ささやく真実
『ささやく真実』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

悪趣味ないたずらで、周囲に騒動をもたらす美女クローディア。彼女は知人の研究室から盗みだした強力な自白剤を、自宅のパーティーで飲みものに混ぜてふるまい、宴を暴露大会に変えてしまう。その代償か、夜の終わりに彼女は何者かに殺害された……! 精神科医ウィリング博士が、意外な手がかりをもとに指摘する真犯人は? マクロイ屈指の謎解き純度を誇る、傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)

世の中には合わない作家というのがいるもので、自分にとってヘレン・マクロイはその筆頭です。しかしかれこれ3年も遠ざかっていたので、このままだと読まず嫌いになりかねない、ということで意を決して手に取ってみました。
で、やっぱりこう、楽しめたかというと微妙なんですが、とりあえず無の気持ちで読み終わることは出来ました(どういうことだ)。既読マクロイの中では『家蝿とカナリア』が一番嫌いじゃないという人間なので、純本格寄りである同じ初期作品として自分の好みに近かったというのもありそうです。

パーティーの主催者クローディアのいたずらによって強力な自白剤がカクテルに混入され、大混乱に陥る……という冒頭は、愛憎乱れあう人間関係を書かせりゃ天下一品のマクロイにぴったりな設定です。暴露大会と化したパーティーの一番いいところで屋敷の様子を描くのをやめてしまい、あとはウィリング博士視点にする、という構成は、いったいパーティーはその後どうなったのかと読者に期待させるという意味では悪くないんですが、だったらもっと捜査でそこを焦点にすればいいのにと思わなくもありません(最強の自白剤というキレキレなアイテムの中途半端な用い方がちょっとダサい)。
いつも通り鼻持ちならないウィリング博士によって死んだクローディアの性格がほどほどに明らかにされた後、とある大きなミスディレクションをひっさげて真相解明となります。正直なところ、一番の決め手が綱渡りどころかバレバレ過ぎるという大きな問題点がありまして、問答無用で犯人がすぐ分かっちゃうんですよね……。
ミスディレクションとか、上げて下げるようなオチとかって、合うときは合うんですけど、合わないときは徹底的に「何だその肩透かしは」となっちゃうじゃないですか。どういうモチベーションでのぞめばいいのかしらん(『ささやく真実』については、ある点をかなり証拠立てて掘り下げていくのが、結構良いとは思います)。

というわけで、うん、また3年くらいしたらマクロイ読もうかな……。どうも今年のマクロイだと『二人のウィリング』の方が評価高めっぽいので、読むのを間違えたかなという気がしなくもありません。なんかやっぱりマクロイの語りって肌に合わないんだけど、なぜなんだろう……駒月さんの翻訳は、他作家だとすごい好きなんですけどね。

原 題:The Deadly Truth(1941)
書 名:ささやく真実
著 者:ヘレン・マクロイ Helen McCloy
訳 者:駒月雅子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mマ-12-9
出版年:2016.08.31 初版

評価★★★☆☆
スポンサーサイト
小鬼の市
『小鬼の市』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

カリブ海の島国サンタ・テレサに流れついた不敵な男性フィリップ・スタークは、アメリカの通信社の支局長ハロランの死に乗じて、まんまとその後釜にすわった。着任早々、本社の命を受けてハロランの死をめぐる不審な状況を調べ始めたスタークは、死者が残した手がかりを追いかけるうち、さらなる死体と遭遇することになる──『ひとりで歩く女』のウリサール署長とウィリング博士、マクロイが創造した二大探偵が共演する異色の快作。(本書あらすじより)

実を言うと、ヘレン・マクロイはどうも性に合わない、苦手な作家なのです。
……あ、いえ、その、すみません、まだ『幽霊の2/3』『家蝿とカナリア』『暗い鏡の中に』しか読んでないです偉そうなこと言えないですホントすみません。
いやでもとにかく、面白いことは面白いんだけど、なんか合わねぇんだよなぁ、という作家なのですよ、はい。『家蝿』は結構良かったんだけど、代表作と言われるその他2つがちょっと微妙だったので、そりゃあくじけもするというもんです。というわけで『小鬼の市』も、かなり警戒しつつ読み始めたわけですよ(というわけで以下の感想はどうしても批判気味になっちゃうのでそのへん差し引いてくださいな)。
……しかし、むぅ、面白いじゃないですか。やや物足りない気もしますが、「第二次大戦下」の「中米」という舞台が遺憾なく発揮された事件、シリーズ読者ならニヤリとする仕掛けなど、決して悪くない作品です。

ただ、サスペンス要素と本格要素が必ずしも理想的に結合しているとは言えないかも。中途半端感が無きにしもあらず。
どうしても気になったのが、読んでいる間のモヤッと感と、読了後のモヤッと感。読み中はおそらく、主人公の性格付けが案外あいまいで、読者が(決して嫌いではないのに)100%感情移入しにくいからではないかと思います。読了後のモヤっと感は、謎解きシーンがわちゃわちゃしているせいかな。
もう1つケチをつけるなら、「小鬼の市(ゴブリン・マーケット)」という謎の使い方が上手くないかな、ということ。複雑な事件なのですが、それを捜査していく過程・読者に見せていく過程が、説明過多だったり不足だったりと、慣れない題材であるせいかこなれていないように思えるのです。

ただねぇ、困っちゃうのが、今あげた問題点はいずれも大したことではない、ということなんですよ。ぶっちゃけ結構楽しめちゃったのです。十分面白いんです。それでも100%の満足感を自分は得られなかったのですが、このあと一歩感は何なんでしょうね……単なるサスペンス・本格の中途半端さではないと思うんですが。

というわけで、現時点の自分にはこの作品についてどうしても満足のいくような感想を書けません。再読が必要かなぁ(したくない)。マクロイはやっぱり自分には手ごわい作家です。

書 名:小鬼の市(1943)
著 者:ヘレン・マクロイ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-12-6
出版年:2013.1.31 1刷

評価★★★☆☆
暗い鏡の中に
『暗い鏡の中に』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

ブレアトン女子学院に勤めて五週間の女性教師フォスティーナは、突然理由も告げられずに解雇される。彼女への仕打ちに憤慨した同僚ギゼラと、その恋人の精神科医ウィリング博士が調査して明らかになった“原因”は、想像を絶するものだった。博士は困惑しながらも謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう……。幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作。(本書あらすじより)

マクロイの代表作ですね。昨年復刊されたものです。
……うぅん、なんか、ひょっとしてマクロイは自分にあわないのかも。これで3つ目ですが、どうもしっくりこないんですよね。『幽霊の2/3』とかめちゃめちゃ評価高いですが、私的には微妙、でしたし(ただ、『家蠅とカナリア』は普通に面白かった)。

読んでいてとっても面白かったのは確かです。この本、ネタバレなしで感想を書くのが難しいんですが、あるテーマを扱っています。自分は『世界ミステリー事典』でテーマを明かされやっていたのですが、これは知らずに読む方が断然お得。というわけで、以下の感想は極めてあいまいです。

サスペンス混じりの、怪奇小説っぽい空気を含んだ、本格気味のミステリ、という味わいなのですが、どうもそれが中途半端に思えました。ラストのオチが嫌いなわけではありません。ただ、ああいう形で終わらせるなら、もっと怪奇っぽくするか、逆にきっちり証拠固めをした上で幻想味を強烈に出すか、どちらかにした方が良かったのでは、と考えてしまうんです。世評的には人気がある作品で、うちのサークルの国内読みの先輩も激賞していましたが、うぅん、なんでだろう。
とにかく、怪奇小説・サスペンスとしてはやや物足りなさを感じます。途中で遺産問題が絡んでくるなど、割と現実的側面が強いせいでしょうか。また、本格ミステリとしてはトリック・決め手の出来がイマイチ。というか、トリックはそもそもないようなものなので、補強証拠を何とかして欲しかったところ。犯人をしっかり追及した上で、あのラストなら、より好みに近かったのかも。
ちなみにキャラクターに関しては、良く書けていて悪くはないですが、とりたてて褒めるほどでもないというか。いかん、なんかネガティヴになってきた。

……というわけで、うぅん、どうして自分はマクロイを読んだ後はいろいろケチを付けたくなるんでしょ。そういうの、あんまり好きじゃないんですが……。とりあえず、『殺す者と殺される者』を読むまで、マクロイの評価は保留にしておきます。

書 名:暗い鏡の中に(1950)
著 者:ヘレン・マクロイ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-12-5
出版年:2011.6.24 初版

評価★★★☆☆
家蠅とカナリア
『家蝿とカナリア』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

精神分析学者のベイジル・ウィリングは、魅惑的な主演女優から公演初日に招かれた。だが、劇場周辺では奇妙な出来事が相次ぐ。刃物研磨店に押し入りながら、なにも盗らずに籠からカナリアを解放していった夜盗。謎の人影が落とした台本。紛失した外科用メス。不吉な予感が兆すなか、観客の面前でなしとげられた大胆不敵な兇行!緻密な計画殺人にたいして、ベイジルが鮮やかな推理を披露する。一匹の家蝿と、一羽のカナリア――物語の劈頭、作者が投げつけた一対の手袋を、はたして貴方は受けとめられるか。大戦下の劇場に匂うがごとく描きだし多彩な演劇人を躍動させながら、純然たる犯人捜しの醍醐味を伝える謎解き小説の逸品。(本書あらすじより)


マクロイは2冊目。個人的には『幽霊の2/3』よりは断然面白かったですね(『幽霊~』は世評は高かったけど、個人的にはイマイチの極みだったんだよね……死体の数とかも無駄が多いし(笑))。非常にオーソドックスな本格小説で、まぁ地味っちゃ地味ですが、つまらないという印象はありません。プロットの出来はなかなかのものです。ちなみに一番意外だったのは、最初に死ぬだろうと思ってた人物が被害者じゃなかったことです(爆)


冒頭の序文からタイトルに至るまで「家蝿(いえばえ)とカナリア」の謎をアピールしまくっとります。読者への挑戦以外の何物でもないです(笑)……が、「家蝿とカナリア」の謎はそんなにすごくはなかったかなぁという気がします。というか全然感動しませんでしたね、ぶっちゃけた話。むしろ、あまりに多過ぎる伏線の数々の方が見物だったかなぁと。12章以降は伏線回収のオンパレードですよ(細かい所まで分からなくても、犯人が誰か読者はさすがに分かるんじゃないかなぁ)。

確かに「家蝿とカナリア」の謎を作者もプッシュしてますが、ここまで過剰な期待を読者がしてしまうのは邦題のせいのような気もします。原題は"Cue For Murder"(殺しへのきっかけ、ってとこ)で、シェークスピアのセリフのもじりですが、むしろこっちのタイトルの方が秀逸かなという気がします。地味だけど。


その他登場人物の描き分けがかなりよく出来ています。ハッチンズとラザラスが個人的にはお気に入りです(「~でやんす」ってどんな訳語だよ)。ありえないほど限定されているはずの容疑者ですが、読者視線では登場人物が決して限られることがないよう、上手く人物が配置されているかなと思います。


まぁ、傑作ではないし、カタストロフィを感じるほどの結末でもないですが(最後の犯人の扱いは散々でしょ)、じみ~な本格好きにはオススメですよ。


後書きは「黄金時代に属しながらも他作家と一線を画す特徴を持つヘレン・マクロイ」について。本格作家の変化について述べています。


書 名:家蝿とカナリア(1942)
著 者:ヘレン・マクロイ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-12-2
出版年:2002.9.27 初版

評価★★★★☆
幽霊の3分の2
『幽霊の2/3』ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

出版社社長の邸宅で開かれたパーティーで、人気作家エイモス・コットルが、余興のゲーム”幽霊の2/3”の最中に毒物を飲んで絶命してしまう。招待客の一人、精神科医のベイジル・ウィリング博士が、関係者から事情を聞いてまわると、次々に意外な事実が明らかになる。作家を取りまく錯綜した人間関係にひそむ謎と、毒殺事件の真相は?名のみ語り継がれてきた傑作が新訳で登場。(本書あらすじより)

正直なところ、読み終わって微妙な心地です。もっと傑作的なものを期待していたのですが……。

決して悪い作品じゃないんですよ。全編ノンストップで読める魅力的な謎、なんだってこんなに怪しい人だらけなんだといいたくなる登場人物たち……まさに黄金期のミステリを彷彿とさせる物語です。ウィリング博士が何となく芝居がかっており、真相をみんなの前で言うのが好き(なような気がする)なのも黄金期っぽいというか。彼はやたらと人前で推理を語りたがります……会ったばかりの美容師とか(笑)

事件そのものよりも、物語設定上重要な部分に大きな謎が仕掛けられています。残念なことに、後半にあるウィリング博士の指摘する11のポイントを読んでそれには気付いてしまったため大きな驚きはなかったんですが、それでもやはり見事な設定だとは思います。犯行方法も一応謎なんですが、そのあたりはウィリング博士がいつの間にか解決しています(笑)

90パーセントまでの話の進め方はいいと思うんです。飽きさせない捜査の順番はよく出来ているんじゃないでしょうか。が、最後の解決編にだけ納得がいかないんですよね。
まず?第二の殺人は必要か?むしろ、解決場面でいた方が面白い気も。殺したなら殺したで、きちんと事件として扱ってあげて欲しいです。死んだと聞いた時のみんなの反応の薄いこと(涙)
?犯人がペラペラと自白する点。動機だけで犯人と決め付けていますが、別に犯行に関しては誰が犯人でもおかしくないと思います。決定的な証拠が決定的に不足しています。
?何だってエイモスが殺されなきゃいかんのか。そもそも、違う人を殺すべきだと思うんですよ。なんか、犯人が損をしたがってるとしか思えません。
?解決編が駆け足すぎ。あのタイミングで(しかもあの場所で)みんなにバラす必要はないと思います。魅力的な事件ですから、それなりの結末は持ってきてほしいです。

…とまあいろいろ文句を言ってすみません。最後以外はすごくいいと思うんですけどねぇ。最後が台なしです。ついでに、タイトルがなぁという感じ。どっちかというと「3/4」の方がしっくりきませんか?でなきゃ「3/3」とか。

あ、あと、解説をなんとかして欲しいんですが……。ゲームが実在したかくらいは書いてほしいです。マクロイの説明を全部他のマクロイ作品の解説にまかせてしまうってのは……。ついでに言うと、「~です、ます」体と「~た」体を混用するのは、日本語としていかがなもんかと。

書 名:幽霊の2/3
著 者:ヘレン・マクロイ(1956)
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mマ-12-3
出発年:2009.8.28 初版

評価★★★☆☆