『悔恨の日』発売

2017-11

『雪と毒杯』エリス・ピーターズ - 2017.11.05 Sun

ピーターズ,エリス
雪と毒杯
『雪と毒杯』エリス・ピーターズ(創元推理文庫)

クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。そしてついに事件が──。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。(本書あらすじより)

エリス・ピーターズ、久々の翻訳です。こちらもピーターズを読むの7年ぶりっていう……高3って……(過ぎし日々を思い起こして頭が痛くなる)。
修道士カドフェルシリーズではなく、ノンシリーズの本格ミステリなのですが、読む前の予想の40倍くらいは派手な展開にびっくりしました。また内容的にも黄金時代を彷彿とさせます。とはいえ本格ミステリとしてどれくらい評価できるかというと、また別の話なのですが……。

ウィーンで大物オペラ歌手の歌姫が亡くなった。チャーター便に乗り帰路につく親族や友人たちは、その途中、飛行機が不時着し、大雪で外界との連絡を閉ざされた山村に泊まることになる。そのような状況で発表された遺言状の内容が引き金となり、やがて殺人事件が発生してしまうのだが……。

金持ち老人の死、飛行機の不時着、外界から閉ざされた雪の山村、おだやかならぬ遺言状、当然の殺人、と見事なまでに本格ミステリ的なギミックが揃った作品ですが、ある種そこを逆手に取ったミステリなので、なるほどこれはやはり黄金時代より後の作品なんだなぁという感じ。ちなみに黄金時代において、これらのギミックを逆手に取らずに真正面から攻めているのが傑作『死の相続』です(大嘘)。
ロマンスの交え方も程よく、登場人物もテンプレっぽさもありつつありきたりではなく、物語を上手く作れていると思います。ちょっと人生の苦み、みたいのを描いてみたりとか。このへんは、やはり英国女流作家の本領発揮といったところでしょう。

ただ本格ミステリとしては、手がかりもへったくれもなく、ある要素を確認することで事件全体ががらっと変わり、はい犯人確定、みたいなものなので、もうちっとこう、何か欲しかったです。主人公が目撃していたことを明かす160ページの展開とかは完璧なんだけど……。設定だけなら完璧な本格ミステリなんだけどなぁ。何一つ内容を覚えていませんが、感想を見る限りでは7年前に読んだ修道士カドフェル2冊の方が、本格ミステリ的に満足していた気がしないこともありません。

というわけで、うーむ、ちょっと評価に困ってしまいます。ストーリーも登場人物も良いんだけど、本格ミステリとしてはちょっと不満だったかなぁという感じ。ただ、エリス・ピーターズの諸作品の翻訳が始まるのは非常に嬉しいので、東京創元社と猪俣さんにはどんどん(アリンガムなども含め)クラシック本格の翻訳を続けて欲しいですね。

原 題:The Will and the Deed(1960)
書 名:雪と毒杯
著 者:エリス・ピーターズ Ellis Peters
訳 者:猪俣美江子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mヒ-9-1
出版年:2017.09.29 初版

評価★★★☆☆
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『放たれた虎』ミック・ヘロン - 2017.10.25 Wed

ヘロン,ミック
放たれた虎
『放たれた虎』ミック・ヘロン(ハヤカワ文庫NV)

〈窓際のスパイ〉シリーズ最新刊 英国情報部の落ちこぼれスパイたち、通称〈遅い馬〉のひとりで、ボスのジャクソン・ラムの片腕の秘書キャサリンが、何者かに拉致された。犯人の脅迫を受けたカートライトは彼女の身の安全と引き換えに、本部へ侵入して厳重に保管された情報を盗み出すことを引き受けるが……仲間の危機、そして〈泥沼の家〉の存亡をかけて、ラムが重い腰を上げ、〈遅い馬〉たちの奮闘がはじまる!(本書あらすじより)

相変わらず素晴らしく面白いスパイ小説シリーズでした。冷戦後の英国スパイ小説として、これほど完璧なシリーズがあろうか、と私は思うわけです。

英国情報部の中の落ちこぼれや問題のある者が集まる、通称〈泥沼の家〉。そのメンバーの一人が誘拐された。〈泥沼の家〉のメンバーであるリバー・カートライトは、仲間を取り戻すために犯人の要求にこたえ英国情報部から機密情報を盗み出そうとするが……。

初っ端誘拐から始まるので、冒頭のスピード感は今までで一番かも。もちろんこれはスパイ小説、ただの誘拐で済むわけがありません。何しろ序盤から、〈泥沼の家〉は解体の危機に瀕するのです。物語は二転三転し、怪しげな組織、情報部のトップ、そして〈泥沼の家〉の間で、互いの存亡をかけた賭け引きが繰り広げられます。
全文皮肉に満ち満ちた文章を呼んでいるだけで楽しいのです。150ページ近く続く終盤の戦闘シーン(1、2作目よりはるかにアクション志向)や、ぶっちゃけ結局は小粒だったなぁという真相のしょぼさも含めて、愛おしいのです。作者は窓際スパイの過ごす〈泥沼の家〉という、騙し騙されに最適な設定をよくぞ考えたものです。天才か。

〈泥沼の家〉のリーダー、ジャクソン・ラムのキャラクターも相変わらず最高。屁をこきゲップをし、悪口と皮肉ばかり言い、自らは動かずネチネチといやなことばかりさせるというクソofクソ上司ですが(演じているわけではなくマジでこれ、というのがすごい)、いざという時は歴戦のスパイとしての貫禄を見せ、抜群の駆け引きを繰り広げ、さらに〈泥沼の家〉のメンバーがピンチの時は人知れず動くという面倒見の良さ。今回も絶好調です。
ちなみに第1作『窓際のスパイ』では、以下の名文がありました。

「いいか。普段は言わないことだから、よく聞いておけ」それから煙草を一服して、「おまえたちは役立たずだ。みんなそうだ」
一同は "だが" を待った。
「嘘じゃない。能なしでなければ、いまもリージェンツ・パークにいたはずだ」


そして、今回のジャクソン・ラムの名言がこちらです。

「いいか」ラムはバスが突っこんでめちゃくちゃになった玄関を見ながら言った。
「はじめて会ったとき、わしはおまえのことを役立たずだと思った」
携帯電話を操作しながら、ホーは口もとがほころびるのを抑えられなかった。一を聞いて十を知るとはこのことだ。「それで、いつ考えが変わったんですか」
「いつ変わったって、何が?」

やっぱり、これがミック・ヘロンなんですよ。

ぶっちゃけ客観的に見れば、『窓際のスパイ』や『死んだライオン』の方が上かなとは思います。とはいえ、このシリーズ、読んでいてとにかく面白いのです。シリーズ長編第4作『Spook Street』の翻訳を楽しみに待つことにしましょう。

原 題:Real Tigers(2016)
書 名:放たれた虎
著 者:ミック・ヘロン Mick Herron
訳 者:田村義進
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 1418
出版年:2017.09.15 1刷

評価★★★★☆

『ゴーストマン 消滅遊戯』ロジャー・ホッブズ - 2017.10.17 Tue

ホッブズ,ロジャー
ゴーストマン 消滅遊戯
『ゴーストマン 消滅遊戯』ロジャー・ホッブズ(文藝春秋)

犯罪のプロとしての心得を私に教えた師匠アンジェラがマカオで危機に。彼女を救い出し、異国から脱出せよ。白熱のノワール第二弾。(本書あらすじより)

出ましたゴーストマン。作者ホッブズの急逝により、シリーズ2作目にして最終作でもあります。
邦題からも分かる通り(また編集者さんがツイッターでもおっしゃっていますが)、悪党パーカーへのリスペクト味のある、言わば21世紀版悪党パーカー+α、なゴーストマン。彼は犯罪プランナーではなく、「ゴーストマン」、すなわち痕跡を残さず消えることがお仕事です(もっとも肉弾戦もまぁまぁ強い)。

さて今回は、主人公ゴーストマンのお師匠であるアンジェラさんが大ピンチに陥ったところから物語が始まります。彼女がマカオで立てた宝石強奪計画が、ある事情からとんでもない危機を招き、窮地に陥った彼女は友人であり弟子でもあるゴーストマンを呼び寄せます。そしてアンジェラさんに身も心も捧げ、行方を追うこと数年間、半分ストーカーになりかけていたゴーストマンは、長年待ち望んでいたアンジェラからのヘルプに秒速で飛び込みます。どう考えてもロクな目にならないのに、アンジェラのためならばと、この危機の対処に協力することになるのです。

……というわけで、身を隠し変装するのが得意なはずのゴーストマンが、音速で居場所バレして逃走しながら人を殺しまくる話なので、どちらかというと襲撃担当のボタンマンでした。すなわち、今回はアクション小説なのです。
ところで前作の見どころの1つでもあったのが、主人公ゴーストマンによる軽快な携帯破壊。居場所を突き止められないことが命のゴーストマンは、1回使用するごとにプリペイド携帯を真っ二つに折るのです。その数、24個(推測含めると30個)。
ところが今作では、ゴーストマンとアンジェラことゴーストウーマンを合わせても、5個(推測含めると8個)しか壊していません。ま、つまり、連絡取ったり逃げたり隠れたりする話じゃないってことなんですよね。このへんからも、内容や方向性がちょっと変わったな、というのが分かります。

窮地に陥った主人公達が、複数の犯罪組織を相手にしながら上手いこと立ち回り、いかに逃げのびるか……という内容で、ひたすらバトル&バトル。ピアノ線が首を切断し、船では弾丸が飛び交い、ホテルではパンチが飛び交うのです。とはいえどれだけ画策しても、最終的に立つ鳥跡を濁そうが国外脱出さえすれば身分変えて逃げられるから、ゴーストマンという職業は強い……ってなあたりに、えーこれでいいの、なんて思ってしまうわけです。

1作目同様つまらなくはないんですが、犯罪うんちくを入れすぎて(というか作者が入れたすぎて)テンポが悪くなっているところとか、決着の付け方とかに、ちょこちょこ詰めの甘さが感じられます。方向性が変わったことも含めて、今後どうなっていったのか気になるところですので、生きてシリーズを書き続けて欲しかったなぁと思います。
ちなみに、冒頭、仕事を始める前にスナイパーがiPodを取り出し、イヤフォンを両耳にはめ、演奏時間は10分20秒、などとのたまいます。完全に『ベイビー・ドライバー』じゃないか……(なお、『ハドソン・ホーク』も似たようなシーンがあるという話をこれまたツイッターで編集者さんから聞きました)。音楽と犯罪小説は、やはり、相性が良いのでした。

原 題:Vanishing Games(2015)
書 名:ゴーストマン 消滅遊戯
著 者:ロジャー・ホッブズ Roger Hobbs
訳 者:田口俊樹
出版社:文藝春秋
出版年:2017.09.10 1刷

評価★★★☆☆

『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー - 2017.10.16 Mon

ビバリー,ビル
東の果て、夜へ
『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

十五歳の少年イーストは生まれて初めてLAを出た。これから人を殺しに行くのだ。標的の裏切り者は遠く離れたウィスコンシンに旅行中で、法廷に立つため来週戻ってくる。その前に始末しろという所属組織の命令だった。イーストに同行するのは、殺し屋である不仲の弟をはじめとした少年たち。崩壊の予感と軋轢を抱えながら、二〇〇〇マイルに及ぶ長い旅が始まる。孤独なる魂の彷徨を描いて絶賛を浴びたクライム・ノヴェル。(本書あらすじより)

9月の新刊の中で、ずば抜けて評判の良かった作品です。ですが……なんだろう、この、そこまで合わない感じ……。
ロード・ノヴェル&クライム・ノヴェル&青春小説、ということに尽きるのですが。どれもが中途半端で、また逆にどれもが突き抜けており、王道と変化球両方の雰囲気を持つ作品です。ロード・ノヴェルっぽさだけ期待して読む、ということが出来ない作品なのです。

東に向かって、人殺しのため出発したギャングの若者たちの仲が、全然よくないというのがポイント。客観的に見ればまぁまぁ良いやつも混ざっているのですが、主人公のイーストがどうしても人を信じられず、周りと衝突ばかりしてしまうせいで、一向に楽しいロード・ノヴェルにならないのです。っていうか、序盤のラスベガスのくだりで、正直ちょっとこの本は無理かも……という気分になりました。仲間にクソ野郎がいる系はきつい……。
15歳のイーストが、とにかく人を信じられない病&命令に従うばかりのクソ真面目野郎なので、全然悪いやつではないんですが、読んでいてとにかくもどかしいのですよね。『解錠師』の主人公みたいのとは違うのです。一方で弟である殺し屋・タイとの仲は最悪で、ぶっちゃけヤバい行動ばかり取るタイの行動に、いちいち我慢できないイースト。弟を理解できないというモヤモヤも合わさり、二人の対立は、やがてこの旅を混乱に陥らせるのです。

その人殺し道中が終わり、終盤のオハイオの場面に入ってからは圧倒的に良いです。なんやかんやを経て、イーストが独り立ちしていくための章なのですが、ここのただひたすらにギャング系青春小説っぽい雰囲気は王道で好きです。「主人公イーストは仕事を、タイは自分を大事にする」、というセリフが、効果的に現れるラストを見て、ようやくタイトルに納得がいきました。

ただまぁ、終盤のオハイオはいいんですが、そこに至るまでの部分であまり高揚感を得られなかったので、申し訳ないけど総合的には70点いくかいかないか、という感じ。いやほんと、好きな人は好きだろうなぁってのはよく分かるんですが……これだから新刊は読んでみるまでよく分かりません。
ちなみに諏訪部浩一氏による名解説が完璧に本書を解説してくれているので、自分の感想も全部その焼き直し(劣化版)みたいな感じになっちゃっています。というかこの解説を読むまでラストの内容を読み落としていたという、とんでもない失態を犯していたことは秘密なんだぜ。

原 題:Dodgers(2016)
書 名:東の果て、夜へ
著 者:ビル・ビバリー Bill Beverly
訳 者:熊谷千寿
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 454-1
出版年:2017.09.15 1刷

評価★★★☆☆

『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー - 2017.10.01 Sun

ハーパー,ジェイン
渇きと偽り
『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー(ハヤカワ・ミステリ)

「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた」……意味深な手紙を受けとった連邦警察官フォークは二十年ぶりに故郷を訪れる。妻子を撃ち、自殺したとされる旧友ルークの葬儀に出るためだ。彼は手紙の送り主であるルークの両親から、息子の死の真相を突き止めてほしいと頼まれる。生まれ育った町での捜査は、フォークの脳裏に苦い記憶を呼び起こしていく。かつて、彼がここを離れる原因となった、ある事件の記憶を……。灼熱の太陽にあえぐ干魃の町で、人々が隠してきた過去と秘密が交錯する。オーストラリア発のフーダニット。(本書あらすじより)

ここから11月まではひたすら新刊感想ばかりになると思います。なるべく(原作発表年的な意味での)新旧作品織り交ぜながら読もうとは思っていますので、よろしくお願いします。

ざっくり言うと、刑事が、生まれ故郷に戻り、かつて自らも巻き込まれたある事件の再捜査を行う、という話。
と言われて「うわぁ面白そう! 読みてぇ!」とはならないのはなぜかと言えば、毎年数作は似たようなものが出ているからです。あらすじだけ見たらド定番中のド定番。
ところが、干魃にあえぐオーストラリアの田舎町という舞台設定、現在と回想のバランスの巧みさによって、全く飽きさせない上質なミステリになっています。ラスト、主人公のその後を描かないのも上手いなぁ。これはいいものです。

主人公は、かつてこの田舎町で少女を殺した疑惑をかけられ、父親ともども町から逃げ出した、という過去を持っています。刑事となり友人の葬儀のため戻ってきた彼は、友人の“自殺”事件、および過去の事件の再捜査に取り組むわけですが、町の住人全員から敵意を向けられているという状態。不審な自殺を地元の警官と共に捜査していく中で、過去のことも次第に明らかになっていくのですが……。

真相は、全ての証拠にきれいに説明がつけられる、というようなものですが、そこに至るまでのミスディレクションや回想の事件による複雑さ、事件の構図や手がかりの反転によって、めちゃ定番ながらもしっかり意外性を出せていて好印象。
現在にせよ過去にせよ、登場人物の証言や回想を全て短い回想シーンの挿入の形で描いているのが非常に効果的なんです(医師のところで特に上手いなぁと感じました)。主人公が知ることになる内容をベースにしつつ、知らない内容(釘打機とか)も入れ、それをいちいち説明しないことで、話をコンパクトにまとめられていると思います。この内容で360ページってのは偉いぜ。

その他、アイスコーヒーみたいな名前の優秀な地元の警官とか、パブの主とか、各々の妻とか、登場人物に読者のツボをおさえたキャラクターを配しているので読みやすく、かつ分かりやすいのもグッド。主人公が住人たちから様々な嫌がらせを受けるなど、人間関係のもつれによって話を進めてはいますが、ちゃんと好感の持てる人間を適度に出せるあたり、エンタメをちゃんと書ける作家と見ました。

というわけで、不満な点が全然出ないタイプの、きれいにまとまった良作。今年のポケミスの中でも随一の出来なのでは? おすすめです。

原 題:The Dry(2015)
書 名:渇きと偽り
著 者:ジェイン・ハーパー Jane Harper
訳 者:青木創
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1918
出版年:2017.04.15 1刷

評価★★★★☆

『細工は流々』エリザベス・フェラーズ - 2017.09.24 Sun

フェラーズ,エリザベス
細工は流々
『細工は流々』エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)

「時々、殺したくなる」くらい無邪気なお人好しだったルー。トビーは匿名の電話で、彼女が殺されたことを知り、ジョージと共に現場となった屋敷へ向かった。そこで見つかったのは、糸を使った奇妙な仕掛け。どうやら推理小説のトリックを、いろいろ熱心に練習している奴がいるらしい。はたして、その正体は? そして、事件との関係は?(本書あらすじより)

名作『猿来たりなば』が復刊されたので、それに合わせて久々にエリザベス・フェラーズのトビー&ジョージもの。やっぱフェラーズは最高だぜ!な1冊です。ジョージがひたすらにかわいい(本質的な感想)。

助けを求めてきた友人が殺されてしまったことを知り、殺人現場である屋敷に乗り込んだトビーとジョージ。いつも以上に奇人変人が跳梁跋扈し、殺人の仕掛けがあちこちで見つかる屋敷の中で、連続殺人事件が発生します。

動機も、(仕掛けなだけに)機会もふわふわとしており、誰が何のためにやったのか非常に見えにくいところを、キャラクターと頻発する些細な事件で繋げているのがうまいですね。最初から飛ばしていてずっと面白いのです。いやはや、よくもまぁこれだけ頭のおかしい登場人物を書けるもんです。クリスティーとは明確に人物描写の方向性が違いますよね。同時期で言うなら、どちらかと言うとジョージェット・ヘイヤーと同じグループ。

登場人物の関係が複雑で、実際にどういう関係かだけでなく「誰がどう思い込んでいたか」を含めて謎が解き明かされるので、事件の全体像はなかなか一筋縄では行きません。とはいえ贅肉の事件を外していくと真相自体は意外とシンプルで、このすかし方はいかにもクリスティーっぽいかも。伏線やトリックだけ見ると他のフェラーズ作品には劣るので、本格ミステリ的な驚きはやや少ないのですが、読んでいて全く不満に感じませんでした(ただ、アホなので、第二の殺人が起きた理由がちょっとよく分からんかったのは内緒だ)。

しかし一番感心するのは、探偵役が仕掛けるあの罠なのであります。罠を仕掛けたこと自体はすぐ分かるのですが、あの行為にあんな深い意味があったとは……めっちゃ笑ってしまいました。
ところで本作では相変わらず助手ジョージがひたすらにかわいいわけですが、ジョージのプロフィールが、冒頭の「正面と横からとった顔写真と指紋の記録がスコットランドヤードに保管されていた。もちろん、大勢の優れた人物が写真と指紋をとられている。」という部分にほのめかされていて興味深いです(いろいろ納得)。元ネタイメージとしては、ブラウン神父とフランボウなんでしょうか……全然役回りは違うけど。

というわけで、期せずして『猿来たりなば』『自殺の殺人』『細工は流々』と、シリーズ順ではなく邦訳順で読んでしまいました。論創の2冊も面白かったし、今後もノンシリーズ含めてどんどん読んでいきたい作家です(他のシリーズ作品もどこかが出してくれてもいいんですよ出版社さん)。未読の方はまず9月に復刊される『猿来たりなば』をぜひぜひどうぞ。論創の『カクテルパーティー』も面白いですよ。

原 題:Remove the Bodies(1940)
書 名:細工は流々
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:中村有希
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mフ-13-3
出版年:1999.12.24 初版

評価★★★★☆

『聖エセルドレダ女学院の殺人』ジュリー・ベリー - 2017.09.19 Tue

ベリー,ジュリー
聖エセルドレダ女学院の殺人
『聖エセルドレダ女学院の殺人』ジュリー・ベリー(創元推理文庫)

十代の少女7人が在籍する小規模な寄宿学校で、ある日の夕食中、校長先生とその弟が突然息絶えてしまう。それぞれの事情から家族の元へ帰されたくない生徒たちは、敷地内に死体を埋め、事実を隠して学校生活を続けることにする。翌日、科学の得意なルイーズの分析により、ふたりは毒殺されたと判明。生徒たちは得意分野を活かして大人の目をあざむきつつ犯人を探り始めるが……。(本書あらすじより)

冒頭20ページを読んだ時点で、これは俺が大好きな傑作『スイート・ホーム殺人事件』の再来ではないか……?と思っていたのですが、だいぶタイプが違いました。少女たちを探偵役に据えた良作です。

何がすごいって、女学院の女校長と弟が毒殺され、家に帰されるのを恐れた女生徒7人は死体隠しに奮闘する……というストーリー部分ではないのです。中盤まで、少女たち7人が互いが犯人かと疑い、実際犯人“ではない”ことを示す内面描写が出てこないことなのです。誰が殺したんだろうと思った、みたいな字の文がほぼないんですよね。『そし誰』みたい。
19世紀末という舞台設定の生かし方も良いです。少女たちがあくまで型に外れないことを求められる時代の中で、それぞれ好きなことをやろうと戦うわけですよ。召使いを呼び捨てる階級的なもの、ストロベリーパーティのような風俗、ヴィクトリア朝らしい恋模様などもしっかり描かれ、話に織り込まれているのです。
だからちょっとくらいのリアリティのなさ(少女の一人が、変装で死んだ女校長に成りすましちゃうところとか)も許せちゃうのかも。そもそも序盤からして、死体が転がっている家に大量のお客さんが来てわちゃわちゃしているところなんて、完全にスラップスティックコメディですもんね。

また本格ミステリとしても好印象。長めの解決編と怒涛の伏線回収による丁寧な謎解きが、これ、という手がかりこそないものの、良質なフーダニットという感じで大変良いです(殺人以外のぜい肉犯罪の挿入の仕方なんかはクリスティーっぽい)。7人それぞれの個性を生かし切った捜査と、言うなれば殺人を隠す犯罪が、キャラ物としても秀逸。

『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』もそうでしたが、こういうちょっとした苦みのある、かつ少年少女同士のちょっとしたいがみ合いをきちんと描いたYAらしいミステリには好感が持てます。ちなみに『お嬢さま学校~』の方が全体的には上かな……うーん、この手のミステリを新刊でいろいろ読み比べられるのは嬉しいですねー。

原 題:The Scandalous Sisterhood of Prickwillow Place(2014)
書 名:聖エセルドレダ女学院の殺人
著 者:ジュリー・ベリー Julie Berry
訳 者:神林美和
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mヘ-17-1
出版年:2017.01.13 初版

評価★★★★☆

『赤い収穫』ダシール・ハメット - 2017.09.11 Mon

ハメット,ダシール
赤い収穫
『赤い収穫』ダシール・ハメット(ハヤカワ・ミステリ文庫)

醜悪な町だった。 垂れこめる空は精錬所の煙突から吐き出されたようだった。町に着くとすぐ、私をサンフランシスコから呼んだ男が殺されたことがわかった。町の最高実力者の息子で、鉱山会社の労働争議で力をつけたボスどもの一掃を目指していたらしいが……その犯人探しの途中で、私は新たに父親の実力者から依頼を受けた。ドブネズミどもを残らず追い出してくれという。私、コンチネンタル探偵社のオプは、汚れきった町の実力者、警察署長、ボス連中を巻き込み、血の抗争の果ての共倒れを画策する。ハードボイルドの記念碑的名作。新訳決定版。(本書あらすじより)

う、嘘だろ……めちゃくちゃ面白いじゃないか……。

というのが読んでいる間、読み終わった後に思ったことでした。
思い返せば5年前、ハードボイルドなるものを勉強する読書会で、初めて『マルタの鷹』を読んだのでした。でまぁ、確かに楽しめましたが、はいはいマッチョでタフな感じね、いわゆるハードでボイルドね、脳みそより腕力がものを言うのね、という感じで、サム・スペードはイメージ通りのハードボイルド探偵そのもの、内容もまさしくハードボイルドそのものだったわけです。好きかと言うと、まぁそうでもないという。
そしてその後、例えばマイクル・Z・リューインを読んだり、S・J・ローザンを読んだりする中で、なるほど俺の好きなハードボイルド/私立探偵小説はこっちなんだなということが薄々分かってきました。端的に言うとハメット、チャンドラーはもういいかなと(チャンドラー、『長いお別れ』しか読んでないけど……)。ロスマクは『縞模様の霊柩車』というド傑作に会えましたが、ハメットに心から好きな作品はないだろうな、と思い込んでしまったわけです。

しかしながら周囲のミステリ賢者たちは一様に「鷹とかどうでもいいから収穫を読め!」と散々言うわけです。いわく、収穫は本格ミステリだ、鷹とは全然違う、ゴタクはいいから読め、云々。めんどくせぇなぁと思いながら月日は流れ、ついに2017年、『赤い収穫』を読むこととなったわけです。
傑作でした。グウの音も出ません。ごめんよハメット……。

まず何に驚いたかって、現在の正統派ハードボイルドとは全然違う、ということです(だから『マルタの鷹』の方がクローズアップされやすいのかな)。本格ミステリ、ハードボイルド、ノワール、サスペンス、コン・ゲームなどの要素が見事に結びついています。
設定だけ見ると、地方都市ノワールみたいなんですよね。内容はあらすじの通り。1929年発表とは思えないくらいのテンポの良さで、腐敗渦巻く地方都市の抗争を、主人公であるコンチネンタル探偵社の探偵(名前不明、通称オプ)がひっかきまわしていきます。大きな探偵社に所属しており、同僚の助けも借りられるという従業員私立探偵もの、あんまり読んだことがないのですが(ジョー・ゴアズはこれに近いらしい)、設定として超面白いと思います。

そしてコンチネンタル・オプが、もうとにかく名探偵すぎるのです。脳筋探偵サム・スペードとは違って(失礼)黄金時代顔負け(矛盾)のキレキレ名推理、数十人の死人を生み出す血みどろの抗争を起こせる悪魔的コン・ゲーム力、マッチョっぷりを出さずとも適度に強く一度も頭を殴られず意識も失わないまま長編を終えられるバトル強さを持つ雇われ探偵、それがコンチネンタル・オプなのです……スペック高すぎじゃね?
いや実際、殴ったり殴られたりしているだけのサム・スペードとは大違いです。頭を殴られる、すぐ女と寝る、軽口を叩く、みたいなハードボイルドのテンプレイメージにほとんど乗っからず(作中で一度も女と寝ていない)、ただただ優秀というキャラクター、好感しかありません。

そして何より推理力が高すぎます。いきなり最初の100ページで最初の事件をキレキレロジックと推理で解決し、170ページくらい読んだところで唐突にまたキレキレロジックと推理によって事件を解決し、中盤でもキレキレロジックを炸裂させ、最後にまた名推理を披露します。何回も推理シーンが出てきて、そのたびにどう見ても本格ミステリな謎解きが展開されるのです。基本的に全事件を発生から100ページ以内で解決するので、ポアロより優秀なのでは……。本格ミステリを軸にせず、ハードボイルドという枠組みを作り出し、その中で明らかに本格ミステリを展開するダシール・ハメット。まぎれもなく天才です。
この本格ミステリハードボイルドの面目躍如とも言えるのが、終盤自分が殺人を犯したか記憶があいまいなオプが、あくまで理詰めで真相を追い求めようとするところですよね。すごいんだ、これが。っていうか全部すごすぎるし、正直プロットが複雑すぎるので、例えば誰が弁護士を殺したのかとかもう覚えてないよね……。

そして100ページから後は延々と抗争なのですが、回想の殺人やら現在進行形の同時発生の殺人やら脱獄やらをいちいちロジカルに解き明かしていくので、コンスタントに謎解きカタルシスがあるのが大変良いです。銀行強盗のやつとか、あんなちょっとしたものまでちゃんと伏線はってあるんですよ。なおかつオプさん、「これで16人か……」と死人のカウントをし、ちょっと萎えたりしつつも基本的に非情に徹し(けどあんまり冷たい印象も受けない)、おちょくられた仕返しというだけで勝手に町の抗争という追加任務を粛々とこなすのです。だいたいの人が死にます。どこのノワールの犯人だあんた。強すぎる。

とある作品を褒めるために他の作品を引き合いに出すのはどうかとは思いつつ言っちゃいますが、『マルタの鷹』は一旦いいから『赤い収穫(血の収穫)』を品切れにしない努力を出版社はするべきだと思います。歴史的意義をふまえずとも、間違いなく傑作ハードボイルド/ノワールであり、そして優れた本格ミステリでもある作品でしょう。あまりハードボイルドに興味がない本格ミステリ読者こそ、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。自分でもビックリなくらい、おすすめです。

原 題:Red Harvest(1929)
書 名:赤い収穫
著 者:ダシール・ハメット Dashiell Hammett
訳 者:小鷹信光
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 143-2
出版年:1989.09.15 1刷
     1994.09.30 3刷

評価★★★★★

『晩夏の墜落』ノア・ホーリー - 2017.09.07 Thu

ホーリー,ノア
晩夏の墜落 上 晩夏の墜落 下
『晩夏の墜落』ノア・ホーリー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

メディア界の要人がチャーターしたプライベートジェット機が大西洋上に墜落。この惨事に巻き込まれた画家のスコットは救出した男の子とともに夜の海を命がけで泳ぎきり、奇跡的な生還を果たす。世間から英雄視されるスコットだったが、落下原因の究明が難航するなかで次第に疑惑の目が向けられ始め……その飛行機にいったい何が起こったのか? 人気ドラマクリエイターによるアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。(上巻あらすじより)

エドガー賞受賞ということで、ポケミス文庫同時発売という気合いの入った本だったわけですが、正直なところ、あんまり好みじゃないという。たぶん最初の100ページが好きな人はとにかく好きでしょうし、最初の100ページに何も思わない人は最後まで何も思わないだろうな、と。

プライベートジェットの墜落事故から奇跡の生還を果たした、売れない画家のスコット。訴訟を控えたメディア王や富豪が死んだのは偶然なのか? 墜落原因がはっきりしない中で、テレビの人気司会者の扇動により、次第にスコットは疑惑のヒーローへと祭り上げられていくが……。

上巻終了の時点で、あらすじの「世間から英雄視されるスコットだったが、落下原因の究明が難航するなかで次第に疑惑の目が向けられ始め」という内容ではないのですが(下巻にはそうなる)、こうでも書かないとどういう話なのか説明できない、という出版社側の気持ちも分かります。ラスト150ページになってようやく事故の墜落原因に焦点が当てられ、ラスト100ページになってどんどん謎が増えていく、という感じ。
じゃあ終盤までなにやってるのかと言うと、まぁ基本的に登場人物それぞれのサイドストーリーとか過去エピソードとかで構成されているわけです。事故で死んだ人物の過去、事故で助かった人の過去、事故に関係した人の現在、などなど。その記述の仕方はある意味終盤になって真相が語られる際も同じです。
また後半になるにつれ、私生活をひたすら暴き、あることないこと言い立てるメディアのあり方がクローズアップされていくのですが、その書き方も思ったよりぬるかったなぁという印象。あんまりえげつないとそれはそれで読み通すのがつらいとは言え、この程度を書けば十分なの?と思わなくもありません。

ですから、ストーリーで引っ張るというよりも、墜落事故によって結びつけられた各人の人生を読ませるタイプの作品なのだと思います。飛行機の墜落事故というホワットダニットを、あくまで作品を構成する上でのツールに留めた群像劇、という感じ。爆発事故前を描いたエレナー・アップデール『最後の1分』にどことなく近いものを感じます。やっぱり、こういうフワフワした作品は心からはハマれないかなぁ。ラストの落とし方も、そこまで、こう、心にこなかったし、なんですかね、やっぱりタイプじゃない作品ってありますよね……。気になる方は、とりあえず冒頭だけ読んで判断してみてはいかがでしょうか。

原 題:Before the Fall(2016)
書 名:晩夏の墜落
著 者:ノア・ホーリー Noah Hawley
訳 者:川副智子
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 450-1,2
出版年:2017.07.15 1刷

評価★★☆☆☆

『閉じられた棺』ソフィー・ハナ - 2017.08.29 Tue

ハナ,ソフィー
閉じられた棺
『閉じられた棺』ソフィー・ハナ(クリスティー文庫)

招待先のアイルランドの荘厳な子爵邸で、ポアロと盟友キャッチプール刑事は再会を果たす。その夜、ディナーの席で、招待主である著名作家が、全財産を余命わずかな秘書に遺すという不可解な発表をした。動揺した人々がようやく眠りについたころ、おぞましい事件が……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ公認続篇第2弾。(本書あらすじより)

懐かしのソフィー・ハナです。いつぞやは『モノグラム殺人事件』なる、1ミリもクリスティーっぽさがないけど本格ミステリとしては結構良い、という何とも評価に困る内容の公式ポアロを書かれた作者様であります。パスティーシュ2作目となった今回も、前作同様エセポアロ・エセクリスティー感がすごいのですが、今時これだけ黄金時代風本格ミステリを書いてくれる人もいないわけで、設定だけクリスティーから借りたジェームズ・アンダースン、みたいなノリで読めばいいのかなと思いつつ読み始めました。が……。
なんかもう色々言いたいことはあるんですけど、とりあえず結論から言うと、ソフィー・ハナによるポアロパスティーシュを今後も読み続けていける自信がありません。これは厳しいぞぉ。以下その理由をグダグダと。

前作は、これどこの現代サスペンスですかってな具合のグロ死体から始まりましたが、今回事件自体は一見かなりクリスティーっぽい内容です。アイルランドの屋敷に招かれたポアロとキャッチプール刑事、遺言状の書き換えを宣言する屋敷の主、起こる殺人。殺人が目撃されていたため容疑者が即生まれる、なんてところも定番中の定番です。

『モノグラム殺人事件』を読んだ時にポアロパスティーシュとしての欠点をぼっこぼこになるまでに書きましたが、今回も特に改善は見られず。「クリスティーの簡潔にしてテンプレでありながらしっかり印象を残す描き分けられたキャラクターはここにはいない。描かれなすぎか、強く描かれ過ぎかのどちらか。」3年前と同じ感想です。
初期ポアロ(1920s~30s)のうざっぷりの強調(自信満々さ、フランス語、大げささなど)はちょっと抑えられたかなとは思いますが、会話の節々や行動がいちいちポアロの変装をした怪しげなおっさんにしか見えなくて気持ち悪いです。前にも言ったけど、単純に1920年代の英国が舞台のミステリを書きたいだけなら、ポアロ登場させなくていいんじゃないの……?
一方、うざさ100倍ヘイスティングズみたいだったポアロdisりマンことキャッチプール刑事は、今回はポアロに心酔しまくっているのでむしろほぼキャラクターがなくなりました。存在意義がない……ジジイになるまでポアロの推理と行動に疑問を呈し続けたヘイスティングズの一貫性を少しは見習ってほしい……。
キャラクターについて言えば、今回は警察の無能さが飽きれるほど炸裂しています。アイルランド警察の警部が特に酷く、究極のアホ丸出しで、警察医を頑なに用いようとしないのはさすがに意味が分かりません。不要な発言ばかりする部下の刑事も適当なキャラ付けにしか見えないし。そもそも舞台がアイルランドである必要性すらない気もするんですよね。クリスティー作品に登場するジャップ警部は、ポアロの悪口は言うけどここぞというところではポアロを信用しているし、アホではありません。ガチの無能な警官って、意外と書いていないと思います。

さて事件について。今回は……まぁホワイダニットということになるんでしょうが、この本サイコパスしか登場しないのかよとビビります。ほぼ全員行動がむちゃくちゃで、作者による理由付けにいまいち納得がいきません(説明されていない人すらいます)。遺言状を書き換えた理由、犯行を目撃した人の証言などなど、作者が話を面白くするためだけにムリヤリ作られた行動とシチュエーションが多いように思います。驚愕の動機は……確かにこんなもの読んだことはないので、思い付きは評価しますが、じゃあ面白いかって言うと……。
また『モノグラム殺人事件』と比べると、緻密さや伏線、論理的な謎解きという点ではかなり劣ります。矛盾した証言(クリスティーってここまで矛盾した証言を前面に出す謎ってあまり作らないですよね、むしろ地味なところから掘り下げていくイメージ)から導き出される真相は、正直それアリかよってな気分。『死との約束』が好きだという作者らしい、「開かれた棺」云々という漏れ聞いた言葉からの謎解きも、正直お、おう……の域を出ません。そして相変わらずソフィー・ハナは謎解きの演出が下手ですね……長い謎解きは好きですが、この本に関しては謎解き80ページはかけすぎだと思います。

というわけで、全然褒められるところがありませんでした。いずれ本国でパスティーシュ第3作も発表されるのでしょうが、正直このクオリティのままではつらいなぁというのが正直な気分です。しっかりしてくれ、ソフィー・ハナ&クリスティー財団……これ以上クリスティーの名を汚さないでくれ……。

原 題:Closed Casket(2016)
書 名:閉じられた棺
著 者:ソフィー・ハナ Sophie Hannah
訳 者:山本博、遠藤靖子
出版社:早川書房
     クリスティー文庫 105
出版年:2017.06.25 1刷

評価★★☆☆☆

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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