興奮
『興奮』ディック・フランシス(ハヤカワ・ミステリ文庫)

最近イギリスの障害レースでは思いがけない大穴が十回以上も続出した。番狂わせを演じた馬には興奮剤投与の形跡が明白であったが、証拠が発見されなかった。そこにはどんなからくりがあるのか? 事件の解明を依頼された牧場経営者ロークは、厩務員に身をやつして、黒い霧の調査に乗り出した!(本書あらすじより)

ついに、ついに初フランシスですよ。これまで全然読んでこなかったのですけど、いや特に理由もないんですけど、今年はなるべく名作を読もうと思っているので手に取りました。
誤解を恐れずに言えば、非常に地味で、堅実で、ベタな作品だと思います。そしてそれがいいのです。主人公の孤高のヒーローっぷりにしびれました。ハードボイルドや冒険小説を読む時に期待するハラハラドキドキワクワク感ってこういうやつだよ、と思わせてくれる一冊。

主人公のかっこよさが、基本的に行動しないこと、つまり耐えるところから発生しているのがいいです。悪口に耐え、身をやつすことに耐え、過酷な環境に耐える。そうした中で彼が持ち続けようとする「誇り」「プライド」が、彼自身の前に立ち上がり、作品を貫く軸になっていきます。
競馬で行われていた不正自体は、結構大がかりっぽいのに、大将さえ潰せば終わりという案外ざっくりした解決が妙にこじんまりとしています。地味です。この等身大の主人公で解決できそうな具合が、よさでもあるし、尻すぼみに思わせるところでもあります。
けど、この手堅い感じは嫌いじゃありません。むしろラストの肝を、作者が不正事件自体には置いていないため、事件じゃないところでの主人公の戦いが読者に迫ります。あざといんだけどね。でもこれをあざとく書けるところがいいんですよ。

謎解きはまぁ色々調べてたら分かった&ひらめいたってな感じですが、伏線……と言えるかはともかくちらっと作者がヒントを出したりしているあたりが、こう、英国ミステリの伝統だ―手堅いなーって感じでやっぱりなんか好き。

なんでしょうねぇ、あくまで自分の中では80点、90点のミステリではないんだけど、でもこれは75点くらいの、ちょうどいいところにあるっぽい気がします。そしてこの人の作品は全部そうなんだろうなぁという。今後も少しずつ、ぜひ読んでいきたいなと思います。

原 題:For Kicks(1965)
書 名:興奮
著 者:ディック・フランシス Dick Francis
訳 者:菊池光
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 12-1
出版年:1976.04.30 1刷
     1989.09.30 13刷

評価★★★★☆
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