その雪と血を
『その雪と血を』ジョー・ネスボ(ハヤカワ・ミステリ)

オーラヴ・ヨハンセンは殺し屋だ。今回の仕事は、不貞を働いているらしいボスの妻を始末すること。いつものように引き金をひくつもりだった。だが彼女の姿を見た瞬間、信じられないことが起こる。オーラヴは恋に落ちてしまったのだ――。雪降りしきる70年代のノルウェーを舞台に、世界で著作累計2800万部を突破した北欧ミステリの重鎮が描く、血と愛の物語。(ハヤカワ・ミステリ)

ジョー・ネスボといえばハリー・ホーレ刑事シリーズで有名な北欧ミステリ作家の筆頭ですが、シリーズ外作品も多数紹介されています。そもそも北欧くくりにあまり興味ないのでネスボも読んだことなかったのですが、今回訳されたポケミスがわずか180ページ、しかもポケミスなのに1段組みという非常に短い長編だったため、とりあえず読んでみました。
……いや、これはすごいです。騙されたと思って読んでみてください。自分の中では、読了後、めきめきと評価が上がり続けているんですけど。

物語は大筋よくあるクライム・ノベルっぽいものです。ちょっと抜けていて、独特のユーモアを持ち、かつ無邪気な残忍さを見せる殺し屋の主人公(ジム・トンプスンっぽい)が、恋に落ち、ボスに追われるようになる、でとりあえず十分。
それもそのはず、この作品は「1950年代から70年代にかけて大量生産されたペイパーバックオリジナルの犯罪小説を模して書かれた」もの、なんだそうです。舞台となるのも1970年代のノルウェー。キレキレの文章は魅力的ですが、ボスやヒロインなど主人公以外のキャラクターは結構大人しめということもあり、基本的に定型っぽさがあります。というわけで前半は、正直なところ寒いトンプスン(気候的に)だなぁくらいの気持ちで良くある良くあると読んでいたのですが……。

終盤で全体の印象がメキメキと変化し始めて、しっかりとノワール・クリスマス・ストーリーとして着地したので衝撃を受けました。すごい、すごいよこれは。たった180ページしかない中で、緻密に構成を練ることで読者の全てを裏切り、かつ贖罪の物語を紡ぐことが出来るだなんて。
単なる血の話でもなければ、惚れた女がどうこうというセックスの話でもないんです。この主人公だからこそ成り立つ「一人称」としての傑作ノワールなのです。こ、これが現代のトップ作家による、ジム・トンプスンへのアンサーだってのか……やばい、やばすぎる……。

ネスボの作品って基本的に長めなのでなかなか読む気が起きないのですが、これは薄くてすぐ読めますし、何より読んでもらわないと凄さが伝わらないはず。現代ミステリの奇跡をぜひ味わってみてください、おすすめです。

原 題:Blod på snø(2015)
書 名:その雪と血を
著 者:ジョー・ネスボ Jo Nesbø
訳 者:鈴木恵
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1912
出版年:2016.10.15 1刷

評価★★★★★
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