周ロック・ホームズ
『周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件』志茂田景樹(湘南ノベルス)

周は知人のホテルオーナー朝丘から、豪華別荘への招待状を受けとる。他の招待客は流行作家、画家など8人。事件はパーティの途中、朝丘が殺されたことから始まる。あの周さんが敢然と犯人に迫るミステリー。(本書あらすじより)

マケプレオーバー2000月間のラスト10冊目。『バーナード嬢曰く。』で紹介されたため近年知名度が上がった本ですが……こっ、これはひどい。まぁノベルスのしょうもない系の満足度とか、こんなもんだよな、うん……。

周富徳を探偵役とするミステリ、という完全に出オチのような設定なのですが、まずミステリに関してはやっぱりダメですね。登場人物をぐちゃぐちゃに動かして思いつきみたいな物理トリックを駆使して隠された血縁関係と過去の事件をよくある具合にミックスしてそこに周富徳を探偵役として放り込んだ、という、いかにもなノベルスっぽいミステリ。周富徳はまさかの素人探偵で、過去何度も事件に首を突っ込んでいて、警察官の知り合いもいて、そんな彼が滞在先の軽井沢で、地元の強情な頭かたすぎ感情的逮捕状連発警部を相手にします。つらい。どうでもいいけど、周富徳が誰とでもため口で話すっていう設定は事実なの?

いちおう周富徳が作ったトンポーローが毒殺トリックの要になっているので、周富徳である必然性がないわけではないとはいえないわけでもないこともないのですが、とはいえ周ロック・ホームズというあだ名で呼ばれることもある、ってだけでもう全部だからなぁ。ホームズも関係ないし。毒殺に使われたトンポーローをためらいなく口にした周富徳が、「このトンポーロー作ったの私じゃない。だってこんなまずいもの作らないもの」って言うシーンが一番面白かったんですけど、どうすりゃいいんですか。

というわけで表紙とあらすじの通り、期待してはいけない作品でした。同じ周ロック・ホームズなら、同時期にホリプロから出た金春智子『中華名人 周ロック・ホームズ―香港デラックス・ツアー殺人事件』の方がまだ面白い……ような予感がするけど、大差ないんでしょうね。

書 名:周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件(1996)
著 者:志茂田景樹
出版社:湘南出版センター
     湘南ノベルス
出版年:1996.07.10 初版

評価★★☆☆☆
スポンサーサイト
亡国のイージス 上 亡国のイージス 下
『亡国のイージス』福井晴敏(講談社文庫)

在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦《いそかぜ》は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った《楯(イージス)》が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞した長編海洋冒険小説の傑作。(本書上巻あらすじより)

月イチ国内ミステリ、今回は元サークルの先輩に猛烈にオススメされた作品です。上下巻です。しかも自衛隊ものですってよ。なにそれしんどそう。
と思って読み始めたら、ただのガチの海洋冒険小説であり、要するにダイ・ハードなアクション大作でした。面白くないわけがなかった……いやー、日本の冒険小説ってすごいのね。

在日米軍基地にあった化学兵器が北朝鮮のテロリスト(北朝鮮政府とは無関係)に強奪され、日本政府とテロリストの間では緊張状態が続いていた。一方、海上自衛隊の護衛艦《いそかぜ》ではとある陰謀が進行しており、ついに乗っ取られた《いそかぜ》と日本政府の間での戦いが始まってしまう、というお話。

最初はちょっと右っぽいのかなと思いましたが、最後まで読んだらそんなことはなかったです。
展開だけ抜き出せばベタ中のベタなバディ物の激アツアクション。外部の助けが得られない中で、《いそかぜ》をテロリストから守ろうと2人の男が戦い抜きます。そこに新兵器やら北朝鮮やら自衛隊やら各種要素を盛り込み激アツストーリーを組み立てたあげく、激アツキャラクターに激アツな場面で激アツな矜持を語らせるわけです。最高かよ。
かなりの端役に至るまで数ページだけでも視点人物にしているのが上手いんだよなぁ。場面転換が非常にスムーズかつ情報提示が的確で適度に読者を焦らし、なおかつたった数ページだけでその人物の弱さと強さをしっかり見せるのがめちゃくちゃ上手いです。大量の登場人物を読者に混乱させることなく配置し動かせているのは、ひとりひとりのキャラクターをきちんと示せているからでしょう。本格的にダイ・ハードが始まるまでが結構長いんですが、これも必要十分だから仕方ないかなと。ひとりひとりのバックグラウンドやキャラクターを見せるのが絶対不可欠な小説ですし。

あと、いつも自分が冒険小説に求める最低条件、「無能な人物による窮地を作らない」を華麗にクリアしていたのですがそりゃもう当然です。死力を尽くして戦う男たちの中にヌケサクがいては困るのです。日本が大ピンチになるのも、あくまで組織の構造上の問題が原因であって、決して個人のせいではないというのが良いですね。

というわけで、いやーやっぱり冒険小説は当たればめちゃくちゃ楽しいのでした。今度は真保裕一の『ホワイトアウト』でも読もうかなぁ。絶対面白そう。

書 名:亡国のイージス(1999)
著 者:福井晴敏
出版社:講談社
     講談社文庫 ふ-59-2、3
出版年:上巻 2002.07.15 1刷
         2002.12.05 4刷
     下巻 2002.07.15 1刷
         2005.05.18 21刷

評価★★★★☆
ずうのめ人形
『ずうのめ人形』澤村伊智(角川書店)

不審死を遂げたライターが遺した原稿。オカルト雑誌で働く藤間は、作中に登場する「ずうのめ人形」という都市伝説に惹かれていく。読み進めるごとに現実に現れる喪服の人形。迫り来る怪異を防ぐため、藤間は先輩である野崎に助けを求めるが――はたしてこの物語は「ホンモノ」か。迫りくる恐怖を描くノンストップエンタテインメント!(本書あらすじより)

なんと、自分が、ホラーを、しかも国産ホラーを読んだんですよ。どうなっているんですか。
いや、あんまり評判が良いし、とりあえず読めと押し付けられたこともあって読んでみたのですが、確かにこれは面白かったです(めっちゃ怖かったけど)。この作者、べらぼうにうまいし器用だなぁと。

物語は、オカルト雑誌で働く主人公が、同僚の怪死事件をきっかけに、ずうのめ人形なる都市伝説に巻き込まれていく……というものです。都市伝説か……もうこわい……。

ホラーに詳しい友人O嬢によれば、作者の澤村伊智さんは、いわば社会派ホラーとでも言うべきジャンルを作り上げたことがすごいのだそうです。1作目の『ぼぎわんが、来る』がその路線を開拓したのであり、2作目の『ずうのめ人形』はそれに加えてミステリ的などんでん返しを仕込んでいると。純粋なホラーと、どんでん返しがあるもの、どちらが良いかは好みでしょう(あるいはどちらを先に読んだかによって決まるのかも)。
それはともかく、ホラー読みというよりミステリ読みとして読んでみると、終盤の手記から明かされる事実は、一部だけなら伏線が張られているせいで気付けないこともないのですが、そんなものどんでん返しのほんの序盤に過ぎません。登場人物すべてがきれいに収まるべきところに収まる真相とラストの豪快な畳みっぷりには唸ります。本当に上手い……。
(でも例のトリックについては、若干ノイズだったかなという気がしないでもないです。他で十分驚かせられているんだし)。

主人公、話の整理役、さらに探偵役を配置することによる謎解きというか真相の組み立て方、および明かし方自体もよく出来ているのに、これに都市伝説というホラー要素を様々な角度からねじ込んでくるので、単純にエンタメとして最高です。怪異もあるけど、それ以上に人間が怖いぞ。手記パートがしんどいぞ。あと作者がホラー老害を心の底から憎み嫌っていることがよく分かるぞ。それとやっぱり高層マンションについては笑っちゃうしかないぞ。

というわけで、帯に書かれている有川浩さんの言葉が何よりピッタリですね。「リーダビリティが凄い。ホラーの皮をかぶった正統はエンタメ」。おすすめです。

書 名:ずうのめ人形(2016)
著 者:澤村伊智
出版社:角川書店
出版年:2016.07.31 初版

評価★★★★☆
獄門島
『獄門島』横溝正史(角川文庫)

獄門島――江戸三百年を通じて流刑の地とされてきたこの島へ金田一耕助が渡ったのは、復員船の中で死んだ戦友、鬼頭千万太に遺言を託されたためであった。『三人の妹たちが殺される……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ……』瀬戸内海に浮かぶ小島で網元として君臨する鬼頭家を訪れた金田一は、美しいが、どこか尋常でない三姉妹に会った。だが、その後、遺言通り悪夢のような連続殺人事件が! 後世の推理作家に多大な影響を与え、今なお燦然と輝く、ミステリーの金字塔!!(本書あらすじより、一部削除)

今月の月イチ国内ミステリは、横溝正史です。
ついに、ついにですよ、横溝正史を読む時が来たのです! 記念すべき一冊目は『獄門島』! 『東西ミステリー・ベスト100』で1位に輝いた作品だぜひゃっはー!!
いざ読んで、なるほどなぁ、懐かしいなぁ、という感じです。めちゃくちゃキッチリカッチリしたシチュエーション物正統派本格ミステリに、戦後日本という舞台背景を完璧に融合させると、こういうシロモノが誕生するのかと。大変楽しめました。

時は1946年(発表時期は1947~1948年)、瀬戸内海の島における、見立てを用いた三姉妹連続殺人事件を、その島を訪問していた金田一耕助が解決する、というものです。金田一耕助シリーズとしては長編2作目に当たります。

というわけで、島! 対立する本家と分家! しばらく島を離れている息子! 座敷牢! 三姉妹! 見立て!と、めちゃくちゃスタンダードな本格ミステリっぽさに満ち溢れた作品なのですが、そもそもこれを読んで「スタンダード」だ、となぜ自分が感じるのかを突き詰めて考えると、これはもう完全にマンガ『金田一少年の事件簿』の影響なわけですよ。ついに本元を読んだのかと。こういう小説を中学生のうちに読んでいたら、さぞ直球中の直球で刺さったんだろうなぁと思うわけです。
また、中学生のころ自分が一番はまっていたのはアガサ・クリスティーでした。雰囲気もトリックも犯人も全然違うというのは分かった上で言うんですが、これまで読んだ国内ミステリの中でも一番クリスティーっぽさを感じたのです。「スタンダード」な本格ミステリって、こういうのだよね、という感覚を自分に植え付けた二大要素と、見事にシンクロするわけですから、そりゃあ楽しいわけです。シチュエーション本格最高!

謎解きとかトリックとは違う話を続けますと、こんなこと言うと失礼ですが、文章や光景がすごく頭に入って来やすくって、通俗小説として単純に上手いんです。図や絵が一切なくても、島の中の寺と家の配置だとか、鐘の仕組みだとか、なんとなく伝わりますし、ある程度伝われば十分なように書かれています。アリバイとか時間もそうですね、ちょこちょこタイムテーブルも出ますが、なんとなく読んでいれば状況は分かります。このへんのバランスって、案外難しいんじゃないかなと。

見立てについては、割愛しましたがもはやあらすじで書かれてしまっているくらいには読者はすぐに気付くので、金田一耕助が気付くまでに時間がかかりすぎかなと思います。ただし、真相に到達できるかというと、ある意味で大がかりな仕掛けを見抜くことは非常に困難でしょう。本家とか分家とか家制度とか戦後日本とかの要素が見事に合わさっており、海外ミステリの黄金時代の作品群を継ぎつつ、それらとは明らかに違う、日本ならではの黄金時代の作品、という印象を受けました。

いやー、予想通りかなり面白かったですね。新本格なんか一切気にせず黄金時代フォロワーの昭和本格勢だけ読んでいた方が幸せなのではないか、ということがまた確かめられてしまいました。ははは。

書 名:獄門島(1947~1948)
著 者:横溝正史
出版社:角川書店
     角川文庫 よ5-3
出版年:1971.03.30 初版
     1996.09.25 改版初版
     2009.04.15 改版32版

評価★★★★☆
第三の女(夏樹静子)
『第三の女』夏樹静子(光文社文庫)

晩秋のパリ郊外。時ならぬ嵐で雷鳴が轟き、バルビゾン村の古びた小さなホテルで停電となった。冥暗の中で、偶然出会った日本人の男女が過ごした夢のような時間。そして、誰にも明かすことのできない黙契が因で起きる動機なき連続殺人事件が、福岡につづき、箱根で。容疑者には完璧なアリバイが……。美しくも哀しい愛の行方。フランス犯罪小説大賞受賞作。(本書あらすじより)

今月の月イチ国内ミステリは、今年の3月にお亡くなりになった夏樹静子です。どれを読もうか迷ったのですが、後輩にすすめられた『第三の女』にしました。クリスティーじゃないのよ。
フランス犯罪小説大賞受賞作ということですが、いや確かにこれはフランス人が好きそうなタイプの作品。程よい分量でがんがん読ませ、幻想的でロマンティックな雰囲気もまぜながら、意外なオチを持ってくるという、とんでもない作品です。いやすごい。すごいけどエグい。俺はこういうラストがひっじょーーーに苦手なんだ……。

基本的には倒叙&交換殺人物です。縁もゆかりもない2人の男女が、お互いの殺したい人間を殺す、というだけ。そこに、視点人物である男の、女と接触することなく殺人を計画・実行しかつ女に近付きたいという悩み、さらに警察側の捜査が交互に描かれ、事件はクライマックスにたどり着くのです。

冒頭の男女の出会いの描写が幻想的で、物語は最後までどこか浮世離れしたロマンスであり続けるため、サスペンスでありながら一風変わった恋愛小説のようですらあります。昭和のミステリ作家はみんな小説が上手いね……まず読ませるし。
真相、というかどんでん返しについては、かなりゆっくりと迫っていくため、読者にもピンと来る人が多いでしょう。シンプルな騙しですが、この一点が殺人を計画した男女の心理描写と結びついて、大変味わい深いものになっています。

というわけで本当に上手いんですが、もうこれはあれです、完全に個人的な好みですが、自分は手遅れ感のあるラストと、誤解されて終わるラストがどちらも心底苦手なのです(でもたいていそういう作品はぐうの音も出ない傑作だったりするから困る)。つらい倒叙って警察が迫ってきてからが本当につらいんですよ。真相ではなく、警察の結論部分がもうぐぇぇですけど、うぅ、でもこれは評価せざるを得ない……。
何にせよ、非常に完成度の高い作品でした。夏樹静子、また読んでみたいですね。


書 名:第三の女(1978)
著 者:夏樹静子
出版社:光文社
     光文社文庫 な-1-26
出版年:2007.05.20 初版

評価★★★★☆
くノ一忍法帖
『くノ一忍法帖』山田風太郎(講談社ノベルスSPECIAL)

大坂城落城前夜、救出された千姫とその侍女たち。智将真田幸村はその中に秀頼の胤を身籠る五人の女忍者を潜ませていた。「子が生まれる前に始末せよ」家康の密命が伊賀忍者に下った。子を宿しながら迎え討つ、くノ一五人衆に危機迫る!(本書あらすじより)

月イチ国内ミステリ、今月はついに山田風太郎です。ぶっちゃけ忍法帖シリーズってミステリに入るのか?というとアレですが、いいんです、冒険・伝奇小説なんです。あと読みたかったんです。例によって初読作家。
山田風太郎は1990年代以降再評価が続いており、様々な出版社から同一の本が出ているという今や超豪華な時代なわけですが、とりあえず今回は講談社ノベルスの、山田風太郎傑作忍法帖シリーズから4作目のこちら(カバーを外すとまっ金金なのすごい)。舞台は江戸時代初期のまだ徳川家康が大御所として頑張っていた時代、豊臣の子をくノ一5人に宿させた家康の孫・千姫が、家康とその抱える伊賀忍者5名と敵対します。

……ってな感じで、基本的には家康 vs 千姫、そして男伊賀忍者5名 vs くノ一信濃忍者5名、という男 vs 女の様相を呈してくるのです。だからもう登場する忍法もエロいのばっかりですよ。精液をぶっかけて催眠状態にしたり、精液をとりもちのように使ったり、逆に精液を搾り取って殺したりするんですよ。すげぇ。NARUTOのシカマルが使いそうな忍術とか普通に出てくるし。
おまけに、言ってしまえばこんなにエロくだらない話なのに、普通に話に引き込まれるし、登場人物になぜか肩入れしてしまうし、気付けば歴史超大作だしで、うわぁ山風やばいっすね。奇想だ、奇想に満ちあふれているぞ。ぶっちゃけ徳川側の伊賀忍者たちが負けまくっているくせに変に図に乗っているせいで、徳川側を応援する気に全くなれず、思いっきり悪女である千姫側を応援したくなってしまうのです。良い人とかいないんですけどね、そもそも。

そして忍法帖は基本的につらい、と聞いていましたが、確かに最終的に全員死んでしまうのでした。なんてこった。ただ、ラストのオチがすさまじく秀逸。古典などの歴史物にありがちな補足が、ここまで説得力を持って語られるとなぜか感動します。いやそりゃ嘘なんでしょうけど、そこまで引き込む山風がすごいのです。

というわけで、やっぱり楽しめました。山風、ミステリも結構ランキングに入ったりしているので、そちらにも手を出したいという気持ちはあるのですが、忍法帖面白いですね……。

書 名:くノ一忍法帖(1961)
著 者:山田風太郎
出版社:講談社
     講談社ノベルスSPECIAL 山田風太郎傑作忍法帖 ヤK-12
出版年:1994.08.15 1刷

評価★★★★☆
死角に消えた殺人者
『死角に消えた殺人者』天藤真(創元推理文庫)

帰らない母を案じて眠れぬ一夜を明かした塩月令子は、後ろ髪引かれる思いで出社し針谷警部から凶報を受ける。駆けつけた千葉県銚子の霊安室で令子を待っていたのは、変わり果てた姿で横たわる母と耳を掩いたくなるような事実だった。その朝、屏風浦で数十メートルの断崖から海に落ちた車が見つかり、同乗四名の遺体が収容された。その一人が外ならぬ母であり、現場の状況から単なる事故ではなく謀殺に違いないというのである。懸命の捜査にも拘らず被害者間の交友関係は確認できず、容疑者はおろか動機すら判然としない。いったい誰が、何のために? 令子は自力で真相を追うが……。(本書あらすじより)

月一国内ミステリです。今回は何年も前に傑作『大誘拐』を読んだっきりの天藤真。とあるサイトで『死角に消えた殺人者』を非常におすすめされたので、4年前に高松の紀伊国屋で購入したのでした。
と、かなり期待して読み始めたのですが、うーんなんでしょう、すごく微妙でした。真相が結局たまたまで色々処理されているのも気になるし、作者の狙い通りとは言え主人公の語りがややウザすぎだし、あとロマンス的に分かっちゃうのももったいないし。そもそも読んでいてあんまり面白くなかったのです。

事件は発端は4人の無関係な人たちの死体が銚子の崖から落ちた車の中で見つかる、という、めちゃくちゃ謎に満ちた魅力的なものです。被害者がなぜ銚子に集まっていたのかといった謎など調べていくうちにある程度落ち着きはしますが、それでも事件の全貌がまるで分からないという点でホワイダニット的にかなり読者をひきつける作品だと思います。実際、動機やミッシングリンクを探る部分はかなり面白かったと言えます。
問題は結局、この最後の真相が全く納得できないものだった、ということなんですよね。いやマジでそういう理由でこんなことしちゃったのかと。ミッシングリンクとかで読者を引っ張っておいてこれはないだろうと。まぁ自分があんまりホワイダニットに魅力を感じないというのもあるとは思いますが、それでもさぁ……。また物語の構成的に、前半・中盤と、それ以降のパートにあまりつながりがないのもやや気になるところではあります。こんなに長くする必要はなかったんじゃないかなと。

さらに一番の難点ですが、話や文章自体は読みやすいのに、主人公の女の子がウザくてなかなか読み進められないというのもあります。単純に古い価値観だからとかじゃなく(それもあるでしょうけど)、こう、あまりにバカっぽいし、流されまくってるし。このことが読者へのだましにもなっているので一概に文句は言えませんが、でもこれのせいで自分読み終わるのに一週間もかかりましたからね。だってしんどくないですか。

というわけで、うーんやっぱりだめだ、あんまり合わなかったのかなぁ。天藤真、他にいくらでも代表作があることですし、もうちょっと読みたいなとはずっと思っているのですが。

書 名:死角に消えた殺人者(1976)
著 者:天藤真
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mて-1-8
出版年:2000.05.19 初版

評価★★☆☆☆
SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦
『SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦』梶龍雄(ジャガーバックス)

科学空想小説(SF)は、うその世界を書いたものではない。今は、私たちの知識で想像した頭の中の世界だが、何年か後には必ず目の前にあらわれる世界なのだ。この本には、あなたたちの科学知識で推理できる、楽しいSFクイズが出ている。さあ、頭をひねってみたまえ。(著者のことばより)

以前安く手に入れたこの本を、この度手放すことになったので、その前にささっと読みました。感想もあっさり目に。
梶龍雄は『透明な季節』を発表する前には、児童向け翻訳や、このような児童向け書籍の執筆を行っていました。この作品は、まぁタイトル通りなのですが、1~2ページほどの長さのイラスト付きショートSFクイズがひたすら出題されるクイズ本となっています。

全体的には絵本なのでしょう。小説風からパズル的なもの、犯人当てのマンガまでとそのクイズの見せ方もかなり多種多様。ちゃんと「SFクイズ」ばかりであったことに一番驚きました(地球と月との重力差を利用したクイズとか)。SFというより宇宙関係のものが多めかな。
単純にパズルっぽい問題もありますが、半分くらいは理系クイズ的なもので、これ小学生わかんないだろみたいな容赦のないものすらあるので油断なりません。クイズの出来は良いです。マンガは絵の中にヒントがあったりと色々試されているので、解きがいもあるし。児童向けですが、手を抜いていない、きちんとした作品かなと思います。


書 名:SFクイズ 名探偵宇宙に挑戦(1974)
著 者:梶龍雄
出版社:立風書房
     ジャガーバックス
出版年:1974.04.20 初版

評価★★★☆☆
針の誘い
『針の誘い』土屋隆夫(角川文庫)

「いない……ミチルちゃんがいないんです」路地から飛び出してきた女はそう言った。誘拐した犯人は身代金を要求。しかし、指定の場所で殺人事件が起きてしまう。目撃者までいるというのに、犯人像が浮かび上がってこない――! トリック、意外性、論理性、独創性、そして文学性に溢れた傑作本格推理小説。(本書あらすじ改変)

誰が殺されるのか、は別にネタバレってほどでもないと思うんですが、一応あらすじをいじって分からないようにしておきました。あと表紙は自分が読んだ角川文庫版はもっと古いやつなんですけど、ネットで見つからなかったのでこれにしてあります。
恒例の月イチ国内ミステリです。今回は土屋隆夫の、千草検事シリーズ第1作。もはや全然新本格読まなくなっちゃってますね。もちろん初読作家です。
誘拐事件自体は派手なのに、全体としては超堅実な捜査&アリバイ崩しであるところが面白かったです。犯人の意外性はかなり捨てられている分、そこに至るまでの推理のスクラップアンドビルドが魅力的。それにしても国内ミステリは誘拐ものが得意ですねー。海外よりも圧倒的に多い気がします。

たまたま誘拐事件勃発現場に居合わせた千草検事。製菓会社社長の娘を誘拐した犯人は、母親を身代金取引に来させるよう指示する。千草検事らの努力もむなしく、ついに殺人事件へと発展してしまう。

誘拐事件からの不可能状況殺人事件という豪華な展開。事件現場周辺に胡散臭い人物がめっちゃうろちょろしており、ダミー推理が連発されます。最終的に出た真相がそこまでの推理に勝てないのはまぁご愛嬌というか、推理のスクラップアンドビルド型が往々にして抱えている欠点なので仕方ないのですが、既存のトリックをアリバイ崩しや誘拐事件に絡めたところが上手いと思います。
あと、特筆すべきは動機でしょう。既視感はありますが、もしかしてすごい斬新だったのでは? 斬新ですが、これを成り立たせるために犯人が大変ヒドい人物になってしまい、そこでこのヒドさを和らげるために色々追加したんじゃないかな、と予想します。
それと、これは個人的な好みですが、1970年発表というだけあって雅樹ちゃん誘拐殺人事件やら大学占拠やら作品発表時の(というよりそれよりちょっと前の)出来事がぽんぽん出て来るの、実に昭和ミステリって感じでいいですね。普段あまり読まないので新鮮です。

というわけで、手堅くまとまった一冊でした。もしかしてクロフツっぽいのかなぁ。

書 名:針の誘い(1970)
著 者:土屋隆夫
出版社:角川書店
     角川文庫 緑406-9
出版年:1977.05.20 初版
     1979.06.30 4版

評価★★★★☆
時の誘拐
『時の誘拐』芦辺拓(講談社文庫)

名探偵、大阪を翔ける 本格推理の到達点! 府知事候補の娘樹里が誘拐された。身代金運搬に指名されたのは全く無関係の青年阿月。だが大阪の都市構造を熟知した犯人の誘導で金を奪われ疑いの目は阿月自身に。彼の汚名をすすぐべく乗り出す素人探偵森江だが、捜査の先には戦後の大阪で起きた怪事件の謎が!? 過去と現在が交錯する著者屈指の傑作長編。(本書あらすじより)

はい、というわけで毎月恒例月イチ国内ミステリのお時間です。今回は芦辺拓……以前『スチームオペラ』のみ読んだことがあります。森江春策シリーズを読むのは初めてですね。素人探偵だと思ってたら弁護士でした。
全体的に悪くはなく、というか結構な作品だと思うんですが、あんまり好きになれずどこかもやっとするのはなぜなんでしょう……力作だし、良作ではあると思います。

物語は、府知事候補の娘誘拐事件という現在の軸と、戦後大阪の連続殺人事件という過去の軸のふたつに大きく分かれています。前半は主に身代金受け渡し、中盤は過去パート、後半は誘拐事件の捜査パートとなります。
身代金受け渡しネタはよかったですね。あそこは終始楽しく読めました。あっと驚く身代金奪取方法など、非常に練られた誘拐計画であると思います。
また個々の事件のトリックもなかなかで、そのトリックをあえて使い回すことで過去から現在を繋いでいるのもなかなか面白い趣向です。過去パートの連続殺人事件のトリックが特に優れていましたね。アリバイ崩しから不可能犯罪までてんこ盛り。また過去パートは都市モノというか、読み物としての面白さが際立っており、連続殺人事件自体が大変激アツです(めっちゃ調べたんだろうなぁ)。たたき上げの警部と熱意あふれる新聞記者という組み合わせが楽しいです。

ただ、過去と現在の繋がりを盛んに提示するわりにあんまり結びつかずに終わったところはマイナスポイント。色々と詰め込みまくっていることは評価しますが、詰め込んだだけ、という印象があります。またある人物についてモヤモヤさせるのも嫌いかな……あんまりこうすることの意味がないし。ただ、読んでいて一番合わないなと思ったのは、全体的に作者の主張というか考えが色濃く出すぎていて、しんどいところな気がします。個人的には作者の考えには賛同なんですが、あんまり読書中にそういう政治色出されるとうざったい……。

誘拐事件の顛末を描いた終盤がやや尻すぼみということもあり(前半、中盤の方がはるかに面白い)、全体として見るとまぁそこそこ、くらいに留まってしまう惜しい作品でした。あちこちで絶賛されているのをよく聞きますし、納得はできますが、なんかこうこれといって大好きな要素もないのがつらい。姉妹編の『時の密室』を読むかは未定ということで。

書 名:時の誘拐(1996)
著 者:芦辺拓
出版社:講談社
     講談社文庫 あ-78-4
出版年:2004.03.15 1刷

評価★★★☆☆