レディに捧げる殺人物語
『レディに捧げる殺人物語』フランシス・アイルズ(創元推理文庫)

……リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった……ショッキングな書き出しで始まる本書は、妻を愛し、歓心を得ようとしながら、妻の心とはうらはらな言動をする異常性格の夫に献身的につくす健気な女の不可解な性と、その内心の葛藤を描いて新生面を切り開いた犯罪心理畢生の大作。(本書あらすじより)

『毒入りチョコレート事件』の読書会のために、未読のバークリーを読むことにしました。ちなみに『毒チョコ』も再再読したんですけど、もういいよね、感想書かなくても。3年前の再読感想ブログにありますし。
というわけで初アイルズ。読んでいていらいらするような女性がひたすら読者をいらいらさせるだけの話かと思っていたら、なんだか途中から妙に引き込まれて最後妙な感動に包まれて読了してしまいました……こ、これは面白かったと言わざるを得ません。バークリーすごい。

「リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった」という名文から始まります。この時点でどういう話かまぁだいたい分かるんですが、実はこの八年後になるのは物語の終盤なのですね。リナが夫と出会い結婚しどうなっていくのかを、この八年後という時点に向かってじっくりと描いていくのです。というと倒叙っぽさがありますけど実際あります。
それでまぁこの夫がクズ中のクズでクズな根っからの犯罪者なんですが(あんまり罪悪感がないあたりかなりやばい)、このクズを見過ごすわ諦めるわでしゃきっとしないヘタレ主人公リナがまーいらいらさせること。でも八年間がなかなか過ぎずしかも何が起きても離婚しないわけですよ。例えばいくら夫にダメと言ってもどんどん賭け事に金をつぎ込み借金をしまくり、リナの生活はどんどん厳しくなるというのに、結局はダメと分かりつつ夫の嘘にのっかり見過ごしてしまうのです。つらすぎですよ。なんて話ですか。

という感じで最初はこのダメ夫婦にいらいらしてたんですが、だんだんと、リナはどうして八年後も結婚し続けているのか、という方に興味がわいてきて、夫がどうこうではなく、きっぱりとした態度を取れないリナの行動に注意がいくようになり、その辺からなぜか面白くなってくるんです。しかも夫は極悪人というより、倫理観の欠如した、ある意味で人間らしい犯罪者であることが分かってくると、こいつに対してもそれほどむかつきを覚えなくなってくるから不思議。どうしようもないダメ人間たちの繰り広げるドラマから目が離せません。……ときて、このラストはなぁ、ずるいよ。

というわけで結構後半はずっと夢中で読んでたし、これは良作。分厚いし同じようなエピソードの繰り返しなのに一気に読めます。バークリーって案外読ませるのうまいんだなぁ、このへんアイルズ名義の神髄なのでしょうか。いや満足満足。
ちなみにこの本は、神保町に新しく出来たブックカフェ二十世紀で読了しました。@ワンダーの支店的なあれです。おっしゃれー。

書 名:レディに捧げる殺人物語(1932)
著 者:フランシス・アイルズ
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 124-2
出版年:1972.09.22 初版
     1982.01.22 8版

評価★★★★★
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ピカデリーの殺人
『ピカデリーの殺人』アントニイ・バークリー(創元推理文庫)

伯母と犯罪学と切手蒐集から成る人生に安住していたチタウィック氏が、たまさか訪れた午後のホテルで毒殺の現場に遭遇する。なんとも伯母さんというほかない被害者、そして、同じ卓を囲み怪しい振舞を見せた、その甥っ子。皮肉な成行きに嘆息しながらも氏は訴追側の証人として渦中の人となる。考え抜かれた話術が生きる手練の謎解き編!(本書あらすじより)

バークリー5冊目です。ちなみにこの書影は再版された後のものですね。最初のはカップに毒を入れる絵で、そっちで読みました。
非常にオーソドックスな英国風本格ミステリ。『試行錯誤』好きの自分としてはダメおじさんチタウィック氏の語りがもうかわいくてかわいくてかわいくて、ぶっちゃけそれを読めるというだけでこの作品の存在価値はありますよ(たぶん)。面白かったですねー。

チタウィック氏は殺人者がコーヒーに毒を入れるシーンをたまたま目撃したことで素人探偵として事件にかかわるのですが、もうこの全く自信がないけどおだてられれば喜んじゃってちょっとでも探偵らしい活動(聞き込みとか)が出来ただけで舞い上がっちゃうんですよチタウィックさんかわいすぎですよいやほんと。バークリーこういう冴えない中年のおじさんを描くの大好きですよね。
まぁチタウィックかわいいばっかり連呼していても仕方ないので、謎解きを見ると、中盤では、なかなかロジカルな推理が披露され、素直に感心しました。これは自分で気付きたかったくらいです。さらに結構複雑な真相は、予想できるようなありがちネタを組み合わせ、かつ複数の思惑が混ざったもので、こちらも秀逸です。犯人造形もベタながら印象的で、この人を冴えないチタウィック氏が追い詰めるというのが素晴らしいです。

いや、実際、ケチのつけようがないくらい個人的にはめちゃくちゃ面白かったんですよ。チタウィック氏のおばさんをはじめとする、英国的に個性的な登場人物によって、中盤もダレずに楽しく読ませます。英国黄金期娯楽本格推理小説として実に良作だと思うので、個人的には地味とか言わずにもっと評価されて欲しい作品です。というか復刊してください。

これでチタウィック氏が登場する3長編すべて読み終わりましたが、しかし3作しかないというのが残念ですね……バークリーの本領発揮はやはりシェリンガム氏なんでしょうが。チタウィック氏物の『試行錯誤』は、個人的に今のところバークリーの中で一番の傑作です。

書 名:ピカデリーの殺人(1930)
著 者:アントニイ・バークリー
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 123-3
出版年:1984.06.08 初版

評価★★★★☆
第二の銃声
『第二の銃声』アントニイ・バークリー(世界探偵小説全集)

探偵作家ジョン・ヒルヤードの邸で作家たちを集めて行われた殺人劇の最中、被害者役の人物が本物の死体となって発見された。殺されたのは放蕩な生活で知られる名うてのプレイボーイ、パーティには彼の死を願う人物がそろっていた。事件の状況から窮地に立たされたピンカートン氏は、その嫌疑をはらすため友人の探偵シェリンガムに助けを求めた。錯綜する証言と二発の銃声の謎、二転三転する論証の末にシェリンガムがたどりついた驚くべき真相とは。緻密な論理性、巧みな人物描写とブロットの妙。本格ミステリの可能性を追求しつづけたバークリーの黄金時代を代表する傑作。(本書あらすじより)

バークリー祭第3弾、最終回です。『第二の銃声』は『毒チョコ』の翌年に出た作品で、『毒チョコ』に勝るとも劣らないバークリーの最高傑作、との意見が多いですね。これを読んで、当分バークリーはおあずけです。ピカデリーも絹靴下も最上階もパニックも知ったこっちゃない。

なるほど、これは確かに傑作。フランシス・アイルズ名義『殺意』は未読ですが、だいぶそれに近くなっているという印象です。
これまで読んだバークリー作品は、『ジャンピング・ジェニイ』などが分かりやすいですが、基本謎ありき、というものばかりで、かなりパズル要素の強いものでした。唯一の例外が『試行錯誤』だと思いますが、心理的描写が多い方が間違いなくバークリーは良いものが書けるのでは、という気がします。

今作では(自分の嫌いな)シェリンガムは登場が真ん中あたりになってからで、活動もかなり地味です。いつもみたいにバカ騒ぎをしたりしないんですよ。この小説の主人公は、語り手であるシリル・ピンカートンという30代後半(推定)のおじさんです。人生真面目一本、近頃の若い女の子はちゃらくていかん、キスなんかしたこともないですよ汚らわしい、という愛すべきおっさんなのです。
殺人が起こるのは100ページくらいなのですが、とにかくこの100ページが秀逸。殺されることになるエリックというのはとにかく嫌なやつで、そいつがひたすら周囲の人間とどろどろな人間関係を築いていくわけですが、この描写がシリルの目を通すと面白いの何のって。

そして本作には、なんとヒロインが存在します。何だか普通にキャラクターとして可愛いですが、これが意外に重要な役割を果たします。ま、そういうのなくてもとにかく可愛いですけど。そもそも魅力的な女性がバークリー作品に登場するのって珍しいような気がします。悪女とか、キーキー声のおばさんとかばっかりですから。バークリーは女性不信だったという話がありますが、本当でしょうか。

例によって事件発生以後、特にシェンガム登場以後は、相変わらず安定のバークリー節です。どんでん返しの多用、ということでワンパターン化してしまうのがバークリーの問題だと思いますが、今作は最後に驚いたと言うより、なるほど、と感心しました。○○にトリックが仕掛けられているんだと思ってましたが、まさかそっちだったとは……『第二の銃声』というタイトルにも納得。


現時点でのバークリーベスト3は、『試行錯誤』『毒入りチョコレート事件』『第二の銃声』でいいでしょうか。4つしか読んでいませんが。とにかくこれはオススメです。

書 名:第二の銃声(1930)
著 者:アントニイ・バークリー
出版社:国書刊行会
    世界探偵小説全集 2
出版年:1994.11.25 1刷

評価★★★★★
毒入りチョコレート事件
『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー(創元推理文庫)

ペンディックス卿夫妻は友人宛にチョコレート製造会社から送られた新製品を試食したところ、夫人は死亡し、夫は命をとりとめた。会社はその製品を作っていないという。卿夫妻を殺害して利益を得る者もいない。殺人狂の仕業か? シェリンガムを会長とする犯罪研究会の面々はその推理力と探偵能力とを結集して犯人の調査に乗り出した。会員六人六様の推理と解決策。同一事件に対して示される六種の視点と証明法。本格推理文学の典型的手法を縦横に駆使した古典的名作。(本書あらすじより)


バークリー祭第2弾(全3回)。高1ぶりの再読です。正直なところ、当時は何が面白いんだか全然分かりませんでした。延々と推理が繰り広げられるだけで、ただただ退屈。最後に明かされる犯人には驚きましたが、それだけ、といった感じでした。犯人以外、もはや内容は一つも覚えていない中読み直しましたが……。

……前言撤回。これは半端なく面白い。世評通りの傑作です。クリスティしか読んでいない自分には時期尚早だったということでしょうか……。

とにかく六人六様の推理が面白いです。どれもめちゃくちゃ説得力があり……とは言いませんが、なかなか楽しめます。それぞれの推理が、チタウィック氏も言っていますが、その性格をよく表しているんですよね。「犯罪研究会」のメンバーは、推理をしながら徐々にキャラクターが形作られてくるようで、その生き生きとした推理はまさにミステリの醍醐味と言ったところです。
これを支えるのが、この「毒入りチョコレート事件」です。変に凝っていない分、推理の余地が多くあり、なおかつ本来殺そうと狙った人物ではない人が殺される、というこの微妙な感じも上手いです。事件のネタ自体は短編から持ってきたようですが、非常に絶妙なチョイスだと思います。

もっとも、それぞれの推理はある意味かなり不完全です。決定的なのは、ほぼ物的証拠がないこと。状況証拠から犯人像を割り出しているものがほとんどです。ただ、こういう不完全な状況だからこそ、最後の余韻が印象的なラストが作れるわけで、これは一概に批判できるものではありません。


しかしあくまでミステリに読みなれた人が読む作品であるのは間違いないと思います。4年前の自分が全く楽しめなかったのは、捜査シーンも劇的な場面も一切なく、延々と推理合戦が続くせいですが、これはもうしょうがないです。そういう作品だということが唯一の売りのポイントなわけですから。
どの推理も面白いですが、ギャグ的な意味でのフレミング夫人の推理、ギャグでしかないブラッドレーの推理、読み始めた段階から読者が薄々疑っていた点をようやく指摘するシェリンガムの推理がもっとも面白いです。反対に、チャールズ卿の推理は、本当に元刑事弁護士かよと言いたくなるくらいひどいものです(笑)各人の推理について、追記でちょっとコメントします。

しかしながら、これはあくまで本格ミステリであるという点は結構重要です。決定的な証拠が上がるわけではありませんが、かなり読者に手掛かりを示しているように思えます。例えばこの間読んだ『ジャンピング・ジェニイ』ですが、あれはもはや本格ミステリではありません。従来の本格ミステリをはるか遠くから眺め、批判しているような作品です。一方『毒チョコ』は、あくまで従来のミステリの枠内に留まりながら、ミステリの新しい枠を作りだそうとしている作品です。なお、他に自分が読んだ『試行錯誤』は後者に属するものと思われます。

本格ミステリという枠組みで見ると、一つだけ問題があるのは、犯人があることをするためにある人物の協力を求めていた、という点です。これはいわゆる、自分の言う「踊る人形」方式でして、読者としては「誰だおい」という気分になってしまうため、マイナスポイントではあります。ま、この作品をちゃんとした本格ミステリとして評価するのはどうかと思いますが(笑)

なお、読んでいて思いましたが、やはり自分はシェリンガムはどうも好きになれません。だって、この人なんか偉そうで。逆に、チタウィック氏はもっと好きになりました。『試行錯誤』を読んで以来大ファンです。なんかこの人とにかくかわいいです。も、もっと自信持って!


というわけで、やはりミステリ好きなら一読すべき作品でしょうね。おすすめです。

書 名:毒入りチョコレート事件(1929)
著 者:アントニイ・バークリー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 123-1(現在Mハ-3-1)
出版年:1971.10.22 初版
    1988.9.16 19版

評価★★★★★


[※以下ネタバレあり!]
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ジャンピング・ジェニイ
『ジャンピング・ジェニイ』アントニイ・バークリー(創元推理文庫)

屋上の絞首台に吊された縛り首の女――小説家ストラットンが〈殺人者と犠牲者〉パーティの余興に用意した悪趣味な藁人形だ。ロジャー・シェリンガムは、有名な殺人者の仮装をまとって談笑する男女を観察するうち、強烈な自己顕示欲と傍迷惑な行動で周囲から忌み嫌われている、ストラットンの義妹イーナに注目する。そしてパーティも終わりに近づいた頃、絞首台には藁人形の代わりに、なんと本物の死体がぶらさがっていた。一見、自殺と思われる状況に疑問を抱いたシェリンガムは、独自の捜査に乗り出すが……。探偵小説黄金期の雄・バークリーの才が遺憾なく発揮された出色の傑作。(本書あらすじより)


かっなーり世評の高いバークリーの代表作です。自分の印象では、『毒チョコ』『第二の銃声』『ジャンピング・ジェニイ』が彼のトップ3として語られることが多いような気がします。さてさて果たして結果は?

うーん、困った、というのが正直な感想、でしょうか。うーん。
いや、確かにこれは面白いです。最初から最後まで相当ノリノリで読んでしまいました。このぐっちゃぐちゃな状況に収拾を付けられるバークリーの手腕は文句なしにすごいですし、本書はまぎれもなく傑作です。こういう作品は嫌いではないです。
……が、何というのかなぁ、手放しで褒められないんですよ。完全に好みの問題ですけど、たぶん自分は、こう、やったことがどんどん裏目に出ていくような、墓穴を掘るというんですか、その手のコメディがちょっと苦手なんです。TSUTAYAでコメディ映画を借りてきても、こう主人公が墓穴を掘ってのっぴきならない状態に追い込まれる、みたいなシチュエーションがダメだったり。

まあとにかく、『ジャンピング・ジェニイ』はコメディです。少なくとも、ある程度のミステリを読んできた人にとっては、これはもうギャグでしかありません(ところで解説で川出さんが、ミステリ初心者にも「取っつきやすい作品」だと本書を紹介していますが、それはちょっとどうなんでしょうか)。ネタバレなしで言うのはなかなか難しいですが、この作品、まずそもそも序盤で読者は盛大に本格ミステリの枠から突き放され、中盤は既存の「探偵」の存在から逸脱した探偵の活躍を延々と見せつけられ、終盤でこれでもかとミステリをパロったあげく、最後の最後に、あ、これはやはり(ある意味では)本格ミステリだったのか!と持ってくる、という構造です。

ところで、これは『アクロイド殺し』なども同じ問題を抱えていると思いますが、作者が読者にあるトリックをしかける上で避けがたい、うさんくさい叙述、というのがあります。というか、そうですね、ミステリ読みにとってはうさんくさい叙述、というのがあるわけです。それを考えると、みんながみんな、最後の最後の展開に素直に驚くわけではないと思うんですよ。「むむ、しかしこれは、どうせ何かあんだな」という気持ちで読み進めている方が結構いるような気がします。で、これがちょっとしたネックになっていると思うんですよ。少なくとも、最後の章をなくしてもこのお話に何の問題もないし、むしろその方がいいんでないか、と、ついつい思ってしまいます(最後素直に驚いた方にとってはそんなことないと思いますが。というか、この手のひっかけに常にひっかかってしまう自分としては、ちょっと珍しい状況)。


と、ちょっと否定的な意見を述べてしまいましたが、自分はこの作品は好きですし、間違いなく傑作だと思いますので、読んで損するということはありません。あくまでその、個人的な墓穴を掘る展開の好き嫌いの話です(笑)そういう展開が苦手とか言っておきながら、終盤のシェリンガムの暴走なんか、読みながら楽しくってしょうがありませんでした。こういうネタをミステリとしてきちんと完成出来てしまうことからみても、やはりバークリーは天才なんだなぁ、としみじみ思うのでした。
とは言え、個人的には『試行錯誤』が現状では1位なのは変わりません。次は『第二の銃声』ですね。どうなることか。

ちなみに全編ブラックユーモアにあふれていますが、自分が一番面白いと思ったのは、15章1の最後のあたり(文庫版で言うと324ページ)にある、「もう一つ運が……」というやつです。こういうとこに自分は妙に弱い。

書 名:ジャンピング・ジェニイ(1933)
著 者:アントニイ・バークリー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mハ-3-6
出版年:2009.10.30 初版

評価★★★★☆
2009.07.26 『試行錯誤』
『試行錯誤』アントニイ・バークリー(創元推理文庫)

トッドハンター氏は、動脈瘤であと数ヵ月の命だと医者から宣告される。しからば、残された人生をいかに有効に使ったらよいか、と友人に相談したところ、驚いたことに、社会に害悪を流す人物を抹殺せよ、という結論で一致した。かくて、彼は見事に殺人を犯すのだが……。奇想天外な設定、従来の推理小説を皮肉るようなユーモア、そして意外な展開─絶妙な冴えを見せる超傑作!(本書あらすじより)

いや、なんといったらいいのか、バークリーを完全になめてました。まさかこんなに面白かったとは……。

バークリーの作品は、『毒入りチョコレート事件』のみ読んだことがありました。読んで、正直イマイチだった記憶があります。単調だし、内容にもあまり魅力が感じられませんでした。

ところが、この『試行錯誤』は、600ページ近くあるというのに、一気に読めてしまいました。読みやすいのは、やっぱり文章の面白さでしょうか。非常に上質なユーモアですね。はっきり言ってグチっぽい文章に、クスクス笑いが止まらなくなるのは、間違いありません。

600ページもあるのに、うち300ページは、主人公トッドハンター氏の説明と言ってもいいくらい、ムダが多いです(実際、シリーズ探偵のチタウィックはいないも同然です…というかいなくてもいいくらいです)。しかしこれも結局はムダじゃなかったというか。主人公にシェリンガムを置いていないのは、彼が主役だとトッドハンターが下手に出てしまうからでしょうね。実に効果的な配役です。王室弁護士のプリティボーイ卿なんかもいい味を出していますね。内容的にはミステリをおちょくってるのに、最後まで読めばやはりミステリなんですよね。

要するに、この作品は、ある種の本格ミステリですらあるわけです。証拠探しやら何やらかんやら。バークリーの見事な手腕を生かした作品でしょう。

ところで、以前のタイトルは『トライアル&エラー』だったようです。いくらなんでも、70年代に普及している英語じゃないでしょうに(笑)

書 名:試行錯誤
著 者:アントニイ・バークリー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mハ-3-2
出版日:1972.1.14 初版
     1999.10.29 8版

評価★★★★★