剣闘士に薔薇を
『剣闘士に薔薇を』ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ(国書刊行会)

紀元45年のローマ。死闘が繰りひろげられる闘技場で、満員の観衆が見守るなか、勝利を目前にした無敵の剣闘士ケリドンが謎の死をとげた。貴族席でこれを見ていたアウレリウスは、翌日、皇帝からその死の真相をつきとめるよう依頼される。勝敗には貴族から平民まで多くの人間が膨大な金を賭けており、誰の目にも不可解なこの死の謎を放置しておけば皇帝に対する不満が生じかねないのだ。アウレリスは腹心の秘書カストルを従え、捜査を開始するが……。(本書あらすじより)

なんと国書刊行会から、イタリア人作家による古代ローマを舞台にしたミステリが登場です。いいぞー、こういう新しいのはどんどん出してほしいです。イタリア発歴史ミステリとか日本ではウンベルト・エーコくらい……? そもそもイタリアミステリ自体がほぼ訳されていません。古代ローマを舞台にしたミステリということであれば、リンゼイ・デイヴィスの密偵ファルコシリーズなどもありますよね(これあんまり評判を聞かないんですけど、面白いよ!という方がいればコメントで教えてください)。
古代ローマ帝国の元老院議員アウレリウスと、その秘書カストルを探偵役とするシリーズだそうで、かなりの数が書かれています。どこにも書かれていませんが、実は本書、『剣闘士に薔薇を』という長編に加え、「イシス女神の謎」という中編も併録されています。

で、読んでみた感想なんですが……歴史ミステリとしての面白さが存分にあるのは理解できますが、延々と聞き込みを続け、登場人物が脈絡もなく出たり引っ込んだりして、だらっだらと展開するのがややつらいように思います。表題作の長編については、終盤あれだけ盛り上げられたんだから、もっと引き締めて欲しかったですねー。

『剣闘士に薔薇を』は、剣闘士殺人事件を描いており、まさに古代ローマならではの事件を、キャラ物としての面白さを加えて書いているので、それなりに面白くはあります。歴史ミステリって、まずその時代をちゃんと書くことと、その時代ならではの事件を扱うことと、その時代ならではの真相なり解決なりを織り交ぜることが大事だと思うのですが、その点かなりの水準を満たしているので、「古代ローマ」というワードに反応する人はぜひ読んでみるといいのではないでしょうか。ローマの風俗はしっかり描かれていますし、円形闘技場の様子なんかも非常に詳しく勉強になります。クラウディウス帝が好きな人なんかは特におすすめです。主人公のアウレリウスは、宮廷で味方のいない博識な皇帝クラウディウスに大昔エトルリア語を教わった間柄なんですよ(とかそういうエピソードを練り込むからにはもっと使いまわせばいいのに)。
事件→聞き込みを3回くらい繰り返し(特にそれ以外ない)、ラスト暴動を起こして盛り上げ(ここは面白い)、降ってわいた証拠でうまいこと収拾つけて終わり、っていう感じなのはちょっと。もちっとプロット練って欲しいかなー。かなり本格ミステリであることを意識させる展開になっているだけに、それなりのレベルを要求したくなっちゃいます。

「イシス女神の謎」はエジプト風宗教組織での殺人事件を扱ったもので、やはり古代ローマならでは、という事件。こちらの方が中編ということもあり、黄金時代のクセのない地味ーな本格ミステリみたいで、表題作よりは締まった印象を受けました。

というわけで、うーん思ったより大人しいシリーズなのかもしれません。見逃していた方で気になるようであれば、まずはご一読を。

書 名:剣闘士に薔薇を(1994)
著 者:ダニーラ・コマストリ=モンタナーリ
訳 者:天野泰明
出版社:国書刊行会
出版年:2015.06.24 初版

評価★★★☆☆
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