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シャーロット・アームストロング名言2

2019-11

『「古き沈黙」亭のさても面妖』マーサ・グライムズ - 2019.11.19 Tue

グライムズ,マーサ
「古き沈黙」亭のさても面妖
『「古き沈黙」亭のさても面妖』マーサ・グライムズ(文春文庫)

ふさぎの虫にとりつかれたジュリー警視、休暇で訪れたヨークシャーのパブで、人品いやしからぬ婦人がいきなり夫を射殺するのを目にした。単純明快な事件のはずだが何か気にかかる。(本書あらすじより)

月一マーサ・グライムズ、第10弾。今作はいきなり600ページ超えですが、これが以前読んだ時はめちゃくちゃ面白かったはずなのです。
というわけで、6日かけてゆっくり再読。正直初読時より評価を落としてしまった感は否めないのですが、そんなことより、俺の記憶していた場面が出てこなかったのはどういうこと? 何かと混ざってる?

650ページという長さではありますが、そこまではっきりとしたストーリーはないですし、ぐいぐい読ませるような工夫があるわけでもありません。わらわらとまとまりのない登場人物たちをゆっくり描きつつ、ジュリー警視の目の前で起きた妻による夫射殺事件というあまりに明確な殺人に隠された真実がじっくりあぶり出されていきます。

手がかりが正直乏しいのですが(せめて動機の手がかりをもうちょい置いてほしい)、過去の少年二人誘拐事件の真相や、そこから引き起こされた事件の顛末、というミステリ部分は比較的好きなんですよね。物語の核となる、退廃的で、厭世的で、悪人ではないけどクセの強い一族のそろった貴族一家には、まさしく「血は水よりも濃い」を体現しているかのような互いをかばいあう人々が集まっています。本作のミステリ部分は「血は水よりも濃い」という言葉に真っ向から向き合ったかのような事件であり、そしてそれが実際かなり上手く描き出されています。
そして、本作のテーマであり全編を覆う「ロック」という音楽の影がまたすごく良いんです。終始登場人物たちは何かしらの音楽を聞き、何かしらの音楽について語っています。この部分、必要か不必要で言えば不必要なんですが、でもそれが事件を構成する一要素としてたまらなく魅力的であるのも事実。これを読んだせいで、ルー・リードを聴いてみたくなりましたからね、自分は。

650ページはやっぱり長く、作者が(良い意味でも悪い意味でも)ダラダラと書いてしまった感はありますが、でもこの長さは、音楽要素も含め、今作の雰囲気を形作る上での必要悪であり、そしてこの気だるげな雰囲気はやっぱ魅力的なんですよね……と思えたら、たぶんこの本はハマるんでしょう。っていうかグライムズにハマるんでしょう。ちなみに自分はハマっています。そういうことです。

原 題:The Old Silent (1989)
書 名:「古き沈黙」亭のさても面妖
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-9
出版年:1992.03.10 1刷

評価★★★★☆
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『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』マーサ・グライムズ - 2019.10.18 Fri

グライムズ,マーサ
「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁
『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』マーサ・グライムズ(文春文庫)

休暇中に遭遇した奇妙な殺人事件の被害者の妻と、テムズ川で見つかった女性の死体の顔は驚くほど似ていた。ただの偶然とは思えない二人の関係を、ジュリー警視が追う。(本書あらすじより)

9月の月一マーサ・グライムズです。シリーズ第1作『「禍の荷を負う男」亭の殺人』の舞台であり、ダブル主人公の片割れである元貴族メルローズ・プラントが住む村、ロング・ピドルトンが舞台となっています。
好き嫌いが非常に分かれそうな作品。トリック面を評価するか、このエンディングを認めるか、あるいは放置プレイになっている様々な要素を問題視するか。極端な話、これは「名探偵が解決できないミステリ」なのです。

メルローズ・プラントの友人である古道具屋トルーブラッドが仕入れたばかりの家具から死体が発見された。状況から考えて、犯人はこの家具を売り払ったばかりの、死んだ男の妻ではないかと思われるが、ジュリー警視はすんなりその結論に納得できず……。

いわば「綺麗な解決」「ハッピーエンド」を時として好まないのがグライムズという作家なんですが、その特性が過去作にない形で現れたのがこの『「五つの骨と貝殻骨」亭』なんだと思います。それを成立させるためのトリックと、事件が、まさにこれ、という。
明確に「トリック」があるタイプのミステリであり、そんなに上手くいくかなぁと思ってしまうような真相ではあります。が、「上手くいってしまった」ということを全面に押し出すことでそれを解決するという、ある意味ずるい描き方であるため、そこまで違和感はありません。

とはいえ核となる人物の描写が、いつものグライムズだったらもっとみっちりやっているだろうに、意外とさらっとしているせいでやや味気ないのも事実。なぜ書き込みが足りないのかというと、偽の手がかりが多く作りすぎたから、と言う他ないのですが、問題はこの偽の手がかりたちが、読んでいる分にはかなり楽しくても、あれもこれもほったらかしで終わってしまっているところ。下手に容疑者を増やすくらいなら、もっと狭いコミュニティにして、短めの話で仕上げた方が良かったのかも。
そういうわけなので、シリーズ1作目の舞台と同じにしてシリーズキャラクターをぞろぞろ出す必要はなかったんじゃないのかな、とか、まぁ色々考えるわけですよ(作者が書きたかったから、あとはファンサービスが理由かなぁとは思いますが)。割と好きではあるけど、完成度としてはマイナスポイントが目立つ作品だと思います。

これで今年9作再読を終えたわけですが、マーサ・グライムズ、再読した何作品かに関しては、初読時に感じたシリーズとしての楽しさよりも、個々の作品の完成度が気になってしまうので、結果的にやや評価を落としている感が否めません。悲しいなぁ……。

原 題:The Five Bells and Bladebone (1987)
書 名:「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:吉野美恵子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-8
出版年:1991.03.10 1刷

評価★★★★☆

『死者の国』ジャン=クリストフ・グランジェ - 2019.09.23 Mon

グランジェ,ジャン=クリストフ
死者の国
『死者の国』ジャン=クリストフ・グランジェ(ハヤカワ・ミステリ)

パリの路地裏でストリッパーの惨殺遺体が発見される。パリ警視庁警視のステファン・コルソはこの猟奇殺人事件の捜査を進めるが、ほどなくして第二の犠牲者も出てしまう。被害者二人の共通点は、同じストリップ劇場で働いていたこと、そして二人とも、元服役囚の画家、ソビエスキと恋人関係であったこと。コルソはソビエスキを容疑者と考え、彼を追い詰めるが……『クリムゾン・リバー』の著者グランジェが放つ、戦慄と慟哭のサスペンス。(本書あらすじより)

ポケミス最長&最厚の作品が登場です。グランジェはかつて創元推理文庫から何作か出たっきりの、向こうでの人気と比べると日本ではそれほど……なフランス・ミステリ作家。ところが、昨年聞いたことのない出版社(失礼)から突如『通過者』が出て(TAC出版から700ページ超えの上下二段単行本が出ました)、そして今年はポケミスから、と、なぜか急にまた翻訳が続いています。去年は読みたいと思いつつ読み逃してしまったのですが、何と言っても今回はポケミスなので、分厚さにめげずに取り組んでみました。
なんでしょうね、色々な意味でこの本を消化しきれていない気がします。正直なところ、この厚さを気にせず読んで欲しい!とオススメできるかというと、微妙な作品です。

パリでストリッパーが惨殺される。時に強引な捜査を行ってしまうことで知られるコルソ警視は懸命に犯人を追うが、やがて二人目の犠牲者が。捜査の中で浮かび上がってきたのは、ストリッパーと付き合っていたという、世間で話題の初老の画家であった。犯人は彼だと狙いをつけて、コルソは執拗に調べを続けるが……。

絶対こいつが犯人でしょ、という謎の確信を抱いて読み進めていたのですが、とりあえず全然当たっていませんでした。
それはともかく、誤解を恐れつつ言うと、なぜ760ページもあるのかが分からない、というのが正直なところ。もっと短くできるでしょとかそういう意味ではなく(それもあるけど)、なんでたったこれだけのストーリーでポケミス最長になってしまっているのかが分からないのです。めちゃめちゃ読みやすいのは間違いないんですが……。
ややグロめの事件だったり、性癖オンパレードのアブノーマルセックス描写まみれだったり、陰鬱な真相だったり、という内容であるにもかかわらず、薄っぺらいとは言わないけど妙に、こう、「軽い」んですよ。そこに違和感があります。ストーリーはそれほどでもないけど、雰囲気などの色々な味付けで760ページになった……とかなら分かるんですが。いらない展開やら大したことない描写やらで長くなっちゃってるんだろうなぁ。

主人公のコルソ警視が、とにかく読者の共感を得られなそうな直感型突っ走り証拠なし逮捕暴力刑事なのは、ある意味ストーリー上の必要があるので、まぁいいとしましょう。ただ、そんな彼が、思い込みが激しい割に都合の良いところで急に考えをコロコロ変えるのにも違和感。ラスト、そりゃそうなるんでしょうが、お前色々カッタい考え方のくせになんでそんなあっさり思い切れるのかなぁ、とか。
あとは作者の書き方でしょうか。どんでん返しを仕込んでいるかのようなストーリーなのに、偽の真相らしきものに対して、はいこれは真相ではないっすよー!みたいな書き方をして読者の期待をへし折るのは何でですか、マジで。それと、連載小説みたいに前の章の内容をたまに説明しているのも何でですか。

決してつまらない、ってほどでもない、のがまた難しい……いやこうなるとつまらないのかもしれないけど……。どういう経緯でポケミスから出そうってなったのかも気になります(いやポケミス向きの話ではありますが)。グランジェの面白さを理解できたかと言うと微妙なので、とりあえず、復刊した『クリムゾン・リバー』とかを読んでみないとなぁ。

原 題:La Terre des morts (2018)
書 名:死者の国
著 者:ジャン=クリストフ・グランジェ Jean-Christophe Grangé
訳 者:高野優、伊禮規与美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1944
出版年:2019.06.15 1刷

評価★★★☆☆

『指名手配』ロバート・クレイス - 2019.09.14 Sat

クレイス,ロバート
指名手配
『指名手配』ロバート・クレイス(創元推理文庫)

私立探偵エルヴィス・コールは、最近妙に金回りがいい息子タイソンのことを調査して欲しいという、母親からの依頼を受ける。どうやら少年は仲間と裕福な家からの窃盗を繰り返しているらしい。警察に捕まる前に逃亡中のタイソンを確保し、なんとか自首させたいという母親。だが、コールの先回りをするかのように、何者かが少年の仲間を殺していた。そしてタイソンの身も危険が……。大評判となった『容疑者』『約束』に続く第3弾登場。(本書あらすじより)

『容疑者』『約束』に続く創元ロバート・クレイス。『容疑者』は警察官スコットと警察犬マギーが主人公、『約束』はクレイスの主要シリーズであるコール&パイクシリーズにスコット&マギーが登場するという作品でしたが、今作『指名手配』は純粋なコール&パイク物です。従って犬は出ません。
単純に、コール&パイクシリーズは楽しい、という感想に尽きます。軽口&頭担当とバトル担当という私立探偵コンビに、キャラ立ちし過ぎ超有能殺し屋コンビをぶつけたら、そりゃあもう面白いに決まっているじゃないですか、っていう。

連続空き巣強盗事件の犯人である非行少年たちが、やばい物品を盗んでしまったため、命を狙われることに。私立探偵エルヴィス・コールは、少年の母親に依頼され、差し向けられた殺し屋たちから少年たちを守ろうとするのですが……という、ある意味ひねりのないストレートな話。読者には最初からヤバい二人組の殺し屋の存在が明かされている中で、じわじわとコールが確信に迫りつつ、追うものと追われるもののサスペンスが展開されます。

殺し屋コンビがいいんですよ、本当に。徐々に二人の関係性が明かされ、唐突に過去エピソードが語られ(だがそれがいい)、無情なんだけどただただ有能で意外と繊細なキャラクターが、それはそれは魅力的に描かれていきます。脇役・端役に至るまで個性的なのは、クレイスの本領発揮、といったところでしょうか。
また、アクション要素も重要です。最新機器と頭脳を駆使し、死体をあちらこちらに転がしつつ、探偵と殺し屋が全力で潰し合う……果たして決着は?という話の時点で正直もう超楽しいじゃないですか。コールとパイクの無敵感・全能感ハンパないのに、きちんとサスペンスとして危機感が出ているのも良いです。

ただ……あくまでこれは個人的な意見ですが、すらすら読めるし、厚さは一切感じないし、最初から最後まで面白かった一方で、もう少し話が広がってもいいのに、とは思いました。『約束』と比べると『約束』の方が断然好きとは言っておきます(『指名手配』がつまらないとかではないですよ、誤解なきよう)。
やっぱりコール&パイクシリーズは素晴らしいので、全部読みたいなぁと思うのですが、新潮文庫のやつにしろ扶桑社ミステリーのやつにしろ、どんどんレアになっちゃってて半分くらいしか買えていないんですよね……どうしろっちゅうの。

原 題:The Wanted (2017)
書 名:指名手配
作者:ロバート・クレイス Robert Crais
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 ク-23-3
出版年:2019年5月10日 初版

評価★★★★☆

『「独り残った先駆け馬丁」の密会』マーサ・グライムズ - 2019.09.13 Fri

グライムズ,マーサ
「独り残った先駆け馬丁」亭の密会
『「独り残った先駆け馬丁」の密会』マーサ・グライムズ(文春文庫)

雨にけむるデヴォンの森で、若い女の絞殺死体が見つかった。ほぼ一年後、同じ手口で再び若い美女が殺される。二つの事件の関連は? おなじみ警視ジュリーの執念の捜査が始まる。(本書あらすじより)

はい、感想を書くのが遅れているので、今頃8月の月一マーサ・グライムズ再読です。
10年前の高3だった頃に自分がこの本について書いた感想読んだら、思いっきり間違っていて恥ずかしくなりました。そうだ、これ最後がよく理解できなかったんだよね……最後誰が死んだかすら、当時よく分かってなかった感があります。
一種の「家庭の悲劇」的な事件としてはめちゃくちゃ面白いし、シリアスな雰囲気もピッタリ。ただ、謎解きミステリとしての面白さを完全に捨ててしまっているのが残念。また、各種シリーズキャラクターも生かせないまま終わってしまったように思えます。

自分の巻いていたスカーフで若い女性が絞殺されるという事件が発生。婚約者の男性が疑われるが、その男性の友人の女性は無実を信じ、元貴族メルローズ・プラントを通じてジュリー警視に捜査を依頼する。一方、一年前にも同様の事件が起きており、『「悶える者を救え」亭』でジュリーと共同捜査を行ったマキャルヴィ方面部長が執拗に真相を追っていた。果たして2つの事件の関係とは?

雰囲気は最高なんです。被害者の婚約者がその一員である、没落しつつある浮世離れした貴族一家の奇妙なつながり・結びつきの描き方とか超うまいし。また、初登場の星占い屋〈スターダスト〉は、またもグライムズは名キャラクター名店を生み出してしまったな、と思わせる素敵空間です。前作から登場しているジュリー警視の隣人、キャロル=アン・パルーツキーがここで大いに活躍することになるわけですね。
とはいえ、謎解きに深みがなく、というか進展も終盤までほぼなく(終盤は面白いけど、終盤までがつまらない)、中盤までは割と「なんでこれ読んでるんだ?」みたいな気分になっちゃうのです。読み物としては失敗かなぁ。

と思ってしまう理由は何かというと、謎解き面もありますが、登場人物を使いきれていないことが一番の原因ではないかなと。このシリーズはロンドン警視庁のジュリー警視、およびその友人である元貴族メルローズ・プラントのダブル主人公であり、彼らが別々に捜査していくことが見どころなわけですが、今作のプラントがまずもう全然使われていないのです。また、『「悶える者~」』で登場した名キャラクターであるマキャルヴィ方面部長も、強烈なキャラクターが上手く生かされず、正直出さなくて良かったかなという気もするし……。

比較的短めの悲劇系統の物語ということで、『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』『「独り残った先駆け馬丁」の密会』と続いてきたわけですが、出来栄えは前者が圧倒的かなぁ。さて、次からは(記憶通りなら)傑作が3連続続くはず。

原 題:I Am the Only Running Footman (1986)
書 名:「独り残った先駆け馬丁」亭の密会
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-7
発 行:1990.6.10 1刷

評価★★★☆☆

『おしゃべり時計の秘密』フランク・グルーバー - 2019.08.13 Tue

グルーバー,フランク
おしゃべり時計の秘密
『おしゃべり時計の秘密』フランク・グルーバー(論創海外ミステリ)

ジョニーとサムが殺しの容疑をかけられた! 災難続きの二人の運命やいかに! おしゃべり時計をめぐる謎に迷探偵が挑む。懐かしのユーモア・ミステリ再び。(本書あらすじより)

論創海外ミステリによる、ジョニー&サムシリーズ未訳全作紹介も、順調に2作目です(シリーズで言うと5作目)。まぁいつも通りと言えばいつも通りではあるのですが、それにしても今回のジョニー&サムはかなり出来が良いのではないでしょうか。めっちゃ面白かったんですよ。少なくとも、論創グルーバー3作品の中では、一番だと思います。

ミネソタ州のど田舎で、一文なしになり、浮浪者と化したため牢屋にぶち込まれた実演セールスマンのジョニー&サム。同じ部屋に放り込まれていた青年がなぜかジョニーにこっそりと質札を渡してくるが、翌朝、青年は殺害された状態で発見される。犯人と目されるもう一人の同房者を追い、ジョニーとサムは牢屋から飛び出す。
その後、警察に追われつつ、ほうほうの体でおなじみニューヨークに戻った二人は、殺された青年が時計業界で名を馳せたクイゼンベリー家の富豪の孫であったことを知る。二人は、亡くなった富豪の持つ時計「おしゃべり時計」をめぐる事件に巻き込まれていく、というか巻き込まれにいくのだが……。

250ページ、とにかく常に何かが起き続け、誰かと誰かが手を組み、死体が転がり、そしてジョニー(頭脳担当)とサム(肉体担当)は食うための金を工面すべく駆け回り続けます。今回の二人はかつてないレベルでの(経済的)ピンチにあるのですが、そんな中でジョニーがいつものように殺人事件に興味を示しまくり、サムがいやいやそれについていく、というのはいつもの流れ。ただし、ジョニーが途中から金目当てだけではなく、死んだ青年のため、と言って殺人事件を解き明かそうと八面六臂の活躍を見せ続けます。これがとにかくかっけぇのです。義理と人情にアツいジョニー……最っ高。
伏線こそきちんとは置かれないものの、ジョニーは紛れもなく名探偵ですし、今回のこんがらがった事件を最短距離でまっすぐ解決に持っていく手法はさすがとしか言いようがありません。ネロ・ウルフやペリイ・メイスンと同系統の、「もめ事処理人」としての名探偵の活躍を楽しむのがこのシリーズの見どころかなと思いますが、本作は特にジョニー&サムの面白さ・楽しさがしっかり出ている良作ではないかと思います。

ところで創元から出ているシリーズ2作品、実はまだ読んでいないんですよね……次の論創が出る前に、手を付けられたら良いなとは思っているのですが。

原 題:The Talking Clock (1941)
書 名:おしゃべり時計の秘密
著 者:フランク・グルーバー Frank Gruber
訳 者:白須清美
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 233
出版年:2019.05.30 初版

評価★★★★☆

『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』マーサ・グライムズ - 2019.08.04 Sun

グライムズ,マーサ
「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑
『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』マーサ・グライムズ(文春文庫)

ポリー・プレイド、といえば『「鎮痛磁気ネックレス」亭―』でおなじみの女誘推理作家。取材で訪れた小村アッシュダウン・ディーンで村人のペットが次々と殺されるという忌わしい噂を耳にしたとたん、愛猫が行方不明、大慌てで電話ボックスに駆けこむと、そこには老女の死体があった。――かくして、警視ジュリーの登場となる。(本書あらすじより)

月一マーサ・グライムズ再読、7月はシリーズ7作目のこちら。以前読んだ高2の頃はこういう救いのない悲劇的な話が苦手だったのに、いま読むとめちゃくちゃ刺さるというね……『「悶える者を救え」亭の復讐』より、はるかにこっちの方が好きかも。やや歪なところもあり100点はあげられないのですが、確実に本ブログの読者の何人かには刺さるであろう作品です。

動物を愛し、保護し、大人への抵抗をやめず、村の男爵夫人のもとで暮らす身寄りのない15歳の少女キャリー・フリートが、実質的に主人公。事故を装い村の住人のペットが次々と死んでいく中、ついに住人たちも一見事故に思える状況で死んでいきます。この連続殺人と渦中の少女キャリーの関係は何なのでしょうか。

自分がこのシリーズで一番好きなキャラクター、キャロル=アン・パルーツキー初登場作……という点はいったん置いておくとして。
犯人がかなりヤバい人なので、動機はあるにせよやってることが極端すぎますし、犯人特定の手がかりもほぼ1つしかありません。終盤のクリスティーばりのミスディレクションは(ベタとは言え)かなりうまいと思いますし、心臓発作など病死・事故死に見せかけた連続殺人物としてはかなりキッチリ作られてはいるのですが、いかんせんいわゆる謎解きミステリとしてのみで評価しようとすると、悪くはないけどそこまで……な内容ではあります。

しかしこれは、殺人事件ではありますが、それ以前に15歳の少女である「キャリーの物語」であり、そう考えると満点としか言いようがない内容だと思うのです。理不尽だし、別にそうならなくてもよくね、とか言いたくなる人を黙らせるかのような、大人を信じず、動物を保護し、大人と戦う少女のキャラ造形にぐうの音も出ません。何しろ登場シーンからして、少年に銃を突き付けているわけですよ。キャリーと、その保護者である男爵夫人の出会いのシーンとか、めっちゃ良いですよね……。シリーズ1作目から作中に子供を登場させてきたグライムズの生み出すのキャラクターとしては、1つの集大成なのではないでしょうか。
そしてキャリーを中心として構成されているからこそ、いわば「家庭の悲劇」に当たるかのような本書の事件に、説得力というか凄味が出ているのです。連続ペット殺しという不穏な幕開け、事故死に見せかけた悪意ある殺人という、平和な村に似つかない事件が、動物を保護するという使命感を持ち行動するキャリーという少女の存在によって際立ったものになっています。「子供」「動物」「田舎」という要素だけ見ればコージーなのに、中身は全然コージーじゃないというこのアンバランスさを、キャリーというキャラクターそのものが象徴しているようにも思えます。

難点をあげるなら、本作のジュリー警視がモテすぎるということですかね……話の流れがやや悪くなるくらい、モテるのです(必要ではあるんだけど)。新キャラである、ジュリーのアパートの新住人キャロル=アン・パルーツキー(女優志望の若いド美人で、ジュリー警視大好きという倫理的にどうかと思うキャラクター)の登場は、グライムズの好きであろうコメディタッチの部分に良い彩りを付け加えてはいるのですが、作品全体の雰囲気が重めなので、箸休めにはなるけどぶっちゃけ合わないかなぁと思ってしまいました。

とはいえ『「跳ね鹿」亭』、再読ではっきりしましたが、これはシリーズの中でもかなりオススメすべき作品でしょう。つまりは、ロスマクなんですよ。

原 題:The Deer Leap (1985)
書 名:「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-6
出版年:1989.12.10 1刷

評価★★★★☆

『「悶える者を救え」亭の復讐」』マーサ・グライムズ - 2019.06.30 Sun

グライムズ,マーサ
「悶える者を救え」亭の復讐
『「悶える者を救え」亭の復讐」』マーサ・グライムズ(文春文庫)

『バスカーヴィル家の犬』の舞台ともなった、荒涼たるダートムアで、三人の子どもが次々とむごたらしく殺された。現地にとんだジュリー警視が出会ったのは、地元警察のサム・スペード気取りのハードボイルド刑事。何かと張り合いながら、二人の視線は旧家アッシュクロフト家の10歳の女相続人ジェシカをめぐって火花を散らす。(本書あらすじより)

月イチ再読マーサ・グライムズ、6月の6作目は、傑作だったという記憶が強烈な『「悶える者を救え」亭の復讐』です。シリーズ屈指の名キャラクター、ブライアン・マキャルヴィ主任警視初登場作。
この作品、シリーズの中でもかなりの変則パターンだということに再読して初めて気付きました。記憶どおりの面白さでしたが、強烈な新キャラ・マキャルヴィにより、主人公含め他のシリーズキャラクターたちがかすみまくっているので、あまりシリーズ初読者向きではない作品だったな……と、以前この作品をすすめまくったことをやや反省しました。

バラバラな場所に住む無関係な少年少女連続殺人という、グライムズらしからぬ派手めな事件として物語はスタート。捜査に赴いたジュリー警視とウィギンズ刑事が出会ったのは、アメリカかぶれのハードボイルド刑事、部下から恐れられているマキャルヴィ主任警視だった。次の標的は、名家の女相続人となった少女ジェシカなのか? ジュリー警視は、友人である元貴族メルローズ・プラントの力を借りて捜査を進めるが……。

結局途中からいつもの感じになるというアンバランスさだったり、初登場マキャルヴィが実質的に主人公であったりと、かなりバタバタとした作品。なぜこの内容で300ページとかなり短めにまとめてしまったのかは結構謎です。
見どころはやはりマキャルヴィ本人でしょう。デヴォン・コーンウォール方面本部長というまぁまぁ偉い地方の警察官で、やることなすこと無茶苦茶で乱暴、上司としてはクソ野郎ですが、刑事としては超優秀。基本的に友達付き合い出来なそうな人間ですが、なぜかジュリー警視とは意気投合。そしてウィギンズ部長刑事との相性が何故かバツグンです。過去に解決できなかった昔の事件に振り回されており、それが今回の連続殺人にも絡むわけで、言ってみれば今作はマキャルヴィ自身の物語なわけです。

無関係な少年少女が殺される、というミッシングリンクものとしてはかなり面白いだけに、犯人の正体の唐突感が本格ミステリ的にはやや減点ではあります。もうちょい長めの作品にしておけば、ミステリとしての完成度はもっと上がったでしょう。ただ、この事件の悲劇性を前にすると、犯人登場の唐突感がむしろベストな気もします。
ってかそうなんです、このいかんともしがたい動機と、犯人と、ラストシーンを見ると、ご都合主義とか謎解きとかどうでもよくなっちゃうんですよね。そこにマキャルヴィの物語が、こう、きれいに結び付いて、めっちゃ良い話に仕上がっているわけですよ。物語の進行が他作品と比べて変則的ではありますが、もはやコージーの面影などみじんもない、シリーズ中期の代表作と言って良いのではないでしょうか。

というわけで、総合的な完成度は『「エルサレム」亭』の方が断然上ですが、『「悶える者を救え」』亭はやはりおすすめ。何作かシリーズ作品を読んだ上で、ハードボイルド、ノワール好きなんかにこそ読んで欲しい作品です。

原 題:Help the Poor Struggler (1985)
書 名:「悶える者を救え」亭の復讐
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-4
出版年:1987.11.10 1刷

評価★★★★☆

『「エルサレム」亭の静かな対決』マーサ・グライムズ - 2019.06.15 Sat

グライムズ,マーサ
「エルサレム」亭の静かな対決
『「エルサレム」亭の静かな対決』マーサ・グライムズ(文春文庫)

クリスマスの5日前、警視リチャード・ジュリーは雪に覆われた墓地で会った女性に恋をしてしまう。4日前、謎めいた神父に出会う。3日前、元貴族メルローズ・プラントが到着する。事件の解決に欠かせぬ人物だ。2日前、「エルサレム」亭にてジュリーとプラントが顔を合わせる。そしてクリスマス前日……“パブ・シリーズ”第5作。(本書あらすじより)

月一マーサ・グライムズ再読、今回はシリーズ5作目。5月中に全然感想を書かなかったので、もう6月ですが、5月に読んだ作品です。もう6作目も読み終わっているのに……。
さてこの『「エルサレム」亭』ですが、マーサ・グライムズ再読の中で、今のところ一番の収穫。何でこの傑作が高校生の頃の自分にはそれほど響かなかったのか……。初期5作品の中ではこれがベストの出来ではないでしょうか。

ロンドン警視庁のリチャード・ジュリー警視が、親戚の家に行く途中、田舎町の墓地でたまたま出会い知り合った女性。彼女はその翌日、殺されていた。偶然その死を知ったジュリーは、彼女の死を調べるため、独自の捜査を始めていくが……。

動機の見えない連続殺人、雪によって屋敷に(半ば)閉じ込められた上流階級の人々、貴族と庶民、ジュリー警視の一瞬の恋愛による個人的な捜査と元貴族メルローズ・プラントの別行動が最終的に結びつくという(捜査小説としての)見事なかみ合い方、そしてクリスマス・ストーリーとしての要素……全てが完璧です。
ジュリー警視の友人であるメルローズ・プラントは、今作はクリスマスということでとあるお屋敷に招かれているのですが、そこで年若くして貴族の爵位を継ぎ、窮屈な思いをしている少年に出会います。ここがめっちゃ良い……。ひょっとしてプラントの存在が初めて事件にちゃんと生かされているんじゃないの?
かつて伯爵という爵位を返上したプラントの立場と、被害者となった女性に恋をしていたジュリー警視、という二人の活かし方が素晴らしく上手いのです。ダブル主人公ここに極まれり。動機にそこまで意外性はないし、手がかりの提示が完全になされているわけでもありませんが、真相に徐々に近づいていく道筋は巧みだと思います。

そして、このラストの落とし方が、まさにこのシリーズの(中期以降の)良さを体現しているように思えます。そんなんでいいの?……いいんだよクリスマスなんだから、っていうあれです。コージーっぽさは完全に消え、陰鬱ではないけど哀愁ただよう、という独自の雰囲気も完成したのではないでしょうか。

シリーズキャラクターが雪だるま式に増えていくところが、このシリーズの良いところであり、途中の傑作をすすめにくくなる点で悪いところでもあるのですが、本書は本当に良作。1作目を読んだ方が絶対分かりやすいとは思いますが、面倒なのでいきなり『「エルサレム」亭の静かな対決』を手に取るのでもいいんじゃないでしょうか。自信をもってオススメしたい作品です。

原 題:Jerusalem Inn (1984)
書 名:「エルサレム」亭の静かな対決
著 者:マーサ・グライムズ Martha Grimes
訳 者:山本俊子
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ク-1-5
出版年:1988.12.10 1刷

評価★★★★★

『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン - 2019.05.11 Sat

カー,ジョン・ディクスン(ディクスン,カーター)
魔女が笑う夜
『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ストーク・ドルイドの村は奇怪な事件に揺れ動いていた。村外れにそびえる異形の石像にちなんだのか、〈後家〉と署名された中傷の手紙が次々と村人に送られてくるのだ。そのあまりの内容に、自殺者までが出ている。たまたま村に来合わせたH・M卿の眼力をもってしても、〈後家〉の正体は明らかにならないが……平穏な村を恐怖で包み込む姿なき怪人の目的とは? H・M卿登場の本格推理。改訳決定版(本書あらすじより)

『魔女が笑う夜』、カーの中でもかなりのバカミス・バカトリックとは聞いていたのですが、読んでみたら想像していた「バカ」の方向性とは真逆でした。『曲がった蝶番』的なのとは全然違うじゃないか……り、りありてぃ〜。

地方の村ストーク・ドルイドにやってきたH・M卿が依頼されたのは、中傷の手紙の送り主〈後家〉を突き止めて欲しいというものだった。すでに自殺者なども出ており、手がかりもない中、ついに密室の中で怪事件が発生し……。

とりあえず冒頭のスーツケースドタバタ騒動が楽しすぎて、やっぱフェル博士よりH・M卿だよなぁ、という気持ちでいっぱいです。そしてこの頃は、キャスター付きスーツケース、いわゆるトロリーケースがまだなかったんですね……作中で発明してしまったH・M卿、天才では?(そして、アイテムが登場しただけでもう面白いっていう) H・M卿と車輪の相性が良すぎるんだよなぁ。

さて、「匿名の手紙」「中傷の手紙」は古今東西のミステリに用いられるネタではありますが、単なる殺人のきっかけではなく、ここまで話の中心となっているのも珍しいのではないでしょうか。また、そこだけでは話として盛り上がりにくいところですが、いつもの不可能犯罪を絡めることで、本格ミステリとしての面白さも損なわれていません。ただ、トリックは正直面白いし、伏線芸が炸裂しているだけに、「気のせい」をあんまり駆使してほしくなかったかな、とは思います。
とはいえ、本書を読むと、ミステリ部分よりもH・M卿お得意のドタバタ劇(残りページ数少ないところで何をおっぱじめてやがる)、H窮屈な人生を送らされている子供とH・M卿の交流(最高)、安定のラブコメなど、ストーリー部分での盛り込み具合がめっちゃ楽しいことに気付きます。ラブコメについては、最初ここがくっつくんだろうなと思ったパターンを外してくるのも良いですし。他にも、なかなかインパクトのある死亡シーン、なかなかにクズな犯人像など、印象深い点も多いです。ファルスとシリアスの切り替えが見事なんですよ。単なるバカトリック作品としてではなく、一級品のエンタメとして評価するべきかもしれません。

というか、ファルスとトリックさえ抜けば、カーって比較的ベタな英国地方ミステリになるんだな、ってことに気付き、一番びっくりしました。普段カー読んでて全然そんなこと思わないのに……やっぱりカー色の強さが半端ないせいで英国地方ミステリっぷりが目立っていないのか……。

というわけで、安定の面白さを誇るカー、本領発揮という作品でした。やっぱり1年に1回くらいはカーを読んでいかないと。ところでよく考えたら、これまでに読んだ長編カーが17冊、積み長編カーが19冊なのに、カーって長編合計75作品もあるっていうね……単純に量が多すぎるぜ……。

原 題:Night at the Mocking Widow (1950)
書 名:魔女が笑う夜
著 者:カーター・ディクスン Carter Dickson
訳 者:斎藤数衛
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 6-8
出版年:1982.09.30 1刷
     2001.04.15 3刷

評価★★★★☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人3年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から9年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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