名探偵ナポレオン
『名探偵ナポレオン』アーサー・アップフィールド(crime club)

都市部で続発する連続乳児誘拐事件。5件目にして、ついに母親が殺されてしまう。事件を助けるため呼ばれてきたのは、事件解決率100パーセントを誇るナポレオン・ボナパルト警部。保護地に住むアボリジニが事件に関わっているらしいと睨んだ警部は、アリス・マッゴル刑事と共に犯人を追うが……。(あらすじ作成)

マケプレオーバー2000月間、3冊目はヒラーマンからの流れでアーサー・アップフィールドです。アーサー・アップフィールドのナポレオン・ボナパルト警部シリーズといえば、白人とアボリジニの混血警部が、オーストラリアの広大な砂漠を舞台に、アボリジニ絡みの事件を解決する、みたいなのが黄金パターンというイメージが強くて、実際そうなんでしょうが、「そうでもないんだぞ?」というのがこの『名探偵ナポレオン』なのでした。ただ、うーんちょっとこれは厳しいぞ。
解説の植草甚一によれば、アップフィールドの第一系統の作品群がそのオーストラリア原野を背景に白人とアボリジニの人間関係に謎の解決を求めるもの、第二系統が都会を背景としたやや暗めな犯罪小説、そして第三系統がアボリジニの民間伝承を謎にしたもの、だそう。そしてこの『名探偵ナポレオン』は第三系統の作品になるのです。

舞台は都会の白人社会。連続赤ん坊誘拐事件が発生し、それを調べていくと、都会の上流階級の人々の企みに加えアボリジニの住む保護地が関係してくることが分かり……という話。書き方は全体として明るめ、ユーモアあり、という具合です。
ただこのアボリジニ要素がまームリヤリ絡めているので、全然意外でもなければ面白くもないのです。じゃあ白人社会の闇が上手く描けているかといえば、主人公たちがあちこちにワチャワチャ聞いて回るくせに最後が急ぎ過ぎなのでそうでもないし。だったら、例えば7年前に読んだ『ボニーと砂に消えた男』はかなり退屈でしたが個性的ではあったし、そういう第一系統の作品の方が読みたいのです。
ボニィことナポレオン・ボナパルト警部の傲慢さやユーモアもそれほどはまらないし、赤ん坊絡みの事件ということで駆り出された超有能なアリス・マッゴル刑事の活躍や描写も1950年代の限界って感じでややいらいらさせられます。アボリジニや女性に対する視点とか訳とかにも古さは否めないかなぁ。

こんなこと言うとあれですが、アーサー・アップフィールドはトニイ・ヒラーマンを知ってしまった我々にはもう限界なんじゃないかと。アップフィールドに影響されたヒラーマンが、完全に上位互換なのかなぁ。あと何作かアップフィールドを読んで、きちんと評価を考えたいですね。

原 題:Murder Must Wait(1953)
書 名:名探偵ナポレオン
著 者:アーサー・アップフィールド Arthur Upfield
訳 者:中川龍一
出版社:東京創元社
     crime club 9
出版年:1958.10.05 初版

評価★★☆☆☆
スポンサーサイト
『ボニーと砂に消えた男』アーサー・アップフィールド(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ボニーと砂に消えた男

死体もなければ証拠もない。殺人を示唆するのはただ一枚の写真――久しぶりの難事件に混血の名刑事ボニーは興奮していた。二ヶ月前、もと警官グリーンがウィンディ牧場を訪れた後、砂丘で姿を消した。手掛かりはなく、事件は迷宮入りになりかけた。ところが、現場写真を見たボニーは、そこに殺人事件の発生を表す黒人の合図を見つけたのだ。かくしてボニーは、五里霧中の状態のまま身分を偽って牧場に住み込み、まず殺人の事実を立証する困難な仕事にとりかかった!豪州の厳しい大自然を舞台に、ボニーが消えた死体の謎に挑むシリーズ中の傑作。(本書あらすじより)

うぅむ、まさかこんなにオーストラリア臭い話だとは。1920年代の豪州の大自然・牧童の生活・アボリジニと白人(別に仲が悪いわけじゃない)が主軸に置かれ、死体完全消失の謎が展開されます(このトリック出来るのって、当時の豪州くらいだよね)。

とにかく、大自然の雄大さや危険さが非常にのびのびとした筆致で描かれています。また、当時の牧童(牧場で働いている白人たち)やアボリジニの生活っぷりが丁寧に描写されます。専門くさいオーストラリア人じゃなきゃ分からなそうな用語を、訳者さん頑張ってます(しかし、いまだにブッシュが何だかよー分からん)。地理・地形も詳しく描かれますが、北東はどっち~とか、専門用語も含め、いちいち気にしないで読み進めた方が無難でしょう。これを吉と取るか凶と取るかは好みだけど。

もちろんこれはミステリでもあります。トリックはオーストラリアでなきゃバカミスになりかけるようなものですが、実際にこのトリックを用いて作者の友人が殺人をした、というのは向こうでは有名のようですね。事件を担当した判事や刑事はこの作品を読んでたとか。さぞかし売れたでしょう(笑)
ミステリに着目するなら、トリックよりも、一体誰がどう関わっているか、という事件の構築を見るべきでしょう(なかなか良く出来ていたと思います。読んでて結構やられた感がありました)。が、本格ミステリを味わうというよりは、豪州の荒々しさをミステリ仕立てで知る、という感じのように思います。

主人公のナポレオン・ボナパルト警部(通称ボニー)は、白人とアボリジニの間に生まれた(ハーフカースト、って言う)ため、白人的冷静な推理力を持ちつつ、アボリジニの伝統・習慣に詳しいという設定で、あらゆることに大して万能な才能を持つ、いわばカンペキな人間です。また、とんでもないナルシストでもあります。最初、このナルっぷりが気になりましたが、このキャラ設定が最後の選択に繋がるわけで、作品の奥行きを作っているとも言えますよね。
その他神父さんやマリオンなど、個性的で共感・親しみの持てる人物が多々登場します。犯人含めてみんないい人、死んだ人はイヤな奴、というフツーさが吉(笑)

ちなみに、結局ボニーが出しゃばんなかったら彼は死ななくてすんだのに、とも思いますが、ボニーのおかげで○○夫人は追っ払われたわけで、やっぱり必要だったのかな、と。

悪いミステリではないんですが、あと一歩文体に引き締まったところを求めたいです。個人的にはちょっと単調だったかなと思います。内容は優れていますから、惜しいなぁと。まあ、結構日にちをかけて、のんびり読み進めるのに調度いい話、かな。


最後に作者アーサー・アップフィールドの略歴を(『海外ミステリー事典』から部分部分抜粋)。1888年イギリスのハンプシャーに生まれますが、一家の厄介者で追い出されオーストラリアに渡ります。大陸を放浪し原住民と親しく付き合い、これが後の作家活動に大いに役立つことになります。
第一次WWの後、推理小説にも手を染め、『バラキー牧場の謎』(未訳)でボナパルト警部を登場させます。以後29作のボナパルト警部シリーズを書きました。『2つの部族に属する男』(未訳)でシルヴァー・ダガー賞。

書 名:ボニーと砂に消えた男(1958)
著 者:アーサー・アップフィールド
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 81-3
出版年:1983.12.15 初版

評価★★★☆☆