渚の忘れ物 犯罪報道記者ジムの事件簿
『渚の忘れ物 犯罪報道記者ジムの事件簿』コリン・コッタリル(集英社文庫)

失業中の犯罪報道記者ジム・ジュリー(♀)。母の経営するリゾートを仕方なく手伝う毎日だが、ある日、砂浜で生首を発見。村長に連絡するも、その対応に疑問が残り、独自に生首の身元を探そうとする。やがてジムは、タイに暮らすミャンマー人コミュニティに行き着き、事件はさらに暗い様相を示すのだが……。個性溢れるキャラクターにたっぷりのユーモア。CWA賞受賞作家が描く、社会派ユーモア・ミステリー登場!(本書あらすじより)

最近個人的にマイブームの集英社文庫から今年出た一冊。集英社文庫の海外ミステリ新刊って、ちょっと変わり種が多く、ハズレも少ないんですよねー。
コリン・コッタリルは、以前ヴィレッジブックスから老検死官シリ先生シリーズが2冊紹介されています。こちらもユーモア系のミステリということで気になっていたのですが、ヴィレッジブックスがなくなちゃいましたからね……と思っていたらなんと集英社文庫から別シリーズが! というわけでさっそく読んでみました。

舞台はタイの中でも貧乏ずんどこの寂れた海岸沿い。仕事がないため家族経営のホテルの料理女を引き受けている女性犯罪報道記者ジムが、海岸に流れ着いたミャンマー人の首に興味を持ったことで、タイにおいて差別されるミャンマー人社会を探ることになります。さらにボロホテルになぜか宿泊し続ける母娘、現政権に対するデモ、スケベな村長など、様々な要素が入り混じることに……。
というわけで、話はどちらかというと社会派。前半はややもったりしているのですが、社会派要素が濃くなった後半からどたばた要素も濃くなってきて、終盤めっちゃ楽しいことに。それを支える登場人物がどいつもこいつもキ……個性派ぞろいなのがポイントでしょうか。

例えばジムの兄は、性転換手術を受けたせいで今は姉、ネット上でのメイクの上手い人大集合みたいな大会のため韓国に向かうところですが、実は凄腕のハッカーで、何度もジムの調査を手助けします。ジムの祖父は悪徳警官にすぐ銃をぶっ放す元警官。ジムの母親は夜中に何者かを寝室に呼び入れよろしくやっているらしきマトモな会話の出来ない超変人。弟はボディビルダーをやっているためガタイのいいムキムキですがとんでもないビビり、その恋人は母親と言ってもいいくらいの年齢のボディビルダー、という具合。主人公のジムは比較的マトモですが、ある理由から作中では性欲に苦しむことになります。なんだこの一家は……。
で、この人たちが最終的に、ミャンマー人の奴隷船をぶっ潰すべく戦いを挑んだりしちゃうのですよ。もういろいろむちゃくちゃでスラップスティックコメディの趣すらありますが、内容はかなり深刻。このバランス感覚が程よく、楽しみながらがっつりとした読後感を得ることが出来るのです。ううん、うまいなぁ。

ちなみに全く本筋とは関係ないのですが、ラスト2行に衝撃の展開があります。こんな角度から読者を驚かせてどうするんだよ……次作が気になる……。

というわけで、地味に満足感の高い一冊でした。変わり種ですが、ユーモア風ミステリが好きな人なら結構楽しめるのではないでしょうか。最初の登場人物がぞろぞろ出て来るところがややだらけただけに、シリーズ2作目はもっとテンポよく楽しく読めそうな気がするので期待です。

書 名:渚の忘れ物 犯罪報道記者ジムの事件簿(2012)
著 者:コリン・コッタリル
訳 者:中井京子
出版社:集英社
     集英社文庫 コ-15-1
出版年:2015.02.25 1刷

評価★★★★☆
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