浴室には誰もいない
『浴室には誰もいない』コリン・ワトスン(創元推理文庫)

匿名の手紙を契機に、ある家の浴室から死体を溶かして流した痕跡が見つかる。住人の男性ふたりはともに行方不明。地元警察と、特殊な事情によりロンドンから派遣された情報部員が、事件解決に向けそれぞれ捜査を始めるが……。二転三転する展開の果てに待つ、「死体なき殺人」の真相とは? バークリーが激賞した、英国推理作家協会ゴールドダガー賞最終候補作の本格ミステリ。(本書あらすじより)

何だかずっとブログのトップ記事が書きかけのままになっていたっぽくて、いやすみません本当に。
今年初めて長編が訳されたコリン・ワトスンですが、『愚者たちの棺』に続いてあっという間にシリーズ3作目『浴室には誰もいない』が翻訳されました。何だこのペースは。
で、これもうディヴァインじゃねぇなってのが本作の感想です。前回はフロスト警部的な警察小説っぽいみたいなことをちょっと言いましたが、今回もその雰囲気は変わらず(登場する警官が地味に多いあたりとか)。ただ今回ミステリとしての作りに一番近いなと思ったのはコリン・デクスターだったのでした。証拠をきっちり固める本格ミステリというより、推論を二転三転させつつ、最後にまとまった説明が仕上がる、というタイプの作品です。それプラス、前作以上にワトスンの特徴としてはっきり出てきたファルスが見どころでしょう。

匿名の通報により警官が向かった家には、死体こそないものの、浴室から何かの死体を溶かしたと思える痕跡が発見された。殺されたと思われる男が諜報部員であったことから、情報部の調査員も介入するなどして、パーブライト警部の捜査は複雑になっていくのだが……。

「死体のない事件」という、英国地味本格の申し子のようなテーマの扱いはお見事という他ありません。死んだのか死んでないのか、死んだとすればなぜなのか、犯人と動機はあるのか、といった調査が、うまいこと読者を引っ掛けっつ展開され、きちんと意外な真相が提示されます。登場人物の少なさが良いですね。
例によって伏線や証拠に関してはツメの甘さが見られますが、これも前作よりはブラッシュアップされているように思います。ただやはり、きちんと証拠があがるというよりは、ホワットダニットとして真相(の説明)が二転三転するというタイプの小説なので(やっぱりデクスターだ)、このこじんまりさも評価したいけど、頑張れもっとやれいみたいな気持ちもあります。

また1作目でも特徴的だった意地悪なユーモアですが、今回は「田舎に迷い込んだ諜報部員」を徹底的にいじくりまわすことでかなりストレートなファルスとなっています。要するにスパイ小説パロディなんですよね。隠語を用いたり、やたらと支持政党や海外渡航歴を調べたりする諜報部の調査が、いかに田舎町においては的外れであり、そぐわないものであるかを徹底的にバカにしています。まぁ確かに面白いんですが、正直全体的に話から浮きすぎている気はするかなぁ。

全体的にワトスンの作風がつかめるものだったので、個人的には満足です。「ビーフorチキン」ミステリの限界、みたいなところも感じますが、まぁそれはそれ。『愚者たちの棺』とどっちが好きかと言われると、ぶっちゃけいい勝負かも。『棺』がギリギリ勝つかもしれませんが、好みかなと思います。

原 題:Hopjoy Was Here(1962)
書 名:浴室には誰もいない
著 者:コリン・ワトスン Colin Watson
訳 者:直良和美
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mワ-3-2
出版年:2016.10.21 初版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
愚者たちの棺
『愚者たちの棺』コリン・ワトスン(創元推理文庫)

港町フラックスボローの顔役だったキャロブリート氏のつましい葬儀から七か月後。今度は参列者のひとり、新聞社社主のグウィルが感電死する。真冬に送電鉄塔の下で発見された遺体には不可解な点がいくつもあり、現場近くでは“幽霊”の目撃証言まで飛び出す始末。相次ぐ町の名士の死には関連があるのか。奇妙な謎と伏線の妙、個性的な登場人物、機知に富む会話……英国本格ミステリの粋が凝縮された巧手の第一長編。(本書あらすじより)

ようやく翻訳された、1950年代~1970年代に活躍した英国本格作家によるシリーズの第1作です。系統としてはD・M・ディヴァインやハリー・カーマイケルと並ぶド地味英国本格衆ですね。個人的にこれは期待せざるを得ないのです。
地味かつ古典的なトリック(意外性はあるけどパッとはしない)のザ・英国本格 in 1950s という感じですが、堅実さとこの意地の悪さがなかなか心地よく、個人的にはかなり楽しめました。もう少し見せ方を頑張ってほしいですが、それは2作目以降に期待かな。

不可解な行動の末感電死した新聞社社主の事件を契機に、パーブライト警部が捜査に乗り出します。被害者と特に関係の深かった町の名士たちにはどうやら秘密があるようで……。

登場人物全員がしっかり描き分けられているのですが、これぞ英国地方都市の悪の結集、と言わんばかりに、地方名士の闇をこれでもかと軽快にえぐりだしていくのが楽しいです。全くタイプは似ていないのですが、後のドーヴァー主任警部やフロスト警部シリーズに通じる何かを感じます。フロストの扱う事件の中流階級以上だけ抜き出したみたいな。上流階級が扱われるもあくまで身内におさまる傾向の強い黄金時代の作品とは異なり、どちらかといえばスキャンダラスな趣きがあります。
探偵役のパーブライト警部は、辛辣なコメントを交えつつばっさばっさと推理していきますが、面白い、というかこの手のミステリとしては珍しいことに、部下の警官が何人も登場するんですよね。当時のイギリスに既に紹介されていたらしいローレンス・トリートやエド・マクベインなどの警察小説の影響かもしれません(J・J・マリックが『ギデオンの一日』を書いたのもこの作品の数年前ですし)。

真相は、少ない登場人物で組み立てたわりにはかなり頑張っているとは思います(ちょっと解明が間延びしてたかな?)。伏線ばりばりって感じでもないんですが、丁寧にきっちりとミステリしながら意地悪スパイスをかけたって感じで悪くありません。おそらく今後の作品でさらに上手くなるだろうと思えるので、期待したいところ。

というわけで、シリーズ順なんか無視して、ぜひ面白いらしい4作目を早く訳してほしいです。頼む、頼むよ創元さん。帯で煽られているように「ディヴァインに匹敵する巧手」だとはどう考えたって思えないんですが、でも間違いなく層はかぶっているはずなのでもっと読まれるといいなぁ。


原 題:Coffin Scarcely Used(1958)
書 名:愚者たちの棺
著 者:コリン・ワトスン Colin Watson
訳 者:直良和美
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mワ-3-1
出版年:2016.03.11 初版

評価★★★★☆