八百万の死にざま
『八百万の死にざま』ローレンス・ブロック(ポケミス)

アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが……。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。(本書文庫版あらすじより)

ポケミス版の画像が見つからなかったので、やむなく文庫版の画像です。ぐむむ。
さて、ブロックは過去に泥棒バーニーと短編集1つを読んでいるのですが、マット・スカダーものは初。まぁねぇ、自分、ハードボイルドは全く読まずに来ましたからねぇ。ちなみにこれもハードボイルド読書会の課題本です。

うん、なるほど、やはり名作と言われるだけはあります。面白いですね。どことなく詩的な印象を受ける文章に引き込まれるのです。というか、事件の真相やスカダーのアル中がどうとかより、ただただ文章を楽しみました。でも、こういっちゃなんですが、やっぱり自分は、ハードボイルドを、面白いとは思えても、好んで読みたくなるほど好きではないのかなぁとつくづく思わせられた本でもありました。

スカダーが捜査を続けるのが、いろいろ感情があるとはいえ、第一に依頼を受けているから、というのはなかなか興味深いように思います。というのも、今まで読んだハードボイルドが、依頼人関係なく探偵が突っ走るとか、依頼人があっても最終的に突っ走る、とかが多かったように思うのです。マットと依頼人とのつかず離れずの関係がとっても良いんです。最終的には、依頼人チャンスがケチつけられないほど完璧な人格であるようにすら思えます(あれ、そういや何でキムは彼を怖がったんだっけ)。
このスカダーの心情は、どの程度描かれているんでしょうかねぇ。意外とぼんやりしているように思うのですが。ひょっとして、サムスン>マーロウ>スカダー>スペード>アーチャー……?いや適当言ってるだけなので突っ込まないで。

あと、かなり分量的には多めで、単調という意見も頷けなくもないですが、それでも展開的には意外と無駄がないのは良いですね。いや無駄な会話とかはいっぱいあるんですが、これは雰囲気作りとしては必須かな、と。一週間くらいかけてじっくり読みたい作品、という印象を受けました。だから急いで読んだのはちょっともったいなかったかな。

ラストの有名なセリフ、というか翻訳、確かにこれは名訳。何でか分からないけど泣けます。必要最小限の語数で、ラストを締めくくった、という印象がありますね。お見事でした。
……という、当たり障りのない感想です。つまらなくはないけど、他の作品まで読む気にはならなかった、というのが正直な感想。ハードボイルドって、いくら布教したい人がいても、それこそ本格ミステリとかと同じで、好みなんだよなぁ。って当たり前か。

書 名:八百万の死にざま(1982)
著 者:ローレンス・ブロック
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1431
出版年:1984.4.30 1刷
    1984.12.31 2版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
やさしい小さな手
『やさしい小さな手』ローレンス・ブロック(ハヤカワ文庫)

新年、ミスター・自覚なし受験生は、今日も本を読む(笑)
ハヤカワ文庫の「現代短篇の名手たち」第7短篇集です。

いやーしかし、やっぱこの作家はただ者じゃぁありません。まさに捨て短篇なし。ブロックの作品はまだ2つしか読んだことがないんですが(『泥棒はライ麦畑で追いかける』と『泥棒は深夜に徘徊する』)、この読者を引っ張っていく感は超一流です。

というのも、わたくしはどうにも短篇集が苦手なんです。残り何ページかな、といつも気にしてしょうがない、という。しかし、これといってブロックの話には興味をひくようなネタがあるわけでもないのに、なぜかガッツリ読めるんです。某サイトの感想と被って申し訳ないんですが、語りが上手いんですよね。クライム・ノベル好きにはぜひともおすすめしたいです。

以下収録短篇とその感想を。


「ほぼパーフェクト」
いくら計算しても帳簿が10ドル合わない銀行の話……はジャック・リッチーです。これは野球の可能性の話です。
最後までくよくよ考えさせてしまう、これを書いてしまうブロックがまたすごい。

「怒れるトミー・ターヒューン」
なかなか怒れないトミーが怒るため努力する話……ではなく、コート上ですぐキレてしまうテニス選手の話。
なかなか好みの話でした。なんとなく結末は予想出来ますけどね。

「ボールを打って、フレッドを引きずって」
ゴルフに関するジョークをひたすら語りまくる話。
ジョークが面白い(笑)ラスト1行にはうならされます。

「ポイント」
ラスト1ポイントを巡る、壮絶なバスケバトル神話……なんかではなく、これは父子の愛情あふれる会話録です。
読んでいて妙に安心感をおぼえます。この作者はホントたとえ話が上手いねぇ。

「どうってことはない」
どうってことはない、を主張するボクサーとその妻の話。
怖いです。てっきりバットでも出てくると思っていたのに、ここに着地させるとは。

「三人まとめてサイドポケットに」
服のポケットにむりやり人を詰め込む男の物語……というのはウソで、引っ掛けられた男の反撃物語です。
うぅむ、どー考えてもこいつは最初から狙って店に入ったんだろなぁ。ケヴィンに冥福を祈ります。

「やりかけたことは」
火にかけたやかんを置きっぱなしにして家を飛び出たビジネスマンの失敗談……いやいや、出所した男の苦悩を描いた話です。
これまた恐ろしい。人間の衝動のなんと恐ろしいことか。

「情欲について話せば」
4人の男が、自分の知る情欲にまつわる話を語ります。
120ページなもんで中編にしか思えませんが、中身は4つの短篇です。成人向け(笑)かなり楽しんで読めました。個人的には、司祭と医師の話が面白かったです。

「やさしい小さな手」
一人であーだこーだしてる女の話。
この本の表紙からして小さな女の子の手だと思ってたのに、何ともはや全然違うじゃありませんか。表題作ではあるけど、ちとイマイチな感はあります。

「ノックしないで」
魅力的な女性といかした男性がベッドを共にするか否かという話。
ミステリ短篇集ですが、これはラブストーリーですね。すっごくいいです。


ここから下はマット・スカダーものの短篇となります。

「ブッチャーとのデート」
ブッチャーの初デート秘話……じゃあなく、不審死を遂げた友人をスカダーが調べる話。
ある長編の原作短篇です。まだ読んでないのにっ!服を脱ぐという動作を非常に上手く使っており、かなり感心しました。

「レッツ・ゲット・ロスト」
スカダーが頭のよさっぷりを盛大に示す話。
一番はと聞かれればこれをあげます。このズレた感じがたまらなく素敵。

「おかしな考えを抱くとき」
スカダーが警官だったとき、同僚のした良い行いについて。
結局どーだったかは読者にゆだねるという、一種の「女か虎か」ものです。ま、あんまそーゆー感じはしないけどね。

「夜と音楽と」
夜のニューヨークを舞台にした、最後にふさわしいお話です。


書 名:やさしい小さな手
著 者:ローレンス・ブロック
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫
出版年:2009.12.25 初版

評価★★★★☆