ストリート・キッズ
『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)

1976年5月。8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニール・ケアリーにとっての、長く切ない夏が始まった……。元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する! 個性きらめく新鮮な探偵物語。シリーズ第1弾。(本書あらすじより)

初ウィンズロウ。いやはや、こいつぁ傑作ですよ、マジもんの。何で今まで読んでいなかったのか。私立探偵小説はまだまだ夢の宝石箱ですね。現代海外ミステリ読書会の課題書に設定して、ようやく読んだ次第。
というわけで、いまではハードなクライム・ノベル or コミカルなクライム・ノベルの書き手になっているドン・ウィンズロウの、初期の作品である、ニール・ケアリーシリーズ第一弾です。23歳のニール・ケアリーという主人公の設定が色々と神がかっている傑作青春ハードボイルド。一人称ではありませんが、人探しから始まる正統派私立探偵小説。「ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する」という名コピーが言い得て妙。隅から隅まで不満がありません。これがデビュー作とは恐れ入りますわ……。

上院議員の家出娘探し、という王道的な導入から始まり、上院議員一家のクソみたいな実情が描かれ、ドラッグに溺れるロンドンの闇社会が描かれる、というように、筋としては非常にオーソドックス。主人公の私立探偵が減らず口を叩きながら捜査をする、ってのもそうで、体裁としては非常にベタな感じではあります。

ところが、全くベタではないのです。まず前半に多く挿入されるのは、11歳のストリート・キッドであったニールが私立探偵グレアムに拾われ、見込まれ、探偵術を叩きこまれる、という過程なんですよね。この子弟物部分がまずべらぼうに面白いのです。2人が信頼し合い、本当の父子のようになっていく過程を、べたつきやくどさを感じさせずに、さらっと描けてしまうウィンズロウの筆力なにもの。同僚にニールの自慢をするグレアム父さんかわいいっすね。

さて、そのニール・ケアリーがどんな人物かと言うと、元ストリート・キッドであり、現在はコロンビア大学院英文学科専攻で、探偵業務をするよりも18世紀文学に溺れたい、タフでも何でもない一青年。しかし色々なしがらみから、探偵をしなくてはならないのです。おまけに必ず最後には裏切りへと発展する潜入捜査をせねばならないし、強がりながら闇社会を相手取らないといけないのです。
生い立ち部分が丁寧に描かれているのでこの傷つきやすさが読者にも強く伝わってくるんですよね。見つけ出した上院議員の娘といい感じになっても(物語後半の1ヶ月がむちゃくちゃ青春小説らしくていいんだよおおお)、だまして親元に連れ帰らないといけないニールの苦しみ。そうしたニールのつらさが、三人称文体を通して描かれるんですが、ここがくどくどとナイーブさを強調していないところが非常に良いのです。ニールはぼやくしすねるし愚痴も言うしひねくれだけど、嫌味っぽさとか悲痛さみたいのを決して主張しすぎません。このバランスの絶妙さがもう完璧。
ちなみにこの三人称文体を利用して、後半はたまに他の人物の動向も挿入されていきますが、これがまたミスリードや伏線としても機能しているのが面白いところ。ニールの邪魔をしているのは誰か?という謎と、それに対して仕掛けるニールのトリッキーな罠、といったミステリ的な面白さも強くって、ただの青春小説にはとうてい出せないような魅力を発揮してくれます。
これだけ文章が魅力的な原因のひとつが、東江一紀さんによる翻訳であるのも間違いないところでしょう。軽妙でとにかく読みやすく、それでいて訳者の個性がしっかりと感じ取れる名訳。先日他界されたのがつくづく惜しまれます。

その他英文学古書物的な要素もいいし、登場人物全員が一定のキャラ付けによってしっかりと読ませているのもいいし(終盤である人物のイメージががらっと変わるの最高に楽しい)、もう何から何まで面白いです。いやはや、素晴らしい。傑作。シリーズ全部読みたくなっちゃいました。ウィンズロウは一作ごとに大きく作風を変えて来るという話ですので、いろいろ期待したいですねー。

書 名:ストリート・キッズ(1991)
著 者:ドン・ウィンズロウ
訳 者:東江一紀
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-7-1
出版年:1993.11.19 初版
     1997.05.16 12版

評価★★★★★
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