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シャーロット・アームストロング名言2

2019-09

『指名手配』ロバート・クレイス - 2019.09.14 Sat

クレイス,ロバート
指名手配
『指名手配』ロバート・クレイス(創元推理文庫)

私立探偵エルヴィス・コールは、最近妙に金回りがいい息子タイソンのことを調査して欲しいという、母親からの依頼を受ける。どうやら少年は仲間と裕福な家からの窃盗を繰り返しているらしい。警察に捕まる前に逃亡中のタイソンを確保し、なんとか自首させたいという母親。だが、コールの先回りをするかのように、何者かが少年の仲間を殺していた。そしてタイソンの身も危険が……。大評判となった『容疑者』『約束』に続く第3弾登場。(本書あらすじより)

『容疑者』『約束』に続く創元ロバート・クレイス。『容疑者』は警察官スコットと警察犬マギーが主人公、『約束』はクレイスの主要シリーズであるコール&パイクシリーズにスコット&マギーが登場するという作品でしたが、今作『指名手配』は純粋なコール&パイク物です。従って犬は出ません。
単純に、コール&パイクシリーズは楽しい、という感想に尽きます。軽口&頭担当とバトル担当という私立探偵コンビに、キャラ立ちし過ぎ超有能殺し屋コンビをぶつけたら、そりゃあもう面白いに決まっているじゃないですか、っていう。

連続空き巣強盗事件の犯人である非行少年たちを、差し向けられた殺し屋たちから守る、という、ある意味ひねりのないストレートな話。読者には最初からヤバい二人組の殺し屋の存在が明かされている中で、じわじわとコールが確信に迫りつつ、追うものと追われるもののサスペンスが展開されます。

殺し屋コンビがいいんですよ、本当に。徐々に二人の関係性が明かされ、唐突に過去エピソードが語られ(だがそれがいい)、無情なんだけどただただ有能で意外と繊細なキャラクターが、それはそれは魅力的に描かれていきます。脇役・端役に至るまで個性的なのは、クレイスの本領発揮、といったところでしょうか。
また、アクション要素も重要です。最新機器と頭脳を駆使し、死体をあちらこちらに転がしつつ、探偵と殺し屋が全力で潰し合う……果たして決着は?という話の時点で正直もう超楽しいじゃないですか。コールとパイクの無敵感・全能感ハンパないのに、きちんとサスペンスとして危機感が出ているのも良いです。

ただ……あくまでこれは個人的な意見ですが、すらすら読めるし、厚さは一切感じないし、最初から最後まで面白かった一方で、もう少し話が広がってもいいのに、とは思いました。『約束』と比べると『約束』の方が断然好きとは言っておきます(『指名手配』がつまらないとかではないですよ、誤解なきよう)。
やっぱりコール&パイクシリーズは素晴らしいので、全部読みたいなぁと思うのですが、新潮文庫のやつにしろ扶桑社ミステリーのやつにしろ、どんどんレアになっちゃってて半分くらいしか買えていないんですよね……どうしろっちゅうの。

原 題:The Wanted (2017)
書 名:指名手配
作者:ロバート・クレイス Robert Crais
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 ク-23-3
出版年:2019年5月10日 初版

評価★★★★☆
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『「独り残った先駆け馬丁」の密会』マーサ・グライムズ - 2019.09.13 Fri

グライムズ,マーサ
「独り残った先駆け馬丁」亭の密会
『「独り残った先駆け馬丁」の密会』マーサ・グライムズ(文春文庫)

雨にけむるデヴォンの森で、若い女の絞殺死体が見つかった。ほぼ一年後、同じ手口で再び若い美女が殺される。二つの事件の関連は? おなじみ警視ジュリーの執念の捜査が始まる。(本書あらすじより)

はい、感想を書くのが遅れているので、今頃8月の月一マーサ・グライムズ再読です。
10年前の高3だった頃に自分がこの本について書いた感想読んだら、思いっきり間違っていて恥ずかしくなりました。そうだ、これ最後がよく理解できなかったんだよね……最後誰が死んだかすら、当時よく分かってなかった感があります。
一種の「家庭の悲劇」的な事件としてはめちゃくちゃ面白いし、シリアスな雰囲気もピッタリ。ただ、謎解きミステリとしての面白さを完全に捨ててしまっているのが残念。また、各種シリーズキャラクターも生かせないまま終わってしまったように思えます。

自分の巻いていたスカーフで若い女性が絞殺されるという事件が発生。婚約者の男性が疑われるが、その男性の友人の女性は無実を信じ、元貴族メルローズ・プラントを通じてジュリー警視に捜査を依頼する。一方、一年前にも同様の事件が起きており、『「悶える者を救え」亭』でジュリーと共同捜査を行ったマキャルヴィ方面部長が執拗に真相を追っていた。果たして2つの事件の関係とは?

雰囲気は最高なんです。被害者の婚約者がその一員である、没落しつつある浮世離れした貴族一家の奇妙なつながり・結びつきの描き方とか超うまいし。また、初登場の星占い屋〈スターダスト〉は、またもグライムズは名キャラクター名店を生み出してしまったな、と思わせる素敵空間です。前作から登場しているジュリー警視の隣人、キャロル=アン・パルーツキーがここで大いに活躍することになるわけですね。
とはいえ、謎解きに深みがなく、というか進展も終盤までほぼなく(終盤は面白いけど、終盤までがつまらない)、中盤までは割と「なんでこれ読んでるんだ?」みたいな気分になっちゃうのです。読み物としては失敗かなぁ。

と思ってしまう理由は何かというと、謎解き面もありますが、登場人物を使いきれていないことが一番の原因ではないかなと。このシリーズはロンドン警視庁のジュリー警視、およびその友人である元貴族メルローズ・プラントのダブル主人公であり、彼らが別々に捜査していくことが見どころなわけですが、今作のプラントがまずもう全然使われていないのです。また、『「悶える者~」』で登場した名キャラクターであるマキャルヴィ方面部長も、強烈なキャラクターが上手く生かされず、正直出さなくて良かったかなという気もするし……。

比較的短めの悲劇系統の物語ということで、『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』『「独り残った先駆け馬丁」の密会』と続いてきたわけですが、出来栄えは前者が圧倒的かなぁ。さて、次からは(記憶通りなら)傑作が3連続続くはず。

原 題:I Am the Only Running Footman (1986)
書 名:「独り残った先駆け馬丁」亭の密会
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-7
発 行:1990.6.10 1刷

評価★★★☆☆

『おしゃべり時計の秘密』フランク・グルーバー - 2019.08.13 Tue

グルーバー,フランク
おしゃべり時計の秘密
『おしゃべり時計の秘密』フランク・グルーバー(論創海外ミステリ)

ジョニーとサムが殺しの容疑をかけられた! 災難続きの二人の運命やいかに! おしゃべり時計をめぐる謎に迷探偵が挑む。懐かしのユーモア・ミステリ再び。(本書あらすじより)

論創海外ミステリによる、ジョニー&サムシリーズ未訳全作紹介も、順調に2作目です(シリーズで言うと5作目)。まぁいつも通りと言えばいつも通りではあるのですが、それにしても今回のジョニー&サムはかなり出来が良いのではないでしょうか。めっちゃ面白かったんですよ。少なくとも、論創グルーバー3作品の中では、一番だと思います。

ミネソタ州のど田舎で、一文なしになり、浮浪者と化したため牢屋にぶち込まれた実演セールスマンのジョニー&サム。同じ部屋に放り込まれていた青年がなぜかジョニーにこっそりと質札を渡してくるが、翌朝、青年は殺害された状態で発見される。犯人と目されるもう一人の同房者を追い、ジョニーとサムは牢屋から飛び出す。
その後、警察に追われつつ、ほうほうの体でおなじみニューヨークに戻った二人は、殺された青年が時計業界で名を馳せたクイゼンベリー家の富豪の孫であったことを知る。二人は、亡くなった富豪の持つ時計「おしゃべり時計」をめぐる事件に巻き込まれていく、というか巻き込まれにいくのだが……。

250ページ、とにかく常に何かが起き続け、誰かと誰かが手を組み、死体が転がり、そしてジョニー(頭脳担当)とサム(肉体担当)は食うための金を工面すべく駆け回り続けます。今回の二人はかつてないレベルでの(経済的)ピンチにあるのですが、そんな中でジョニーがいつものように殺人事件に興味を示しまくり、サムがいやいやそれについていく、というのはいつもの流れ。ただし、ジョニーが途中から金目当てだけではなく、死んだ青年のため、と言って殺人事件を解き明かそうと八面六臂の活躍を見せ続けます。これがとにかくかっけぇのです。義理と人情にアツいジョニー……最っ高。
伏線こそきちんとは置かれないものの、ジョニーは紛れもなく名探偵ですし、今回のこんがらがった事件を最短距離でまっすぐ解決に持っていく手法はさすがとしか言いようがありません。ネロ・ウルフやペリイ・メイスンと同系統の、「もめ事処理人」としての名探偵の活躍を楽しむのがこのシリーズの見どころかなと思いますが、本作は特にジョニー&サムの面白さ・楽しさがしっかり出ている良作ではないかと思います。

ところで創元から出ているシリーズ2作品、実はまだ読んでいないんですよね……次の論創が出る前に、手を付けられたら良いなとは思っているのですが。

原 題:The Talking Clock (1941)
書 名:おしゃべり時計の秘密
著 者:フランク・グルーバー Frank Gruber
訳 者:白須清美
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 233
出版年:2019.05.30 初版

評価★★★★☆

『指名手配』ロバート・クレイス - 2019.08.09 Fri

クレイス,ロバート
指名手配
『指名手配』ロバート・クレイス(創元推理文庫)

私立探偵エルヴィス・コールは、最近妙に金回りがいい息子タイソンのことを調査して欲しいという、母親からの依頼を受ける。どうやら少年は仲間と裕福な家からの窃盗を繰り返しているらしい。警察に捕まる前に逃亡中のタイソンを確保し、なんとか自首させたいという母親。だが、コールの先回りをするかのように、何者かが少年の仲間を殺していた。そしてタイソンの身も危険が……。大評判となった『容疑者』『約束』に続く第3弾登場。(本書あらすじより)

『容疑者』に続く創元推理文庫の私立探偵コール&パイクシリーズ。警察犬マギーたちは一切登場しない、純粋なシリーズ新作ですが……単純に「コール&パイクシリーズは楽しい!」という感想に尽きます。軽口&頭担当とバトル担当という私立探偵コンビに、キャラ立ちし過ぎ超有能殺し屋コンビをぶつけたら、そりゃあもう面白いに決まっているじゃないですか。

連続空き巣強盗事件の犯人である非行少年たちが、やばい物品を盗んでしまったため、命を狙われることに。私立探偵エルヴィス・コールは、少年の母親に依頼され、差し向けられた殺し屋たちから少年たちを守ろうとするのですが……という、ある意味ひねりのないストレートな話。読者には最初からヤバい二人組の殺し屋の存在が明かされている中で、じわじわとコールが核心に迫りつつ、追うものと追われるもののサスペンスが展開されます。

なんとっても殺し屋コンビがいいのです。徐々に二人の関係性が明かされ、唐突に殺し屋の過去エピソードが語られ……(だがそれもいい)。無情なのに、ただただ有能で意外と繊細、というキャラクターが、それはそれは魅力的に描かれています。脇役・端役に至るまで個性的なのは、クレイスの本領発揮といったところでしょうか。
そしてそんな魅力的なキャラクターである殺し屋と、例によって魅力的な探偵たちが、最新機器と頭脳を駆使し、死体をあちらこちらに転がしつつ、全力で潰し合うわけですよ。果たして決着は?というバトル要素の時点で正直楽しいんですよね。コールとパイクの無敵感・全能感ハンパねぇ……。

ただ、すらすら読めるし、厚さは一切感じないのですが、もう少し話が広がってもいいのに……とは思いました。殺し屋との対決にもうひとひねりあればなぁ。いつものこのシリーズなら、もっとやりそうなのに。
というわけで、『約束』と比べると『約束』の方が断然好き、とは言っておきます(『指名手配』がつまらないとかではなく)。コール&パイクシリーズ、やはり最高 of 最高ですので、今後もどんどん翻訳が出続けて欲しいものです。

原 題:The Wanted (2017)
書 名:指名手配
著 者:ロバート・クレイス Robert Crais
訳 者:高橋恭美子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-23-3
出版年:2019.05.10 初版

評価★★★★☆

『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』マーサ・グライムズ - 2019.08.04 Sun

グライムズ,マーサ
「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑
『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』マーサ・グライムズ(文春文庫)

ポリー・プレイド、といえば『「鎮痛磁気ネックレス」亭―』でおなじみの女誘推理作家。取材で訪れた小村アッシュダウン・ディーンで村人のペットが次々と殺されるという忌わしい噂を耳にしたとたん、愛猫が行方不明、大慌てで電話ボックスに駆けこむと、そこには老女の死体があった。――かくして、警視ジュリーの登場となる。(本書あらすじより)

月一マーサ・グライムズ再読、7月はシリーズ7作目のこちら。以前読んだ高2の頃はこういう救いのない悲劇的な話が苦手だったのに、いま読むとめちゃくちゃ刺さるというね……『「悶える者を救え」亭の復讐』より、はるかにこっちの方が好きかも。やや歪なところもあり100点はあげられないのですが、確実に本ブログの読者の何人かには刺さるであろう作品です。

動物を愛し、保護し、大人への抵抗をやめず、村の男爵夫人のもとで暮らす身寄りのない15歳の少女キャリー・フリートが、実質的に主人公。事故を装い村の住人のペットが次々と死んでいく中、ついに住人たちも一見事故に思える状況で死んでいきます。この連続殺人と渦中の少女キャリーの関係は何なのでしょうか。

自分がこのシリーズで一番好きなキャラクター、キャロル=アン・パルーツキー初登場作……という点はいったん置いておくとして。
犯人がかなりヤバい人なので、動機はあるにせよやってることが極端すぎますし、犯人特定の手がかりもほぼ1つしかありません。終盤のクリスティーばりのミスディレクションは(ベタとは言え)かなりうまいと思いますし、心臓発作など病死・事故死に見せかけた連続殺人物としてはかなりキッチリ作られてはいるのですが、いかんせんいわゆる謎解きミステリとしてのみで評価しようとすると、悪くはないけどそこまで……な内容ではあります。

しかしこれは、殺人事件ではありますが、それ以前に15歳の少女である「キャリーの物語」であり、そう考えると満点としか言いようがない内容だと思うのです。理不尽だし、別にそうならなくてもよくね、とか言いたくなる人を黙らせるかのような、大人を信じず、動物を保護し、大人と戦う少女のキャラ造形にぐうの音も出ません。何しろ登場シーンからして、少年に銃を突き付けているわけですよ。キャリーと、その保護者である男爵夫人の出会いのシーンとか、めっちゃ良いですよね……。シリーズ1作目から作中に子供を登場させてきたグライムズの生み出すのキャラクターとしては、1つの集大成なのではないでしょうか。
そしてキャリーを中心として構成されているからこそ、いわば「家庭の悲劇」に当たるかのような本書の事件に、説得力というか凄味が出ているのです。連続ペット殺しという不穏な幕開け、事故死に見せかけた悪意ある殺人という、平和な村に似つかない事件が、動物を保護するという使命感を持ち行動するキャリーという少女の存在によって際立ったものになっています。「子供」「動物」「田舎」という要素だけ見ればコージーなのに、中身は全然コージーじゃないというこのアンバランスさを、キャリーというキャラクターそのものが象徴しているようにも思えます。

難点をあげるなら、本作のジュリー警視がモテすぎるということですかね……話の流れがやや悪くなるくらい、モテるのです(必要ではあるんだけど)。新キャラである、ジュリーのアパートの新住人キャロル=アン・パルーツキー(女優志望の若いド美人で、ジュリー警視大好きという倫理的にどうかと思うキャラクター)の登場は、グライムズの好きであろうコメディタッチの部分に良い彩りを付け加えてはいるのですが、作品全体の雰囲気が重めなので、箸休めにはなるけどぶっちゃけ合わないかなぁと思ってしまいました。

とはいえ『「跳ね鹿」亭』、再読ではっきりしましたが、これはシリーズの中でもかなりオススメすべき作品でしょう。つまりは、ロスマクなんですよ。

原 題:The Deer Leap (1985)
書 名:「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-6
出版年:1989.12.10 1刷

評価★★★★☆

『「悶える者を救え」亭の復讐」』マーサ・グライムズ - 2019.06.30 Sun

グライムズ,マーサ
「悶える者を救え」亭の復讐
『「悶える者を救え」亭の復讐」』マーサ・グライムズ(文春文庫)

『バスカーヴィル家の犬』の舞台ともなった、荒涼たるダートムアで、三人の子どもが次々とむごたらしく殺された。現地にとんだジュリー警視が出会ったのは、地元警察のサム・スペード気取りのハードボイルド刑事。何かと張り合いながら、二人の視線は旧家アッシュクロフト家の10歳の女相続人ジェシカをめぐって火花を散らす。(本書あらすじより)

月イチ再読マーサ・グライムズ、6月の6作目は、傑作だったという記憶が強烈な『「悶える者を救え」亭の復讐』です。シリーズ屈指の名キャラクター、ブライアン・マキャルヴィ主任警視初登場作。
この作品、シリーズの中でもかなりの変則パターンだということに再読して初めて気付きました。記憶どおりの面白さでしたが、強烈な新キャラ・マキャルヴィにより、主人公含め他のシリーズキャラクターたちがかすみまくっているので、あまりシリーズ初読者向きではない作品だったな……と、以前この作品をすすめまくったことをやや反省しました。

バラバラな場所に住む無関係な少年少女連続殺人という、グライムズらしからぬ派手めな事件として物語はスタート。捜査に赴いたジュリー警視とウィギンズ刑事が出会ったのは、アメリカかぶれのハードボイルド刑事、部下から恐れられているマキャルヴィ主任警視だった。次の標的は、名家の女相続人となった少女ジェシカなのか? ジュリー警視は、友人である元貴族メルローズ・プラントの力を借りて捜査を進めるが……。

結局途中からいつもの感じになるというアンバランスさだったり、初登場マキャルヴィが実質的に主人公であったりと、かなりバタバタとした作品。なぜこの内容で300ページとかなり短めにまとめてしまったのかは結構謎です。
見どころはやはりマキャルヴィ本人でしょう。デヴォン・コーンウォール方面本部長というまぁまぁ偉い地方の警察官で、やることなすこと無茶苦茶で乱暴、上司としてはクソ野郎ですが、刑事としては超優秀。基本的に友達付き合い出来なそうな人間ですが、なぜかジュリー警視とは意気投合。そしてウィギンズ部長刑事との相性が何故かバツグンです。過去に解決できなかった昔の事件に振り回されており、それが今回の連続殺人にも絡むわけで、言ってみれば今作はマキャルヴィ自身の物語なわけです。

無関係な少年少女が殺される、というミッシングリンクものとしてはかなり面白いだけに、犯人の正体の唐突感が本格ミステリ的にはやや減点ではあります。もうちょい長めの作品にしておけば、ミステリとしての完成度はもっと上がったでしょう。ただ、この事件の悲劇性を前にすると、犯人登場の唐突感がむしろベストな気もします。
ってかそうなんです、このいかんともしがたい動機と、犯人と、ラストシーンを見ると、ご都合主義とか謎解きとかどうでもよくなっちゃうんですよね。そこにマキャルヴィの物語が、こう、きれいに結び付いて、めっちゃ良い話に仕上がっているわけですよ。物語の進行が他作品と比べて変則的ではありますが、もはやコージーの面影などみじんもない、シリーズ中期の代表作と言って良いのではないでしょうか。

というわけで、総合的な完成度は『「エルサレム」亭』の方が断然上ですが、『「悶える者を救え」』亭はやはりおすすめ。何作かシリーズ作品を読んだ上で、ハードボイルド、ノワール好きなんかにこそ読んで欲しい作品です。

原 題:Help the Poor Struggler (1985)
書 名:「悶える者を救え」亭の復讐
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-4
出版年:1987.11.10 1刷

評価★★★★☆

『「エルサレム」亭の静かな対決』マーサ・グライムズ - 2019.06.15 Sat

グライムズ,マーサ
「エルサレム」亭の静かな対決
『「エルサレム」亭の静かな対決』マーサ・グライムズ(文春文庫)

クリスマスの5日前、警視リチャード・ジュリーは雪に覆われた墓地で会った女性に恋をしてしまう。4日前、謎めいた神父に出会う。3日前、元貴族メルローズ・プラントが到着する。事件の解決に欠かせぬ人物だ。2日前、「エルサレム」亭にてジュリーとプラントが顔を合わせる。そしてクリスマス前日……“パブ・シリーズ”第5作。(本書あらすじより)

月一マーサ・グライムズ再読、今回はシリーズ5作目。5月中に全然感想を書かなかったので、もう6月ですが、5月に読んだ作品です。もう6作目も読み終わっているのに……。
さてこの『「エルサレム」亭』ですが、マーサ・グライムズ再読の中で、今のところ一番の収穫。何でこの傑作が高校生の頃の自分にはそれほど響かなかったのか……。初期5作品の中ではこれがベストの出来ではないでしょうか。

ロンドン警視庁のリチャード・ジュリー警視が、親戚の家に行く途中、田舎町の墓地でたまたま出会い知り合った女性。彼女はその翌日、殺されていた。偶然その死を知ったジュリーは、彼女の死を調べるため、独自の捜査を始めていくが……。

動機の見えない連続殺人、雪によって屋敷に(半ば)閉じ込められた上流階級の人々、貴族と庶民、ジュリー警視の一瞬の恋愛による個人的な捜査と元貴族メルローズ・プラントの別行動が最終的に結びつくという(捜査小説としての)見事なかみ合い方、そしてクリスマス・ストーリーとしての要素……全てが完璧です。
ジュリー警視の友人であるメルローズ・プラントは、今作はクリスマスということでとあるお屋敷に招かれているのですが、そこで年若くして貴族の爵位を継ぎ、窮屈な思いをしている少年に出会います。ここがめっちゃ良い……。ひょっとしてプラントの存在が初めて事件にちゃんと生かされているんじゃないの?
かつて伯爵という爵位を返上したプラントの立場と、被害者となった女性に恋をしていたジュリー警視、という二人の活かし方が素晴らしく上手いのです。ダブル主人公ここに極まれり。動機にそこまで意外性はないし、手がかりの提示が完全になされているわけでもありませんが、真相に徐々に近づいていく道筋は巧みだと思います。

そして、このラストの落とし方が、まさにこのシリーズの(中期以降の)良さを体現しているように思えます。そんなんでいいの?……いいんだよクリスマスなんだから、っていうあれです。コージーっぽさは完全に消え、陰鬱ではないけど哀愁ただよう、という独自の雰囲気も完成したのではないでしょうか。

シリーズキャラクターが雪だるま式に増えていくところが、このシリーズの良いところであり、途中の傑作をすすめにくくなる点で悪いところでもあるのですが、本書は本当に良作。1作目を読んだ方が絶対分かりやすいとは思いますが、面倒なのでいきなり『「エルサレム」亭の静かな対決』を手に取るのでもいいんじゃないでしょうか。自信をもってオススメしたい作品です。

原 題:Jerusalem Inn (1984)
書 名:「エルサレム」亭の静かな対決
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-5
出版年:1988.12.10 1刷

評価★★★★★

『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン - 2019.05.11 Sat

カー,ジョン・ディクスン(ディクスン,カーター)
魔女が笑う夜
『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ストーク・ドルイドの村は奇怪な事件に揺れ動いていた。村外れにそびえる異形の石像にちなんだのか、〈後家〉と署名された中傷の手紙が次々と村人に送られてくるのだ。そのあまりの内容に、自殺者までが出ている。たまたま村に来合わせたH・M卿の眼力をもってしても、〈後家〉の正体は明らかにならないが……平穏な村を恐怖で包み込む姿なき怪人の目的とは? H・M卿登場の本格推理。改訳決定版(本書あらすじより)

『魔女が笑う夜』、カーの中でもかなりのバカミス・バカトリックとは聞いていたのですが、読んでみたら想像していた「バカ」の方向性とは真逆でした。『曲がった蝶番』的なのとは全然違うじゃないか……り、りありてぃ〜。

地方の村ストーク・ドルイドにやってきたH・M卿が依頼されたのは、中傷の手紙の送り主〈後家〉を突き止めて欲しいというものだった。すでに自殺者なども出ており、手がかりもない中、ついに密室の中で怪事件が発生し……。

とりあえず冒頭のスーツケースドタバタ騒動が楽しすぎて、やっぱフェル博士よりH・M卿だよなぁ、という気持ちでいっぱいです。そしてこの頃は、キャスター付きスーツケース、いわゆるトロリーケースがまだなかったんですね……作中で発明してしまったH・M卿、天才では?(そして、アイテムが登場しただけでもう面白いっていう) H・M卿と車輪の相性が良すぎるんだよなぁ。

さて、「匿名の手紙」「中傷の手紙」は古今東西のミステリに用いられるネタではありますが、単なる殺人のきっかけではなく、ここまで話の中心となっているのも珍しいのではないでしょうか。また、そこだけでは話として盛り上がりにくいところですが、いつもの不可能犯罪を絡めることで、本格ミステリとしての面白さも損なわれていません。ただ、トリックは正直面白いし、伏線芸が炸裂しているだけに、「気のせい」をあんまり駆使してほしくなかったかな、とは思います。
とはいえ、本書を読むと、ミステリ部分よりもH・M卿お得意のドタバタ劇(残りページ数少ないところで何をおっぱじめてやがる)、H窮屈な人生を送らされている子供とH・M卿の交流(最高)、安定のラブコメなど、ストーリー部分での盛り込み具合がめっちゃ楽しいことに気付きます。ラブコメについては、最初ここがくっつくんだろうなと思ったパターンを外してくるのも良いですし。他にも、なかなかインパクトのある死亡シーン、なかなかにクズな犯人像など、印象深い点も多いです。ファルスとシリアスの切り替えが見事なんですよ。単なるバカトリック作品としてではなく、一級品のエンタメとして評価するべきかもしれません。

というか、ファルスとトリックさえ抜けば、カーって比較的ベタな英国地方ミステリになるんだな、ってことに気付き、一番びっくりしました。普段カー読んでて全然そんなこと思わないのに……やっぱりカー色の強さが半端ないせいで英国地方ミステリっぷりが目立っていないのか……。

というわけで、安定の面白さを誇るカー、本領発揮という作品でした。やっぱり1年に1回くらいはカーを読んでいかないと。ところでよく考えたら、これまでに読んだ長編カーが17冊、積み長編カーが19冊なのに、カーって長編合計75作品もあるっていうね……単純に量が多すぎるぜ……。

原 題:Night at the Mocking Widow (1950)
書 名:魔女が笑う夜
著 者:カーター・ディクスン Carter Dickson
訳 者:斎藤数衛
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 6-8
出版年:1982.09.30 1刷
     2001.04.15 3刷

評価★★★★☆

『「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶』マーサ・グライムズ - 2019.04.29 Mon

グライムズ,マーサ
「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶
『「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶』マーサ・グライムズ(文春文庫)

シェイクスピアゆかりの地ストラトフォード。「お気に召すまま」観劇のあと、女性観光客が喉を掻っ切られて死んでいた。劇場パンフに走り書きされたソネットの二行に謎が隠されて?(本書あらすじより)

毎月恒例、月イチ再読マーサ・グライムズ。シリーズ4作目なのになぜか訳されたのが11番目という謎の翻訳をされた(唯一飛ばされていた)上に、内容もあまり印象が良くない……というか悪い作品。
読み直してみたら思ったより悪くはありませんでしたが、やっぱり良くもありませんでした。この作品がシリーズ中かなり微妙なところにあるのは間違いないと思います。

舞台はシェイクスピアにまつわる町、ストラトフォード・アポン・エイヴォン。アメリカからの観光ツアーの一人が殺され、休暇で当地を訪れていたジュリー警視は元貴族メルローズ・プラントと共に事件に巻き込まれる。

謎解きミステリとしては、明らかにバレバレの犯人→露骨なトリック、の部類。ストラトフォード・アポン・エイヴォンを訪れたアメリカ人ツアー観光客たちも、容疑者としてまんべんなく描けていません。ただし一点、叙述とまでは言わないまでも、なかなか面白い種明かしがあること自体は評価できるかも。

コージーっぽい雰囲気の取り入れ方をミスっている感もあります。ジュリー警視の恋模様という、3作目から徐々に始まる要素を積極的に取り入れているのですが、どう見ても中途半端なのです。訳者あとがきに、悲劇ではない悲哀が本シリーズ(特に後期)の特徴だとあり、なかなか言い得て妙だと思うのですが、じゃあこの4作目がそうかと言うと、そんなに悲哀も感じないんだよなぁ……。コージーからの悲哀、の過渡期の作品であるだけに、どちらの要素も書き切れていないのです。
そもそも、犯人の陥っている状況、悲劇、復讐に、なにひとつしっくりこないのが致命的。最後の失速っぷりがなぁ……こんな理由で何人殺してるんだよこいつって感じだし……。

というわけで、再読してきた中でもやっぱり一番微妙でした。前から言っているのですが、観光客を扱ったミステリって、外れ率高くないですか……?

原 題:The Dirty Duck (1984)
書 名:「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:吉野美恵子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-12
出版年:1994.12.10 1刷

評価★★★☆☆

『謀略空港』シェイン・クーン - 2019.04.19 Fri

クーン,シェイン
謀略空港
『謀略空港』シェイン・クーン(創元推理文庫)

9.11テロで妹を失ったことを契機に航空保安警備コンサルタントの道に進み、世界各地を一年中飛び回るケネディ。ある日、その卓越した能力に目をつけたCIAから、テロ対策チームへの誘いがかかる。史上最悪のテロが目前に迫っているというのだ。目的のためには手段を選ばない各分野のスペシャリストとともに謀略を阻止できるのか? 面白さ無類のエンターテインメント登場!(本書あらすじより)

シェイン・クーンといえば、去年デビュー作の『インターンズ・ハンドブック』が紹介され、それがめちゃめちゃ面白かった作家なのですが、今年なんと別の作品が東京創元社から出ました。やったぜ!とばかりに読み始めたのですが……あ、あれ、『インターンズ・ハンドブック』の面白さは、どこに行ってしまったんだ……ひどい……素人版ミッション・インポッシブルのただひたすら微妙なやつじゃないか……。

主人公のケネディは空港警備のスペシャリスト。CIAからプロジェクトチームのリーダーになることを求められた彼は、アメリカを襲いつつある史上最悪のテロと戦うことになるのだが……。

こういうド直球エンタメって、すっごいハマる時と、全くハマらない時があるんですが、何が違うんでしょうね。
とにかく、全体的に褒められる点が少ないのです。どんでん返しのつまらないベタさ、「航空保安警備コンサルタント」という主人公の職業のいまいち生かされていない感、さっきまで素人だったくせにメキメキとスパイ化していく一般人たち、テロリスト側にも捜査側にもあまり知性を感じられないこと、などなど色々理由があるにはあります。
そもそも、ただのコンサルタント会社を経営しているだけの一般人である主人公が、未曽有のテロと闘うためのCIAのチームのリーダーになることを依頼される、っていう導入そのものがファンタジーなわけじゃないですか。それ自体は良いんですよ、もちろん。ただ、結局主人公のリーダーっぷりもそんなに発揮されないし、「空港のことをよく知っていて知り合いも多い」くらいしか主人公の属性も生かされないしで、「ただの一般人がテロを防ぐヒーローに!」みたいなファンタジー感があまり演出されず、むしろそのファンタジーに徹し切れていない中途半端さが気になってしまうんです。途中からは孤軍奮闘するためミッション・インポッシブルみたいになりますが、ただバタバタしているだけで、知性もサスペンスもないんだよなぁ……。

あと、一応ネタバレになるので伏せますが、アメリカのミステリが平気であの兵器を使うってのも気に入りません(よくあるけど)。っていうか脅すならともかく、使っちゃうってのが気に入らないというか。

というわけで、うーんこれは残念な出来でした。こういう話をやるなら、もっと本気でバカバカしくやるか、もっとリアリティとサスペンス感を出すか、どっちかにして欲しかったところです。

原 題:The Asset (2016)
書 名:謀略空港
著 者:シェイン・クーン Shne Kuhn
訳 者:見次郁子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mク-27-1
出版年:2018.11.30 初版

評価★★☆☆☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人3年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から9年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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