七人目の陪審員
『七人目の陪審員』フランシス・ディドロ(論創海外ミステリ)

パリ警視庁賞受賞作家による法廷ミステリ。フランスの平和な街で突如起きた殺人事件。街を飲み込む噂と裁判!(本書あらすじより)

つっ、ついに論創海外ミステリから、クラシックなフランス・ミステリ作家がナチュラルに紹介される時代になったのです。素晴らしい。実はこの本、4年前にすでに予告がされていたのですが、そのまま消息不明だったのです。これも全て『その女アレックス』効果なのでしょうか。ありがとうアレックス。ありがとう文藝春秋。ありがとう論創社。

さて、フランシス・ディドロと言えばポケミスから大昔に『月明かりの殺人者』のみが紹介された作家(この本ちょいレアで現在探索中)。『月明かりの殺人者』自体は、その、どうもいまいち面白くないという評判なのですが、この『七人目の陪審員』は良作です。アントニイ・バークリー的なおちょくりミステリの前半、喜劇的な法廷ミステリの後半という構成に、フランスミステリらしい味付け。主人公の明らかにおかしい思考もまた独特な雰囲気をもたらしていてグッド。この時代の仏ミス翻訳もっと進まないかなー。

至極真っ当な人生を送ってきた善良な薬剤師グレゴワールは、ある日、裸で水浴びしていた町一番のビッチであるローラを見つけ、そのまま殺してしまいます。ところがグレゴワールは誰からも疑われないまま。彼自身は、あの日ローラを殺した自分は今の自分とは別だからいいんだ仕方ないと、何の罪悪感もなくのうのうと日常に戻っています。
するとローラの彼氏だったアランが逮捕されてしまいます。アランを死刑にしろと盛り上がる街の人々。グレゴワールは一応かわいそうに思い、ちょっとだけアランを救おうと行動するのですが、まぁある程度は頑張ったんだ許せとやはりスルーしようとします(すごい)。ところがグレゴワールは、アランの裁判の陪審員に選ばれそうになってしまい……。

というあらすじで、もうグレゴワールが一見まともそうな人なのに全然普通じゃありません。罪悪感もないし、行動は非積極的。この前半部分がややだらけ気味ではあるけど、こういうわけわからん心理状態を描かせたらフランスミステリはやはりピカ一だなと思わせます。

さて後半では、タイトル通りに陪審員に(なりたくないのに)なってしまったグレゴワールが、ある行動に出ることになります。こからの展開がもう面白くて面白くて。倒叙物的な伏線芸とかはないので、本格ミステリ的な面白さを期待されると困るのですが、いやー真っ当な法廷物ヅラしててこんな話になるんだから楽しすぎるでしょ。アントニイ・バークリー『試行錯誤』が強烈に思い起こされます。『試行錯誤』好きにはおすすめ。
意外とあっさり判決が出てしまい(どうなるかはお楽しみ)、さらにグレゴワールの行動がある結果を生むことになるのですが……。このブラックユーモア的なオチこそおフランス。街の住人の悪意を絡めているからこそ、オチの空しさが決まっています。いやー面白いぞ。

というわけで、もう出してくれただけでも嬉しいのに、そこそこの高水準だったので満足満足。今後も邦訳数の少ないフランス・ミステリ作家とか、未紹介の作家なんかを出してくれると嬉しいのですが。ピエール・シニアックとか。でもあれは前にこけたから無理なのか……。

書 名:七人目の陪審員(1958)
著 者:フランシス・ディドロ
訳 者:松井百合子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 139
出版年:2015.01.30 初版

評価★★★★☆
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