ぼくは漫画大王
『ぼくは漫画大王』胡傑(文藝春秋)

いま台湾ミステリーが面白い。第3回島田荘司推理小説賞受賞。夢中で漫画をむさぼり読んだすべての元少年少女に贈る、企みに満ちた本格ミステリー。ミステリーは第十二章から始まる。家出していた妻が自宅に戻ると、夫が殺され息子の健ちゃんは密室に閉じ込められていた……。物語は第一章に戻り、奇数章はライバル“太っ許”と漫画大王の座を争う小学生・健ちゃん、偶数章は少年時代の事件のトラウマで鬱々とした人生を送っている妻子持ちの方志宏という男が主人公。父親と息子、二つの視点から語られるストーリーの結末と殺人事件の真犯人は?(本書あらすじより)

中国語で書かれた応募作品を対象としている島田荘司推理小説賞、これまで第1回の寵物先生『虛擬街頭漂流記』、第2回の陳浩基『世界を売った男』と読んできましたが、ついに第3回が翻訳されました(クラウドファンディングに参加しましたが、良かったですね、無事に出て。いやほんとに)。さっそく読んでみましたが、今回すごく面白かったですよ。完成度では『世界を売った男』が一番だと思いますが、個人的な好みではこっちの方が好きです。
バレバレトリックミステリかと思いきや、二段構えできっちり騙してくれる良作です。ストーリーも適度にイヤな感じがリーダビリティを高めていて、訳の読みやすさも相まって一日で楽しく読み切れました。本格ミステリ娯楽作としては、程よく期待を上回ってくれるんじゃないでしょうか。

内容は、さえないサラリーマンの章と、漫画大王というあだ名を持つ小学生・健ちゃんの章が交互に語られる、というもの。漫画大王・健ちゃんのパートでは、日本の漫画のタイトルが多数出てくるので、日本人には意外なフックがある……かも。

さて、この交互に語られる章、という構成からして既にバリンジャー的な怪しさがあるわけで、これ以上あまり語れないのですが、この交互に語ることによってだまそうとしているポイントは結構見え見えなんですよ。だから読んでいる間は1950年代のバリンジャー、ニーリィ的なしょぼさが頭にちらついてすごく心配だったのです。
ところがこれ、見せトリックなのかどうだったのか分かりませんが(ラスト一行がこのトリック絡みだったことで、読了後にトリック分かりやすかったなーみたいな印象を残しそうでどうかと思いました。これはこれでオマージュだったようですが)、実はもうひと段階うまいことひっくり返しがありまして、こっちがすごく良いんです。この仕掛けのために色々な要素が配置されていますが、これもなかなか上手いなと思います。トリックありきで無理やり設定を作り上げた感はありますが、まぁ頑張ってるしね、新本格を意識した本格ミステリだしね、このくらいなら許せるかなと。

この厚さ(というか薄さ)と読みやすさも合わせて考えると、かなり楽しい作品でした(まぁ唯一文句を言うとするなら……造本がコンビニコミックっていう……お金抑えるためだからね、仕方ないね……)。第3回はまだ『逆向誘拐』が秋には訳されますし、第4回、第5回と翻訳が続いてほしいので、皆さんぜひぜひ読んでみてください。日本の新本格ファンはもちろんですが、もしかして現代海外ミステリのどんでん返しが好きな人ははまるんじゃないかな(『ユー・アー・マイン』みたいな)。おすすめです。

原 題:我是漫畫大王(2013)
書 名:ぼくは漫画大王
著 者:胡傑 胡杰
訳 者:稲村文吾
出版社:文藝春秋
出版年:2016.05.30 1刷

評価★★★★☆
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