『ハマースミスのうじ虫』ウィリアム・モール(創元推理文庫)

風変わりな趣味の主キャソン・デューカーは、ある夜の見聞をきっかけに謎の男バゴットを追い始める。変装としか思えない眼鏡と髪型を除けばおよそ特徴に欠けるその男を、ロンドンの人波から捜し出す手掛かりはたった一つ。容疑者の絞り込み、特定、そして接近と駒を進めるキャソンの行く手に不測の事態が立ちはだかって……。全編に漲る緊迫感と深い余韻で名を馳せた、伝説の逸品。(本書あらすじより)

1950年代に邦訳が出されて以来、幻の名作と言われてきた(らしい)ですが、確かにそう言われるだけはありましたねぇ。ぱっと見た感じでは、事件が起こり、それを解決するっていうもんでもないし、犯人はすぐ明らかになるし、大きなアクションシーンもないし、鮮やかな謎解きもない、緩いサスペンスです。

それでも面白いのは、主人公&警察vs犯人というあまりに明確な構図がわくわくさせられるからでしょうか。犯人の狡猾さは本当に許せるものではありません。だのに証拠も全くないという中で、主人公達がいかに犯人を心理的に追い詰めるか、というのが大いに楽しめます。読んでて、悪いことはするもんじゃないなぁと心から思いました(笑)

前半は犯人捜しということもあり、ややゆったり話が進みますが、後半の犯人追い詰めはかなりこっています。もはや(一方的な)心理戦という感じ。主人公が、なんでだよってくらい相手の心理を読むことに熟知してるのはなかなか面白い設定です。見方によっちゃ、ただのサディストですけどね。
……つーか、どうしてこんな奴がただのワイン商なんだよ(笑)

解説にもありましたが(この解説は気合い入りまくりの大長編だが結構読める)、作風の魅力は何と言っても「余裕さ」です。処女作とは思えないほどの気楽な語り口。かっこいいユーモアもあり、警視との会話も絶品です。この警視がまた楽しいキャラなんだよなぁ。

また、主人公が人の性格を見るのが好きだという設定なので、人物(性格)描写がかなりのもんです。必ずしも万人受けするってタイプの本でもありませんが、興味を持った人にはぜひ手にとってほしい一冊です。

書 名:ハマースミスのうじ虫
著 者:ウィリアム・モール
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mモ-5-1
出版日:2006.8.31 初版

評価★★★★☆
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