血染めのエッグ・コージイ事件
『血染めのエッグ・コージイ事件』ジェームズ・アンダースン(扶桑社ミステリー)

1930年代の英国。バーフォード伯爵家の荘園屋敷に、テキサスの大富豪、大公国の特使、英海軍少佐など豪華な顔ぶれが集まる。やがて嵐の夜に勃発する、宝石盗難事件と、謎の連続殺人。犯人は15人の中にいるはずだが、手がかりは庭に残された、血のついた茹で卵覆い(エッグ・コージイ)だけ……。復古的な舞台立てと、ロジカルな推理、けれん味あふれるトリック、そして意外な結末。70年代に黄金期本格の味わいを復活させた作品として名高い、伝説のパズラーが待望の復刊!(本書あらすじより)

あれはそう、2011年5月16日のことでした。大学1年生だった私は、「うわぁ大学生協って安く本が買えるんだ! 1割引きだ!」とテンションあげながら、わざわざ取り寄せして『血染めのエッグ・コージイ事件』を買ったのです。あれから5年が経ちましたが、エッグ・コージイはいまだに積ん読棚に積まれていたのでした。
……というわけで、これじゃいかんとついに読みました。初アンダースンです。ユーモア寄りの作品やジェシカおばさんシリーズなどが翻訳されていますが、こちらは1975年発表でありながら、コテコテの英国古典本格ミステリを想起させる作品です。文春文庫から『血のついたエッグ・コージイ』のタイトルで出ていましたが、扶桑社ミステリーから出直しています(おそらく訳が同じままですね、訳文が全て「血染めの」ではなく「血のついた」ですし)。なお、続編、というか同じ舞台の作品である『切り裂かれたミンクコート事件』(1981)も扶桑社から出ましたが、2003年に出たシリーズ3作目は未訳です。そろそろ翻訳されるというウワサもありますが……。

前置きが長くなりましたが、いやこれ、積んでいたのが実にもったいない、超好みの作品でした。複数の人物の思惑や行動が重なり、事件が複雑になるも、それがラストに一気に紐解かれるという、非常にクリスティーっぽさのあるガチガチ本格ミステリです。ユーモラスな語り口といい雰囲気といいバカトリックといい、いいですよーこれ。おすすめです。

あらすじが全てなのですが、とにかく様々な人物が館に集まり、盗難や殺人など事件が一気に発生する、というものです。舞台が第二次世界大戦直前期であるせいでなおさら本格黄金時代っぽいですし、国際的な怪盗やらアメリカ人の富豪やらが登場するせいで全体的に派手かつ華やかです。
この作品の何がすごいって、まず事件が起きるまでに200ページかかり、殺人事件が発覚するまでそこからさらに60ページかかり、140ページの捜査の後に、解決編に140ページ費やすという驚異的な作品なんですよ。残りページがまだあるからダミー推理だろうと思ったらマジで真相を語るのにそれだけ使うんですよ。さらに、さらにですよ、この作品の秀逸なところはおそらく事件発生の夜の描写です。この夜に、誰がどこをうろついただのぶつかっただのが、複数の人物の視点から語られて、なんとそれが20ページも続くのです。本書の事件の複雑性を示す名シーンだと思います。最高。

ミステリとしてのプロットの立て方などが完全にクリスティーっぽいですし(登場するびっくりするほど気弱なネガティブ警部・ウィルキンズが、ポアロっぽいと言われると自分で述べています)、そりゃあクリスティーの傑作群の方が色々うまいとはいえ、『チムニーズ館の秘密』の上位互換、とでも言いたくなるような雰囲気があります。適度にくだけたセリフもぴったりで、結構分厚いのに楽しく読めます。事件発生までが若干長く、屋敷の不穏な状況が描かれるばかりで一向に死体が転がりませんが、ここすらちゃんと面白いのです。登場人物数が20人くらいいますが、立ち位置・キャラ・事件への関わり方など様々な方向からしっかり描き分けられているので、全く混乱しません。
で、その真相ですが……伏線の張り具合については、もう少し頑張れたとは思います。ただ、メインとなる殺人以外の無駄な要素がひとつひとつ見事にばらばらにされていくシーンの面白さは絶品ですし、トリックのぶっ飛び具合、犯人の隠し方のうまさを考えると、これでもう十分です。いやー面白かったなー。

というわけで、本格黄金時代以後の英国本格好きには間違いなくおすすめです。地味ながらよりよく出来ているというウワサの続編もぜひ読んでみたいところ。3作目が翻訳されるっていうのはどうなのかなぁ……。
ところで、少し前の文春文庫って、こういう作品とかマーサ・グライムズとかが出ていたわけですよね。この系統、といったら何ですけど、本格ミステリ寄りの作品ってあと何があるんでしょう。気になります。

原 題:The Affair of the Blood-stained Egg Cosy(1975)
書 名:血染めのエッグ・コージイ事件
著 者:ジェームズ・アンダースン James Anderson
訳 者:宇野利泰
出版社:扶桑社
     扶桑社ミステリー ア-8-1
出版年:2006.09.30 1刷

評価★★★★★
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