噂のレコード原盤の秘密
『噂のレコード原盤の秘密』フランク・グルーバー (論創海外ミステリ)

探偵役、ジョニーとサムの凸凹コンビが西へ東へ駆けずり回る!ニューヨークを舞台にとった痛快ユーモア・ミステリ。人気ドラマ「MOZU」の原作者、逢坂剛氏の書き下ろしエッセイを収録。(本書あらすじより)

フランク・グルーバーといえば、主にジョニー・フレッチャー&サム・クラッグのコンビ物シリーズで知られるアメリカ人作家です。以前からずっと読んでみたかったのですが、なかなか状態の良い創元推理文庫の作品が手に入らなかったり、当然のようにポケミスの『笑うきつね』が手に入らなかったりで(シリーズ1作目だけはすぐに買えますね)、この度ようやく手に取ったという次第。
読んでみたら、案の定なお気楽アメリカンミステリだったのですが、この手の(言っては何だけど)くだらないコンビ物で、ノリと勢いと腕っぷしを基軸にしつつ、複雑なプロットとこれだけしっかりした謎解きをやってくれるのはすごいのでは。やはりシリーズを集めていきたいところです。

本作はシリーズ全14作中10作目。すっからかんになりかけのフレッチャー(知能担当。詐欺まがいの本のセールスで金を稼ぐ)とクラッグ(腕っぷし担当。フレッチャーの言うままに詐欺まがいの行為で金を稼ぐ)があわやホテルから追い出されそうになった時に、ホテル内で娘が殺される事件が発生。どうやら彼女の持っていたレコード原盤に秘密があるようだ。たまたまそれを手に入れてしまった二人は、金を稼ぐチャンスとばかりに事件を探り始めるが、どうやらそのレコード原盤を狙っている人物は大勢いるようで……。

お気楽軽快なストーリー運びで、基本的にはその場しのぎで金を稼ごうとするフレッチャーの行動が描かれます。通俗娯楽小説なのかなと、まぁよく言っても軽ハードボイルドなのかなと思うじゃないですか、やっぱり。もちろんそれは間違いではなくて、このコンビがどたばたと事件にかかわっていく様子を肩ひじ張らずに読んでいくタイプの作品です。
ところが徐々に明かされていく事件の全貌が、こういうタイプのミステリにしては全然単純じゃないのです。レコード会社の社員間のいざこざや会社経営上の問題、殺された娘と社員の関係、娘の親族とライバルである私立探偵の登場、はてはフレッチャーの誘拐まで、とにかく一筋縄ではいきません。個性的な登場人物に彩られた案外複雑な事件を、フレッチャーは借金をこさえては詐欺まがいの方法で返しながら解き、荒稼ぎのチャンスを狙うのです。

このわちゃわちゃしてユーモラスなんだけど、謎解きがしっかりしていて、かつ刑事ものとは違うやや利己的な探偵活動が特徴的なアメリカクラシックって何だったかなーとずっと考えていたのですが、ようやく気付きました。これ、レックス・スタウトのネロ・ウルフ物に通じる面白さがあるのです。もちろんネロ・ウルフ物の方が比較的“しっかり”したミステリだとは思いますが、いやーやっぱりこういうの好きなんですね、自分。

というわけで、思ったより楽しんでしまいました。楽しく読める良娯楽ミステリだと思います。
ちなみに、論創にしては訳が悪くない、というか無味乾燥ではない、いい意味で古い訳だなぁと思って読んでいたのですが、訳者がまさかの仁賀克雄さんでした。ええええええまだ訳書とか出してたんだ……と思ったけど、まだまだご存命ですし、そういやニーリィとか訳されてましたっけね。大変失礼しました。

原 題:The Whispering Master(1947)
書 名:噂のレコード原盤の秘密
著 者:フランク・グルーバー Frank Gruber
訳 者:仁賀克雄
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 161
出版年:2015.12.30 初版

評価★★★★☆
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