よき自殺
『よき自殺』トニ・ヒル(集英社文庫)

真冬のバルセロナ。若い女性が地下鉄に飛び込んだ。彼女の携帯電話には不可解なメッセージと、木に吊るされた3匹の犬の死体の写真が……。カタルーニャ州警察警部エクトル・サルガドは、女性の勤める会社では、他にも自殺者がいることに気づく。相次ぐ自殺の裏にあるおぞましい真相とは? 一方、産休中のレイラ・カストロ刑事は失踪したエクトルの元妻を捜すが……。好評のバルセロナ・ミステリー第2弾。(本書あらすじより)

10日間更新が途絶えていましたが、これはもうあれです、卒論のせいなのです。だから仕方ないのです。だからいまごろ去年読んだ本の感想を書くことも許されるのです。
というわけで、『死んだ人形たちの季節』で一躍話題になったスペインの新人トニ・ヒルの第2作です。『死んだ人形たちの季節』は、スタンダードな警察小説とはちょっと違ったスペインらしいやや薄暗い雰囲気、1作目では強かった呪術的要素、意外とちゃんとした謎解き、そして衝撃のラストなど、なんかこれ面白いぞ、という感じに満ちた作品でしたが、その次作が登場。ちなみに全3部作とのこと。
で、この『よき自殺』、色々な点で前作より好みで、傑作でした。いやー面白かった! 前作のラストで明かされた衝撃の事件と、とある化粧品会社の連続自殺事件という2つの筋が並行して進むのですが、やっぱりトニ・ヒルはどこか薄暗いスペインめいた雰囲気と、本格ミステリ好きに訴えかけそうな謎解きが良く、警察小説の中でも特異さを感じます。なお、このシリーズに関しては明確な3部作ですので、1作目から順に読むことをおすすめします。

まず、メインとなる連続自殺事件がいいですよね。化粧品会社の中でもある研修に出かけていたグループのメンバーが次々と自殺しているらしいこと、釣り下がった犬の死体の写真が関係しているらしいこと、という不気味さ・得体の知れなさがあふれる感じが素晴らしく魅力的。容疑者である登場人物の心情がひたすらねちっこく描かれるだけっちゃだけなのですが、これがちゃんと読ませます。
研修で何があったのか、というホワイダニットは、明かされるとなるほどそうでしたか、くらいのものなんですが、そこに至るまでのワクワク感がたまりません。真犯人にも適度に驚きました。何となくクリスティーっぽさを感じたんですが、なぜなんだろうなー、全然似ていなそうなのに。

この事件と並行して描かれるのが、主人公サルガド警部の家族の問題。息子との絶妙な距離感がちょうど良く思われます。確かに北欧ミステリとかにありがちなはいはい家族の不和ね、って感じですが、あそこまでえぐくないし、基本的にみんないい人ですからね、安心して読めます。何より間に入ることになる産休中のレイラ刑事の存在がよく出来ています。自殺事件とは全く関係なく、レイラ刑事は前作から続く事件を単独捜査するパートがあるのですが、レイラ刑事の優秀さが伝わってくるもので、こちらも読んでいてちゃんと面白いのです。
そしてまたラストでの背負い投げ。これはもう3作目を読み終えるまでは死ねません。いやー、あっちの事件が果たしてどこに着地するのか、全く予想できないんですけど、超期待しちゃっていいんですかこれ。

というわけで、集英社文庫やるなぁと感心しきりなトニ・ヒル第2作でした。3作目がいまから楽しみです。スペイン・ミステリも色々読んでみないといけないのかなぁ。
あ、あと、今年から原題、および著者英語名を下の書誌情報につけることにしました。何かと便利そうなので。

原 題:Los buenos suicidas(2012)
書 名:よき自殺
著 者:トニ・ヒル Toni Hill
訳 者:宮崎真紀
出版社:集英社
     集英社文庫 ヒ-7-2
出版年:2015.10.25 1刷

評価★★★★★
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死んだ人形たちの季節
『死んだ人形たちの季節』トニ・ヒル(集英社文庫)

取調べ中、呪術医オマルに暴力を振るい、休暇を取らされていたカタルーニャ州警察のエクトル・サルガド。復帰後、実業家の息子の転落死の調査を命じられ、バルセロナの街を奔走する。一方、オマルがおぞましい痕跡を残して失踪。呪術医の魔の手はどこに向かうのか? セックス、金、ドラッグ、いじめ、人権問題……さまざまなバルセロナの姿が複雑に絡み合っては浮かび上がる、スペインの大ヒット警察小説の登場!(本書あらすじより)

スペインミステリがお得意の集英社文庫から、また新たなるシリーズが登場しました。トニ・ヒルという名前からそこはかとなく漂うトニイ・ヒラーマン臭。関係ないけど。
スペイン発警察小説です。そしてこれが滅法面白いんですよ。内容は堅実な聞き込みだけしてりゃ解けるみたいな普通の警察小説で、背景となる過去の事件や、ドラッグとか何だのみたいな社会背景などなど、よくある感じなのは確かですが、なんかこう、いいのです(ボキャ貧)。やっぱり英米系とは少しタイプが違いますよね。衝撃的な結末のせいで次作も非常に楽しみになりました。

おとなしいことで知られていた主人公のサルガド警部は、児童買春容疑の呪術医(非科学的に危ない)を暴行したことで謹慎処分を受け、少年が窓から落下した”事故死”の非公式な調査をしぶしぶ引き受けます。新任の優秀な女性刑事とともに事件を調べていく中で、なんと呪術医が殺される事が発生。サルガド警部は少年の事故死を調べながら、一方で呪術医殺人事件にも関わっていくことになりますが……。

富豪の息子の事故死、という事件からは、麻薬とかそういう現代の若者を取り巻く闇みたいなありきたりの話が出て来るし、死んだ少年の過去を追っていくことで昔プールで死んだ女の子とその周りの”闇”みたいなやっぱり現代ミステリらしい要素が出て来るしで、ぱっと見ありきたりなのです。
ただ、この捜査が読んでいて十分に面白いのが好ポイント。相棒の若い女性刑事が妊娠しちゃったけど男にどう切り出そうか迷っている、のようなサイドストーリーと並行して進めたり、事故死した少年の友人のひねくれた目線を描いたりと、通り一辺倒にならないよう大いに頑張っています。おまけにトニ・ヒルさん、読みやすくて読ませる文章を書くの上手いです。こいつぁそうとうエンタメの書き方を研究している方だと見ましたよ。

加えて呪術医オマルが殺されるという事件を、サルガド警部の旧知の友人である女性警部が捜査していきます(こうやって複数の刑事が登場するあたり、警察小説らしいですね)。暴行を受けたせいでサルガド警部を恨んでいたオマルの色々うさんくさいところを追っていくうちに、サルガド警部に容疑がかかっていくという、これまたよくある展開に。ところがその殺された人物が呪術医という、超非科学的なオカルト職業なので、ある種異様な感じがあり、これが読みごたえにつながっています。何しろ現場に動物の頭とか送られてきますからね、何でもアリです。

この2つの事件を絡めてほどほどの分量に詰め込み、さらにラストには驚愕というか衝撃の結末を追加し(今年一番びっくりしたと言っていい)、3部作へと進んでいくのですから、本当にサービス精神満載。絶対2作目読まないといけないじゃないですか、なんて卑怯な。読みやすさとそこそこの読み応えがおすすめ。というわけで2作目楽しみなので、集英社さん期待していますー。

書 名:死んだ人形たちの季節(2011)
著 者:トニ・ヒル
出版社:集英社
     集英社文庫 集英社文庫 ヒ-7-1
出版年:2014.10.25 1刷

評価★★★★☆