その先は想像しろ
『その先は想像しろ』エルヴェ・コメール(集英社文庫)

全世界アルバム売り上げ二千万枚を誇る人気ロックバンド“ライトグリーン”のボーカルがシチリア島で失踪した。身代金の要求はなく、姿を隠す理由も見当たらない。一方それから遡ること二年余り、フランス北部に位置するカレーから二人のチンピラがマフィアの金を盗んで逃げ出していた。小さな町からの逃走劇はやがて世界を騒がす大きな事件に繋がり――。注目のフレンチミステリー。(本書あらすじより)

皆さん覚えているでしょうか、去年の新刊『悪意の波紋』という驚異のフランス・ミステリを。誰しもが予想だにしなかった脱力系のオチにより、読者の9割に「は?」という読後感を与えたあの作品を。あの作者の邦訳2作目が出てしまったのです。おまけに今度は群像劇タイプの作品らしい。これはまたしても前作並みのやばいオチの再来か? と思うでしょ、思っちゃうでしょ、普通。
違うんです。違うんですよ。これは『悪意の波紋』とは完全に別のタイプの作品なのです。

コテコテのクライム・サスペンスかと思いきや最終的に全然そんなことにはならなかったし、群像劇スタイルでどんでん返しがあるかと思いきやそんなことにも(あまり)ならなかったんです。だから、ぶっちゃけ「ミステリ」を期待して読むと、あまり楽しめないかもしれません。それでも、これは、とってもステキな、最後にはちょっぴり感動すらしてしまう、人間賛歌の物語なのです。強くオススメします。


やばい相手から大金を奪ったチンピラふたり組による逃走劇を描いた第一章は、ぱっと見ではありきたりなクライム・ノベルのようです。ところが、なんとなくそうじゃない。というのも、視点人物であるチンピラ、カルルの語りが内省的なものであるため、どこか雰囲気が違うのです。文章は圧倒的に前作より良く、読みやすく詩的ですらある文章が心地よく感じられます。
続いて第二章では、この逃走劇に関わることになるある人物が主人公になるのですが、しかしこのパートになるともはや全然ミステリっぽくなりません。立身出世の物語なのです。いったいこの作品がどこに着地するのかさっぱり見えません。
という具合に、視点人物を変えながら話はすこーしずつ進んでいくのですが、どう見ても前作と違ってめちゃくちゃこじんまりとした話に落ち着きかねなく、一応面白いけどちょっとダレてもいて、おいおい大丈夫なのかと不安を感じます。第一章から三章は、それぞれ主人公が異なり、どのように物語に絡むかというつながりも確かに大事ですが、それより各々の人生の方がメインなんです。

そして読み終わって思うのですが、この作品は、様々な登場人物たちが行き着く先を一気に描くためだけに、まず430ページかけて彼らの過去を語りに語り、メインとなる70ページのエピローグを見せる話なのではないか……と思いました。だから『悪意の波紋』のような展開の意外さや衝撃のラストで読ませる話では決してなく、何か驚きを期待して読むとダメなんですが、それでも『悪意の波紋』よりはるかに『その先は想像しろ』の方が私は好きです。大好きです。
なぜなら、500ページひたすら美文名文が続く翻訳を読んだ後に、我々はこの本に対して、どうしようもない感慨と感動を覚えてしまうからなんです。これ以上言えないのでもう読んでとしか言えないんですが、まぁランキングに絡みそうな話ではないし、こう、実際ベスト感はないんですけど、でもこれは本当に好きです。途中はちょっと長いなーとか思ってたはずなのに……(全部読後感のせい)。

非常にまとまりのない、よくわからない感想になってしまいましたが、強いて言えば『毒薬の小壜』に近いものを感じました。ぜひ、どこかで話題になってほしいなぁ。一人でも多くの人が読み、ちょっぴり幸せになってほしい、という作品です。
なお、解説は思いっきりネタバレを含んでいるので要注意。

原 題:Imagine le reste(2014)
書 名:その先は想像しろ
著 者:エルヴェ・コメール Hervé Commère
訳 者:田中未来
出版社:集英社
     集英社文庫 コ-16-2
出版年:2016.07.25 1刷

評価★★★★★
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悪意の波紋
『悪意の波紋』エルヴェ・コメール(集英社文庫)

40年前の100万ドル強奪事件。当時犯行グループの一人だった老人のもとを記者の女性が訪れた。静かな余生も最早これまでか? 他方、失恋で傷心中の青年イヴァンは、TVで元恋人が“元カレから届いたラブレター”を面白おかしく曝すのを見てショックを受ける。手紙を奪回すべく、彼女の実家へ赴くが……。因果の連鎖が波紋のように広がる群像劇、その陰に潜む人物とは? フランス推理小説界新星の話題作。(本書あらすじより)

相変わらずフランス人のミステリ脳は良い意味で狂っててやばいですね……ちょっとその中でもキワモノ感が強いかも。
最近面白そうなものをバンバン出してくる集英社文庫のフランスミステリ新刊です。犯罪者と一般人の青年の人生が交錯し……という、まぁよくあるパターン。その二者の交わりがあまり上手くないことと、ラストの捻り方がちょっとズレすぎている点が、微妙におすすめしにくい理由ですね……いやほんとちょっと微妙でね……。

元ギャングの犯罪者の家に、犯罪報道専門の女性記者が訪れます。というのが片方で語られます。そしてもう一方で、どうも冴えない若者がいろいろあって元カノの家に盗み入るはみに。この二者が「悪意の波紋」によって結びつくことになるのですが。
ちょっとこの結びつきが安易ですよねー。そりゃまぁそうなってこうなってああなるでしょう。このありがちパターンが、その後どう伏線を回収しつつ絡まっていくのか、ってとこを頑張ってほしいのに、結びついたらそれで終わりなんですよ。うーんもったいない。

まぁそれはいいんですよ、どうでも。って言いたくなるようなすっげぇラストが待ち構えています。付け足したのが余計と言われそうなほどすっげぇラストです。いやぁこれは評価が分かれそう……どっちかっていうとマンガですよねこれ。あーでも、フランスミステリではよくあるネタと言えばそうだし、モンテイエあたりがこういう結末とかやりそうだし、まぁやっぱりフランスっぽさなのかも。

というわけで感想書きにくいんですが、手放しでは褒めにくい注釈つきの作品でした。これは読んでお確かめ下さいとしか。ちょっと期待していたのとは違ったかなぁと。

書 名:悪意の波紋(2011)
著 者:エルヴェ・コメール
訳 者:山口羊子
出版社:集英社
     集英社文庫 コ-16-1
出版年:2015.03.25 1刷

評価★★★☆☆