ギデオンの一日
『ギデオンの一日』J・J・マリック(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ロンドン警視庁にその人ありと知られた犯罪捜査部長ジョージ・ギデオンは、続発する犯罪に体の休まる時がない。きょうも、麻薬密売人の賄賂をうけた部下の一人が何者かにひき逃げされるという事件が起った。一方、ロンドン市内では、最近頻繁に郵便車が襲撃されてるし、さらには憎むべき少女殺しの容疑者も緊急手配しなければならない。強盗、殺人、麻薬密売と果しない犯罪の後を追ってギデオンの一日は暮れる。事件の中には解決されるものもあれば、未解決に終るものもあるというミステリの新しい行き方を示した警察小説の古典的名篇。(本書あらすじより)

コリン・ワトスン『愚者たちの棺』を書いた時に、警察小説からの影響があったのでは?みたいなことを書きましたが、そういえばイギリスの警察小説といえばモジュラー型ミステリの先駆けとして有名なギデオン警視シリーズがあるわけですよ。読んだことないんですよ。というわけで満を持して手に取ってみました。ギデオン警視シリーズ第1作。
複数の事件が同時並行的に進行するモジュラー型の創始者として評価しないわけではありませんが、現代の読者にはちょっと厳しい出来なのではないかと思います。面白くないんですよ、読んでいて。何しろ我々はエド・マクベインの87分署シリーズを知っているわけですし、もっと言えばR・D・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズ(あぁ偉大なり)を知っているわけです。退屈というのでもないし、モジュラー型としてはなるほど納得なんですが、ただ事件が並んでいるだけという感じ。緩急の付け方がイマイチなせいで全体的に楽しくありませんでした。

事件はごちゃごちゃ色々起きるのですが、核となるのは、ワイロを受け取った件で叱責したギデオンの部下がひき逃げされた、という話になるのでしょう。一日の中で起きたことが順に描かれていきます。
ギデオン警視はあくまで「警視」なので、現場型というより管理職なんですよね。だからロンドン中での事件が全て報告され、特に重要だと思われる場合はギデオン自ら捜査に乗り出したり容疑者と会ったりします。「一日」開始時点で既に過去に発生している事件もあるし、「一日」終了時点で未解決な事件もあるのですが、そういった報告がどんどん集まってくるのです。ここらへんの管理職らしい面白さはなかなか珍しいかも。
ただ、モジュラーの中での大きな一本の流れはちゃんとあるし、クライマックスでの盛り上がりもあるんですが、なぜかギデオンの捜査をテンポよく追えないのです。これはまず、ギデオンの足となり捜査する部下がほとんど登場しないせいかもしれません。たくさん事件が起きるのにギデオンが数を絞って現場に足を運ぶので、どうしても腹心の部下から後で適当に報告を受けて終わり、みたいなことが多く、バランスが悪いのです。
加えて、ギデオン以外の視点が多すぎます。事件の容疑者などですが、このパートがそれほど盛り上がらないんですよ。別にあってもいいんですが、後半はギデオンパートが特に少なく思えました。だから、確かに警察小説なんですが、あまり捜査小説、という印象を受けないのです。

まぁこれはシリーズ1作目ですし、マリックは化け物じみた多作家なので、他の作品を見ていけば色々変わっていくのだろうと思います。『ギデオンと放火魔』は数作あとの作品なので、もう少し面白い……かも。

原 題:Gideon's Day(1955)
書 名:ギデオンの一日
著 者:J・J・マリック J. J. Marric
訳 者:井上一夫
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 53-1
出版年:1977.08.31 1刷

評価★★☆☆☆
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