冬のフロスト 上 冬のフロスト 下
『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

寒風が肌を刺す一月、デントン署管内はさながら犯罪見本市と化していた。幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗に酔っ払ったフーリガンの一団、“怪盗枕カヴァー”といった傍迷惑な輩が好き勝手に暴れる始末。われらが名物親爺フロスト警部は、とことん無能で好色な部下に手を焼きつつ、マレット署長の点数稼ぎが招いた人手不足の影響で、またも休みなしの活動を強いられる……。(本書あらすじより)

フロスト警部も残り未訳は1冊。寂しい限りですね……ウィングフィールドさんが亡くなってしまったことがつくづく惜しまれます。というわけで今年8月に出た『冬のフロスト』です。
わたしゃこのシリーズの大ファンなので、相変わらずのフロスト警部を大いに楽しんだし、ガッと読まされましたけど、しかしシリーズファン以外にまで薦めようとは思わないかなぁ……。この、結末が全く気にならないダラダラ感こそが魅力とは言え、さすがに長いので。

長さを感じる原因は、下巻(後半)で新たな事件・展開がほとんど起こらないことかもしれませんね。『フロスト気質』も同じでしたが、あちらは身代金の受け渡しという熱い展開が下巻にありましたから。しかし逆に言うと、そんなんで1000ページ引っ張ってしまうからこのシリーズはすごいとも言えるのですけど。フロスト警部のお下品ジョークと行きあったりばったり捜査と続発する事件でいくらでも尺が伸ばせてしまうのです。すごいな。
あとそう、メインとなる売春婦連続殺人事件以外のチマチマした事件が、わりと機械的にというか、付け足しのごとく処理されていくのもちょっとマイナスかもしれません。そんな有機的に繋がってろというんではもちろんなく(それじゃあフロストじゃないよねぇ)、もう少し行きあったりばったりの中で偶然解決されていく感じの方が個人的には好きです。

あれ、おかしいな……俺はこの作品を楽しんだのになぜケチを付けているんだろう……。

さてさて、今作のフロストの部下は超使えないグズでのろまなモーガン刑事。今までの部下役が向上心出世欲の強いフロスト警部と対立するキャラクターが多かったことを考えると、これは新しいですね。彼が配されたことで、クズ上司マレットと面倒見の良い上司フロストの対比が際立っていて面白いです。人間関係がギスギスしない分、フロストの人情味がますます強調されているようにも思います。

まぁなんにせよ、このシリーズのファンには今作も当然の如くお薦め。次作、というか最終作の刊行は数年後がいいな……もったいないからねぇ。

書 名:冬のフロスト(1999)
著 者:R・D・ウィングフィールド
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-8-6,7
出版年:2013.6.28 初版

評価★★★★☆
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フロスト気質 上 フロスト気質 下
『フロスト気質』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

ハロウィーンの夜、ゴミの山から少年の死体が発見されたのを手始めに、デントン市内で続発する難事件。連続幼児刺傷犯が罪を重ね、15歳の少女は誘拐され、謎の腐乱死体が見つかる……。これら事件の陣頭指揮に精を出すのは、ご存じ天下御免の仕事中毒、ジャック・フロスト警部。勝ち気な女性部長刑事を従えて、休暇返上で働く警部の雄姿をとくと見よ!大人気シリーズ第4弾。(本書上巻あらすじより)

いよいよ6月、フロスト警部シリーズ第5作『冬のフロスト』が(夏だというのに)出たので、慌てて未読の『フロスト気質』を片付けました。分厚いから、積ん読棚がごそっと減りましたよごそっと。 
いやぁ、相変わらずめっちゃ面白いですね、フロストは。フロスト警部シリーズの安定っぷりが感じられる一冊でした。今作は特にフロストの人情味を強調するシーンが多く、まぁあざといっちゃあざといのですけど、こういうのをみんな読みたいんだから別に構わないんです(だよね?)。今回も大いに楽しめました。

大きな特徴は、過去3作ではフロストと敵対する部下が毎回一名登場しているのですが、今回は長いせいかそれが二名となっているところでしょうか。リズ・モード部長刑事(嫌な女だと思っていたのにキャシディ登場後全然嫌な奴じゃなくなった)とキャシディ警部代行。下巻は特にキャシディうぜぇなぁで読ませている感すらありますね。いやもう超うざいのです。
リズ・モードは、女性ということで軽んじられるシーンが序盤には多く出て来ます。一方フロストはセクハラをしまくりこそすれ、彼女の能力を馬鹿にすることはないんですよね(さっすがフロスト)。バートンが彼女をモノにできるかという場外乱闘が後半はかなり笑わせ、こちらも相当面白いです。だんだん彼女の性格が丸くなっていくのは、もはやお約束と言って良いでしょう。
で、初登場刑事が二人いるので、いつものように決まった相棒がいるわけではなくなり、自然とフロストと行動を共にするキャラが増え、レギュラー陣の個性がいつも以上に書き込まれることになります。本書の魅力の一つはこれでしょうね。特に終盤のあのキャラの行動は大いに泣かせます。今作の目玉。くそぉあざといなウィングフィールドさん(だがそれがいい)。

ところでモジュラー型を突き詰めた結果、フロスト警部シリーズは話にメリハリが欠けてしまうというある種の欠点らしきものがあるのもまた事実。そんなに欠点だとは思いませんが、今作はさすがに長かったかもしれませんね。特に下巻は新たな事件がこれといって発生しなく、上巻の捜査の続きばかりなので、少し中だるみしているように思えます(とは言え一気読みしてしまうのがすごいところなんですが)。
ちなみに解説でフロストが丸くなったようだとあって、人情味の強調もその一つかなと思うのですが、これってもしかしてドラマの影響なんじゃないでしょうか。そういやフロスト役のデイヴィッド・ジェイソンを使った楽屋ネタなんかもありました(と思ったのですが、Wikipediaによると作品がドラマに影響されないよう見ないようにしていたとか。うぅむ)。

というわけで、本書も素晴らしかったです。フロスト警部シリーズは、これぞ英国警察小説の面白みだぜ!って要素が満載で、芹澤さんの訳文がまた異様に読みやすいので、あんまり海外物読まないんだよなぁって人にこそオススメしたいシリーズです。イギリスでは深夜に中華料理の出前を頼むのかとか、持ち帰りのフィッシュアンドチップス美味そうとか、下層階級やら上流階級やらとか、上流階級がやたらと葉巻吸ってたりとか、しょうもない下品なジョークとか、まぁとにかくイギリスっぽいイメージ満載です(非常に勝手なイメージ)。唯一足りないのはパブくらいじゃなかろうか……。とにかく未読の方はこの機会にぜひぜひ。初めて読むのなら『フロスト日和』がオススメです。

しかしこれより長い『冬のフロスト』とはいったい……やはりビル・ウェルズ部長刑事のクリスマス出勤に関するグチから始まるんでしょうか。

書 名:フロスト気質(1995)
著 者:R・D・ウィングフィールド
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-8-4,5
出版年:上巻 2008.7.31 初版
    下巻 2008.7.31 初版
      2008.8.22 2版

評価★★★★★
夜のフロスト
『夜のフロスト』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

流感警報発令中。続出する病気欠勤に、ここデントン警察署も壊滅状態。それを見透かしたように、町には中傷の手紙がばらまかれ、連続老女切り裂き犯が闇に躍る。記録破りの死体の山が築かれるなか、流感ウィルスにも見放された名物警部のフロストに、打つ手はあるのか?日勤夜勤なんでもござれ、下品なジョークを心の糧に、フロスト警部はわが道をゆく。大好評シリーズ第三弾!(本書あらすじより)

いやぁ、フロストをまたまた再読ですが、やっぱいいですねぇ。これを機に、ウィングフィールドをお気に入り作家に仲間入りさせます。

今回のフロストが抱える事件は、連続老女切り裂き、押し込み多数、中傷の手紙どっちゃり、執拗なる嫌がらせ、行方不明の少女、ポルノビデオ、自殺・徘徊・老衰など死体数件、街にはびこる非行青年、もろもろの書類仕事、エトセトラ。まったく、他の推理小説の探偵は、何て楽なんだろうと思わずにはいられませんね。

本作の特徴としては、流感のため登場する警官が限られており、いつもより一人一人が(少し)描き分けられていることでしょうか。また、フロストがかなり直感に頼っていることでしょうか。根拠のない捜査がいつにもまして多い気がします。逆に言うと、構成は『フロスト日和』の方がしっかりしているかもしれません。それと、下品なジョークが確かに多い……だから、ユーモアに関しては問題なし。扱う事件は、やや過激なのが多いかもしれません。

ケチをつけるなら、やっぱり構成が(ウィングフィールドにしては)甘い、ってことでしょうか。いつもの「おぉ!繋がった!」的な感動はあまりなかった気がします。また、部下役のギルモア部長刑事が、あまりフロストを慕っていないまま終わってしまった感があります。
個人的には『フロスト日和』の方がいいとは思いますが、そうはいってもかなりハイレベルな争いなので、大して大事ではないんですが。

やっぱり『フロスト気質』が読みたくなったので、買わなきゃいけないかも……。

書 名:夜のフロスト(1992)
著 者:R・D・ウィングフィールド
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-8-3
出版年:2001.6.15 初版

評価★★★★☆

(以下ややネタバレ感想)
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フロスト日和
『フロスト日和』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

肌寒い秋の季節。デントンの町では、連続婦女暴行魔が悪行の限りを着くし、市内の公衆便所には浮浪者の死体が小便ね海に浮かぶ。いやいや、これはまだ序の口で……。役立たずのぼんくら親爺とそしられながら、名物警部フロストの不眠不休の奮戦と、推理の乱れ撃ちはつづく。中間管理職に、春の日和は訪れるのだろうか?笑いも緊張も堪能できる、まさに得難い個性の第二弾!(本書あらすじより)

フロストを再読中。やっぱり面白いですね。ウィングフィールドは一筋縄でいくような作家じゃありません。

解説にもあるように、前作『クリスマスのフロスト』にはまだ少女失踪という大筋がありましたが、今回はメチャクチャ。公衆便所の死体、少女失踪、婦女連続暴行事件、ひき逃げ、市内の連続押し込み、強盗2件、痴漢、殺人、アンド未提出の書類もろもろ。これらが一見何の脈略もないように同時進行していくわけです(いわゆるモジュール型)。これをさばけないのが我らがフロスト警部。文字通り行きあったりばったり――というか思いつきのまま――事件にあたっていくわけです。これが面白すぎる。陰惨な事件だらけのこのシリーズですが、フロストというはちゃめちゃなキャラクターのおかげで重苦しくもなく、かといってある程度のシリアスさも伏せ持ちながら話がどんどこ進み、目が離せません。毎度毎度のフロストの軽口は読んでてにやりとさせられます。

やはり、ウィングフィールドのキャラクター造形には頭が下がります。膨大な事件には膨大な登場人物が絡むわけですが、どの人物もみた特徴がきつく、非常に楽しめます。マレット署長やアレン警部らイヤな奴らにも人間味溢れています。それ以外の警察官は、みなフロストを好いている、というのが伝わってくるのがいいんですよねぇ。今作での部下役・ウェブスターは、前半はただの小憎らしいやつですか、次第に(疲れてくるにしたがって)共感が持ててくるのは不思議です。前作と同じく、部下役の最後の様子や一言は、なんかフロストへの思いが切実に伝わり、いいんですよねぇ。

とにかくオススメです。読まなきゃ損。海外ミステリファンならず、全てのミステリファンに読ませたい、傑作警察小説です。

書名:フロスト日和
著者:R・D・ウィングフィールド
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-8-2
出版年:1997.10.17 初版
    2001.11.30 12版

評価★★★★★
クリスマスのフロスト
『クリスマスのフロスト』R・D・ウィングフィールド(創元推理文庫)

ロンドンから70マイル。ここ田舎町のデントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物……。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げる一大奮闘。抜群の構成力と不敵な笑いのセンスが冴える、注目の第一弾!(本書あらすじより)

読むものがなくなり、フロストを再読です。前読んだときは、多分まだ中1とか、そんぐらいだったんじゃないかって気がしますが、まあ当時はこのキワドサは分からなかったかな、と(笑)

いやー、しかしやっぱり面白いですね。ミステリ的観点で注目すべきは、モジュール型と呼ばれる構成です。つまり、多重事件同時進行型ですね。あらすじにあるように、少女失踪、銀行侵入、白骨発見、2万ポンド紛失事件、エレクトロニクスなんたらかんたら、などなど。よくもまあ上手くまとめあげたもんだと感心します。この一見なんでもありな構成のおかげで、メインの事件の犯人は覚えていても楽しんで読めました。ミステリとしての出来も絶妙で、読んでいて爽快感が味わえるというか。イギリス的な面白さも小気味よく、それでいてアメリカ的スピーディーな感じがあります。

そして、フロスト警部の壮大なる魅力ですよね。解説に上手くまとめてありますが、普通は不器用な生き方の主人公は逆にかっこいいんですが、フロストはまったくかっこよくすらない、それでも好感を持てるヒーローなんですね。近年のイギリスミステリでは、性格がかなり面白い警察官が多いもんですが、その中でも断トツにかっこよくないんじゃないでしょうか。脇役キャラも皆光っており、フロストを含め、警察官は皆非常に人間くさく描かれています。

また、作者ウィングフィールドのユーモア感覚には脱帽です。一行ごとにふざけているとしか思えない描写、フロストのつぶやき・ギャグ、あらゆるセリフを心から楽しめます。

本格の面白さを楽しむものではありませんが、あくまでイギリスミステリらしい優れた警察小説です。未読の方はぜひ!

書 名:クリスマスのフロスト
著、者:R・D・ウィングフィールド
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mウ-8-1
出版年:1994.9.30 初版
    1995.2.24 9版

評価★★★★☆