『悔恨の日』発売

2017-09

『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド - 2017.08.27 Sun

フロスト始末 上 フロスト始末 下
『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

今宵も人手不足のデントン署において、運悪く署に居合わせたフロスト警部は、強姦・脅迫・失踪と、次々起こる厄介な事件をまとめて担当させられる。警部がそれらの捜査に追われている裏で、マレット署長は新たに着任したスキナー主任警部と組み、フロストをよその署に異動させようと企んでいた……。史上最大のピンチに陥った警部の苦闘を描く、超人気警察小説シリーズ最終作。(本書上巻あらすじより)

私的「海外ミステリを読んだことのない人にムリヤリでも読ませたい海外ミステリ」ランキング堂々の1位である、フロスト警部シリーズ、泣きの最終巻であります。何しろ作者がお亡くなりになってしまったので……つらい……。
いやほんと、フロストシリーズの面白さ、楽しさって、本当にこのシリーズ唯一無二の、変えがたいものなんですよ。読書、特に海外ミステリってこんなに楽しいんだぞ!と心から言いたくなるおすすめシリーズです。以下、個人的な思い入れもあり、かなり長めの感想です。

普段のフロストシリーズではあらすじはあまり意味がないのですが(何しろ次から次へと事件が起きるので、説明しても仕方がない)、『フロスト始末』はフロスト定型パターンから色々と外れている面が多くなっています。それもこれも、フロスト警部デントン署を去る!が本筋のメインだから。故にフロストとペアを組まされる向上心強すぎでフロストに立てつくような部下は登場しないし、フロストはやたらと自らの過去やら刑事になりたてのころやら亡くなった奥さんのことやらを振り返るので相当湿っぽくなっています。
しかしあくまで「シリーズ」としての繋がり・ネタバレは一切なく、このどこから読んでも問題ない感は現代ミステリにおいては貴重ですよね。良いやつではあるけどあまりに使えないモーガン刑事が『冬のフロスト』から続投していてびっくりしましたが、特にわざわざ再登場させた意味はなかったし(作者が気に入っていたんだろうな)。また、新人の女性警官も登場しますが、彼女とフロストのウマが合う、ってのも珍しくて、ますますシリーズ完結編っぽさがつのります。デントン署を去るフロストは、残される彼女のことが不安で仕方がなく、色々と面倒を見ようとするのですよ……セクハラさえなければめっちゃいい上司だ……。

さていつものように続発する事件ですが、この長さとこの登場人物数で、一度も登場人物一覧を見ずに済むというのはやはりすごいことです。フロスト自身が毎回忘れているので、そのついでに読者にも思い出させてくれるというシステムの上手さと、ウィングフィールドの人物の書き分けの巧みさ。ウィングフィールドはモジュラー型のプロ。
その上下巻900ページという長さに、一切無駄がありません。……いや無駄だらけですが、この長さに全く不満がないし、そもそも長さを感じません。残り100ページになってからも新たな事件が発生するなど、モジュラー型の利点をこれでもかと上手く使っており、プロットの組み立ても(きっと)技巧的、なんでしょう、長すぎて分析したくないですが。

というわけでこのシリーズが最of高なのはいつもの通りですが、モロにシリーズ最終巻として書かれたものなので(出版経緯についてはきちんと解説に書かれています)、他作品とは微妙に雰囲気が違います。『クリスマス』の頃と比べるとちょっとだけ味わいにも変化があるような気もするし。そのへんもシリーズ読者向けの楽しみ方でしょうか。

あえて厳しい意見
①いつもこのシリーズにあるような、モジュラー型の中でもしっかりと終盤に作られる見せ場というか、小説としてのピークが、今回はやや小規模というかぱっとしませんでした。終盤のもたつき具合や、後片付け感は否めないかなぁと思います。
②本作の敵役であるスキナー主任警部は、フロスト警部をデントン警察署から追放しようとし、実際それに成功するという、(今までのマレットの比ではない)超大ボスなわけですが、その決着の付け方がやや消化不良。後半スキナーの登場シーンが少ないのも、正直もったいないと思います。

以上、フロスト完結編感想でした。シリーズ未読の方はぜひどれでもいいので手に取って、いずれこの作品にたどり着いてくれたらいいなと強く思います。なお、解説に今後のフロストシリーズについて衝撃的なことが書いてありましたが……あ、あんまり期待できない気がするぞ。

なお、おぼろげな記憶に基づいてざっくり順位を付けると、
『フロスト日和』>『クリスマスのフロスト』>『フロスト始末』>『夜のフロスト』>『フロスト気質』>『冬のフロスト』>80点
『夜』がやや低いのは完全に好みで、好きな人はめっちゃ好きな作品。『始末』は完結編追加点込みです。

原 題:A Killing Frost(2008)
書 名:フロスト始末
著 者:R・D・ウィングフィールド R. D. Wingfield
訳 者:芹澤恵
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-8-8,9
出版年:2017.06.30 初版

評価★★★★☆
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『カナリヤ殺人事件』ヴァン・ダイン - 2017.08.17 Thu

カナリヤ殺人事件
『カナリヤ殺人事件』ヴァン・ダイン(創元推理文庫)

ブロードウェイの名花“カナリヤ”が密室で殺される。容疑者は4人しかいない。その4人のアリバイは、いずれも欠陥があるが、犯人と確認し得るきめ手の証拠はひとつもなかった。名探偵ファイロ・ヴァンスは、ポーカーの勝負を通じて犯人に戦いをいどむ。ヴァン・ダインの第2作で、〈ワールド〉紙が「推理小説の貴族」と評し、発売後7か国語に翻訳された。(本書あらすじより)

中学でグリーン家を読み、高校で僧正を読み、大学でシリーズ順に年一冊ずつ読もうとベンスンを読み、あまりのつまらなさに絶望し、それからかれこれ4年が経ちました(年一冊とは何だったのか)。今回読むのは当然『カナリヤ殺人事件』です。死ぬほど退屈なヴァン・ダインも、シャーロット・アームストロングに感動した勢いに乗っかれば、一気に読み切れるはずなのです。

読みました……おいおいウソだろ……「面白い長編小説を書くのは、1作家6作が限度」とかよく言えたなこの出来で……デビューしてからまだ1作も書けてないじゃないか……。

さて、もうあらすじとかどうでもいいですね。通称カナリヤと呼ばれる女優が殺され、容疑者4人からいかに犯人を絞り込み、特定するか、という話です。当然名探偵ファイロ・ヴァンスが乗り込んできます。黄金時代の犯罪研究家素人探偵もの、たいてい地方検事やら部長刑事がわざわざ家にまでやってきて「とんでもなく不可解な事件が起きた」と連れて行くくせに、実際はそんなに不可解でもなく、むしろ素人探偵がドヤ顔しながら現場で早速推理を披露することでようやく不可解な事件とやらになる気がするんですけど。
ちなみにマーカム地方検事、「今度こそは、君の理論について行けば、絶望的な迷路にはまりこみはしないかと心配だね。今度の事件は警察でいう“開いて閉じた”(ひと目でわかるほど明白な)事件なのだ」とかのたまうんですが、じゃあなんでお前はファイロ・ヴァンスを呼んだんだ……。

ダメな理由その①:『ベンスン』もそうでしたが、基本的にファイロ・ヴァンスの推理が読者の推理速度を一切超えてきません。常に想定の範囲内のことしか言わないのです。ヴァンスのどや顔推理にありがたみがなさすぎます。少なくとも読者の一歩先くらいは行ってほしい……。
ダメな理由その②:見どころの1つであろう、犯人を特定するための心理トリックがマジで特定しかしていません。特定したファイロ・ヴァンスが一番びっくりしている上に、よしじゃあこいつが犯人だから頑張って証拠を探そう、という斬新な順番になります。すぐ犯人を決めつけて逮捕したがるような無能刑事と、本質的に変わらないような。っていうかファイロ・ヴァンス、地方検事が「あの男は殺人なんか犯すタイプじゃない」などと言うと、見た目で判断できるものかとすごいバカにするくせに、自分だって骨相学を駆使して「あいつは殺人犯じゃないよ」などとのたまうので全く信用できません。
ダメな理由その③:密室トリックが古典だからとでも言い訳しないと許せないクオリティ。あと警察の捜査が雑かよ。
ダメな理由その④:最終的にトリックを解明した方法が完全に偶然で、だんだんファイロ・ヴァンスがドーヴァー主任警部に見えてきます。たまたま証拠品を見つけて、しかもそれの重要性に気付かないまま、なんやかんやでたまたま解明したというレベル。名探偵やめちまえ。
ダメな理由その⑤:テンポ感とかストーリー性とかヴァンスのだらだらしゃべりとか抜きにしても、単純に面白くないです。木々高太郎は犯人 vs 探偵として評価したらしくて、まぁある意味そういうアリバイ崩し的な楽しみもあるのかなと言えなくもないですが……ばりばりフーダニットの割に犯人バレバレっていうのも……。
ダメな理由その⑥:ヴァンスのキャラクターがダメ。『ベンスン』で描かれたのは「現場に入って即座に真相を見抜く(けど言わない)ようなムカつく探偵像」としてのファイロ・ヴァンスだったわけで、クオリティはともかくとしてまだ名探偵としての魅力はあったのに、それすら奪われたファイロ・ヴァンスに何も残っていないのがつらいです。

まぁでも確かに、vs知能的な連続殺人犯、というドラマ性っぽさがほのかに出始めているあたり、超リアル路線の『ベンスン』は脱していて、『グリーン家』に向かい始めているのかなとは思います。あとは犯人の名前を明かすくだりとか、とりあえず読者を驚かせようという努力をしてください。捜査記録読んでるんじゃねぇんだぞ、ミステリなんだぞ。ヴァン・ダインはもしかして『鍵のない家』も『トレント最後の事件』も『813』も『黄色い部屋の秘密』も『ビッグ・ボウの殺人』も読んでいなかったんじゃないか……。
それにしても、『ベンスン』『カナリヤ』と地獄のような出来栄えなのに、なぜこの流れでいきなり『グリーン家』『僧正』みたいなタイプの異なるミステリを書けてしまったのかさっぱり分かりません。何があったんだろう。というのを含めて、来年読むとすれば、既読の『グリーン家』『僧正』を飛ばして『カブト虫』ですかねー。

ちなみに、名探偵ファイロ・ヴァンスの協力者であるこの物語の書き手、作中人物としてのヴァン・ダインですが、ポーカーのシーンですら完全に名前が消えていて、もはや叙述トリックみたいでした。ヴァンはファイロ・ヴァンスにいじめられているのかな……。

原 題:The Canary Murder Case(1927)
書 名:カナリヤ殺人事件
著 者:ヴァン・ダイン S. S. Van Dine
訳 者:井上勇
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-1-2
出版年:1959.05.05 初版
     2000.01.28 66版

評価★★☆☆☆

『魔女の館』シャーロット・アームストロング - 2017.08.15 Tue

魔女の館
『魔女の館』シャーロット・アームストロング(シリーズ百年の物語)

ふとした偶然から同僚の大学教授の不正を知ったパットは、追跡劇を演じるうちに瀕死の重傷を追って魔女の館に閉じこめられてしまう。サスペンスの女王がくりひろげる白昼夢のような世界。(本書あらすじより)

かれこれ7年前、母親に渡されたシャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』を読んだわたくしは、そのあまりの傑作っぷりにノックアウトされました。それ以来、『毒薬の小壜』は我がATB10に燦然と君臨しているのです。
しかしながらそれから7年、なぜか他のアームストロング作品には手を出すことなく現在に至ります。いやそろそろ読もうよ、というわけでついに手に取ったのが、シリーズ百年の物語から『魔女の館』(創元推理文庫版あり)、久々のアームストロングに期待がかかります。

えぇ……なんだこの傑作は……シャーロット・アームストロングは天才なのか……。現時点で断言しますが、おそらく今年のベスト1位内定です。

大怪我を負った男が頭のおかしい魔女こと老婆に捕まり、息子が戻ってきたぞひゃっほいみたいなノリで監禁されます。普通、ここからホラーが始まるじゃないですか。ホラーじゃなくてもつらい何かが始まるわけじゃないですか。でも監禁云々は結局どうでもよくて、救出劇というドラマが中心になります。
ひたすら行方不明になった夫の身を案じる行動派の妻、胡散臭さが炸裂している感情面において欠陥を抱える双子、未熟な若造警官と人間を知り尽くした退職直前の老警官、体面を気にする大学長などが織りなす、行方不明者捜索と、その過程で浮かび上がる事件とは。後半に入ってからのスピード感が素晴らしくてもうため息しか出ません。

確かに冒頭だけ見ると、狂人系監禁物でめっちゃつらそうなんです。それ以降も明らかな悪人はいないのですが、相手のことを勝手にこういう人だと決めつけることの恐ろしさが、もうめっちゃいやらしすぎて地獄のようにつらいのです。
しかしながらこれはイヤミスではありません。「善意のサスペンス」の書き手と言われる作者の本領発揮は、そんなところではないのです。シャーロット・アームストロングは、人間の善意から生まれる悪を知り尽くしているにもかかわらず、最終的に人間は変われると信じているので、こういう勧善懲悪の人間賛歌をさらっと書けてしまうのですよ。こんなの読んだら「なんだこの傑作は」としか言えないわけですよ分かりますか。

人間を語らせると世界一かっこいい作家、シャーロット・アームストロングは、作中人物にこう語らせます。
「他人はあなたを不幸にすることはできるかもしれないけど、無意味な存在にすることはできないの」
くぅぅぅ、素晴らしい。あとはもう、読んでください。

『毒薬の小壜』は後半の構成がそれこそ少年漫画の最終バトルみたいな激アツさを持つ震えるレベルの傑作なわけですが、そこに至るまでの仕込みの前半をもっとあっさり目に、かつストーリーに自然に組み込ませ無駄なく作り上げたのが『魔女の館』なのかなぁと思いました。とにかくまごうことなき傑作ですので、未読の方はぜひぜひお読みください。そもそも『毒薬の小壜』が未読だという方は、もう、あれですよ、いいから図書館で借りるなりして絶対に読んでください。約束です。

原 題:The Witch's House(1963)
書 名:魔女の館
著 者:シャーロット・アームストロング Charlotte Armstrong
訳 者:近藤麻里子
出版社:トパーズプレス
     シリーズ百年の物語 6
出版年:1996.11.25 1刷

評価★★★★★

『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン - 2017.07.25 Tue

コードネーム・ヴェリティ
『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン(創元推理文庫)

第二次世界大戦中、イギリス特殊作戦執行部員の女性がスパイとしてナチスの捕虜になった。彼女は親衛隊大尉に、尋問をやめる代わりに、イギリスに関する情報を手記にするよう強制される。その手記には、親友である女性飛行士マディの戦場での日々が、まるで小説のように綴られていた。彼女はなぜ手記を物語風に書いたのか? さまざまな謎が最後まで読者を翻弄する傑作ミステリ。(本書あらすじより)

今年の作品の中ではかなりの話題作となっている『コードネーム・ヴェリティ』を読んでみました。なるほど、これは実に良い「ありうる話」です。

第1部は第二次世界大戦中にドイツ軍に囚われたある女性スパイが書いた手記、第2部は女性飛行士として活躍するマディがその女性を救うべく奮闘する手記、という構成になっています。
第二次世界大戦を描いた戦争小説としてじっくり読ませはするのですが、とはいえ第1部は非常に地味。地味なんだけど、読んでいてところどころのよくわからなさにモヤモヤするのです。自分のことはあまり語らず、ひたすら親友マディについた手記で語り、イギリスの情報をドイツに密告し続ける彼女は、いったいぜんたい何が目的なのか?……と思っていたら第2部になってしまい、どういう話なのかが依然としてさっぱり見えません。

小説としての魅力は、女性2人が軍の中で次々と活躍していく様を描いた第1部の方が上かなと思います。しかしながら第2部では、終盤の第1部の見事な謎解き、そして何より主人公2人の友情の物語が素晴らしいのです。なんとなく、第1部の書かれた目的みたいなものは、伏線の張り方からして予想できなくもないのです。ただそれをどう使うんだろうと思っていたら、予想以上に自分が第1部に騙されていたことが分かってほぇぇぇぇぇとなりました。

というわけで、かなり地味ではありますが、巧みな構造に、戦争小説としての魅力と冒険小説としての面白さと友情物語としての感動を入れ込んだ、実に良い作品です。これがYA小説として売られている海外の状況がうらやましい……。翻訳ミステリー大賞にノミネートされる予感。

原 題:Code Name Verity(2012)
書 名:コードネーム・ヴェリティ
著 者:エリザベス・ウェイン Elizabeth Wein
訳 者:吉澤康子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-24-1
出版年:2017.03.24 初版

評価★★★★☆

『ソニア・ウェイワードの帰還』マイケル・イネス - 2017.07.04 Tue

ソニア・ウェイワードの帰還
『ソニア・ウェイワードの帰還』マイケル・イネス(論創海外ミステリ)

海上で急死した妻、その死を隠し通そうとする夫。窮地に現れた女性は救いの女神か、それとも破滅の使者か……。軽妙洒脱な会話、ユーモラスな雰囲気、純文学の重厚さ。巨匠マイケル・イネスの持ち味が存分に発揮された未訳長編!(本書あらすじより)

今年『ある詩人への挽歌』で初イネスを体験し、やべぇこの作家はやべぇと感心したばかりですが、このタイミングで論創社からイネスが出ました。すわ、読むしかないのです。
……いや、この、なんだその、えーと。いや別につまらなくはないんだけど……みたいな気持ち。

突然死した作家の妻の死体を、なぜか処分してしまったペティケート大佐。せっかくなので自分の文才を試したいと、彼は妻の書きかけの小説に取り組み始めた。しかしながらそのせいで、とんでもない窮地に追い込まれることに……。

変則倒叙コメディというか。古き良きユーモア小説みたい。100年前くらいの(別に殺したわけではないので倒叙ではないんですが、まぁ死体を抱えるところから始まるという点ではそう)。

いやー分かるんですよ、イネスのやりたいことは。スノッブなダメ男が妻の死体を捨てたせいで迷走するうちに、問題を山ほど抱えてしまうというコメディに、作家という職業をネタにした遊びを入れてみたかったんだろうなと。「自信作を書いたつもりが、書けたものをあとで読み返してみたら超苦痛ではないか」とか主人公に言わせてみたかったんだろうなと。
序盤はかなり微妙だったんですが、終盤に入ってコメディのお約束のようなご都合主義的な展開が連続してかなり面白くなりました。妻の死体はもうない、けれども殺したと思われて逮捕されてはもっと困る、だからむりやり妻の不在をごまかさなければならない……というわけ。オフビートなまま、ひたすら主人公が自分の身を守るために奔走し、様々な手を打つも思いもよらない裏目に出続けるのです(良い意味でも悪い意味でも)。某国のせいであれやこれや、という部分はまさにコメディの醍醐味という感じ。

ただユーモア小説にありがちな軸のない感じや、端役のエピソードをちゃんと説明しないところなど、全体的にもやもやしたまま読み終わってしまったという印象は否めません。舞台っぽいというか、喜劇っぽいというか、要するに主人公のペティケート大佐さえ描き切れれば作者的には十分なんですよ。だからペティケート大佐まわりのあれこれを読者に見せるのが主眼なのでしょうが、いくらなんでも色々うっちゃったまま終わっているのでは……と思ってしまいます。
そのペティケート大佐も、そもそも最初から死体を捨てるという行動からしてちょっと理解しがたいのも事実。ご都合主義もいいのですが、発端がいきなり「????」となるのも困りものです。

なんだかまとまらない感想ですが、正直イネス中期の代表作がこれなのか……というがっかり感が強いです。おそらく初期作と比べれば読みやすいのではないかと思いますが、むしろ読みにくさの方を求めたくなります。

原 題:The New Sonia Wayward(1960)
書 名:ソニア・ウェイワードの帰還
著 者:マイケル・イネス Michael Innes
訳 者:福森典子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 189
出版年:2017.04.10 初版

評価★★★☆☆

『黒い天使』コーネル・ウールリッチ - 2017.06.25 Sun

黒い天使
『黒い天使』コーネル・ウールリッチ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

夫はいつも彼女を「天使の顔」と呼んでいた。それが突然そう呼ばなくなった。ある日、彼女は夫の服がないことに気づく。夫は別の女のもとへ走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑が! 無実を信じる彼女は、真犯人を捜して危険な探偵行に身を投じる……新訳で贈るサスペンスの第一人者の傑作。(本書あらすじより)

毎年1冊この時期にウールリッチ/アイリッシュを読みかれこれ6年目。今年のウールリッチも天才でした。
裏表の関係にある『黒衣の花嫁』や『喪服のランデヴー』と同様、強烈な意思を持った主人公が巡礼式に人を訪ねていく……という話です。いわゆる「短編が得意なウールリッチが得意とする短編をつなげた形の長編小説」なわけですね。
ただ形式的には同じなのですが、内容的には大きく異なります。これはいわゆる悪女ものや復讐譚の基本ラインからは大きく外れた、というかむしろ全く別物と言ってよい作品だからです。というのも主人公であるアルバータはひたすら夫の無実を証明しようと努力するただの善人なのです。

浮気した夫をそれでも愛し、彼に着せられた殺人の罪を晴らすべく、22歳で弱気な若妻アルバータは自らを鼓舞して犯人候補の人物と次々に会い、ニューヨークの裏社会に分け入っていくことなる……というストーリー。彼女は各章で犯人候補の男性と出会い、犯人かどうかを見極めるため彼らを罠にかけていきます。
それにしてもウールリッチはこのパターンの小説を思い付く天才だな……。一人称ってのが上手いんですよ。「踊り子探偵」もそうでしたが、ウールリッチは女性の一人称が抜群に上手いと思います。

で、確かにウールリッチはこのパターン、要するに短編をつないだような長編が得意な作家です。ただ、『黒い天使』ははっきりと長編であると言えると思うのです。
世間知らずで善意の塊でしかなかったアルバータが、男たちを訪ねていく上で、スラムにも行き、犯罪にも加担し、最終的にはファム・ファタルのような立ち回りもしてしまいます。「アルバータ」という“天使”の変化がこの上なくはっきりと現れており、それ故にラストが異色とも言うべき独特な仕上がりになっているのです。登場人物の順番を多少入れ替えても問題のなさそうな『黒衣の花嫁』などとは全然異なるわけですね。
そしてハッピーともバッドエンドとも言い難い、様々な感情が入り乱れるラスト。ウールリッチは終盤にどんでん返しを仕掛けるほど失敗するので、ラストに期待せず9割までを大いに楽しむのが吉というまことに全力では褒めにくい作家なわけですが(それがいいんだけど)、その中でこの『黒い天使』はめちゃくちゃレベルが高いと思います。短編つなぎ長編形式を見事に生かした結末と言えるのではないでしょうか。

個人的には強烈なサスペンス性と熱気を誇る『喪服のランデヴー』、ミステリ史上に燦然と輝く名ヒロインを生んだ『黒衣の花嫁』の方が上です。しかしながら『黒い天使』の唯一無二性はやはり高く評価するべきでしょう。この作品をベストに押す人も多いと聞きますが、よく分かります。ほんとにいいミステリを書くんですよこの作家は……。

原 題:The Black Angel(1943)
書 名:黒い天使
著 者:コーネル・ウールリッチ Cornell Woolrich
訳 者:黒原敏行
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 10-6
出版年:2005.02.28 1刷

評価★★★★☆

『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』ジャン・ヴォートラン - 2017.06.18 Sun

パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない
『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』ジャン・ヴォートラン(<ロマン・ノワール>シリーズ)

パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングトレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った「おはなし」の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が……。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。(本書あらすじより)

ノワールの傑作という評判の、『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』をついに読みました。これがなんと、読んでみたら本当に素晴らしいのです。
冒頭40ページの間にもうありとあらゆる変人と変事が登場しているし、文章もキレッキレでやば面白いのです。なぜだか分からないけどずっと面白いのです。全ページ面白いと言っても過言ではないのです。俺がフランス・ミステリに求めている要素が全部入っている気すらするのです。これぞロマン・ノワールだぜみたいな。

とにかく変な登場人物しか出てきません。数ページごとに語り手がかわり、次々と衝撃的なことをしでかしていきます。その中で、刑事が娘に語るお話の登場人物であった「ビリー・ズ・キック」が現実に現れ、次々と殺人を重ねていく……というのが本筋。既にぶっ飛び具合がハンパじゃありません。
7歳の女の子はおちんちんとあそこマニアで団地中の人たちのを隠れて見ているし、おじいさんは団地を恨みまくって爆薬をしかけまくるし、団地の管理人はエレベーターに暴露話を書きまくるし、背の低い右翼刑事は厚底靴を履くだけで性格が変わるし、その上司の警視はトカゲと戦っています。おちんちんとあそこが好きな7歳の女の子の件が、伏線になっているとは誰も思わないじゃんよ……。

ビリー・ズ・キックの正体(これがまたすごい)が分かるまでは本当に見事。疾走感とヤバさのハイブリッド。その後はフランス・ミステリらしい包囲網になって、ちょっとおとなしくなるのですが、ラストの落とし方がまた良いんだよなぁ。
ノワールらしい問題意識も非常にはっきりしていて分かりやすいし、登場人物の行動それぞれに作者の皮肉がしっかりと効かせてあります。全体的に雰囲気は明るめでどろどろしていない中で、日常に狂気がにじみ出ている様を描くのが見事。非情さとか、暴力とか、そういったものが苦手な方も楽しめる、けれども正統派のノワールの傑作だと思います。

1974年の作品なので、ポケミスから出ていた可能性も十分にあった……と思うと面白いですね。同作者の『グルーム』は暗さが印象的でしたが、あちらよりはるかに『ビリー・ズ・キック』は好みでした。おすすめです。『鏡の中のブラッディ・マリー』も欲しいなぁ……。

原 題:Billy-Ze-Kick(1974)
書 名:パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない
著 者:ジャン・ヴォートラン Jean Vautrin
訳 者:高野優
出版社:草思社
     <ロマン・ノワール>シリーズ
出版年:1995.08.01 1刷

評価★★★★★

『火の玉イモジェーヌ』シャルル・エクスブライヤ - 2017.05.11 Thu

火の玉イモジェーヌ
『火の玉イモジェーヌ』シャルル・エクスブライヤ(ハヤカワ・ミステリ)

イモジェーヌ・マッカーサリー─しっかりとした骨格と、男のような態度と、赤毛の人間特有の白い皮膚をもった身長5フィート10インチの大女。ほんのわずかでも不恰好な肉がつかないように注意し、少しでも無駄な脂肪を見つけると、毎朝夢中になって体操するイモジェーヌは、女には珍しいほどの力持ちである。生粋のスコットランド人で、炎のような髪の持主イモジェーヌは曲ったことは大嫌いなたちで、その髪に似て猪突猛進型の大女だった。おまけに、スコットランド人以外は人間と思わないほど、母国スコットランドに対する情熱ははげしく、同僚からは、〈赤い牡牛〉と恐れられていた。同僚というのは海軍省情報局の人たちである。イモジェーヌは、そこのタイピストだったが、あろうことか、彼女の特異な性格が局長の目にとまり、女スパイに抜擢された! 局長はとくにイモジェーヌを名指し、新型ジェット機に関する極秘書類をある人物に運んでほしいと頼んだのだ。かくして大女のイモジェーヌはいたく感激、まっ赤な髪をふりかざし、女スパイとして堂々と乗り出すことになったのである……!
数々の失敗を重ねながら、イモジェーヌ、奇想天外の大活躍! フランス・ミステリ界の鬼才が放つ、女スパイ、イモジェーヌ・マッカーサリー・シリーズ第1弾!(本書あらすじより)

別につまらないってことはないんですが、エクスブライヤの他の作品と比べるとちょっとなぁ……という感じの作品でした。
『火の玉イモジェーヌ』は女スパイ、イモジェーヌ・マッカーサリー・シリーズの第一弾。只のタイピストだったイモジェーヌがスパイに大抜擢、しかしあっさり騙され勘違いで暴走するイモジェーヌはとんでもない活躍を見せることに……というお話です。

エクスブライヤって、ユーモア路線だとフランス外の国を舞台にすることが多いじゃないですか。『死体をどうぞ』はイタリア、『キャンティとコカコーラ』はイタリアとアメリカ、というように。で、特に『キャンティとコカコーラ』で顕著でしたが、舞台となるお国柄を強調した国民性ジョークが好きなようです。いちいち大げさでラテン気質丸出しなロメオ・タルキーニ警部とか。
今回の舞台はイギリス、主役のイモジェーヌはスコットランド気質丸出し、田舎感丸出しの強気な女性です。当然スコットランドとイングランドのお国柄の違いなんかをガンガン出したジョークが連発されるわけですよね。ところがそれが若干すべっているというか……。

まぁ何もかも予想通りに展開するユーモアスパイ小説……というかここまで来るとスパイパロディなのですが、後半のレディ・キラーズ並に敵を返り討ちにしていくイモジェーヌ(50歳の強気な赤毛のスコットランドおばさん)の活躍はなかなか楽しめました。どんどこ殺します(イモジェーヌが)。全然意外でも何でもないどんでん返しもありますが、この予定調和感も悪くはありません。

とはいえやっぱり、ユーモアミステリのド傑作『死体をどうぞ』や傑作ノワール本格『パコを憶えているか』、軽さが楽しい『キャンティとコカコーラ』と比べるとどうしても弱いかなぁ。初エクスブライヤには向かないと思います。

原 題:Ne vous fâchez pas, Imogène !(1959)
書 名:火の玉イモジェーヌ
著 者:シャルル・エクスブライヤ Charles Exbrayat
訳 者:荒川比呂志
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1003
出版年:1967.09.30 1刷

評価★★★☆☆

『拾った女』チャールズ・ウィルフォード - 2017.02.17 Fri

拾った女
『拾った女』チャールズ・ウィルフォード(扶桑社ミステリー)

サンフランシスコ、夜。小柄でブロンドの美しい女がカフェに入ってきた。コーヒーを飲んだあと、自分は文無しのうえハンドバッグをどこかでなくしたという。店で働くハリーは、ヘレンと名乗る酔いどれの女を連れ出し、街のホテルに泊まらせてやる。翌日、金を返しにやって来たヘレンと再会したハリーは、衝動的に仕事をやめヘレンと夜の街へ。そのまま同棲を始めた二人だったが、彼らの胸中に常につきまとっていたのは、死への抗いがたい誘いだった。巨匠初期の傑作、遂に登場!(本書あらすじより)

刊行当初から話題になり、各種ランキングに怒涛の勢いで割り込んでいった、去年話題の『拾った女』です。まさか2010年代の日本でパルプ・ノワールが評価されまくるとはチャールズ・ウィルフォードも考えていなかったろう……と思ったけど、よく考えたらジム・トンプスン『ポップ1280』なんてこのミス1位取っているわけだし。何にせよ、扶桑社ミステリーから久々にこの路線の作品がガツンと紹介され(そもそもほぼ扶桑社のみから出ているウィルフォードの紹介自体が久々ですし)、きちんと話題になったというのは嬉しいことですね。

というわけで今さら読んでみましたが、あーだから話題になったのか!と納得しました。『ポップ1280』みたいな正統派ノワールとは全然違いますし、はっきり言ってどえらい変化球なのです。合う合わない、面白い面白くないはともかく、とりあえず読んでみぃよ、とすすめてみたい気持ちになります。めっちゃ読みやすいし。

主人公のハリーは、レストランのコックなどでほぼその日暮らしを送る下層階級の人間です。そんな彼がびっくりするほどの美人だがアル中であるヘレンと出会い、衝動的に仕事をやめ彼女との生活が始まるのですが……。

ノワールと聞かされてこの一人称の文章を読み始めたら、たいていの読者が思う話の筋道は大きく2パターンでしょう。すなわち、
①主人公の男が実はとんでもないサイコ野郎で、女が悲惨な目に会う
②女がとんでもない悪女(ファム・ファタール)で、主人公が悲惨な目に会う
どっちかと言えばこれは②の系統なのですが、ちょっとだけ①も入っており、しかもどちらでもない、というのがこの作品の正体です。主人公ハリーがひたすら刹那的・衝動的に生き、自殺願望すらあり、ちょっと叙述もフワフワしているのでいかにも①っぽいのですが、そこまでヤバそうにも見えません。またアル中にしてハリーに生き方を誤らせた女ヘレンも、まぁ迷惑をかけまくっていてどうかと思いますが、少なくとも自覚的な悪女ではありません。

というわけで、明確な悪意もないまま、何となく二人は破滅へ向かい、そして一応事件が起き、決着、となるのですが、またこれがモヤモヤする決着のつき方なんですよね。何も満たされず、何も為しえなかった男の話。
……と思っていると、どんでん返しが炸裂します。

258ページで発覚するある事実とか精神病院とかから、一人称ならではのエグいオチでも来るのかと思ったら、そういうのとは方向性が全然違いました。しかし確かに読後ガラッと様相が変わるのです。例えばセリフ全ての意味が変わりますし、この話全体によく登場するある要素の意味(例えば家主のフランシス・マッケイドや、それを言うならサンフランシスコという舞台もそう)も分かります。なるほど話題になるわけだよなー。
実は類似作品がありまして、しかもそれを去年読んでいたので、いやほんと良かったなという感じです。某作の方が伏線がうまいけど、この作品の方がエグさが強いかな? 隠し方的には、某作が先の方が両方楽しめる……かも。発表年を考えると……うーんすごい。ちなみに某国の某作も、このトリックを下敷きにしたオチでしたが、それも発表年があれでしたね(ネタバレを警戒しすぎて何も言えない)。

と自分は結構感心したのですが、読んだ友人は何に驚けばいいのか分からなかったそうです。
でも、これはある意味21世紀日本では当然のことです。1955年という背景を考えないとピンと来ないでしょうし、説明されては楽しみも半減してしまうでしょう。これだけ去年話題になったのにはちょっとビックリです。教養って大事だねぇ。

原 題:Pick-Up(1955)
書 名:拾った女
著 者:チャールズ・ウィルフォード Charles Willeford
訳 者:浜野アキオ
出版社:扶桑社
     扶桑社ミステリー ウ-3-6
出版年:2016.07.10 1刷

評価★★★★☆

『クリスマスの朝に キャンピオン氏の事件簿Ⅲ』マージェリー・アリンガム - 2017.02.07 Tue

クリスマスの朝に
『クリスマスの朝に キャンピオン氏の事件簿Ⅲ』マージェリー・アリンガム(創元推理文庫)

小学校時代の同級生が病死したという死亡欄を見たわたし、アルバート・キャンピオン。卑劣ないじめっ子だった豚野郎(ピッグ)の葬儀に出席して半年後、事件の捜査に協力を求められたわたしは、警察署で見た死体に驚愕した! 本邦初訳の傑作に、十数年後の同じ地域が舞台の忘れがたい名作と、クリスティによる著者への心温まる追悼文を併録。英国ミステリの女王の力量を存分にご堪能あれ。(本書あらすじより)

キャンピオン氏の事件簿第3弾です。3作全て面白かったのですが、1よりも2が、2よりも3の方が好きで、どんどん良くなっている気がする。っていうか今回は断トツで素晴らしいですね……。クラシックファン必読です。

「今は亡き豚野郎の事件」The Case of the Late Pig(1937)
本書の大半を占める中編ですが、とにかく最高。”豚野郎”ことR・I・ピーターズ(R.I.P.)は二度死ぬ(全然安らかに眠ってない)という謎を核とした連続殺人事件です。
キャンピオンの一人称によるユーモア、ちょっとした恋愛と学生時代の人間関係がミソとなる見事なオチというオシャレさもいいのですが、一番気に入ったのが話の作り方。英国にて同シリーズで出版された『第三の銃弾』とも共通しているのですが、毎章の引きが抜群に上手いのです。事件の不可解さが増したり(死んだはずの人がまた死んだり、死体が消えたり)、誰かが何かをしでかしたり、新たな証拠が発見されたり、というところで章を変え、それを17章繰り返している感じ。とにかく飽きさせないし、読んでいて何より「うわーミステリ楽しい!」みたいな気持ち。
トリックは初歩的なものですが、事件のたびに舞い込む匿名の手紙や別の殺人などにより盛り立てられているので、非常に満足度が高いです。本ミス頑張ってくれ……(そして第4弾刊行をもたらしてくれ)。

「クリスマスの朝に」On Christmas Day in the Morning(1950)
英国ミステリ作家お得意のクリスマスミステリ。ひき逃げ事件を扱ってはいるけど日常の謎に近いかもしれません。ほとんどショートショートに近いのですが、これはこれでとても良い作品です(真相のぴりっとしたところなんか特に)。「豚野郎」で警察本部長サー・レオのキャラクターを掴めているだけに、より味わい深くなるのがポイント。

アガサ・クリスティ「マージェリー・アリンガムを偲んで」A Tribute by Agatha Christie(1966)
アリンガムが亡くなった年に書かれた、クリスティによるアリンガム追悼文です。
とりあえず『手をやく捜査網』を読みたいという気分にさせられ、川出正樹氏による解説でさらに『手をやく捜査網』を読みたくなったんですが、六興キャンドル・ミステリーだもんな……む、むり……。

原 題:On Christmas Day in the Morning and Other Writings(1937~1966)
書 名:クリスマスの朝に キャンピオン氏の事件簿Ⅲ
著 者:マージェリー・アリンガム Margery Allingham
訳 者:猪俣美江子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-12-4
出版年:2016.11.30 初版

評価★★★★☆

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Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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