月長石旧版の画像です。現在は違うやつ。
『月長石』ウイルキー・コリンズ(創元推理文庫)

インド寺院の秘宝、黄色のダイヤといわれる月長石は、数奇な運命の果て、イギリスに渡ってきた。しかし、その行くところ常に無気味なインド人の影がつきまとっている。そしてある晩、秘宝は持ち主ヴェリンダー家から忽然と消失してしまった。警視庁のけんめいの捜査もむなしく、月長石のゆくえは杳として知れなかった。この怪事件と取りくんだカッフ部長刑事の慧眼は、はたはしてなにを見出だすか?T・S・エリオットが「最大にして最上のミステリ」と評した本編は、大河のようなサスペンスを伴って結末の意外な犯人へと読者を導いていく。物語的興味と論理的推理が渾然一体となった推理小説史上不朽の名編!(本書あらすじより)

コリンズはこれを1868年に刊行しました。時代的には、ホームズの20年近く前で、『ルルージュ事件』の2年後です。そして150近くたった今でも、推理小説として何ら不足のない作品と言えると思います。いやあ、お見事。

とにかく、古さを感じさせず、全く飽きさせない展開には驚かざるをえません。登場人物の手記という形を取っており、最初は何の意味もないと思っていたら(笑)、これがなかなかいい味を出しているんです。常に一人称に徹しているせいで、それぞれの主観が入り乱れ、多面的な様相を見せるんです。意外と伏線も妙がありましたしね。

出てくる人もまた個性的ぞろい。捨てキャラがいっさいなく、全員生き生きとした動きを見せます。メリデュウ夫人とか、グーズベリーとか、それからもちろん、ジェニングスです。特にジェニングスは、読んでてこちらが感動するような複雑な心情を抱えており、正直、彼が主人公でもいいくらいです(笑)

語り手が次々と交代しますが、その中で一番長く書いている執事のベタレッジは本当に文章が面白い。『ロビンソン・クルーソー』を引用しまくり、ユーモアあふれる魅力的な文を書きます……って、全部作者が書いてるんだけど。語り手を全員うまく書き分けられるコリンズは、実際なかなか大した人なんじゃないですか?ちなみに、この『ロビンソン・クルーソー』は、話の終わり方としては素晴らしいことこの上なかったですね。
……と思いきや、まだ後日談が続きます。しかしこの後日談が本当にいいんですよ。作中では、最後のシーンが一番心に残ります。いやまあ、やっぱりジェニングスもいいんだけど。この面白さ、うまく伝えられないんだよな。

というわけで、推理小説史上の傑作です。どうも古いというので手を出してない人が多いんじゃないかと思いますが(自分もそうだったし)、黄金時代の作品が好きな人には間違いなくツボにはまる作品でしょう。

ちなみに。
著者名は、ウィルキー・コリンズの方がいい気がします(笑)

ちなみにちなみに。
1970年に上下合本にしたようですが、随分思い切ったことをしたもんです。というか、昔は上下を別の日に出版してたことに驚き。


書 名:月長石
著 者:ウイルキー・コリンズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 109-1
出版年:
  上 1962.10.5 初版
    1968.12.2 3版
  下 1962.11.2 初版
    1968.8.31 2版
上下合本1970.1.16 初版
    1989.7.28 24版

評価★★★★★
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