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シャーロット・アームストロング名言2

2020-08

『名探偵を起こさないで』井上ほのか

 - 2020.07.17 Fri
国内ミステリ
名探偵を起こさないで
『名探偵を起こさないで』井上ほのか(講談社X文庫)

私、マユコ。大自然に囲まれた、カナダ生まれの14歳。ちょっと内気で本が好きな女の子。ところが、事故のショックで、な、なんと、男の子、しかも本のなかの主人公になってしまうんです。その名は、「少年探偵セディ」。だけど、こうしちゃいられない。助けてくれた、天才科学者・ゴーバル博士の研究所がたいへん! 大切なデータを盗まれて、殺人まで……。せっかく名探偵が目をさましたんだから、この事件、ボクにまかせて!(本書あらすじより)

ずっと読みたかった、井上ほのかの少年探偵セディ・エロルシリーズを、先日ついに全冊買いしたのです。『スコットランド古城殺人事件』とか『ロンドン園遊会殺人事件』が本格ミステリとして大変優れている、という話ですよね。というわけで、さっそくシリーズ1冊目を読んでみました。

どこにでも住んでいるカナダの中学生の女の子マユコは、とある事故に巻き込まれ川を流され、そのショックで彼女が好んで読んでいる昔流行った少年探偵シリーズの主人公、セディ・エロルの人格になってしまった! マユコを保護したゴーバル博士の怪しげな研究所の良心、研究員ダンと共に、少年探偵としてセディは謎を追い求めるが……。

シリーズ1作目ということで、キャラ紹介的な要素が多いし、ミステリとしての見どころも今作は薄いのですが、普通に児童向け小説として、つまり二重人格少年探偵セディ・エロルの冒険小説として、また彼(彼女?)をめぐる堅物研究員とイケイケ怪盗の奪い合いバトル物として、まぁ普通に楽しく読めます。二重人格者が主人公ではありますが、作中ではほぼずっとセディ・エロルの人格が前に出ていて本物の人格が出てこないので、あんまり二重人格物感はありません。
研究所で、一刻も早く二重人格を治し、マユコの人格に戻してあげたいと願う研究員ダン(つまりマユコに惚れているわけですが、中学生にベタぼれの24歳ってのもどうなんだ)。一方で、自身の過去の盗難事件を少年探偵となったセディに解決され、セディに興味津々の怪盗S79号(神出鬼没の22歳ですが、こっちはつまりゲイですね)。この2人が終始マユコ/セディを取り合っており、片や少女の人格を求め、片や少年の人格を求めているので、とりあえず性癖開発が渋滞しています。取り合って殴り合ったりしてる……すげぇ……。

また、大トリックがないとはいえ、適当にミステリ書いてみました感がないのはさすが。ゴーバル研究所のデータが狙われ殺人事件が起きるのですが、決め手の証拠が出てくるのは最後でも、そこからの推理はこの上なく論理的です。前半の密室盗難事件の謎解きが後の冒険部分の伏線になっているなど、ちゃんと作られた児童向けミステリらしさがあります。

児童向け小説として今でも読むに耐えうるか、という問題ですが……まぁ、最初のゴリゴリ少女小説部分が文体的にも内容的にもキツイんですが(「〜なのよッ。」とか、「モウッ!」とか、「〜なのだ。」とか、現代ではもはや少女漫画のパロディでしかお目にかからないような文体のラッシュで息が止まります)、そこを乗り切って14歳の少女が川に落ち流されマッドな研究所に拾われ別人格が発現した後は(どんな展開だ)意外に読めます。
ところで主人公がスペイン人と日本人のハーフ(カナダ在住)というプロフィールはどこから生み出されたんだろう……読者層の日本人の女の子たちの海外への憧れを、うまくキャラクターに落とし込んで自分に重ね合わせられるようにした結果だろうなぁ。

ちなみに、冒頭の《少年探偵セディ・エロル・シリーズ『アードラー夫人の肖像』より》と題された部分はクイーン風文体なので、やろうと思えば大人向けミステリも書けたんだろうと思わせます。

というわけで、それなりに楽しめる1冊でした。化けるのがこの後からと聞いているので、今後が楽しみです。

書 名:名探偵を起こさないで (1989)
著 者:井上ほのか
出版社:講談社
     講談社X文庫 X95-3
出版年:1989.05.05 1刷
     1990.11.29 5刷

評価★★★☆☆
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『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海

 - 2020.05.30 Sat
国内ミステリ
透明人間は密室に潜む
『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海(光文社)

本格ミステリの魅力と可能性に肉薄する4編。透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁──。絢爛多彩、高密度。ミステリの快楽を詰め込んだ傑作集!(本書あらすじより)

毎年読んでいる阿津川辰海の最新作、今回はノンシリーズ中編集です。基本的に作者は詰め込みマンなので、中編よりは長編向きじゃないのかなぁと思っていましたが……いやいや、全然そんなことはありませんでした。むしろ長編よりも持ち味がきれいに出ているかも。
いや、冗談抜きでこれ、すごく良かったんですよ。普通に4編とも超楽しくて、めちゃくちゃ気持ちよく1冊読み終えました。1冊で4回楽しめるとか、なんてお得なんでしょう。はやく第2中編集も読みたい……労力えぐそうだけど……。

本格ミステリ好きの方であれば超おすすめです。シリアス、ユーモア、ゲーム系と、バリエーションもトリックも豊かなので、好みのがきっとあるはず。個人的には「六人の熱狂する日本人」がダントツでベストです。


「透明人間は密室に潜む」(2017)
ど真ん中SFミステリ。透明人間になる病気が蔓延している社会において、もし透明人間が殺人をもくろんだら……?という話。
作者のこれまでの長編(ゴリッゴリの特殊設定ミステリ)と味は似ていますが、透明人間が犯罪を決行するまでをじっくり描いているところが好きです。また、名探偵が理詰めでゴリゴリ謎を解き明かした後の、あるワンパンチに、驚きというよりは物語的にやられました。特殊設定ミステリとして作り上げた世界を、作者がきちんと完結させているのが良いですね。

「六人の熱狂する日本人」(2018)
アイドルグループの一人が、アイドルオタクによって殺された。ものものしい雰囲気で始まった裁判員たちによる話し合いは、まさかの方向へ……。
本中編集の中で一番好き。傑作法廷ミステリ『十二人の怒れる男』のテイストを残しつつ(冒頭の、トイレからなかなか戻ってこない男、みたいなところもそうですよね)、ひたすらコメディとして読者を笑わせながら、密室劇らしい謎解きの面白さをこれでもかと詰め込んだ傑作です。密室議論系のミステリは、話が行ったり来たりひっくり返ったりするところが読みどころなわけですが、いやぁそこに「熱狂」要素が入るだけでこんなに笑える話になっちゃうんですね。
途中からある方向に進み始めて、そんなことしてどうすんだと思ったら、そこにちゃんと気付いた上で、真逆の方向に話が進んで笑ってしまいました。Twitter上の感想で、この中編についてウリャオイウリャオイ言ってる人たちがいて、アホなんじゃないかと思ってましたが、これは言いたくなるな……笑っちゃうもんな……悔しい……。

「盗聴された殺人」(2019)
推理力のある探偵と、推理力はないけどとてつもなく「耳が良い」という能力を持った探偵助手が、ペアでとある殺人事件に挑む。
特殊(すぎない)能力&私立探偵物。名探偵ミスをする的な話……かと思いきやちょっと違いました。警察の捜査とかにやや違和感があり、謎解き面でも少しはまりませんでしたが、推理の探偵(男)と能力の助手(女)というバディ部分がすごく良いです。

「第13号船室からの脱出」(2019)
船上で行われる、有名ミステリ作家の企画した脱出ゲーム。これに参加した男子高校生が、ゲームに参加中、船上で誘拐されてしまう。
誘拐&脱出ゲーム物。ゲーム性と謎解きとアクションとが合わさった、これでもかとてんこ盛りの楽しい作品です。これは「脱出ゲーム」という設定の上手さですよねー(脱出ゲームの「謎解き」にややツッコミどころがあっても、それを「企画が悪い」と作中人物に言わせるのとかずるいよなぁ……一方で、脱出ゲーム以外の謎解き部分はすごくキッチリしているわけですし)。
色々な点に引っかかりを覚えつつ読んでいると、最後に脱出ゲームを軸に全てが解き明かされるというこの爽快感(意地悪なオチ付き)。作者らしいぎゅうぎゅう感が、物語と謎解きに見事にはまった作品だと思います。

書 名:透明人間は密室に潜む(2017~2019)
著 者:阿津川辰海
出版社:光文社
出版年:2020.04.30 初版

評価★★★★☆

『連城三紀彦 レジェンド2 傑作ミステリー集』連城三紀彦

 - 2020.04.02 Thu
国内ミステリ
連城三紀彦レジェンド2

『連城三紀彦 レジェンド2 傑作ミステリー集』連城三紀彦(講談社文庫)

逆転に次ぐ逆転、超絶トリック、鮮烈な美しさ。死してなお読者を惹きつけてやまないミステリーの巨匠、連城三紀彦を敬愛する4人が選び抜いた究極の傑作集。“誘拐の連城”決定版「ぼくを見つけて」、語りの極致「他人たち」、最後の花葬シリーズ「夜の自画像」など全6編。巻末に綾辻×伊坂×米澤、語りおろし特別鼎談を収録。(本書あらすじより)

先日、大学のサークルの先輩と久々にご飯を食べた際に、
自分「ホワイダニットの面白さが分からない」
先輩「じゃあ連城を読め」
ってなわけで、先輩から借りて読んだのですが……面白いとかつまらないとかではなく、色々と考えました。以下、思いつくままにつらつらと書きますが、ツッコミどころとかあっても勘弁してください。国内ミステリ初心者の妄言です。

さて、ホワイダニットで読者に驚きを与えようとしするために、連城三紀彦が多用するのが構図の反転なのだと思います。最初見えていたのとは違う景色を最後に読者に見せることで、この人がこういう理由で!みたいな意外性を成立させるわけです。たぶん。
でも構図がガラッと変わるミステリ、自分はちょっと苦手なんです。苦手というより、そんなに驚けない。多分、いくら伏線を張って「あの時ああ見えていたやつが実はこう解釈できる!」と種明かしをしたところで、元の構図に納得してしまっていると気持ちよくないというか、そう言われたらそうなんでしょう、と思ってしまいがちというか(伝われ)。

だから、この作品集の中では「白蘭」がダントツで好きなのかもしれません。反転自体には、正直「え、そこまでやる?」と強引さは感じますが、反転したことそのものに対する登場人物のリアクションがあるおかげで、「読者の見えてなさ」が「語り手の見えてなさ」ときれいにリンクしているからかなぁ、と。

反転させるのってやっぱり難しくて、結局読者がそこまで読んできたことを全部否定するわけですから、かなりの説得力とストーリーが必要になるわけです。反転前をちゃんと否定しておかなきゃ、やったもん勝ちみたいになっちゃうし(自殺か他殺か、みたいな二択ミステリとも共通する問題かも)。
だから、反転した後の真相に、その時代特有の動機みたいな特殊設定ミステリ的な要素がさらに追加されちゃうと、それこそ「そう言われたらそうなんだろうなぁ」となっちゃうんです、自分は。だから、あんまり驚けないのでは……とかね、読みながら色々考えましたよ(今超適当なことを思い付くままに書いているので、頼むからdisらないでください)。

さて、個別の感想を簡潔に。「白蘭」はマジで傑作でした。


「ぼくを見つけて」(1989)
変則誘拐物。誘拐された子供から警察に電話があり、何が起きているのかがだんだんと分からなくなってきて、最後に刑事がぴたっとすべてをはめ込みます。すごく昭和ミステリっぽい(平成元年の作品ですが)。話の持って行き方が絶妙で、シンプルに上手い短編です。

「菊の塵」(1978)
ホワイダニットを勉強したいと言ったら、まず「菊の塵」を読めとめちゃめちゃ言われて、そもそもこの本を借りたのです。が、ホワイというより普通にハウダニットじゃないか、と思いながら読んでいました(いや普通にってなんだよって話なんですけど)。
うーん、明治だろうが古代中国だろうが異世界だろうが、その時代その場所でしか成立しない事件の動機って、どう読んでどう感じればいいのか分からなくて、苦手だ……。

「ゴースト・トレイン」(1987)
トリックどうこうというより、人間の話。むしろ赤川次郎「幽霊列車」の裏にこういう物語を作った、というところが面白いです(「幽霊列車」はたしかマンガで読んだはず。「幽霊列車」自体のトリックは完全に忘れていたのでググって思い出しました)。

「白蘭」(1988)
上方の二人の漫才師の奔放な人生が、とにかく読ませます。ミステリとしても何かやるだろうとは思っていましたが、こちらの予想を上回るひねりをきれいにかましてくるところに好感が持てます(殺人とか起きねぇよ、と作者が言わんばかりに、二人が最後どうなるかを最初から明かしてくるのも、読者を「じゃあ何が起こるんだろう」とじらせることになっていて、上手いんだよなぁ)。何より語り口が断トツで良いんです。

「他人たち」(1992)
現代の一般家庭(でもないけど)を舞台に、犯罪小説らしい企みを少女が行ったら……?という、非常にむなしい話。一番どんでん返しとかそういうのがない作品でした……という感想を持っている時点で、「構図の反転」をミステリの要素としてちゃんと捉えていないんでしょうね、自分は。

「夜の自画像」(2008)
ネタは悪くはないんですが、見せ方がというか明かし方がバタバタしていて、なんとなくガチャガチャした作品という印象です。伏線がやや足りないのと、最後の最後の反転を入れたせいで、二択ミステリなのにじゃあ真相はどっちからも見られるじゃん、と思ってしまうせいかも。

書 名:連城三紀彦 レジェンド2 傑作ミステリー集(1978~2008)
著 者:連城三紀彦
出版社:講談社
     講談社文庫 れ-1-12
出版年:2017.09.14 1刷

評価★★★★☆

『紅蓮館の殺人』阿津川辰海

 - 2019.12.05 Thu
国内ミステリ
紅蓮館の殺人
『紅蓮館の殺人』阿津川辰海(講談社タイガ)

山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り――。タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。(本書あらすじより)

後輩であるため、唯一毎年読んでいる(というか毎年唯一読んでいる)国内ミステリ作家、阿津川辰海の、文庫書き下ろし作品です。今までで一番話題になっている(=売れている)ようで何より。日本人はやっぱり館が好きなんだねっていう。
さて、1作目、2作目は「名探偵」の在り方の追及&特殊設定ミステリ、という路線でしたが、今作は特殊設定を捨て、「名探偵」ミステリとして完全に仕上げてきた作品となっています。トリックなどなどは前作の方が好きですが(というか特殊設定部分と相まって「強い」というか)、物語そのもの、そしてミステリとしての構造自体はこちらの方が好き。名探偵小説として……とかおいておいて、単純に読み物、推理小説として抜群に面白い作品ではないでしょうか。

高校生でありながら名探偵である葛城と、友人である助手の田所。高校の勉強合宿を抜け出した2人は、隠居した大物ミステリ作家財田雄山が住むという館を目指して山を登り始めた。偶然山火事が発生したせいで、2人は仕掛けだらけ、怪しい住人だらけの財田雄山の屋敷に閉じ込められることになるが……。

山火事の山頂の館、すなわち閉鎖的な空間に閉じ込められ外部と連絡が取れなくなった……という設定を生かしきっているという印象です。館の住人、偶然の訪問客たちの中で、殺人だけでなく様々な事件が勃発し、主人公たちは謎を解きつつ何とか館の脱出ルートを探さなくてはならなくなります。
孤立した場では、もちろんクリスティーお得意のアイデンティティの偽装がさく裂するわけですが、さらに登場人物それぞれが各自の思惑で勝手な行動を取るせいで、事件がとにかく複雑になっていきます。個人的に、『ナイルに死す』みたいな、本筋以外の枝葉てんこ盛り・犯人じゃない人の行動てんこ盛りみたいなミステリが大大大好きなんですよ。次々と謎が暴かれていくシーンの快感がえぐいのです。
手がかりがバラまかれているというより、推理の時に初めて「えっ、そんなことが起きてたの?」となるような遡りタイプのミステリなので、意図していないところでの謎解きがあるのが楽しいんですよね。じゃあ謎解きまでがつまらないかと言えば、殺人と脱出ルート探しという二本柱があるおかげで、物語がきちんと進むので全くそんなこともありません。

そこに、「かつて名探偵だったが今は謎を解くのをやめてしまった」という、いわば高校生探偵葛城から見れば先達にあたるような(元)名探偵を配置しているのがまた見事。新旧名探偵の対立に、しっかり新旧の殺人を絡ませているので、物語の構造的にやたらと(良い意味で)無駄がないのです。無駄がないのにキツキツじゃないあたり、1作目からの成長を感じます。個人的に今回のエピローグはいらない派(というか欲しくない派)ですが、名探偵小説としてのまとめ方も良いのではないでしょうか。

というわけで、普通に完成度が高いミステリを楽しく読めた、という感じ。もしこれをシリーズにするなら、続きもやはり読んでみたいと思えます。謎解き・本格ミステリがお好きな方、ぜひぜひご一読を。

原 題:紅蓮館の殺人 (2019)
著 者:阿津川辰海
出版社:講談社
     講談社タイガ ア-I-01
出版年:2019.09.18 1刷

評価★★★★☆

『星詠師の記憶』阿津川辰海

 - 2018.11.14 Wed
国内ミステリ
星詠師の記憶
『星詠師の記憶』阿津川辰海(光文社)

被疑者射殺の責を問われ、謹慎に限りなく近い長期休暇をとっている警視庁刑事・獅堂。気分転換に訪れた山間の寒村・入山村で、香島と名乗る少年に出会う。香島は、紫水晶を使った未来予知の研究をしている“星詠会”の一員で、会内で起こった殺人事件の真相を探ってほしいという。不信感を隠さず、それでも調査を始める獅堂だったが、その推理は、あらかじめ記録されていたという「未来の映像」に阻まれる。いったい、何が記録されていたのか――?(本書あらすじより)

かつて行われていた光文社の新人発掘プロジェクト、カッパ・ワン。その続編として始まったカッパ・ツーの第1弾で、去年デビューした阿津川辰海の第2作です。
こんなこと言ったら失礼ですが、最初から最後まで読んでいてずっと面白くてビックリしてしまいました。前作よりはるかに好き。オススメです。

主人公は、訳あって山村で休暇中の刑事・獅堂。そこで出会った少年から、とある事件の調査を依頼される。少年は、〈星詠会〉なる組織の一員であり、その組織内で起きた死亡事件の犯人に納得がいっていないのだった。調査を開始した獅堂は、〈星詠会〉が紫水晶を用いて未来を予知する集団だということを知るのだが……。

未来をアトランダムに予知できる紫水晶の利用方法を科学的に研究する〈星詠会〉、というファンタジーな設定を、我々の生きている2018年の世界と可能な限り融合させようとしており、それに成功していると思います。特殊設定が非常に地に足がついており、細部まで煮詰めた上で謎解きに結びついているのです。
星詠会という設定がそもそも面白いので、その説明を楽しく読みながら本格ミステリ部分も楽しめた、という感じ。キャラクターも、比較的人数を抑えた中できちんと描き分けが出来ています。今回は犯人当てよりもハウ、ホワット、ホワイに重点があるのかな。

特殊設定そのものが面白いので、それを生かした謎解き自体もかなり面白く読めました。個人的には、アトランダムの生かし方(ネタバレできない)の部分を読んだ時に一番感心したんですよね。その手があったか!という。賭けだけれど、賭け自体から始まるのなら全く問題ないかな、と。
二点ほど、そう上手くはいかないだろうという部分と、その決め手は弱いだろう、という部分が気になりますが、まぁ最後までちゃんと面白かったので良しとしましょう。次作、さらに本格ミステリとして一歩先に進んでくれることを期待したいです。

というわけで、ある意味クセの強い第1作と違い、言い方はアレですが「ちゃんと面白い」本格ミステリでした。特殊設定本格の書き手として、もっと広く読まれてほしいなぁ。光文社さん、もっとプロデュースしてあげて……。

書 名:星詠師の記憶(2018)
著 者:阿津川辰海
出版社:光文社
出版年:2018.10.30 初版

評価★★★★☆

『探偵Ⅹ氏の事件』別役実

 - 2018.01.07 Sun
国内ミステリ
探偵X氏の事件
『探偵Ⅹ氏の事件』別役実(王国社)

思いがけない事件の発生、他の追随を許さぬ推理力、見事なスピード解決――街の積極的探偵X氏が挑戦する50の怪事件。あなたも事件の当事者です。別役実、待望の連作ショート・ミステリの傑作。(本書あらすじより)

後輩(ギガント君)とお昼ご飯を食べていた時のことです。彼が突然、焼肉越しに本を渡してきながら言いました。
ギ「吉井さん、これ絶対好きだと思うんですよ」
吉「え、なにこれ……別役実……どこかで聞いたことのある名前だ……」
ギ「何でもいいから、とりあえず、この『六連続殺人事件』を読んでください。3ページしかないからすぐ終わります。とにかく読んでください」
吉「ショートショートってこと?」
(読んだ)
吉「やばい」
ギ「でしょう」
吉「カミっぽい」
ギ「そうでしょう」
吉「これ好きだわ」
ギ「やっぱり」

というわけで、まさに和製カミ、和製ルーフォック・オルメスとも言うべき作品集なのです。もしどこかで見かけたら、1編だけでいいのでちょっと読んでみてください。あまりのくだらなさに腰を抜かします。

この上なくくだらないのですが、ここまで完璧な和製ルーフォック・オルメスがあったことがまず感動なのです。一日一話便所で読むのに最適(うっかりちり紙にしてもいい)賞をあげましょう。メタっぽさ満載、ミステリのお約束を逆手に取り、むちゃくちゃなホワイダニットとハウダニットが読者を翻弄します。仕事を作るために、主人公であるアホバカズル探偵Ⅹ氏が自分で事件を起こす、なんてのは序の口。嫌われ者の迷探偵Ⅹ氏の出動するところ、常にケッタイな事件が相次ぐのです。あーくっだらない。
特に良かったのが「ワニ事件」「真犯人殺人事件」「本塁憤死事件」「はげ頭連続殺人事件」「パセリ泥棒事件」ですが……まぁ全部一緒みたいなもんか。長編化したら普通にドーヴァー警部ものになりそうだな、みたいなネタもありましたが、逆にドーヴァー警部はどんだけヤバいんだ、と思ったり思わなかったり。

というわけで、新刊の合間に良いお口直しが出来ました。こんなものあんまり立て続けに読んだら胸焼けしそうだけど……。

書 名:探偵Ⅹ氏の事件(1986)
著 者:別役実
出版社:王国社
出版年:1986.11.20 初版

評価★★★★☆

『名探偵は嘘をつかない』阿津川辰海

 - 2017.07.28 Fri
国内ミステリ
名探偵は嘘をつかない
『名探偵は嘘をつかない』阿津川辰海(光文社)

「ただいまより、本邦初の探偵弾劾裁判を開廷する!」彼が本当に嘘をついていないのか、それは死者を含めた関係者の証言によって、あきらかにされる!
名探偵・阿久津透。その性格、傲岸不遜にして冷酷非情。妥協を許さず、徹底的に犯人を追い詰める。しかし、重大な疑惑が持ちあがった。それは、彼が証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したというものだった──。(本書あらすじより)

大学で所属していた文芸サークル・新月お茶の会の後輩が、光文社の新人発掘プロジェクト、カッパ・ツー(ノベルスで行われていたカッパ・ワンを継ぐものです)でデビューしました。で、生まれたのがこちら『名探偵は嘘をつかない』。生まれて初めて新刊国内ミステリを買いましたよ、わたし。というわけでマジメに感想書きます。

舞台は近未来?の、「名探偵」が制度化された日本。名探偵・阿久津透の不正を暴くべく、現在の、そして過去の事件に遡り、史上初の探偵弾劾裁判が開廷します。

本格ミステリに求める「読書」としての楽しさって、「謎や手がかりが魅力的であること」と「ストーリーが魅力的であること」の2点があると個人的には考えているのですが、その両方を十分に満たしてくれる作品でした。個人的には満足です。ただし、良い意味でも悪い意味でも、逆転裁判リスペクトが強い作品ではあります。

前者については、過去の事件(複数)、現在の事件それぞれで工夫が凝らされていて非常に楽しいです。ゲームで証拠品を集めるかのごとく、とりあえず後で使えそうな手がかりを片っ端から読者に見せとくぜ!骨付きステーキとか!みたいなノリでざくざく伏線が張られていくので、本格ミステリを読むとき特有のモヤモヤがすごいわけですよ。謎解きのカタルシスを最後だけに持っていくのではなく、何度も推理が行われるので気持ちよく本格ミステリを楽しめます(この点、法廷ものって便利だ)。これだけのロジックをそろえるのはさぞかし大変だったろうなぁ。
それから後者については、名探偵という職業が確立し「探偵の弾劾裁判」が行われるという世界観、さらに死者の世界を巻き込んだ特殊設定ミステリとしての舞台設定によって楽しさが保証されています。というかこのへんに逆転裁判味が一番強いですね。序審法廷制度と霊媒的な。

本格ミステリとしての意外性、どんでん返しという点ではやや残念。特に2日目夜の事件の真相や、阿津川が隠そうとしていた真相については、100パーセントは無理にしても大筋が読みやすいかなと思います(後者については『逆転裁判』ですげぇ見たことあるだけになおさら)。また6つの訴訟理由、ということで使われたメインとならない2つの事件については、結局あの2人を出すためという理由くらいしかないのももったいないですね。やりたいことをやるための設定づくりが少々強引かなと。

とはいえ、ある人物との再会、フレイの再登場のところでは普通にビックリしたので、やっぱり組み立ての上手さというか、これだけの量の作者がやりたいネタを注ぎ込みながらもきちんと長編としてまとめあげたというところに一番感心します。次作も期待しています。買います。あとどこか短編で榊裁判官を主人公にしたスピンオフとか書いたりしませんかね……しないだろうな……。

書 名:名探偵は嘘をつかない(2017)
著 者:阿津川辰海
出版社:光文社
出版年:2017.06.20 初版

評価★★★★☆

『周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件』志茂田景樹

 - 2017.01.13 Fri
国内ミステリ
周ロック・ホームズ
『周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件』志茂田景樹(湘南ノベルス)

周は知人のホテルオーナー朝丘から、豪華別荘への招待状を受けとる。他の招待客は流行作家、画家など8人。事件はパーティの途中、朝丘が殺されたことから始まる。あの周さんが敢然と犯人に迫るミステリー。(本書あらすじより)

マケプレオーバー2000月間のラスト10冊目。『バーナード嬢曰く。』で紹介されたため近年知名度が上がった本ですが……こっ、これはひどい。まぁノベルスのしょうもない系の満足度とか、こんなもんだよな、うん……。

周富徳を探偵役とするミステリ、という完全に出オチのような設定なのですが、まずミステリに関してはやっぱりダメですね。登場人物をぐちゃぐちゃに動かして思いつきみたいな物理トリックを駆使して隠された血縁関係と過去の事件をよくある具合にミックスしてそこに周富徳を探偵役として放り込んだ、という、いかにもなノベルスっぽいミステリ。周富徳はまさかの素人探偵で、過去何度も事件に首を突っ込んでいて、警察官の知り合いもいて、そんな彼が滞在先の軽井沢で、地元の強情な頭かたすぎ感情的逮捕状連発警部を相手にします。つらい。どうでもいいけど、周富徳が誰とでもため口で話すっていう設定は事実なの?

いちおう周富徳が作ったトンポーローが毒殺トリックの要になっているので、周富徳である必然性がないわけではないとはいえないわけでもないこともないのですが、とはいえ周ロック・ホームズというあだ名で呼ばれることもある、ってだけでもう全部だからなぁ。ホームズも関係ないし。毒殺に使われたトンポーローをためらいなく口にした周富徳が、「このトンポーロー作ったの私じゃない。だってこんなまずいもの作らないもの」って言うシーンが一番面白かったんですけど、どうすりゃいいんですか。

というわけで表紙とあらすじの通り、期待してはいけない作品でした。同じ周ロック・ホームズなら、同時期にホリプロから出た金春智子『中華名人 周ロック・ホームズ―香港デラックス・ツアー殺人事件』の方がまだ面白い……ような予感がするけど、大差ないんでしょうね。

書 名:周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件(1996)
著 者:志茂田景樹
出版社:湘南出版センター
     湘南ノベルス
出版年:1996.07.10 初版

評価★★☆☆☆

『亡国のイージス』福井晴敏

 - 2016.12.12 Mon
国内ミステリ
亡国のイージス 上 亡国のイージス 下
『亡国のイージス』福井晴敏(講談社文庫)

在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦《いそかぜ》は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った《楯(イージス)》が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞した長編海洋冒険小説の傑作。(本書上巻あらすじより)

月イチ国内ミステリ、今回は元サークルの先輩に猛烈にオススメされた作品です。上下巻です。しかも自衛隊ものですってよ。なにそれしんどそう。
と思って読み始めたら、ただのガチの海洋冒険小説であり、要するにダイ・ハードなアクション大作でした。面白くないわけがなかった……いやー、日本の冒険小説ってすごいのね。

在日米軍基地にあった化学兵器が北朝鮮のテロリスト(北朝鮮政府とは無関係)に強奪され、日本政府とテロリストの間では緊張状態が続いていた。一方、海上自衛隊の護衛艦《いそかぜ》ではとある陰謀が進行しており、ついに乗っ取られた《いそかぜ》と日本政府の間での戦いが始まってしまう、というお話。

最初はちょっと右っぽいのかなと思いましたが、最後まで読んだらそんなことはなかったです。
展開だけ抜き出せばベタ中のベタなバディ物の激アツアクション。外部の助けが得られない中で、《いそかぜ》をテロリストから守ろうと2人の男が戦い抜きます。そこに新兵器やら北朝鮮やら自衛隊やら各種要素を盛り込み激アツストーリーを組み立てたあげく、激アツキャラクターに激アツな場面で激アツな矜持を語らせるわけです。最高かよ。
かなりの端役に至るまで数ページだけでも視点人物にしているのが上手いんだよなぁ。場面転換が非常にスムーズかつ情報提示が的確で適度に読者を焦らし、なおかつたった数ページだけでその人物の弱さと強さをしっかり見せるのがめちゃくちゃ上手いです。大量の登場人物を読者に混乱させることなく配置し動かせているのは、ひとりひとりのキャラクターをきちんと示せているからでしょう。本格的にダイ・ハードが始まるまでが結構長いんですが、これも必要十分だから仕方ないかなと。ひとりひとりのバックグラウンドやキャラクターを見せるのが絶対不可欠な小説ですし。

あと、いつも自分が冒険小説に求める最低条件、「無能な人物による窮地を作らない」を華麗にクリアしていたのですがそりゃもう当然です。死力を尽くして戦う男たちの中にヌケサクがいては困るのです。日本が大ピンチになるのも、あくまで組織の構造上の問題が原因であって、決して個人のせいではないというのが良いですね。

というわけで、いやーやっぱり冒険小説は当たればめちゃくちゃ楽しいのでした。今度は真保裕一の『ホワイトアウト』でも読もうかなぁ。絶対面白そう。

書 名:亡国のイージス(1999)
著 者:福井晴敏
出版社:講談社
     講談社文庫 ふ-59-2、3
出版年:上巻 2002.07.15 1刷
         2002.12.05 4刷
     下巻 2002.07.15 1刷
         2005.05.18 21刷

評価★★★★☆

『ずうのめ人形』澤村伊智

 - 2016.10.06 Thu
国内ミステリ
ずうのめ人形
『ずうのめ人形』澤村伊智(角川書店)

不審死を遂げたライターが遺した原稿。オカルト雑誌で働く藤間は、作中に登場する「ずうのめ人形」という都市伝説に惹かれていく。読み進めるごとに現実に現れる喪服の人形。迫り来る怪異を防ぐため、藤間は先輩である野崎に助けを求めるが――はたしてこの物語は「ホンモノ」か。迫りくる恐怖を描くノンストップエンタテインメント!(本書あらすじより)

なんと、自分が、ホラーを、しかも国産ホラーを読んだんですよ。どうなっているんですか。
いや、あんまり評判が良いし、とりあえず読めと押し付けられたこともあって読んでみたのですが、確かにこれは面白かったです(めっちゃ怖かったけど)。この作者、べらぼうにうまいし器用だなぁと。

物語は、オカルト雑誌で働く主人公が、同僚の怪死事件をきっかけに、ずうのめ人形なる都市伝説に巻き込まれていく……というものです。都市伝説か……もうこわい……。

ホラーに詳しい友人O嬢によれば、作者の澤村伊智さんは、いわば社会派ホラーとでも言うべきジャンルを作り上げたことがすごいのだそうです。1作目の『ぼぎわんが、来る』がその路線を開拓したのであり、2作目の『ずうのめ人形』はそれに加えてミステリ的などんでん返しを仕込んでいると。純粋なホラーと、どんでん返しがあるもの、どちらが良いかは好みでしょう(あるいはどちらを先に読んだかによって決まるのかも)。
それはともかく、ホラー読みというよりミステリ読みとして読んでみると、終盤の手記から明かされる事実は、一部だけなら伏線が張られているせいで気付けないこともないのですが、そんなものどんでん返しのほんの序盤に過ぎません。登場人物すべてがきれいに収まるべきところに収まる真相とラストの豪快な畳みっぷりには唸ります。本当に上手い……。
(でも例のトリックについては、若干ノイズだったかなという気がしないでもないです。他で十分驚かせられているんだし)。

主人公、話の整理役、さらに探偵役を配置することによる謎解きというか真相の組み立て方、および明かし方自体もよく出来ているのに、これに都市伝説というホラー要素を様々な角度からねじ込んでくるので、単純にエンタメとして最高です。怪異もあるけど、それ以上に人間が怖いぞ。手記パートがしんどいぞ。あと作者がホラー老害を心の底から憎み嫌っていることがよく分かるぞ。それとやっぱり高層マンションについては笑っちゃうしかないぞ。

というわけで、帯に書かれている有川浩さんの言葉が何よりピッタリですね。「リーダビリティが凄い。ホラーの皮をかぶった正統はエンタメ」。おすすめです。

書 名:ずうのめ人形(2016)
著 者:澤村伊智
出版社:角川書店
出版年:2016.07.31 初版

評価★★★★☆

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クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の社会人5年目が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から11年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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