殺人は競売で
『殺人は競売で』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ)

全世界の収集家の見果てぬ夢、鳳風の頭飾りのついた唐代の壺が何者かの手で北京博物館から盗み出され、行方不明のまますでに2年近くたっていた。ところが最近、ニューヨークはマンハッタン、オバーン美術品店の美人店主ミス・オバーンはその壺に関して3通の手紙を受け取った。
1通はロンドンのドナヴァンという男からのもので、数人の世界的コレクターによる内輸の競売に問題の壺を出すからお越し願いたいという案内状。もう1通はロンドンに来たら生命の保証はないという謎の脅迫状。そして第3のは、表現は穏やかだが最も凄みのある中国情報部かららしい脅迫状だった。が、問題の壺はコレクターの垂涎の的、命を賭けても欲しいものだ。そこでミス・オバーンは頼りになるプレイボーイ探偵ダニー・ボイドに議衛を依頼した。一方、ダニーはこんな妖精みたいなブロンド美人に同行できるならと即座に引き受け、急拠イギリスに向かった。が、ロンドンに到着し、息つくひまもあらばこそ早くもチンピラギャングや謎の中国女が出没し、おまけにグラマ一美人の死体まで飛び出して、ダニー・ボイドは否応な〈、競売をめぐる色と欲の世界へ足を踏み込んでいった!
スリルとサスペンスとエロテイズムをふんだんに盛り込んだダニー・ボイド・シリーズ最新作!(本書あらすじより)


あらすじ、記録上書きましたが、読み飛ばして結構です。長いからね。
ヘビーなものを読んで疲れたので、ちょっと合間に軽いものを読みたくなり、カーター・ブラウンのダニー・ボイド物を初めて手に取ってみました。この作品、どこかで面白いと聞いたはずなんですが、どこだったかな……全然思い出せない……。
ダニー・ボイド、私立探偵であるということ以外は、アル・ウィーラー警部と大差ないキャラクターなのですが、要するに安定のカーター・ブラウンを楽しめました。いやね、本当に楽しいんですよ、カーター・ブラウンって。一見しょうもなさそうなのに、ちゃんと騙して伏線張って、一切引き伸ばさずに130ページでまとめているんだから偉いじゃないですか。

話は、ダニー・ボイドが美術品店の店長ミス・オバーンに頼まれ、数年前に中国から持ち出されたまま行方不明だった唐代の壺をオークションで競り落とすまでミス・オバーンの護衛を行う、というものです。というわけで、物語の主要舞台は、オークションが行われるイギリスです。
オークションを仕切るドナヴァン兄妹、壺を競り落とそうとするミス・オバーンとその競合相手のミスター・レンツ、影で壺を取り戻そうとしている中国共産党の回し者らしいミス・スミス一味、などなど、実に入り乱れた状況です。そのような中、護衛というより女を口説くことに懸命なダニー・ボイド。お前なにやってるんだ。
ただこのダニー・ボイド、本能で行動してるくせにめちゃくちゃ優秀できれいに全部解決してくれるので、読んでいて安心感しかないのです。今回も、最終的に殺人へと発展した壺をめぐるゴタゴタの謎全てに見事カタをつけてくれます。この真相に、ちゃんと2つ伏線が仕込まれているんですよ……カーター・ブラウンすごいな……。というかよく考えたらダニー・ボイドも基本的にちゃんと仕事してるよね。今回ベッドシーンも2回しか出てこないし。

というわけで、今回も安定して楽しめる作品でした。今度はリック・ホルマン物かなぁ。カーター・ブラウンは、年2冊くらいのペースで読めると最高な気がします。

原 題:Catch Me a Phoenix!(1965)
書 名:殺人は競売で
著 者:カーター・ブラウン Carter Brown
訳 者:尾坂力
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1068
出版年:1969.03.15 1刷

評価★★★☆☆
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乾杯、女探偵!
『乾杯、女探偵!』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハリウッドの女探偵メイヴィスをメキシコで危地から救ってくれたのはメキシコ秘密警察のベガだった。そのベガが今度は逆に彼女に助けを求めてきた。車のトランクに詰めてきた男の死体を始末してくれというのだ。余りにも唐突だし、おふざけも度がすぎる! しかし、いざ死体を目の前にするとメイヴィスは引込みがつかなくなってしまった。二人は奇想天外な知恵を捻出し、死体の処理に奔走するのだが……。 突如とびこんできた名も知らぬ男の死体に翻弄される、超グラマーな女探偵メイヴィスの活躍を軽快な筆致で描く痛快作。(本書あらすじより)

カーター・ブラウンの創造した探偵のうち、グラマラスかつ頭はカラッポ、特技のカラテは空回り、という女探偵メイヴィス・セドリッツ物の代表作。メイヴィス物は以前アル・ウィーラー警部と共演の『とんでもない恋人』だけ読んだことがあります。
外国の友人ラファエルからうっかり殺した死体の処分を依頼されたメイヴィス・セドリッツが駆け回るうちに色々な策謀・思惑が明らかになっていく、というお話。メイヴィスがバカ過ぎで何にもやってないし、お色気としても物足りなくて、全体的に微妙でした。なんかメイヴィス・セドリッツは合わない気がするんだよなぁ。

話の肝はスラップスティック的な面白さ、ハードボイルドのパロディ、というところにあるのだと思います。死体をあっちこっちに動かし、あっちこっちから死体が出て来る、という喜劇的な要素は確かに面白いです(エクスブライヤ『死体をどうぞ』のもっとバカっぽい感じ)。面白いんですが、行きあったりばったりがすぎて、あまりにまとまりがないように感じました。死体を持っていく先々で敵というか色々な事実が明らかになってはいくんですが、敵もこちらもちゃんと行動しているわけではなくご都合主義的なところが鼻につきます。もう少し何か欲しいかなー。
なんやかんやあって偶然に助けられつつ事件は解決。それはいいんです、ドーヴァー警部だって似たようなものだし。それはいいんだけど、もうちょっとメイヴィスに活躍してほしくないですか。メイヴィスは振り回され……というか振り回す役割のみで、実質的な謎解き・解決・決着は彼女の相棒と友人ラファエルに任されてしまうのではちょっと。結局訳者の稲葉さんが褒めるハードボイルドのパロディ、ファルスとしての楽しみ方しかないのかなぁ。それだけではちょっと自分には物足りないです。

ところで思ったのが、カーター・ブラウンは非情さを描かせるとかなり読ませますね、やっぱり。『死体置場は花ざかり』のラストとかかっこいいじゃないですか。というわけで、次に読むカーター・ブラウンは非情なハードボイルド探偵とウワサのダニー・ボイド物にしようかと思います。
さらに関係ないことですけど、この本の最終ページに「1978年3月22日 古本屋にて」という書き込みを発見。どうやらこの書いた人は、発売3ヶ月後に、定価280円のこの本を200円で購入した模様です。定価280円か……昔は本が安かったんだなぁ……。
乾杯書き込み


書 名:乾杯、女探偵!(1959)
著 者:カーター・ブラウン
訳 者:稲葉明雄
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 43-2
出版年:1977.12.15 1刷

評価★★★☆☆
素肌
『素肌』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ)

ある朝、パイン・シティの安モテル<トラヴェラーズ・レスト>の一室で男の死体が発見された。金づちで頭蓋骨をたたきつぶされた、見るも無残な死体だった。所有していた名刺によると、男はアルバート・H・マーヴィンというニューヨークの私立探偵であった。どうやらなにかの事件に深入りしすぎ、人の恨みをかったらしい……。
同じ時刻、パイン・シティ保安官事務所へ依頼人が訪れた。ニューヨークに住む億万長者の未亡人リン・サマーズとその義弟、それにサマーズ家の女弁護士イロナ・ブレントの三人。その依頼はリンのひとり娘アンジェラのことだった――一週間前、彼女はナイト・クラブの歌手リッキー・ウィリスと駈落ちしてしまった。私立探偵に行方を探させたところ、この街のあるモテルにいることがわかった。アンジェラはまだ17才である。至急、娘をかどわかしたリッキーを強姦罪で逮捕してもらいたいというのだった……。
ところが、サマーズが雇った私立探偵というのは、モテルで殺されたマーヴィンだったのだ! しかも、ウィーラー警部がモテルを調べてみると、今朝がた早く若い男女の二人づれが部屋を引き払っている─アンジェラとリッキーの二人らしかった……。生白い素肌を男の前に惜しげもなくさらす夜の女たち! 売春組織にからむ殺人事件をサスペンスとセックスで描く超モダン・ハードボイルド!(本書あらすじより)

問:『素肌』には5人の美人が登場します。では、アル・ウィーラー警部は、このうち何人と関係を持つことに成功するでしょうか。
という話です(大嘘)。

えー改めまして、久々に軽ハードボイルドの大家、カーター・ブラウンです。どうってことない話しか書かないんですが、さくっと読めてほどほどに面白いので重宝しています。いっくらでもポケミスに作品ありますしね。『死体置場は花ざかり』は傑作でした、そういえば。
さて『素肌』、もう自分が求めるカーター・ブラウンが全部入っているのでまったく文句ありません。モーテルで殺された私立探偵は家出少女を連れ帰ろうとしていたらしいことから、少女とその関係者一同に疑いがかかる、という展開。結構ちゃんと謎解きしているし、エロい女の子がぞろぞろ出て来るので大変良いですね(品位を疑われる発言)。

関係者の利害関係を調べていくうちに連続殺人へと発展し、ウィーラー警部はそこから綺麗に犯人を見つけ出していきます。この犯人を暴くための対決シーンの絵になる感じがたまりません。軽口を叩き事件関係者と寝ながらヘラヘラと謎を解くウィーラー警部はかっこいいと思うんですが、どうでしょう。かっこよくないか。
10代から30代まで相手するウィーラー警部はそれはそれですごいと思うのよね……うらやましい……。

以上感想終わり。5版もされるだけあって、安定した面白さでした。

書 名:素肌(1960)
著 者:カーター・ブラウン
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 676
出版年:1961.12.31 初版
     1996.02.29 5版

評価★★★★☆
死体置場は花ざかり
『死体置場は花ざかり』カーター・ブラウン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

身元不明の金髪美人の死体が死体置場から盗まれたのは、生あったかい、うんざりするほど悩ましい夜だった。盗まれた死体がTVスタジオにあるという匿名の電話が警察にかかる。半信半疑、アル・ウィラー警部はTVスタジオへ出かけた。すると、ドラマ用の棺の中からは金髪とは似ても似つかぬ四十男の血まみれの死体が飛び出してきたのだ。事件はさらに発展し、今度は死体置場に安置されたその四十男の体から、心臓のみがえぐり取られて盗まれた。死体置場は大混乱!洒落た感覚にユーモアを混えて軽快に描くハードボイルドの超快作。(本書あらすじより)

基本的には謎解き要素ちょっぴりの軽いお色気ハードボイルドで、主人公のウィーラー警部がぶうたれながら捜査していくのみ。ただ、ウィーラー警部がラストでは一転予想外の非情さを見せつけ、強烈な読後感を与えます。このギャップが素晴らしいのですよ。大満足でした。

まず警部に匿名の電話、指示通り向かったモルグでは死体が1つ盗まれ、その後テレビ局でその死体+1つが見つかります。警部は事件関係者の叶姉妹みたいなセクシーおっぱい姉妹とイチャコラしつつこのドタバタ事件を捜査していく……というのが大雑把な筋書き。
軽口ばかり叩くウィーラー警部のひねくれた目線で物語が進行するため、読み心地は極めて軽いです。まぁ捜査って言ってもそこかしこで酒を飲んでいるだけだし。犯人は意外も何もそもそも容疑者が少ないし、行きあったりばったり以上のものではないので、取り立てて真相に注目するところはないかなと思います。

ウィーラー警部はお調子者でおっぱいおっぱい言いながらソーダ入りスコッチを飲んでばかりのキャラクターですが、やたらと女にモテるようで、おまけにこう見えて頭の回転は早いのです。脅しつけまがいの行為で証言を引き出したりとやることも強引。イマイチどういう人間か分かりにくいというのはあるかもしれません。
でもそういうキャラクターなだけに、ラストのこの結末には驚かされます。安易かもしれませんが、この後ウィーラー警部が街に戻ることを考えると、やっぱり一面ではかっこいいなと思っちゃうんですよね。ほとんどギャップ萌えに近いんですが。女って怖いねぇ(そこ?)。

『死体置場は花ざかり』は、『海外ミステリー事典』のカーター・ブラウンの項目で代表作にあげられていて、ラストが非情で云々と書かれていたのがずっと気になっていたのでした。6年越しでやっと読みましたが、いやぁ大いに楽しんでしまいました。訳者の田中さんも言っていますが、軽い文体って良いもんですねー。ブラウンはちょこちょこ読んでいかないといけない作家かなと思います。

書 名:死体置場は花ざかり(1959)
著 者:カーター・ブラウン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 43-1
出版年:1977.6.30 1刷

評価★★★★★
とんでもない恋人
『とんでもない恋人』カーター・ブラウン(ハヤカワポケミス)

おつむは弱いがプロポーション抜群の女探偵メイヴィスに、TVプロデューサーのブリスから声がかかった。仕事は人気番組のゲスト女優アンバーのお目付役。アンバーは業界屈指の男殺し、主役の二枚目俳優を彼女の毒牙から守るのだ。張りきってロケ現場のパイン・シティへ乗り込んだメイヴィスだが、肝心の二枚目男優が撮影中に撃たれちまったから大騒ぎ。ただちに現場へ出動してきたのは、腕利きのアル・ウィーラー警部だった!史上最大の多作家カーター・ブラウンの二大キャラクターが激突。殺人犯探しで勝ち名乗りをあげるのは、どっちだ?(本書あらすじより)

初ブラウン。ちなみに、「抜群のプロポーション」とは、96・58・94のことだそーだ(笑)

カーター・ブラウンは、あらすじにあるような「史上最大の多作家」ではないと思いますが。ミステリ界での一番は、J・J・マリックじゃない?まぁ、ブラウンは相当売れたらしく、批評家からの反応は最悪でも、全世界5000万部売れたと見込まれています。日本でも一時期ポケミスから次々と刊行され、莫大な人気を誇りました。

で、どうだったかというと……2時間くらいで読み終わってしまったかなぁ。まあ、なんも中身がない作品です(笑)内容すぐ忘れちゃいそう。ミステリとしての出来も、悪くはないけど、そんなに凝ったもんじゃないですし(というか分かっちゃったし)。いや、やっぱり微妙だったかな。

つまりは、エロチックな描写をいかに楽しめるかにかかっているわけです。共演する二人の探偵はみなセックスにはなはだ開放的で、その様をどれだけ好きになれるか。……絶対女性にはおすすめ出来ないよね。

しかし、批評家がぶーたれようと、一世を風靡したというエンターテイメント性は確かに評価されるべきとも思えます。巻末あらすじが非常に的確なことを言っているので、引用します。

「……ブラウンは、ハヤカワ・ミステリの中で最も人気のある探偵である。カーター・ブラウンしか読まないというミステリ・ファンもいるそうだ。
ミステリ・ファンの中には、カーター・ブラウンの流行を嘆かれる人もいる。そういう人は、エラリイ・クイーンとかディクスン・カー、アガサ・クリスティーといった伝統的な本格探偵小説の愛好家の中に多い。だが、ミステリがエンタテインメントだとすれば、ブラウンを攻撃するのは、あまりに偏狭な趣味と言わなければなるまい。
彼の登場によって、ミステリ・ファンは確かにふるえているのである。ミステリには、いろいろなタイプがあるので、それを楽しむ寛大な心が欲しい。……」

なるほどねー。
……しかし早川書房さん、158ページで1000円は高すぎやしません?

書 名:とんでもない恋人(1960)
著 者:カーター・ブラウン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 717
出版年:1962.8.15 初版
    1999.10.31 3版

評価★★★☆☆