紳士と猟犬
『紳士と猟犬』M・J・カーター(ハヤカワ・ミステリ文庫)

イギリスの支配下にある19世紀インド。上官に呼び出された軍人エイヴリーは、奥地で姿を消した詩人の行方を捜すよう命じられる。この任務に同行するのは“ブラッドハウンド”と呼ばれる謎の男ブレイク。反りが合わないながらも旅に出たふたりを大いなる陰謀と冒険が待ち受ける! 密林の中にひそむのは、虎か!象か!盗賊か! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞&英国推理作家協会新人賞W候補の歴史ミステリ。(本書あらすじより)

いやー面白かったです。歴史ミステリの良作でしょう。550ページありますが、展開が必要十分なので長く感じません。

舞台は19世紀前半のインド。大英帝国が東インド会社を使ってインドの植民地化を進めている最中です。ムガル帝国や藩王国がまだまだ勢力を保ってはいるものの、東インド会社の力の強まりは否定できない、というくらいの時代。
主人公エイヴリーは、夢を抱いてインドに来たものの、出世の道も特になく、賭け事で借金もたまり、というがんじがらめの状態。現地人に対する偏見は丸出しで、東インド会社は絶対に正しい、西洋>>東洋、早くイギリスに帰りたいと願う、という、まぁどうしようもない人物です。こいつが語り手なので、ある意味終始不快な作品ではあります。
その彼が行動を共にさせられるのが、東インド会社のはぐれもの、ブレイクです。ほぼ現地人と同化した生活を送るブレイクが人探しの調査を命じられ、エイヴリーはそれに同行することになります。ケンカしあいつつ旅を進めて行くうちに、やがてエイヴリーはインドの、そして東インド会社の真実を知るのですが……。

語り手エイヴリーがとにかく西洋人意識丸出しの人間なのですが、かなり頑固で最後の方までなかなかデレないのが安易じゃなくて良いですね。徹底して、美化することなく、19世紀の西洋人の見方を描いていることに、一周回って好感が持てます。当然最終的にはエイヴリーとブレイクは友情で結ばれるわけですが、バディ物としてもきっちり仕上がっていると思います。
またロードノベル&冒険小説、といった趣の内容で、ひたすら現地の都市を巡ったり東インド会社や藩の支配者に会うだけなのですが、その中できちんとミステリをしているのも優秀です。姿をくらませた小説家は実際どのような人物で何を企んでいたのか? 東インド会社の支配に隠されたとある陰謀とは? 退屈に陥りがちな調査パートを当時のインド描写と結びつけることで、適度な緊張感を保ちつつ話が進行します。
そしてその陰謀が明かされた瞬間の衝撃も素晴らしいのです。そこに至るまでの不穏感を一気に説明する明快などんでん返しであり、またその決着も歴史ミステリらしいというか。著者あとがきを読んで、『時の娘』のラストを読んだときの気持ちを思い出しました。

手堅くまとまった歴史ミステリですので、興味がある方はぜひ。単に過去を舞台にしただとか、歴史を取り扱っただけの歴史ミステリとは一線を画する良い作品です。

原 題:The Strangler Vine(2014)
書 名:紳士と猟犬
著 者:M・J・カーター M.J. Carter
訳 者:高山真由美
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 448-1
出版年:2017.03.15 1刷

評価★★★★☆
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