洞窟の骨
『洞窟の骨』アーロン・エルキンズ(ミステリアス・プレス文庫)

旧石器時代の遺跡の洞窟から人骨が発見された。調査に協力したギデオンの鑑定により、事態は急転した。人骨は旧石器時代のものではなく、死後数年しかたっていなかったのだ。ギデオンは、以前に先史文化研究所で捏造事件が起きた時、行方不明者が出た事実をつかむが……複雑に絡みあう人類学上の謎と殺人の真相にスケルトン探偵が挑む、人気シリーズ第九作。(本書あらすじより)

この間読んだスケルトン探偵シリーズ最新作である『葡萄園の骨』がもうあんまりにもあんまりだったので……。ただ一説によると、スケルトン探偵シリーズは、南の方、あるいは暑いところが舞台だとつまらなくなるらしくて、そういえば『葡萄園の骨』の舞台はイタリアだったし南の方なのかなぁ、なら仕方ないなぁ、と思いましたわけです。だったら積んでいるのも読んでやろうじゃないかと。はい、『洞窟の骨』の舞台はフランスなのですね、なら何とかなるんじゃないか?
ちゃんと骨の話を主軸に進んでおり、全体的に悪くはない方のスケルトン探偵でした。トラベル物としては、場所が田舎だったせいかかなり控えめかな。謎解きに期待してはいけないのですが、1点評価できるところもあるし、そこまでの過程が読んでいてわりあい面白いので許せます。でも個人的には、たまにはスケルトン探偵が頭を殴られない話も読みたいぞ、毎回じゃないか。

洞窟から見つかった3年前の死体の謎とその正体、さらにネアンデルタールをめぐる学者たちの対立が絡み合い、珍しく骨と考古学と殺人がかなりしっかりと混ざっているため、読んでいて面白いし勉強になります。ギデオンの骨の鑑定・司法解剖による意外な展開が後半に多いのもよいですね。
それらの鑑定結果が全て手がかりとして示された上で犯人が明かされるので、あまり後出し感もありません。まぁね、飛行機のくだりとか偽医者のくだりとかは、かなり盛ったわりにすげぇご都合主義的な解決をするので、真相は読んでややがっくしではあるけど、そもそもそんなに期待してないからまぁいいでしょう。

オリヴァー夫婦(延々とイチャイチャしている)の他に『古い骨』でも登場したルシアン・ジョリ警部が再登場するなど、シリーズ感を強めている点はちょうどいいくらいだと思います。学者の話がメインなので比較的落ち着いていてなかなか良かったんじゃないかと。でも過度な期待は禁物だよ、とだけ言ってきます。やっぱりエルキンズ読むならまずは『古い骨』ですねー。

原 題:Skeleton Dance(2000)
書 名:洞窟の骨
著 者:アーロン・エルキンズ Aaron Elkins
訳 者:青木久惠
出版社:早川書房
     ミステリアス・プレス文庫 155
出版年:2000.12.15 初版

評価★★★☆☆
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葡萄園の骨
『葡萄園の骨』アーロン・エルキンズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

どこへ行こうと、スケルトン探偵ことギデオン・オリヴァーを迎えるのは骨なのか。イタリア・トスカーナ地方の山中で発見された二体の白骨死体。一年ほど前に失踪していた葡萄園経営者夫妻のものだ。状況から見て、不倫を疑った夫が妻を射殺してから自殺したものと警察は考える。だがたまたま夫妻と知り合いでもあったギデオンが白骨の鑑定をしたことから意外な事実が次々と明るみに!(本書あらすじより)

なぜか”スケルトン探偵”(笑)の最新作を読みたくなったので手に取ってしまったのでした……ミスった……。
あの『古い骨』を書いたエルキンズさんの本格ミステリとしてはもうゴミみたいな解決だし(事件自体は非常に良い)、100ページにまとめられるでしょっていうだらけっぷりだし、イタリア観光ものとしてもアメリカ人のうざさが際立っていてあんまり楽しめず、つまりとても微妙。本格云々以前に評価するポイントがないぞ……。

夫が妻を殺したあと自殺したと見られていた事件が、”スケルトン探偵”ギデオンの分析により、非常に説明のしがたい二重殺人であったことが明らかとなります、というのが冒頭。この「事件はいったいどのように起こったか?」という謎自体はとても魅力的で、分析すればするほど深まっていくのもよいですね。ホワットダニットとしては悪くはないのです。
ところが事件は最後「こうならつじつまが合うんじゃね?」という思いつきと「お、それっぽい!」「名推理!」というおだてでいつの間にか解決するんですよ……。しかも「でも誰が犯人かはわかんないね」って言ってたら警官が登場し「こんな物証が見つかったからこの人が犯人でした!」「「へーー!!」」みたいなオチですよふざけんなよ。
……ということはホワットダニット的な側面はギデオンが分析した時点で分かったってことですね、中盤全部いらないよ……その後の事件が完全に切り離されてるよ……ギデオンのもったいぶった推理もいい加減後半になるとぶち切れそうになるほどまだるっこしいわ……。

さてじゃあイタリアを舞台にしたワインとお食事のお話としてはどうでしょうか。わたくしイタリア語を第二外国語として学んだくらいにはイタリアに愛着があるので期待大ですよ。ところがこれも微妙。というのも主人公たちが「こういう料理苦手なんだよなぁ」とか「アメリカ料理食いてぇ」とか「イタリア料理飽きたからアイリッシュパブ行こうぜ」とかぬかしやがってるんですよおいおいおいお前らやる気あるのか。。トラベル・ミステリーとしてもダメすぎです。
もちろんイタリア礼賛的な描写もあるんですが、旅行者あるあるリアリティ(味噌汁食べたい的な)じゃあるまいし、飽きたとか言わないで欲しいですよ、やっぱり。やっぱりアメリカ人って郷に入っても郷に従わないんですかね……(偏見)。現地の魅力をもっと伝えてくださいよエルキンズさん、献辞にあげられたイタリア人たち泣いてるよ。

というわけで、うん、まぁ、エルキンズはどっちかというと旧作つぶしていくほうが優先した方がよさげです。

書 名:葡萄園の骨(2012)
著 者:アーロン・エルキンズ
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 299-12
出版年:2014.01.25 1刷

評価★★☆☆☆
断崖の骨
『断崖の骨』アーロン・エルキンズ(ミステリアス・プレス文庫)

楽しいはずの新婚旅行がだいなしだった。新妻のジュリーとイギリスの片田舎を訪れたギデオン・オリヴァー教授は、またもや事件に巻きこまれてしまったのだ。見学先の博物館からは貴重な古代人の骨が盗まれ、つづいて旧友が発掘中の遺跡で殺人が…。アメリカの名高きスケルトン探偵ギデオンが「正統的英国の殺人」の謎に挑戦する推理と冒険のシリーズ第四弾。(本書あらすじより)

相変わらずミステリアス・プレス文庫の表紙って素敵。あらすじに第四弾とあるのは、国内刊行順での話で、実際には三作目にあたります。そういえば、自分はたまたま刊行順に読んでいますねぇ。4つも読んでしまった自分が不思議でしょうがない。いやそんなことより。

結論からいえば、事件のプロットは悪くないのに、謎解きのプロットがそれを生かし切れていない、といったところでしょうか。後半50ページくらいの流れが、いくらなんでも行きあったりばったりじゃないかと思います。しかも、物的証拠は皆無に近く、犯人の自白に頼りすぎ。また、エルキンズを読むとよく思うのですが、たびたび読者の思考が主人公よりも先にたどりついちゃうんですよね。そうなってしまうと、読みながら「なーにをツマランことでごちゃごちゃ話し合っとんねん」てな感じになり、あまり面白くありません。1つの証拠品をやたら吟味する2時間刑事ドラマのウザさ、みたいな。いや分かんないか。

前にも書いた気がしますが、エルキンズの作品はいかにもテレビ向きです。というか、たぶんそれを意識しているものと思われます。だから、必ず最後は主人公が命の危険にさらされるわけですよ、えぇ。『古い骨』ではそのサスペンスを謎解きに生かしていたから良かったのですが、それ以外の作品においては、サスペンスを作る必要性が全くなく、ムリヤリピンチを挿入しているようで、なんとも微妙です。「スケルトン探偵」なんつー呼び名がすでにドラマっぽい。

そういえば、今回は骨が事件の中心であったとはいえ、骨の解析によって事件が解決したというわけではあまりなく、そこも残念だったかな、と思います。主人公がちゃんと「スケルトン探偵」をやっていたのは、今のところ『古い骨』だけ、ではないでしょうか。

この作品では、ミステリお得意の「左利き」がやや事件に絡みます。ご存知の通り、ミステリの世界では、左利き住人が妙に多いと相場が決まっとるもんです(笑)自身が左利きであるTYとしては、利き手をミステリに絡ませると、安っぽくなってしまうように思えるんですけどねぇ。

決して悪い作品ではないのに、エルキンズの詰めの甘さのせいで、及第点に届かなかった、という感じです。うーん。

書 名:古い骨(1985)
著 者:アーロン・エルキンズ
出版社:早川書房
    ミステリアス・プレス文庫 48
出版年:1992.3.31 初版

評価★★★☆☆
暗い森
『暗い森』アーロン・エルキンズ(ミステリアス・プレス文庫)

ワシントン州の国立公園の大森林で人骨の一部が発見された。ギデオン・オリヴァー教授の鑑定から骨は6年前に殺された男のものと判明する。が、なんと殺人の凶器は一万年前に絶滅したはずの種族が使っていた槍だった。伝説の猿人が本当に森の奥深くを徘徊しているのか……?一片の骨から縦横無尽の推理を繰り出すスケルトン探偵が真骨頂を示す初期代表作。(本書あらすじより)

ミステリアス・プレス文庫の表紙って素敵。写真探すの大変だったけど。

「スケルトン探偵」シリーズ第2作、邦訳順第3作ですか。うぅむ、何と言うか、非常に評価の別れそうな作品だと思います。要はどこを見るかですけど。

まず、TYが既読の『古い骨』『呪い!』と比べると、明らかにミステリ度は下がります。というか、いつものスケルトン探偵シリーズと変わらないとは言え、『暗い森』は正直ミステリには分類されないのじゃないでしょうか。ミステリの体裁を取ってはいますが、ファンタジーにもなりうる。まずそれが大事。

で次に、インディアン文化の考察書として見ると、なかなか大したもんだということになります。ヤヒ族とその男イシについて述べられていますが、これらはすべて事実。史実・歴史を踏まえた上で、いかに物語を展開するかという点では、エルキンズはなかなか頑張ったんじゃないでしょうか。

そしてシリーズとして見ると、今作はギデオンとジュリーが出会う極めて重要な作品です。ジョン・ロウやエイヴといったシリーズキャラクターが勢揃いします。それを考えると読者側としては、シリーズ順だからってこれを最初に手に取るよりも、ある程度エルキンズ作品(『呪い!』が手っ取り早いかな)に触れとく方が良いかと。

とまあこう考えると、良いんだか悪いんだかよく分からないんですよ。ただ、結末へのいかにもな映画的持って行き方は十分楽しめます。エイヴやジュリーとの会話も面白いし。そして、人間界のせせこましさに嫌気がさした時には、絶対楽しめること間違いありません。これは確実。

では作品として見た場合の問題点をあげると、

1、全体的に文章がやや単調で、展開も含め、物語に本気で打ち込みにくいかなと思います。第2作ということで、まだこなれていなかったのかな。

2、1の問題点とダブりますが、前半の「ビッグ・フット」の話題はおそらくいらなかったのでは。こればっかはエルキンズのストーリーミスな気がします。あくまでヤヒ族の話に終始させた方が一貫性があるし、第一「ビッグ・フット」が人騒がせです。


しかしまあ、つまらなくはないんですよ。楽しく読めたのは間違いないです。ミステリ風ファンタジーって言ったらいいのかな。「推理小説」という期待を持たない方が良いかなと思います。

書 名:暗い森(1983)
著 者:アーロン・エルキンズ
出版社:早川書房
    ミステリアス・プレス 文庫 36
出版年:1991.3.15 初版
    1994.1.31 4版

評価★★★☆☆
呪い!
『呪い!』アーロン・エルキンズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

人類学教授ギデオン・オリヴァーは、マヤ遺跡の発掘に協力するため、メキシコへ飛んだ。遺跡から人骨が見つかり、彼が鑑定を依頼されたのだった。だがそこで、奇怪な事件が起きた。人骨のそばで発見された古文書の呪いの言葉どおりに、オリヴァーと発掘隊員に災厄が降りかかりはじめたのだ。そして、ついに殺人が!鬱蒼としたジャングルの中の呪われた遺跡で、スケルトン探偵が推理の冴えを見せる本格ミステリの醍醐味。(本書あらすじより)

非常にスッキリと謎が解決する良作。犯人の行動は一部ん?というところもありますが、通して読むときれいにまとまっていて、読後感が気持ちいいです。今作は割とスピーディーでもあり、推理も小出しに話を進めていってくれるため、読みやすさが堪らないですね。ギデオンが真相に気付くきっかけが、これまた無理がなく、良く出来ていると思います。中米のムシムシ具合がまたよく合ってるんだよねぇ。

しかしまあ、犯人を特定するキーとなった○○は、かなり偶然性が高いですよね。だって、○○の下から発見されたから良かったようなものの、そこからちょっと遠いとこにあったらみんな何かに気付くでしょう。だいたい、もし○○が本人のものだとしても、あそこにあるのっておかしくないですか、どのタイミングで落ちたんだよと言いたい。

いえ、決してけなしてるわけではなく、愛の鞭ですよ(笑)

じゃあついでに言うと、やっぱり犯人が呪いに見せかけた意味が分かりません。○○○○の仕業と思い込ませようとしてのことだと説明していましたが、明らかに内部犯じゃなきゃ無理っぽいのありますよね(ホテルに侵入するのもアレだし、大体部屋番号はどうやって知ったのだ)。作者が面白さを追求しすぎて、やや無意味な設定になってしまったかな、と。いえ、面白いからいいんですけど(爆)

そして、まあ、一種のキャラ小説でもありますから、登場人物も魅力的。マルモレーホ警部の存在がたまんないね、こりゃ。主人公よりかっこいいぞ。『古い骨』の警部さんよりよっぽどいい。基本、TYはゲスト警官が好きになります。S・J・ローザン『冬そして夜』のサリバン警部さんとか大好き。

そして、ギデオンさえいなけりゃ殺人は起こらなかったんじゃないかなぁ、と思ったりしちゃ……あ、いけないですよね。

伏せ字だらけで曖昧な感想でしたが、ま、結論としては、つまり面白かったよ、と。

しっかし、20行の後読むと、17行って文字でけぇな……。

書 名:呪い!(1989)
著 者:アーロン・エルキンズ
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 299-3
出版年:2005.5.15 初版

評価★★★★☆
古い骨
『古い骨』アーロン・エルキンズ(ミステリアス・プレス)

レジスタンスの英雄だった老富豪が、北フランスの館に親族を呼びよせた矢先に事故死した。数日後、館では第二次大戦中のものと思われる切断された人骨が見つかり、さらに親族の一人が毒で……。現在と過去の殺人を解き明かす、スケルトン探偵ギデオン・オリヴァー教授の本格的推理――アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞の傑作。(本書あらすじより)

初エルキンズです。どれから読もうかな、とは考えていたんですが、とりあえず1887年出発・1988年MWA賞というこの作品から。
結論として言うと、非常に楽しめました。ここまで本格物としての推理小説を味わったのは、うん、数ヶ月ぶりです。よく出来た一冊ですね。地味っちゃ地味ですが、深まる謎をちょっとずつ答えを明かしながら解いていくロジックの展開にはなんか気持ちの良さがあります。なんかクリスティに似ているという印象を持ちました。
ま、冷静に考えると、全然物証ないんだけど。なんで犯人だけ一族会議の理由を知ってたかも謎だし。まあ、読んでる時は気にならなかったから許します(笑)


まず本格ミステリとして、非常に申し分ない出来だと思います。ちょっとずつ集まったデータが、最終的にきれいに「真相」としてまとまるのに、全く無理がありません。探偵役達の推理に、飛躍したとこが全然ないんですよね。被害者や犯人が、また往年の古きよきミステリというか。この地味さ(まぁ、最後の方、急にB級映画みたいになるけど)によって、安心してページをめくれます。グロ要素がないのも個人的にマル。

最初フランス名にちょっと苦労しましたが、すぐに頭に入りました。ベン・バッツとか、ジュールのような各キャラクターが十分に立っているというのも良かったですね。一種のキャラ物ミステリでもあるんじゃないですか?スケルトン探偵なんつー設定的においしすぎる主人公ギデオンと、ワトソン役(にしてはFBI捜査官としてでしゃばる)ジョンとのユーモアあふれる会話。ところどころ出てくるギデオンの奥さんのジュリーもまた会話が楽しいです。

トラベルミステリー的要素もあり、とにかくフランス料理がおいしそう。これは作者が意図してやたらと食事シーンを入れてるんでしょうが、すきっ腹で読める話じゃないですね(笑)

欲を言えば、ジョリ警部との別れの場面とか、後日談を、最後にちょっと入れて欲しかったです。いきなり帰国してるんだもん。

1988年は、こんな話でもMWA長編を取れたんだなぁと思うと、なんか嬉しいです(笑)クリスティ的な本格の味わいを1980年代にしてしっかり受け継いだ上質の一品。オススメです。

書 名:古い骨(1987)
著 者:アーロン・エルキンズ
出版社:早川書房
   ミステリアス・プレス文庫1
出版年:1989.1.15 初版
   1993.9.30 14版

評価★★★★☆