ラスキン・テラスの亡霊
『ラスキン・テラスの亡霊』ハリー・カーマイケル(論創海外ミステリ)

不幸な事故か? それとも巧妙な殺人か? 謎めいた服毒死から始まる悲劇の連鎖に翻弄されるクイン&パイパーの名コンビ。ハリー・カーマイケル、待望の長編邦訳第2弾!(本書あらすじより)

おととし『リモート・コントロール』で地味of地味英国ミステリ in 1950-70sの神髄、みたいな登場をしたハリー・カーマイケル。待望の邦訳2作目です。『リモート・コントロール』は1970年の作品で大きめのトリックが仕掛けられた円熟期の作品、という感じでしたが、今回はなんとシリーズ3作目にあたります。
トリックや話の内容上仕方がないとはいえ『リモート・コントロール』みたいなキレはないし、初期作らしく説明がバタバタしていて詰め込んでいる割にややぐだっているし、とアラばっかり目立つのですが、やはり嫌いではありません。こういうのに弱いんだよなぁ……地味だけど……。

スリラー作家クリストファー・ペインの妻エスターが毒物の摂取により死亡します。自殺かと思われましたが、エスターはかなりの悪女だったようで、周囲には浮気が入り乱れ、エスターを憎む人物ばかり。パイパーが調査をしていくと事件は新たな局面を迎えるのですが……。

『リモート・コントロール』は陰鬱で捻くれ野郎の新聞記者クィンによる鬱屈した文章が魅力的でしたが、今回の視点人物であるバイパーは全然毛色が異なり、感傷的な保険会社調査員です。『リモート・コントロール』と読み比べてみると、バイパーから見たクィンの印象が大きく違うため面白いかもしれません。ただクィンの一人称がとにかく陰鬱でクセがあった『リモート・コントロール』とは異なり、今回はコンビ物としてだいぶ正統派なので全体的におとなしいです。容疑者の一人に好意を持ってしまうちょっとロマンティックな調査員と、口の悪い新聞記者の相棒、という。
エキセントリックな作家、美人すぎる受付嬢、浮気する医者……と恋愛関係愛憎関係入り乱れた登場人物鉄壁の布陣です。容疑者数としてはかなり少なくいろいろと詰め込むことで話をしっかり作ろうとしているのですが、ある程度は主人公のインタビュー巡業に留まってしまっており、やや中だるみ気味なのがもったいないです。

また本格ミステリとしてですが、結末のインパクトは悪くないだけに、見せ方や持っていき方がもったいないなぁと思いました。色々とうっちゃったままエンディングを迎えたような気がして居心地が悪いのです。もっと絞ってまとめた方が格段に面白くなると思いますが、3作目ということで色々要素を入れたかったんでしょうね。「ラスキン・テラスの亡霊=被害者エスター・ペイン」というテーマ自体は悪くなかったので、これをもっと強調して軸にしてもよかったのかな。

というわけで高評価は与えられないのですが、やはりハリー・カーマイケル、どこか期待してしまう作家です。ディヴァインと似ているようで、また違うタイプの英国本格ミステリですね。邦訳3作目に期待したいところです。

原 題:Deadly Night-Cap(1953)
書 名:ラスキン・テラスの亡霊
著 者:ハリー・カーマイケル Harry Carmichael
訳 者:板垣節子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 188
出版年:2017.02.28 初版

評価★★★☆☆
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リモート・コントロール
『リモート・コントロール』ハリー・カーマイケル(論創海外ミステリ)

D・M・ディヴァインを凌駕する英国の本格派作家。新時代の巨匠ハリー・カーマイケル、満を持しての日本初紹介!男女関係という“千古不易の謎”にクイン&パイパーの名コンビが迫る。(本書あらすじより)

D・M・ディヴァインと同時代の、じみ~な英国本格ミステリ作家の初紹介作品です。M.K.氏による名同人作品『ある中毒者の告白』(未訳ミステリレビュー本)くらいでしか紹介されていないというハリー・カーマイケルですが、実は80作品くらい書いているようです(なんで紹介されてなかったんだ?)。これ絶対好きですよと言われて読んでみたんですが、なるほどね……これは確かに俺が好きなやつだ……。
交通事故死という見た目は派手ながら結局地味すぎる事件を発端に、自殺なのか?みたいなこれまた地味な事件を重ねつつ、往年の黄金時代っぽいトリックを炸裂させます。ツッコミどころは多々あるし、はっきり言ってディヴァインの全作品より下だと思いますが、いやーいいよー、俺はこういう作家を待っていたんだよ、どんどん出してください。

新聞記者クインは、酒場の飲み友達パイパーの起こした交通事故事件になぜか巻き込まれることに。ついに起こった死亡事件で容疑者とされてしまったクインは、友人である保険調査員パイパーに協力を頼み、疑いを晴らすため真相を調べようとするが……。

このクインのキャラがいいのです。疎遠になってしまった友人からご飯に誘ってもらいたいなー、でも彼は結婚するしめんどくさいんだろうなー、あー俺は孤独だなー、って最後までぼやいているんですよなにこの人。しかもその友人ってもう30作くらい共演してるシリーズ仲間なのに。ロスマクっぽい、とカーマイケル作品が形容される理由がたぶんこのクインさんですね。

メイントリックは予想範囲内で、分かっちゃう人も多いでしょう。これを成立させるため犯人が仕掛けたもう一つのトリックはああなるほどねと感心しますが、これだけだったら相当小粒なミステリどまりだったはず。いや実際小粒ですが。
(……というか、よく考えたら真相の明かし方が独特で、トリック明かす前からかなり小出しに読者に情報をばんばん明かしていくんですけど、これはなぜなのかな……タイトルも含めてあんまりこの点でサプライズを仕掛ける気がなかったんでしょうか。よく分かりません。)
けど、その真相の暴き方が、死んだ女性の死ぬ直前の心理状態を推理していく、という流れから綺麗につながっているのがいいのです。彼女は果たして自殺したがっていたのか?という疑問が、複数の矛盾し合う証言からするすると解けていきます。うわっすごいマジメな作風。

240ページという分量の丁度良さや、読み進めやすく雰囲気全体から英国現代本格らしさが漂ってくるところといい、かなり好み。次は大きなトリックのない、さらに小粒な作品が読みやいのでぜひぜひ紹介をお願いします論創社さん。

書 名:リモート・コントロール(1970)
著 者:ハリー・カーマイケル
訳 者:藤盛千夏
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 151
出版年:2015.07.30 初版

評価★★★★☆