魔術師が多すぎる
『魔術師が多すぎる』ランドル・ギャレット(ハヤカワ・ミステリ文庫)

弁護士や科学者のかわりに魔術師が社会の要職を占めるもう一つの現代ヨーロッパ。その魔術師たちの大会がロンドンのホテルで開かれようとした矢先、殺人事件が発生した。二階の一室で突如悲鳴が起り、主任法廷魔術師の刺殺体が見つかったのだ。しかも鍵のかかったドアは本人にしか開けられぬ呪文で封じられ、窓の外では人々が閑談していた。この完璧な密室殺人の犯人として被害者のライバルの魔術師が逮捕されたが、主任捜査官ダーシー卿はその処置に対し重大な疑問を提示したのである! SFと本格探偵小説を組み合わせた異色の傑作長篇。(本書あらすじより)

SFミステリの代表的シリーズ。先日同じダーシー卿シリーズである中短編集『魔術師を探せ!』が復刊されましたが、こちらは長編です。初めてこのシリーズを読んだのですが……なんでしょう、この微妙な感じは。すごく面白かったのに、どことなく肩透かしの印象があります。

物語の舞台は、時代こそ現代ですが、魔術の使用が一般化したパラレルワールドで、二大強国である英仏帝国とポーランド王国が争っているという背景があります。フランスで二重スパイが殺害され、さらにイギリスの魔術師の会合が行われていたホテルの一室で密室状況のもと魔術師が殺害されます。ずば抜けた推理力を持つものの魔術は使えないダーシー卿と、優れた魔術師であるマスター・ショーンのコンビが捜査に当たります。

本格ミステリらしい不可能殺人に加え、魔術の使用が疑われるなど特殊設定下での殺人というSFミステリの王道中の王道が描かれます(しかもちゃんとフェア)。さらに魔術やこの世界の説明などSFというよりファンタジーな世界観、二大強国の情報戦というスパイ小説的な面白さ、剣劇などのアクション要素などてんこ盛り。そりゃあ面白くないわけがないのです。時代こそ現代ですが全体的に中世めいているので、カーの『ビロードの悪魔』の面白さなどと通じるものも多いかもしれません。

ただそれだけに……というか、不満なのがこの密室トリック。ミステリ部分とSF部分の融合が本当に絶妙で、バランス良いっちゃあ良いのですが、その結果ある意味SF部分があまり生きていないようにも思うのです。一応がんばって絡めようとはしていますが、もうちょっと突き抜けた解決を期待してしまったのかな。
ただこれ、魔術要素がどうしても目立っていますが、動機のミスディレクションの感じとか、(薄々分かるかもだけど)犯人の隠し方とか、全体的に非常に堅実な本格ミステリらしい手法を完璧に用いた作品なんです。だから「SFミステリ」というより普通にミステリとして評価した方がいいのかもしれません。実際、SFプロパーでない作家の書いたミステリとしてはこの上なく完成度が高いわけですし。

というわけで、十分に楽しめたのですが、個人的にはあと一歩でした。中短編集もいずれは読んでみます。
ちなみに『魔術師が多すぎる』の訳が、古いというより何か癖があって気になるなぁと思ったら、訳者が皆藤さんでした。なるほど……。皆藤さんの訳は読み進めて慣れてくるとむしろ味があるような気になります。ただ復刊されるとしたら新訳になるでしょうね。

原 題:Too Many Magicians(1966)
書 名:魔術師が多すぎる
著 者:ランドル・ギャレット Randall Garrett
訳 者:皆藤幸蔵
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 52-1
出版年:1977.07.15 1刷

評価★★★★☆
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