王国を築く敵役ノオ博士が、程よく荒唐無稽で良いのです。
ジャマイカという舞台、暗躍する中国系黒人の集団、ノオ博士、試練、巨大イカ、などなど、むちゃくちゃだけど節度があります。なぜか分からないけど、ジェイムズ・ボンドが巨大イカと戦うのです。「うわあ! こいつは機関車のようき大きい!」じゃないんだよいい加減にしろ(褒めてる)。エロくないのに触手と戦う話を初めて見たよ……。
ボンドがかなり雑に2人の人間を見捨てたのもショックでしたが、ある人物が結構あっさり死んでしまうのもショックで、なかなかフレミングさんエグいっすねという感じ。あとヒロイン登場後いちゃつきまくるのかと思いきや、最後までそれどころじゃない状況が続くのも意外でした。古き良きスパイ映画は、やっぱりラストにヒロインと結ばれるのだなぁ(そう考えると、こないだ観た007はボンドがセックスしすぎだな……)。

というわけで総じて問題なく楽しめました。映画も観てみようかなぁ。
ちなみに一番びっくりしたのは、解説をみのもんたが書いていて、しかもそれが案外悪くないということでした。HM文庫の最初の解説は都筑道夫だったらしいです。

原 題:Dr. No(1958)
書 名:007/ドクター・ノオ〔改訳版〕
著 者:イアン・フレミング Ian Fleming
訳 者:井上一夫
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 224-5
出版年:1998.10.31 1刷

評価★★★★☆

『震える石』ピエール・ボアロー - 2017.03.07 Tue

震える石
『震える石』ピエール・ボアロー(論創海外ミステリ)

私立探偵アンドレ・ブリュネルと奸智に長けた犯人の火花散らす頭脳戦。勝利の女神はどちらに微笑むのか? 古めかしい城館“震える石”で続発する怪事件。(本書あらすじより)

初めて読むピエール・ボアローの単独作品です。ナルスジャックとコンビを組む前の作品ですね。何はともあれ、アレだね、これが面白いかどうかとかじゃなくて、ボアローはコンビを組んで良かったねほんと……普通だわ、実に普通だわ。
『震える石』を読んで気付くのが、これもうそのまんまガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』なんですよ。主人公の私立探偵アンドレ・ブリュネルはめっちゃジョゼフ・ルルタビーユなんですよ。雰囲気もトリックも何となく、大時代がかった“探偵小説”って感じ。

こんな話。やる気と活力満タンの探偵アンドレ・ブリュネルが偶然出くわした〈震える石〉館の事件。執拗に婚約中である若き娘の命を狙う謎の男、角部屋に追い詰められた犯人の消失事件。館の入口にある今にも落下しそうな〈震える石〉は、はたして読者の予想通りここぞというタイミングで落ちてくるのか?

ボアローはコンビを組む前はかなり本格志向が強かったということですが、なるほど確かに。同時代の英国ミステリ群と比べるとゴリゴリのトリックがあったりフェアだったりするわけではないですが、トリックといい、いかにもな真相といい、犯人の正体といい、ホームズやルルタビーユ的な古き良きミステリという感じで悪くはないです。次々と不可解な事件が続発し、次々と被害者が登場するので、とにかく飽きさせません。犯人の正体が明らかになる瞬間の驚きはなかなかのもの。

……とはいえ、ぶっちゃけピエール・ボアローのデビュー作を読めたって意義の方がでかいかなと思います。訳者解説がめちゃくちゃ力が入っていて勉強になるので、読んで損はありませんが、これといって期待を上回るような作品ではないよなぁ。っていうか、こんなの読むくらいなら普通にボアナル合作を少しでも読み進める方が大事だと思うんだ、うん。

原 題:La Pierre qui tremble(1934)
書 名:震える石
著 者:ピエール・ボアロー Pierre Boileau
訳 者:佐藤絵里
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 184
出版年:2016.11.30 初版

評価★★★☆☆

『ハニー貸します』G・G・フィックリング - 2017.01.05 Thu

ハニー貸します
『ハニー貸します』G・G・フィックリング(ハヤカワ・ミステリ)

ハリウッドの一流スターの邸宅となれば、さすがにケタ外れだとハニーは思った。建物全体が平べったい大きなプール。壁は全然なく、移動式の間仕切りが数枚あるだけだ。天井からはアーク燈がぶら下がり、床一面には厚いフォーム・ラバーが敷き詰めてある。邸内の四隅はステージみたいに高くなっていて、スワンソンは、それらはみんなベッド・ルームだととこともなげに言ってのけた。やがてスワンソンは、酔眼朦朧とした目でハニーを見ると、プラスチック製のブラジャーとパンティを差し出し、プールでひと泳ぎしようと言い出した。ボッブ・スワンソン・ジョーで愛嬌をふりまくやさ男とがらりと変わって、彼は、ハニーが抵抗するのも構わず無理やりドレスをはがし、透明水着を着せようと抱きついていった……!
ハニーがスワンソンの誘惑にやすやすとのって私邸まで行ったのは、往年の名俳優ハーブ・ネルソンが殺されたからだった。見るも無残な死体となって発見される直前ハニーはハーブから命を狙われているので助けて欲しいと依頼されていたのだ。責任を感じたハニーは、ボッブ・スワンソン・ジョーがハーブの最後の舞台だったのを知り、早速渡りをつけようとスワンソンに接近していったのだが……。(本書あらすじより)

マケプレオーバー2000月間、7冊目。
いやもうなんていうか、とりあえず「読んで!!!」っていう気分です。それくらい読んでいる間中テンションがぶちあがる作品でした。
フィックリング夫妻によるハニー・ウェストシリーズといえば、カーター・ブラウンのメイヴィス・セドリッツに並ぶ女探偵ものの軽ハードボイルドの代表格です。メイヴィス・セドリッツは主人公のアホさ加減に読んでいるこっちが発狂しそうになるのでキツいのですが、ハニー・ウェストは頭も良ければ腕っぷしも強く、(少なくとも当時の女性観としては)ちゃんと自立しているので比較的現代でも読むに耐えうるキャラクター。しかも(当然)お色気もあれば謎解きもあるという、まさにテンコ盛りの一品なのです。

さて、デビュー作である『ハニー貸します』は、まぁ安定のハニーシリーズです。私立探偵ハニー・ウェストが若干エロい目に合いつつ(捜査のためにストリップ・ポーカーをやろうと言い出したり、裸で警察署に飛び込んだり、スケスケの水着を着せられそうになったりする)きっちり謎解きをする、という、大筋としてはいつもの感じ。ちなみにこのシリーズは、エロそうな展開を用意はするけど、最終的にハニーがピンチになる前にどうにか切り抜けるのでゆーてエロくなりません……ってのも少年誌的なお約束でいいですね(その点カーター・ブラウンのアル・ウィーラー警部はテンポよく容疑者とエロい感じになっていくのでさすが)。
……ですが、これもう絶対おかしいのです。テレビ業界で殺人が発生し、なんやかんやあってから撮影のためにヨットでカタリナ島に向かうのですが、そこでどえらい勢いで人が死にまくります。どれくらいかというと『そし誰』レベルで死にまくります。ちょっと目を話すと鐘楼で首を吊って人が死に、崖から撃たれて落ちて人が死にます。それぞれ微妙に死に方が違うのも笑えます。これらが、別にクローズドではない他の観光客もいる状況下で、エロハプニングも交えつつ、サスペンス味ゼロで進行するのです。やばいでしょこれ。

そして正直犯人はバレバレ……のはずなのです。本当は。すごいベタなのです。ところがありえない勢いの殺人事件に紛れたせいで、なんか一周まわって意外な真相が叩き出され、予想が見事に外れ普通に驚きました。登場人物がほぼ死ぬので動機とかどうでもいいのですが、とりあえずこんなんで驚いちゃったので、つまりなんだ、フィックリングは天才なのか(混乱)。
とここまで読んで、詳しい人は思うでしょう。はいはい、謎解きがまぁまぁすごいって言ってもあれでしょ、この手の軽ハードボイルドとかフランク・グルーバーみたいな昔の通俗ミステリによくある、めちゃくちゃ真相をこねくりまわして複雑っぽく見えているのをありがたがって喜んでいるだけでしょと。いやそう言われちゃうとそりゃもうそうですけど、後半怒涛の連続殺人事件のせいで類のないケッ作に仕上がっているのです。

というわけで、以前読んだ『ハニー誘拐事件を追う』が割と普通だったのでそこまで期待していなかったのですが、これはおすすめです。みんな読もう。フィックリングは全然見つからないし(自分はあと4作未所持)、900番台のくせに正直全作微レアですが、とりあえず本作はある意味超おすすめです。

原 題:This Girl for Hire(1957)
書 名:ハニー貸します
著 者:G・G・フィックリング G.G. Fickling
訳 者:宇野輝雄
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 944
出版年:1966.07.31 1刷

評価★★★★★

『祟り』トニー・ヒラーマン - 2016.12.22 Thu

祟り
『祟り』トニー・ヒラーマン(角川文庫)

リープホーン警部補は、メキシコ人を切って逃走したルイス・ホースマンの行方を追っていた。ようやく見つかったホースマンは死体となっており、しかも発見された場所は直前まで彼が逃げ込んでいたはずのところとは大きくずれていた。犯人は、ナバホ族の間で語り継がれる魔法使い、〈ナバホ狼〉なのか? リープホーンは友人であるナバホ族の研究者、バーゲン・マキー博士とともに真実を見つけようとするが……。(あらすじ作成)

マケプレオーバー2000月間、2冊目は角川文庫の最レア級作品といっても過言ではないヒラーマンの『祟り』です。ヒラーマンの作品は基本的にミステリアス・プレス文庫から1990年代以降に出たものがほとんどですが、唯一の超入手難がこのシリーズ第1作こちらになります。
やはりヒラーマンは面白い、最高だ……みたいな気持ちで最初からずっと読んでいたのですが、終盤はやや失速した感じがあるのがもったいないです。シリーズ1作目ということで作者が若干遠慮&一般受けを狙いすぎたのかなと思います。いやもうそんじょそこらのミステリの何倍も面白いんですけどね。

いつものように、ネイティブアメリカンであるナバホ族の間で起きた事件を、ナバホ族出身の警察官、リープホーン警部補が捜査する、というものです。魔法使いである〈ナバホ狼〉の伝説という先住民感ばりばりのシチュエーションと事件、なぜ死体はあえて長距離を運ばれてすぐ気付かれる場所に放置されていたのかという謎、と序盤はとにかく魅力的です。
リープホーン警部補とナバホ研究者バーゲン・マキーがインタビューや質問を重ねながら、ナバホの習慣、伝統、神話といったものを読者にじっくりと提示していく過程がとにかく楽しいんですよね。このシリーズはアメリカ先住民を題材にしてそのコミュニティの中での事件を扱っているとはいえ、それほどお堅くも(言い方は悪いけど)面倒でもないのが非常に好ましく感じられます。

残念なのが、あくまで真相はナバホ要素がそれほど関係しなかった点。捜査はナバホ軸だったのに、最後だけアメリカ読者向けっぽいのがもったいないのです。リープホーンもそんなに活躍しないし、真相もかなり単純。終盤には、教授とその友人の娘(ともに言うなれば外部者)が囚われの身になる展開だとかいらぬロマンスだとかがあり、何だか浮いてたなぁという感じ。エンタメエンタメしていて分かりやすいですけどね。
ヒラーマンの初期作品はアーサー・アップフィールドの影響を受けていたと作者が言っているそうですが、なるほど言われてみれば。ただ、もっとナバホ族ならではの行動規範とか動機に基づく事件と真相のようなものを、こちらとしてはぜひ読んでみたいなと思っちゃうわけです(そういう点ではエドガー賞を受賞した『死者の舞踏場』の方が謎も真相も魅力的)。

とはいえ、やっぱりこのシリーズ面白いぜ!というのは大いに再確認できました。来年はあらゆる識者が絶賛している『魔力』を絶対読みます。ヒラーマン攻略、ぜひやりたいなぁ。

原 題:The Blessing Way(1970)
書 名:祟り
著 者:トニー・ヒラーマン Tony Hillerman
訳 者:菊池光
出版社:角川書店
     角川文庫 赤271
出版年:1971.01.30 初版

評価★★★★☆

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
来て下さった方々が、コメントを残して下さると、管理人が大変喜びます。広告のコメントは、削除することがあります。
このサイトはリンクフリーですが、一言声かけてくれると嬉しいです。
Twitter(@yossi3110)

リンク

このブログをリンクに追加する

読書メーター

ヨッシーさんの読書メーター ヨッシーの最近読んだ本

検索フォーム

最新コメント

カテゴリ

未分類 (3)
日記 (521)
ア行 (110)
アヴリーヌ,クロード (1)
アシモフ,アイザック (4)
アシャット,フェデリコ (1)
アダム,ポール (1)
アーチャー,ジェフリー (1)
アップデール,エレナー (2)
アップフィールド,アーサー (2)
アデア,ギルバート (1)
A・D・G (1)
アトキンソン,ケイト (1)
アフォード,マックス (1)
アームストロング,シャーロット (2)
アリンガム,マージェリー (4)
アルレー,カトリーヌ (1)
アンズワース,キャシー (1)
アンダースン,ウィリアム・C (1)
アンダースン,ジェームズ (1)
アントニイ,ピーター (1)
アンプエロ,ロベルト (1)
イェルハルドセン,カーリン (1)
イジー,ユージン (1)
イネス,マイクル (2)
インゲルマン=スンドベリ,カタリーナ (1)
インドリダソン,アーナルデュル (2)
ヴァルガス,フレッド (4)
ヴァン・ダイン,S・S (2)
ヴァンス,ジャック (1)
ウィアー,アンディ (1)
ヴィカーズ,ロイ (3)
ウイバーリー,レナード (3)
ウィルフォード,チャールズ (1)
ウィングフィールド,R・D (6)
ウィンズロウ,ドン (1)
ウィンタース,ベン・H (3)
ウェイン,エリザベス (1)
ウェストレイク,ドナルド・E(コウ,タッカー、スターク,リチャード) (5)
ウォーカー,マーティン (3)
ウォーターズ,サラ (2)
ヴォートラン,ジャン (2)
ウォルターズ,ミネット (1)
ウォーレス,エドガー (1)
ウッドハウス,P・G (1)
ウールリッチ,コーネル(アイリッシュ,ウィリアム) (7)
エアード,キャサリン (2)
エクストレム,ヤーン (1)
エクスブライヤ,シャルル (4)
エーコ,ウンベルト (1)
エリザーロフ,ミハイル (1)
エリン,スタンリイ (3)
エール,ジャン=マルセル (1)
エルキンズ,アーロン (6)
エルロイ,ジェイムズ (1)
オコンネル,キャロル (1)
オーツ,ジョイス・キャロル (1)
オベール,ブリジット (1)
オリオール,ローレンス (1)
オルツィ,バロネス (3)
カ行 (151)
カー,ジョン・ディクスン(ディクスン,カーター) (14)
カサック,フレッド (2)
カーター,M・J (1)
カッリージ,ドナート (2)
ガードナー,E・S(フェア,A・A) (5)
カーマイケル,ハリー (2)
カミ (4)
カミング,チャールズ (1)
カリー・ジュニア,ロン (1)
カーリイ,ジャック (3)
キース,エリック (1)
キーティング,H・R・F (1)
キャヴァナー,スティーヴ (1)
ギャレット,ランドル (1)
キーラー,ハリー・スティーヴン (1)
ギルバース,ハラルト (2)
キング,スティーヴン (1)
キング,ルーファス (1)
クイーン,エラリー (14)
クェンティン,パトリック (7)
クック,トマス・H (3)
クッチャー,フォルカー (3)
グライムズ,マーサ (15)
クラウチ,ブレイク (3)
クラトフヴィル,イジー (1)
クリーヴス,アン (6)
グリシャム,ジョン (1)
クリスティ,アガサ (2)
クリスピン,エドマンド (3)
グリーニー,マーク (2)
グリーン,アラン (1)
クルーガー,ウィリアム・ケント (1)
グルーバー,アンドレアス (4)
グルーバー,フランク (1)
クレイス,ロバート (2)
クロフツ,F・W (4)
グロラー,バルドゥイン (1)
クーンツ,ディーン・R (1)
ケアリー,エドワード (2)
ケストナー,エーリヒ (1)
ケメルマン,ハリイ (3)
ケリー,ジム (4)
ケンリック,トニー (1)
胡傑 (1)
ゴズリング,ポーラ (5)
コッタリル,コリン (1)
コードウェル,サラ (4)
ゴードン,デイヴィッド (1)
コニイ、マイクル (2)
コマストリ=モンタナーリ,ダニーラ (1)
コメール,エルヴェ (2)
コリータ,マイクル (1)
コリンズ,ウイルキー (1)
コール,G・D・H・&M (1)
コレット,サンドリーヌ (1)
サ行 (56)
サフォン,カルロス・ルイス (3)
ザングウィル,イズレイル (1)
ジェイミスン,ハンナ (1)
シェパード,ロイド (1)
シエラ,ハビエル (1)
シニアック,ピエール (1)
シムノン,ジョルジュ (14)
ジャックマール&セネカル (1)
ジャプリゾ,セバスチアン (1)
シューヴァル,マイ&ヴァールー,ペール (1)
シール,M・P (1)
水天一色 (1)
スコット,J・M (1)
スタウト,レックス (5)
スタージョン,シオドア (1)
スティーヴンス,ロビン (1)
ステーマン,S=A (3)
スパーク,ミュリエル (1)
スペンサー,ロス・H (2)
スミス,シェイマス (1)
スミス,チャールズ・メリル (1)
スラデック,ジョン (1)
スローン,ロビン (1)
セイヤーズ,ドロシー・L (8)
セシル,ヘンリイ (1)
ソアレス,J (1)
ソウヤー,ロバート・J (1)
タ行 (72)
タイボ二世,パコ・イグナシオ (1)
ダグラス,キャロル・ネルソン (1)
ダール,フレデリック (1)
チェスタトン,G・K (1)
チャンドラー,レイモンド (1)
陳浩基 (1)
デ・ハートック,ヤン (1)
デ・ミュリエル,オスカル (1)
デアンドリア,ウィリアム・L (1)
テイ,ジョセフィン (3)
ディーヴァー,ジェフリー (2)
ディヴァイン,D・M (10)
デイヴィス,L・P (1)
ディキンスン,ピーター (2)
ディケール,ジョエル (1)
ディケンズ,チャールズ (7)
ディッシュ,トーマス・M (1)
ディドロ,フランシス (1)
デイリー,エリザベス (1)
テオリン,ヨハン (3)
デクスター,コリン (12)
デュレンマット,フリードリヒ (1)
テラン,ボストン (2)
ドイッチ,リチャード (1)
トゥロー,スコット (2)
ドッヂ,デヴィッド (1)
トーマス,ロス (1)
トムスン,ジューン (1)
ドラモンド,ローリー・リン (1)
トレヴェニアン (3)
トンプスン,ジム (3)
トンプソン,ジェイムズ (3)
ナ行 (8)
ナイト,アランナ (2)
ニーリィ,リチャード (1)
ネイハム,ルシアン (1)
ネスボ,ジョー (2)
ノックス,ロナルド・A (2)
ハ行 (164)
ハイスミス,パトリシア (1)
ハインズ,ジョアンナ (1)
ハーカウェイ,ニック (1)
バークリー,アントニイ(アイルズ,フランシス) (6)
バグリイ,デズモンド (1)
バークレイ,リンウッド (1)
バージェス,アントニイ (1)
バゼル,ジョシュ (1)
バー=ゾウハー,マイケル (1)
バトラー,エリス・パーカー (1)
ハナ,ソフィー (2)
バーナード,ロバート (3)
バーニー,ルー (1)
バニスター,ジョー (1)
ハーパー,ジェイン (0)
パーマー,スチュアート (1)
ハミルトン,エドモンド (1)
ハミルトン,スティーヴ (1)
ハメット,ダシール (2)
パラニューク,チャック (1)
バランタイン,リサ (1)
ハリス,トマス (1)
バリンジャー,ビル・S (3)
パレツキー,サラ (1)
ハンター,スティーヴン (2)
ビガーズ,E・D (4)
ピカード,ナンシー (1)
ピース,デイヴィッド (1)
ピーターズ,エリス (2)
ビッスン,テリー (2)
ビネ,ローラン (1)
ヒラーマン,トニイ (2)
ピリンチ,アキフ (1)
ヒル,トニ (2)
ヒル,レジナルド (3)
フィツェック,セバスチャン (1)
フィックリング,G・G (2)
フィッシュ,ロバート・L (4)
フィッチュー,ビル (1)
フィニイ,ジャック (4)
フィルポッツ,イーデン (2)
フェイ,リンジー (1)
フェラーズ,エリザベス (4)
フェルナンデス,ドミニク (1)
フォーサイス,フレデリック (1)
フォン・シーラッハ,フェルディナント (6)
プライヤー,マーク (1)
ブラウン,カーター (6)
ブラウン,フレドリック (1)
ブラックバーン,ジョン (1)
ブラッティ,ウィリアム・ピーター (1)
ブラッドリー,アラン (1)
ブラッドン,ラッセル (1)
フラナガン,トマス (1)
フランシス,ディック (1)
ブランド,クリスチアナ (5)
プリースト,クリストファー (1)
フリードマン,ダニエル (2)
フリーマントル,ブライアン (1)
フリーリング,ニコラス (1)
フリン,ギリアン (1)
ブルース,レオ (4)
ブルックマイア,クリストファー (1)
ブレイク,ニコラス (2)
ブレット,サイモン (1)
フレミング,イアン (2)
ブロック,ローレンス (2)
ヘアー,シリル (2)
ヘイズ,サマンサ (1)
ヘイダー,モー (1)
ベイヤー,ウィリアム (1)
ヘイヤー,ジョージェット (3)
ベイリー,バリントン・J (1)
ベイリー,H・C (1)
ペニー,ルイーズ (1)
ベリー,ジュリー (1)
ペリッシノット,アレッサンドロ (1)
ペルッツ,レオ (1)
ヘロン,ミック (2)
ベントリー,E・C (1)
ポー,エドガー・アラン (2)
ホーガン,ジェイムズ・P (1)
ポースト,M・D (1)
ポーター,ジョイス (6)
ホック,エドワード・D (4)
ホッケンスミス,スティーヴ (2)
ポツナンスキ,ウルズラ (1)
ホッブズ,ロジャー (1)
ホーリー,ノア (1)
ホワイト,ハル (1)
ボワロ&ナルスジャック (5)
ボンド,マイケル (2)
ボンフィリオリ,キリル (1)
マ行 (51)
マガー,パット (1)
マーカム,ヴァージル (1)
マカルパイン,ゴードン (1)
マーカンド,ジョン・P (1)
マクダニエル,デイヴィッド (1)
マクドナルド,ジョン・D (2)
マクドナルド,フィリップ (2)
マクドナルド,ロス (2)
マグナソン,アンドリ・S (1)
マクベイン,エド (2)
マクリーン,アリステア (2)
マクロイ,ヘレン (5)
マコーマック,エリック (1)
マゴーン,ジル (1)
マシスン,リチャード (1)
マシューズ,ハリー (1)
マッギヴァーン,ウィリアム・P (1)
マリック,J・J (1)
マルティネス,ギジェルモ (2)
マン,アントニー (1)
マンシェット,J・P (1)
ミエヴィル,チャイナ (1)
寵物先生(ミスター・ペッツ) (1)
ミラー,デレク・B (1)
ミラー,マーガレット (2)
ミルン,A・A (1)
ムーア,グレアム (0)
メースン,A・E・W (1)
メルヴィル,ジェイムズ (1)
メルドラム,クリスティーナ (1)
メロ,パトリーシア (1)
モイーズ,パトリシア (3)
モートン,ケイト (3)
モール,ウィリアム (1)
モロー,ブラッドフォード (1)
モンテイエ,ユベール (2)
ヤ行 (2)
ヤッフェ,ジェイムズ (1)
ヨナソン,ヨナス (1)
ラ行 (65)
ライアル,ギャビン (1)
ライス,クレイグ (3)
ライバー,フリッツ (1)
ラヴェット,チャーリー (1)
ラヴゼイ,ピーター (3)
ラックマン,トム (1)
ランキン,イアン (1)
リック,フランシス (1)
リッチー,ジャック (5)
リーミイ,トム (1)
リューイン,マイクル・Z (5)
リュウ,ケン (1)
劉震雲 (1)
ル・カレ,ジョン (1)
ルヴェル,モーリス (1)
ルブラン,ミッシェル (2)
ルブラン,モーリス (2)
ルヘイン,デニス (4)
ルーボー,ジャック (2)
ルメートル,ピエール (3)
ルルー,ガストン (2)
ルーレ,ドミニック (1)
レーダー,ベン (1)
レドモンド,パトリック (2)
レドンド,ドロレス (1)
レム,スタニスワフ (1)
レルネット=ホレーニア,アレクサンダー (1)
レンデル,ルース (2)
ロウ,ジェニファー (1)
ローガン,シャーロット (1)
ローザン,S・J (6)
ロジャーズ,ジョエル・タウンズリー (1)
ロスコー,セオドア (1)
ロースン,クレイトン (1)
ロボサム,マイケル (1)
ロラック,E・C・R (1)
ロング,アメリア・レイノルズ (1)
ワ行 (3)
ワイルド,パーシヴァル (1)
ワトスン,コリン (2)
海外合作他 (3)
その他海外 (9)
国内ミステリ (69)
その他国内 (15)
アンソロジー (6)
ファンタジー (1)
今年のベスト10 (9)
その他 (6)
社会1○○○○ (4)

ピープルカウンター